業火に焼かれる母と娘~福山・保険金放火殺人事件②~

その夜

事件のあった12月28日は仕事納めで、祥一さんは退職も決まっていたことから会社の忘年会に出席していた。
しかし、午後八時ころ、電話を持って席を離れたという。そして、そのまま途中で帰ってしまった。

警察では、この時富美恵が何か理由をつけて祥一さんを見せに呼び出したとみていた。
そして、睡眠薬を飲ませて眠らせた祥一さんに灯油をかけ、店もろとも焼いたのだった。
富美恵はこの日の計画を万全のものにするために、一週間前からこの日友人らと会う約束をしていた。
そして、火災が起こった直後に友人らと合流し、そこでさも今この時間祥一さんが生きているかのように装い、自身のアリバイを成立させようとしたのだ。

祥一さんの告別式では、棺に取りすがって泣き叫ぶ富美恵の姿があった。
しかし、彼女を知る人らは冷ややかな視線を向けていたという。
「いつも店になんか来ない祥一さんが、あの夜に限って店にいたなんて・・・」
当時の町内会長の妻はそうつぶやいた。さらに、富美恵は悲しみを大げさに表現する一方で、知人らに対し、
「祥一さんがストーブを蹴って火災になった。店を台無しにされた」
などとも漏らしていたという。

祥一さんの両親らはさらに辛辣であった。
富美恵に対し、祥一さんの母親(当時78歳)は、「結婚してすぐ死ぬなんて話が出来すぎだ、お前が殺したんじゃろうが!」と詰め寄った。
しかし富美恵は意にも介さず、「酷いことを言うね」などと言って否定してみせた。

裁判でも富美恵は一貫して無罪を主張した。平成20年12月9日の初公判でも殺人、放火ともに全面否認した。

弁護側も、「火災はストーブの不具合も考えられるので、放火とは断定できない。祥一さんとの結婚は真摯なもので、放火して殺害する理由などない」と主張、富美恵も最終陳述で「公正な判断をお願いします」と訴えた。

広島地裁の伊名波宏仁裁判長は、検察の主張を認め「被告人が犯人と認定できる」とし、求刑通り無期懲役の判決を出した。
その後裁判は最高裁まで争われたが、平成23年8月24日、被告側の上告棄却で無期懲役が確定した。

富美恵の娘

富美恵には娘がいた。寝屋川市に住んでいたころに出産したその娘が小学校3年生になる頃に、福山市へと引っ越し、それから逮捕されるまでそこに住んでいた。
詐欺容疑で一緒に逮捕された男性とは、大阪で知り合い、1996年から福山の富美恵の自宅で同居を始めたのは先に述べたとおりである。

富美恵の娘は、その男性に暴力を振るわれていた。中学と高校を卒業すると、専門学校への進学のために家を出た。

そして専門学校在学中に母である富美恵が逮捕され、専門学校をやめる羽目になった。

それから10年近くが経った平成27年の年末。
大阪・門真市内の自宅マンションで同居していた松山市出身の25歳の女性を殺害し、その遺体をバラバラに損壊した容疑で女が逮捕された。
門真市バラバラ、シェアハウス殺人などと呼ばれている事件である。
女の名は森島輝実(当時29歳)、富美恵の娘であった。
事件後、裁判が始まってしばらくしたとき、輝実は「森島姓」から改姓していた。
これ自体はよくあることで、その時は輝実も親戚に迷惑を掛けられないと思ったのかな、程度にしか考えていなかった。母親の富美恵は辻祥一さんと結婚して辻姓だったが、輝実はおそらく養子縁組をしていなかったために母親と姓が違っていたのだろう。

輝実の事件については最近の事件であること、多くのサイトで取り上げられていることから詳細は省くが、裁判が進み、報道がされるようになって、当初は全く知られていなかった「母親の事件」が注目された。
この母にしてこの娘あり、とも言われた中で、輝実が幼いころから高校生になるまで断続的に暴力、性的虐待を同居していた富美恵の内縁の夫から受けていたことがわかった。
当初私は、富美恵の数多くいた内縁関係の男のうちの一人だろう、と考えていたが、時系列をさかのぼるとどうやら富美恵と一緒に詐欺で逮捕された当時37歳の男性(後の祥一さんに対する殺害、放火では逮捕されるも不起訴)がそうであることがわかった。
いや、正確に言うと「おそらくそうだろう」ということである。

輝実の裁判で判明したこととして、小学3年生のころから男性に暴力を振るわれ、小学5年生頃からは性的虐待へと変わったという。
そして、高校1年の頃には妊娠、男性に流産させられ、その赤ん坊は男性がダムに捨てたというとんでもない話まで出てきた。
富美恵の事件についての当時の新聞記事によれば、知人男性との関係は放火事件の16年前からで、出会ったのが1990年、その知人男性と福山で同居を始めたのが1996年、輝実は当時8歳から9歳ころということになり、すべて計算が合う。
そして、その後2006年に二人そろって逮捕されるまでの10年以上にわたってこの知人男性とは内縁関係にあったとされ、さらにはその知人男性が逮捕された際にパソコンから輝実への性的虐待の証拠が出てきた。
したがって、輝実が性的虐待を受けていたのは紛れもない事実で、それを行っていたのは、富美恵と一緒に逮捕された知人男性ということの可能性が高い。

そのあたりを資料で照らし合わせていた時、ふと妙なことに気づいた。

輝実は事件後、先にも述べた通り改姓している。
改姓するには、①婚姻もしくは離婚 ②養子縁組もしくは離縁 ③やむを得ない事由のいずれかだと思うのだが、輝実に婚姻の履歴はなく、養子縁組の履歴もおそらくない。
ということは、新たに誰かと養子縁組したか、やむを得ない事由と認められて姓を変えたということになろうかと思うのだが、問題はその新しい姓として選択した苗字なのだ。

輝実は、現在「長田輝実」であるが、この「長田」という姓は、件の富美恵の内縁の夫と同じ性である。
・・・マジ?どういうこと?
この知人男性は、おそらく現在は社会人として普通に生活しているはずだ、罪も犯さず、生きていれば。
しかし、この男性は輝実に虐待を加えていたのではなかったか。富美恵に同時に二人の内縁関係の男がいたというなら話は別だが、そんなことはいくらなんでも考えにくい。

性的虐待の話が真実である以上、改姓の理由としての②である知人男性との養子縁組はあり得ないと思うが、③のやむを得ない事由で適当につけた、あるいは法律家や人権家などの第三者との養子縁組で「長田姓」になったとしても、自分に性的虐待を行った人間と同じ姓になるか??

もちろん、これは時系列や当時の新聞報道を繋ぎ合わせて得た考えであるため、もしかしたらまったくの別人が輝実に対して虐待を行っていた可能性はゼロではない。
だがしかし、何度も言うが時系列と輝実の年齢、知人男性が逮捕された事実などを考えると、同一人物であるとしか思えないのだ。

普通、性的虐待を受けた相手と同じ苗字など、偶然であっても絶対に嫌ではないのか。もしも、もしもその男性との養子縁組などでの改姓だったら全く理解できない。
どういういきさつで改姓したのかは全くわからないが、もう闇深すぎて怖い。
輝実がなぜ「長田姓」になったのか、「長田姓」を選んだのか、わかっていることはこれだけだが、真実を知りたいような知りたくないような。

母と娘

富美恵は2011年に無期懲役が確定しているため、現在も服役中である。
同じく輝実も、無期懲役が確定している。
日本の犯罪史上、大牟田の北村一家のように家族全員死刑囚というのは同一事件であればあり得るとして、富美恵と輝実の母娘のように全く違う事件で無期懲役を食らうというのは他にあるんだろうか。
輝実の裁判では、被害者の女性の両親が出廷し、不遇な少女時代に言及している。
「辛い時代を経験したとしても、環境は自分で作り上げていくもの。変わりたいと思うなら真実を話して」
被害者の父親はそう語りかけた。にもかかわらず輝実は本当の話を結局しなかったわけだが。

裁判を傍聴した人によれば、心理鑑定を行った専門家の証言などを考えると、輝実は心から自分の主張が真実だと思い込んでいるのではないか、と見えたそうだ。
母と娘はおそらく二度と会うことはないだろう(同じ刑務所に行くことってあんのかな?)。母と娘は、同じような年の瀬に、事件を起こした。
母の業は娘にも引き継がれた、とみるべきか、背負わされたとみるべきか。
そして、件の知人男性は、今何を思うのだろうか。

「業火に焼かれる母と娘~福山・保険金放火殺人事件②~」への4件のフィードバック

  1. 更新お疲れ様でした。
    寝屋川の事件はよく覚えていますが、その後の経過を追っていなかったので驚きました。結局、動機や事件の経緯はよくわからないんですね。

    1. 母と娘が別の事件で無期懲役というのは、なんとも言えないものを感じてしまいます。
      この母親の人生は裁判資料でしか伺いしれないのですが、もっと深く知りたい気がします。その過程で、娘があのような事件を起こすに至った要因も少し分かるのかもなーと思ったりもして。
      相手を悲しませたくなくて、隠してしまう癖があるんですって。
      子供の頃、母親が飼っていた犬が死んで、知られると悲しむからいっそ行方不明になった方が良いと思ってベッドの下に隠したとか。
      門真の事件で被害者を解体したのも、行方不明のままにしておいた方が良いと思ったからと供述してます。

  2. 恐ろしい事件です。

    母親は、ずっとこういう生き方をしてきたのでしょうね。

    一度、火災詐欺がバレなかったので、今度は殺人も足してみたのでしょうか?

    以外に火災詐欺がバレないのだなあと感じました。1件目も絵にかいたような火災詐欺とも思うのですが、その時は検挙迄には至らなかったのですね。

    娘に関しては、それでも、その人しかいなかったのでしょうね。

    虐待があったという事は、おそらく、母親はほとんど子育てをしていなかったのでしょう。となると、知人男性が世話をしていたのでしょう。

    ずっと虐待している訳でもなく、ごく稀に優しくしていたと思います。優しくしなくても、普通に飯とかは食べるでしょう。

    そういう何気ない事で、絆されたというよりかはマインドコントロール状態にあったのかも知れません。というより今もそうなっているかも知れません。

    娘の殺人理由よくわかりませんが、このマインドコントロール状態と何か関係があるのかな?という気がしないでもないです。

    1. ひめじの さま
      コメントありがとうございます。
      富美恵が選んだ物件は、どれも築年数の経った廃屋に近いようなものが多かったとか。
      ひとつは事故物件だったにも関わらず、意に介さず借りています。
      生まれついての詐欺師体質というのでしょうかね。

      娘の事件も強烈です。
      結局、動機はなんだったのかよくわかりません。でも、金を引き出してる点からしても、なんとなく血筋を感じなくはないですが、母親とは違う気もします。

      長田姓のことは本当は関係ないかもしれませんが、気になります。

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