あなたと、地獄の果てまでも~大和市・連続主婦強盗殺害事件⑤~

フミのことだけ

この事件は間違いなく、庄子が画策し、章代を引き入れて起こした事件である。章代単独ではこの事件は起きなかったけれど、庄子は章代と出会わなくても、というか強盗や強姦はこれまでに何度も繰り返して来ていた。
荒唐無稽な話を信じてしまったのも、もともと信仰心の厚い母親に厳しく育てられ、神秘的、霊的な事柄に興味を持っていたところへ、庄子の類稀なる詐欺師としての才覚のなせる業に翻弄されたともいおうか、そういった側面があったがために章代は「従属的」とされた。
一審横浜地裁でも、庄子が発案し、章代を巻き込んだものであり、章代に犯行への意思を植え付け、醸成し、決意させたのは庄子であると認定されている。

ただ、このような事件の場合、逮捕後の二人は罪を擦り付け合ったりするのが普通だが、庄子は違った。
庄子は一貫して、「フミのことが気がかり」と言い続けた。被害者への謝罪よりも、自己の反省よりも、とにかく章代のことばかりだった。
逮捕後初めて庄子と接見した青木弁護士は、庄子のこんな言葉を聞いている。

「なんでこんなことになったのか自分もわからない。全部話すから、教えてほしい。あとの望みは、フミの命が助かることだけだ。」

その後も一貫して、章代は自分が引き込んだのであり、殺害行為は自分一人で行ったと主張、裁判所から「腐心している」と評されるほど、章代をかばい続けた。

一方の章代はというと、当初こそ「知らない」などと話していたものの、すぐに全面的に自供。
被害者らに泣いて詫びるなど、反省の色を見せていた。弁護側も、庄子によるマインドコントロールが章代を悪の道へ走らせたとし、庄子とは罪の重さに差があると主張。報道でも、庄子のそれまでの経歴が悪すぎたことなども手伝って、あまり章代については語られることもなかった。

惚れた男にいいように利用された哀れな女、そんなイメージが出来上がっていた。

しかし、裁判資料を読むと、そこに登場する章代という女は、従属的立場のただの哀れな女とは言えないような一面をのぞかせている。

二件目の殺人である文子さん殺害の当日。犯行を最終的に決断させたのは章代だった。おそらく、ここには章代の個人的な感情が入っていたのではないか。
庄子の発案であることに間違いはないが、文子さん殺害に関してだけ言えば、章代のこころに「私にとって(文子さんは)殺されてもいい人間」という気持ちがゼロではなかったはずだ。
また、この事件が起こる前、章代は知人女性から悩み事を相談された際、「いい弁護士がいる」として庄子を紹介し、そこで庄子が詐欺行為を行っていたこともあった。これは二人が出会って間もなくの時期であり、庄子が章代をたきつける、コントロールするといった時期ではない。
さらに、弘子さんを殺害したあとも平然とスナック通いを続け、第二の犯行を主導し、その上で「スッキリした」「体の痛みが取れた」などと、仇なすものが消えていくことでの効果を実感してもいた。

一審の裁判でも、「一部では主導的立場であった」と認定されたが、お互いに庇いあう演歌みたいな公判を経て、章代のそれは「人としての情が残っている」と判断され、一方でやはり前科が一度に数えられないほど多い庄子の場合は、それを踏まえて考えたとしても「与える罰は最も重かるべきもの」と言わざるを得ない、とされた。

最終弁論で、章代が被害者、遺族への謝罪の手紙を読み上げたのに対し、庄子は
「(フミには)人生をやり直す機会を与えてほしい」
と言った。

死刑台手前の告白と、異常性欲

判決公判を約2か月後に控えた平成15年3月5日。
庄子が単独で行ったとされる事件が発覚、容疑が固まったとして現住建造物等放火と、窃盗の罪で再逮捕された。
これは平成12年の8月31日、横浜市瀬谷区の公務員男性方でバッグなどが盗まれ、その後放火されて木造2階建て住宅が全焼した事件だったが、未解決となっていた。
さらに、泉区内での放火1件、横浜や川崎市内での放火や窃盗、強盗など計7件の余罪を庄子が自ら弁護人へ伝えていたのだ。
そしてその中で、裏付けのとれた事件に関して、再逮捕となった。

この中で、庄子は「もう一つの殺人」についても告白していた。
東京都内において、覚せい剤のやり取りでトラブルになった山梨県の男性を殺害した、というものだったが、これについては該当事件無しとして処理された。

庄子がなぜこのような告白をしたのかは分からない。死刑覚悟で、死ぬ前に罪を洗いざらい話そうとしたのか、それとも、単に悪あがきだったのか。
しかし、罪を洗いざらい告白してから死刑台にのぼると思っていたのなら、そもそも弘子さんと文子さんを殺害し、澄子さんに暴行を働いたことに関しても素直に認めるのではないか。
結局、これらの告白でいくつかの余罪には決着がついたが、その真意はわからないままだ。

庄子については、過去の犯罪の中で特筆するべき「特徴」があった。
昭和53年と昭和62年、さらには平成元年に起こした強制わいせつ、強姦事件について、その被害者の年齢がいずれも当時の庄子よりかなり年上の、母親と同世代かそれ以上の女性を狙って襲っているという点である。
16歳の時には36歳と46歳の女性を、25歳の時には49歳の女性に対して強盗と同時にわいせつ行為、あるいは強姦に及んでいる。
そして、平成12年、38歳の時には60歳の、しかも父親の元の交際相手を強姦している。
殺害された弘子さんも60代だった。
この点については、金を奪うという目的と同等かそれ以上に中高年の女性を強姦するという目的があったとされた。まぁ、未遂も含めて全部そういうことしてるし、年齢もここまで特徴的だとそうだろうなとしか思えないわなー。中高年の女性が好き、というのは問題ないにしても。

章代という女

一審横浜地裁では最大限、章代は従属的であってもとはと言えば平凡な、犯罪とは縁もゆかりもない女だったとして無期懲役となった。
しかし、控訴審において東京高等裁判所は、章代を「執念深い性格異常者」とばっさり切り捨てた。
地裁では、2件の殺人はいずれも庄子の言葉巧みな誘い入れがきっかけで、章代の性格につけこまれた感が否めない、としていたが、高裁はこれを誤りだと認定した。
理由としては、章代は庄子の話を「嘘」だと認識していたからだ。章代は騙された状態で犯行に及んだのではなく、はっきりと自己の欲望のため、庄子と一緒にいるため、そして、文子さんに対する私怨に基づく犯行だと認定している。
ついでにいうと、章代が「犯罪とは無縁の地味でおとなしい普通の主婦などではない」とまで言い切っている(すげぇ、なにがあった)。

また、犯行の経緯や状況など全体を通して考えると、章代は従属的であったと認められるというのも否定した。
章代は、文子さんに対して執拗に、かつ陰湿なわいせつ行為を行っていた。それは、裁判所に「姦淫行為に匹敵」と言わしめるほどの行為だったという。
この点を含めて、章代は独り善がりの自己中心的な考え方しかできず、些細なことで悪意、恨み、妬みを抱き続け、そしてそれを憎悪のレベルにまで持って行ってしまう「執念深い異常性格者」と言い切った。
たしかに、章代は「平凡な主婦」とは言い難い面があった。マルチ商法にのめりこみ、夫の金まで勝手につぎ込む、たとえ夫にも問題があったとしても、不特定多数の男性と関係を持ったのは庄子と出会うより前の話だ。
そして、庄子と出会って、章代の本性が花開いたのだ。そう、酒が人を狂わせるのではなく、酒がその人の本性を暴くのと同じだ。章代も、庄子に会って人生が破滅したのではない、もともその素因を嫌というほど兼ね備えていた女なのだ。

この、東京高裁の人を見る目というか、章代のひととなりへの判断は的確であると言える。章代は、どんな刑でも覚悟している、と、時折涙を見せて反省の弁を述べたが、一方で、庄子が執拗ともいえるほどに庇いまくっているにもかかわらず、それを認めるわけでもなく自分に不利になるような証言もした。
これは反省の弁というよりも、庄子への想いの表れではないのか。法廷は、庄子と章代の愛の囁きをずっと見せられていたのではないのかとすら思う。
遺族の中には、「法廷で被告を見たら何をするかわからない」という理由で傍聴を見送った人もいたというが、それで正解である。
ここまで徹底的にいちゃつかれたのではたまったもんではない。

章代は言った。
「地獄の底までついて行こうと思った」
弁護人らが「あなたはマインドコントロールされて利用されていたのではないか」と言っても、「それならそれでいい、それで終わる命ならそれまで」と呟いた。

別れの時

平成19年11月6日、最高裁判決。
本籍が小菅に変わった庄子は、上告していた。判決は、上告棄却。
弁護士は青木弁護士から変わっていたが、死刑案件であり最高裁までは持っていかなければ、という感じだったのかもしれない。

犯行内容が極悪非道であることはもちろん、地裁から最高裁まで一貫して、遺族の峻烈な処罰感情にも言及された。
弘子さんの夫は、ようやく単身赴任が終わり、これから夫婦水入らずの生活が始まると喜んでいた。にもかかわらず、帰宅した自宅で、慣れ親しんだ風景の中で、愛する妻の変わり果てた姿を目にしただけでなく、その腹部に突き刺さったままの刃物を自ら抜くという、想像もしたくないような経験を強いられた。
弘子さんの夫は、近隣の住民からも身を隠すようになったといい、その痛々しさは言葉では言い表せない。

文子さんの場合は、第一発見者がまだ小学生の長男と長女であった。
ふたりは健気にも意識のない母親を風呂場から救い出そうとし、既に死亡していることもわからぬままに、必死で周囲に助けを求め、顔にまかれたテープをはがすなどした。
もともと健康上の不安を抱えていた夫は、公務員の職を辞するまで追い込まれ、文子さんを頼りにしていた義理の両親らも激しく落ち込んだ。

近隣住民、特にクリオ弐番館の当時の住人らの衝撃は計り知れない。被害者も加害者も、隣人だった。
もしかしたら、被害者は文子さんではなく、自分たちの可能性だってあったのだ。
このような点も鑑みた結果、極刑は免れないと判断された。

章代はすでに高裁で無期懲役が確定となっていた。
庄子は、弁護士に何度も「フミが助かって嬉しかった」と話した。

青木弁護士は、地裁での判決公判の日、判決が言い渡されたときの庄子の様子が忘れられなかった。
庄子は自身の死刑判決を身じろぎせず聞き、宣告された際には口元に笑みまで浮かべた。章代に対する無期懲役の判決を聞くと、章代の方を向いてニコッと笑顔を見せたのだ。

章代は今、無期懲役囚として塀の中で暮らす。「地獄の果てまでついて行く」と誓った相手の庄子は、先に地獄へ堕ちていった。
庄子が最期に思ったことはなんだろう。やはり、「フミのことだけ」、だったのだろうか。

取材協力:折原臨也リサーチエージェンシー 折原臨也

 

 

「あなたと、地獄の果てまでも~大和市・連続主婦強盗殺害事件⑤~」への6件のフィードバック

  1. こんばんは!
    読み応えのある文章で一気に読んでしまいました。
    よくぞ纏められたと思います。
    章代は今頃女子刑務所で何を思っているのでしょうね…

    章代は一審無期懲役判決には控訴しなかったのですが、
    控訴審も同じ無期懲役だったのになぜか上告しています(すぐに取り下げ)。
    事実認定に納得できなかったのでしょうか?
    謎です。

    名前やサイトまで載せていただきありがとうございます。
    またいろいろと協力させてくださいね!

    1. 折原さん、この度は本当にお世話になりました。
      この短期間にちゃんと調べることが出来、まとめられたのは折原さんのご協力があってこそです。
      ありがとうございました。
      章代も一旦は上告してたんですね、弁護士さんは控訴するつもり、みたいなことを新聞の取材で答えられてましたけど、本人はあんまり、という感じだったのでしょうか。
      必死に庇う庄子に対し、章代は自ら証言して罪を認めました。
      ただ、それは反省の気持ちからなのか、それは私にはわからなかった。
      まだ当分出ることはないと思いますが、この章代という女性に会ってみたいです。
      今後ともよろしくお願いします!

  2. この庄子とかいう男はクズ男というより悪男ですね。

    自分の中で悪とは「自分の為に他から何か(命や金品、信頼等)を奪う」事と考えています。

    庄子はとにかく、奪って奪って奪いまくりたかったのでしょう。現代の山賊ですね。

    章代は「犯罪者への落とし穴」に見事にはまったみたいですね。穴の中の居心地が良かったのでしょう。

    ひょっとしたら庄子は章代に光というか、悪から善になるきっかけを見いだしたのかも知れませんね。

    自分の考えですが「悪」の反対は「善」で、「善」とは「他の為に自分のものを与える」と思っています。

    庄子は一緒に逃避行していた時に、章代に色々世話とかしているうちに情がわくというか「善」の気持ちが出たのかも知れません。

    テレパシーみたいな訳のわからん話も、こうすることで章代の罪悪感を取り除こうとしたのかも知れません。ただ、ずっと悪男で来ていたから上手く伝えなかったのかも知れません。普通なら真面目にやり直そうとなるところですが、悪男ですから。

    ま、章代にしても、せっかく悪女になれたのだから、真面目なんか嫌だ!と思うかも知れません。

    なんか善とか悪とか、薄気味悪い事を言って、なんか申し訳ないです。

    あと、今回知っている土地が出たので、嬉しくなって地図を触りまくっていました。

    1. ひめじの さま
      そう、おっしゃる通り「悪い男」だと思います。
      そして、章代も「悪い女」だったと。
      世の中には出会ってはいけない人間というのがいると言いますが、まさにこの2人は出会ってはいけなかったし、悪い意味での運命の2人だったのでしょう。

      ストビューを楽しんでいただけたようで(笑)、なによりです。
      大島てるに載ってるものについては特定の形で載せてはいます。
      もちろん、古いものや今現在明らかに別人が暮らしている、建て変わっているものは「付近」ということでぼかしてますが、ほぼその辺です。
      これがあるとないとでは違うと思うので、今後もこのスタイルでいこうと思ってます!

  3. いつもお疲れ様です。
    今回も大作ですね。
    何にでも裏があるとか、何でも陰謀論みたいなものは嫌いですが、こうも現実離れした事件があると自分の理解を超えてしまい困惑します。
    次作も楽しみにしています。

    1. あっきー さま
      今回の事件は、ほとんど資料がない状態でしたが、裁判資料など信頼のおける資料を提供してくださった方がいてまとめることが出来ました。
      以前から庄子よりもむしろ章代に興味があって、まとめてみたいと思いつつ時間がかかってしまいました。
      まだまだ温めているものがありますので、ご期待ください!

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