あなたと、地獄の果てまでも~大和市・連続主婦強盗殺害事件③~

保土ヶ谷の祈祷師

職もないまま生活の目途もたたない日々をただ送るだけのふたりは、平成13年の夏、相鉄線瀬谷駅に近い喫茶店「A」に通い始める。
そこの常連客だった山川さん(仮名)と庄子が、気功の話題で意気投合したという。その流れで、7月の終わりに山川さんが懇意にしている祈祷師・金沢葉子さん(仮名)を紹介された。
金沢さんは、保土ヶ谷区にある自宅に稲荷大明神や祭壇などをしつらえ、悩み事を抱える人の除霊や、病気治癒のための祈祷などを生業としており、信者の数も相応にいる祈祷師だった。
面白半分で山川さんとともに金沢さん宅を訪れた二人は、そこで霊的な体験をしたことによって金沢さんに傾倒していき、金沢さんもまた、素直に話に耳を傾ける庄子と章代を気に入ったようだった。
ふたりは仕事もなく時間だけは腐るほどあったため、それ以来山川さんとともに金沢さん宅を毎日曜に訪れた。

ちなみにこの頃は庄子の母親の姓である「附田」を名乗っていた。山川さんら親しくなった人や、アパートの近所の人らには「陶芸家」と称していた。
庄子は以前服役した府中刑務所で窯業を学んでおり、そこから得た知識を総動員して話を作っていたとみられる。
金に困ったときは山川さんらに「仕入れの金が要る」などといっては数万円を借りるなどしていた。

ちょうどその頃、庄子はアパートの管理会社から滞納家賃の支払い催告がなされる。母親に頼りきりだったものの、母親とて経済的に裕福ではなく、庄子と章代は公共料金の支払いもままならないような有様だった。
さらに8月20日には、管理会社の社員に直接催促され、さらに保証人である母親にも連絡がいった。
アパートの管理会社では、そのアパートに住んでいる庄子と章代のことを怪しんでいた。保証人である母親が申し出ていた入居者とどうやら別人ではないかと気づいていたのだ。
そして、その旨確認された母親は、素性がばれる事を恐れて早々に退去させることを管理会社に伝える。庄子も、それを母親から聞かされたことで9月20日を目途に退去すると告げた。

金も仕事もなく、無銭宿泊などで指名手配中の庄子としては、万策尽きたかに思えた。しかし、どうにかこの状況を打開できないものかとも考えていた。
そのためには金が要る。
庄子は、過去の記憶が沸々と体の奥底から湧き上がってきていた。

東京事件

庄子が章代と出会ったころ、その素性はそのすべてが嘘であったが、ある時以降、金を持っていたのは事実だった。
章代にネックレスなどをプレゼントし、先にも書いた通り章代の借金の肩代わりまでしている。その額も、10万や20万ではなく、100万円以上である。
しかし、章代に「200万くらいなら」などと大口をたたいたのとは裏腹に、その頃の庄子は街金の取り立てに追われている最中であった。
そこで庄子は、それまでに何度もやってきた強盗で金を作るしかないと考え始める。
ターゲットはすでにいた。父親のかつての交際相手で、東京で一人暮らしていた橋本澄子さん(苗字のみ仮名/当時60歳)だった。
澄子さんには、平成10年に庄子の父親が死去した際、葬儀代金として80万円を、さらに平成11年には仕事上のこととして120万円を借りていた。
当然返済などはしていなかったのだが、澄子さんから取り立てもないため200万円を返済されなくても困らない経済状態にあることはわかっていた。
さらに、庄子には澄子さんを襲うもう一つの理由があった。
庄子には、年配の女性に対して性欲が掻き立てられるという性癖があったというのだ。

平成12年5月7日早朝。澄子さん方への強盗と強姦を企てた庄子は、澄子さん方のベランダから室内へ侵入、就寝中の澄子さんに馬乗りになると、外国人を装って片言の日本語で澄子さんを脅した。
顔を見られないために、澄子さんに目隠しをするなどし、澄子さんに暴行した。さらに、「マネー、マネー。キャッシュカード。どっちもないなら家に火をつける」などと脅し、現金12万円、澄子さん名義のキャッシュカード2枚を強奪した。
そして銀行が開いた午前9時40分ころ、三和銀行船堀支店のATMから300万円を2回に分けて引き出した。
その5分後には、東京三菱銀行船堀支店のATMから、こちらも2回に分けて現金125万円を引き出した。

そしてその金をもって、連日鶴間のスナックに通い、章代の借金を肩代わりするなどに消費したのだ。
澄子さんは暴行された際に怪我を負ったものの、幸いというか、命を奪われることはなかった。

5つの扉と、仇(あだ)なすもの

庄子は母親からアパートを退去せざるを得ない旨伝えられたその日、章代に面妖な話をし始めた。それも唐突に。
「自分たちが世の中に出るには5つの扉があって、これを排除する必要がある、その扉とは人間のことで、排除とは殺害することを意味する。さらに、その5人にはまず天国を見せてから地獄に落とさなければならないらしい。天国というのはセックスで絶頂感を感じさせることで、地獄というのは苦しめて死なせることを意味する。」

章代は意味が分からず戸惑うばかりだったが、庄子は続けた。

「この5人はフミ(章代のこと)の知り合いなんだ。高い建物に住んでいて、周りに木がたくさん生えているところの人」

実は庄子はこの時点で殺害して金を奪う人間を選定済みだった。かねてから、章代との会話で登場してきた弘子さんと文子さんだった。
庄子の目論見通り、その話を聞いた章代が思い当たる人として答えたのは弘子さんだった。すると、庄子は驚いた風で「(祈祷師の)金沢先生はそんなことまでわかるんだ…」などと感心したように呟いてみせた。
続けて、さらに具体的な人物像として
「フミが以前住んでいたマンションの2階か3階に住んでいる人で、夫が公務員で子供にピアノかバレエを習わせているひとはいない?」
などと訊ねた。章代は、文子さんの名を挙げた。
そこで初めて、今の話は祈祷師の金沢さんに言われたことなのかと思った章代は、金沢先生はそんな事を言ってなかったと反論した。
しかし庄子は、「金沢先生とは声なき声(テレパシー的会話)で会話しているから」と真剣な顔で言ったのだ。
さらに、そんなことをしてもすぐ見つかるという章代に対し、「金沢先生によれば絶対に見つからないようになっているし、誰がやったかもわからないと言われている」と話した。
その上で、5人のうち残る3人として、元夫の哲也さん、哲也さんの母、そして章代の実母の名前まで挙げた。

荒唐無稽な話でしかなかったが、章代は「金沢先生が言うのならそうなのかな」と思ったという。しかしそれでも直接言われたわけではないため、信じ切れずにいた。
それを見透かした庄子は、「弘子さんと文子さんがいなくなることで楽になる人がたくさんいるらしいよ」と続けた。

章代はハッとした。

実は、章代は文子さんを嫌っていた。同じマンションに暮らす文子さんは、子供のことにも非常に熱心で、地域の活動にも積極的に参加する人だったが、章代はそれが鼻についていた。
章代の子どもがカギを忘れて家に入れなかった際、文子さんは子供たちを自宅に招き入れ、夕食まで食べさせてくれていたことがあった。本来なら感謝しかない話だが、章代にしてみれば嫌みに思えた。
章代がスナックで働いていたころ、お店のチラシを配っていたことがあった。その時、風俗店の店員らも同じ場所でチラシを配っており、たまたまそこへ文子さんの家族が通りかかったという。章代は、文子さんが自分を風俗で働いていると誤解したのでは、と気になり、一層文子さんを毛嫌いするようになっていた。

庄子は件の逃避行中、章代から愚痴としてその話を聞いていた。そこで、章代を煽るために、
「文子さんはお前の子どもを売春婦の子どもと言っていた」
「売春婦の家族がいてはマンションの品位が下がるから、哲也さんと子どもたちをあのマンションから追い出すための署名活動をしている」
「フミを虐めていたんだろう?」

などと作り話をとうとうと聞かせた。

弘子さんについては、章代自身嫌な感情は持ち合わせていなかったが、そもそも弘子さんにのせられた投資話でお前は損をさせられたんだろう、などと言われて章代の心はかき乱されていく。
そして、哲也さんやその母、章代の母のこともそれぞれの欠点や短所を強調して聞かせ、この5人が自分たち二人を苦しめているのだと思い込ませようとした。

そして、ダメ押しとして章代自身も尊敬している金沢さんを持ち出して、「金沢先生が言っていることだから」と説得し、実行するのは8月24日までに決めるというのも付け加えた。

章代はぼんやりとこの目まぐるしく人生が変わった日々を思っていた。
離婚され、帰る場所はもうなく、子供達にも合わせる顔はなかった。逃げ回った日々は大変だったけれども楽しんだ自分もいた。
なにより、もう自分には庄子しかいない。庄子がやるというならば、そしてそれがふたりのこれからの人生のためならば、もうやるしかない。
8月24日、再度庄子から説得された章代は、5つの扉を天国から地獄へ突き落すことに決めた。

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