謎の一家失踪と蔓延るうわさ~世羅町・一家失踪事件③~




預貯金総額3000万円

表向きは何不自由ない生活に見えていた山上家が、理由は別にして過去に借金をしていたことは事実である。
そして、失踪の直前になんらかの督促状が着ていたことも事実であった。
ただ、山上家には政弘さん名義で2700万円、祖母の三枝さん名義で200万円、順子さん名義で170万円、そして千枝さん名義でも200万円の預貯金残高があったのだ。
しかも、農協などにおそらく付き合いもあってかけていたのだろう、生命保険もあった。
その年間の保険料は総額で120万円であった。
これほどまでに十分な預貯金があったのであれば、借金トラブルということは考えにくかった。
ちなみに、だが、年間120万円の保険料にのけぞる人も多いと思うが、田舎では珍しい話ではない。
私の父も、愛媛の山奥で兼業農家を長いことしていたが、年間の保険料総額は150万円を超える。家族が多いことや、車の所有率の高さ、その他理由はあるけれど、決して突飛な額とは言えない。

ともかく、山上さんの個人的な借金問題が関係しているという線はほぼ消えたとみていい。
たとえ、順子さんが少々派手好きであったとしても、全く問題はなかったはずだし、千枝さんも教師という安定した職を持っていたとはいえ、一人暮らしをしながら200万の貯金をしていることを考えても、むしろ堅実な一家とも見える。
ただ、第三者の目に留まっている督促状の存在や、実際に起こされた借り入れについては、貞夫さんが否定する以上、こちらも闇の中となってしまった。




一家心中説の謎

警察では、車の転落状況や失そう後の家の中の状況、その他もろもろを勘案した結果、山上さん一家は心中であるとの結論を出した、というか、出さざるを得なかった。
捜索願が出された甲山署では、家の中を丹念に捜索し、ルミノール反応や残された飲食物の薬物反応も調べたという。
しかし、怪しい指紋や足あとなども一切出なかった。
当時の藤井明彦署長も、
「犯罪性がない以上、これは一家心中と判断するしかない。それでも疑問は残る。死人に口なしとはいえ、四人のうちだれでもええから生き返って、何がもとで死なれたのか、話してもらいたいよ。」
とまで言うほど、この一家心中は謎があった。
まず、家族4人に「死を思い詰めるほどの」悩みがあったとは思えないという点である。
何度も書いたが、政弘さんも順子さんも、直前まで普通に仕事に出勤しており、順子さんに至っては旅行へ行くのを楽しみにしていた。
三枝さんが一家を道連れにするとも思えないし、娘の千枝さんも、恋人との交際も順調だったし、学校でのトラブルもない。一部では、広島という土地柄から、教育関係の団体が関与しているのではといった話もあるが、さすがに陰謀論としか思えない。そもそも、20代の千枝さんがそんなものに目を付けられるとも思えない。
貞夫さんが強調した順子さんの不倫だが、ほとんど噂話の範疇を出ていないし、万が一事実だったとして政弘さんが娘の千枝さんまで巻き添えにするだろうか。
生前政弘さんは、一人娘の千枝さんを「宝」と言っていた。教師という立派な職業につき、美人で家族思いの非の打ちどころのない、将来のある娘を、はたして道連れにできるのだろうか。




ただ、気になることがひとつあった。

政弘さんが勤務していた建設会社の同僚によれば、6月16日と17日、松山の道後温泉へ社内旅行が予定されていた。
普段はそういった社内行事に喜んで参加する政弘さんが、その時だけは
「ちょっと家の事情があるので行かれない」
と言ったというのだ。
家の用事、ではなく「事情」、というこの言い方も妙である。しかも政弘さんはどこか気まずそうな態度だったという。
考えたくないが、貞夫さんが言うような理由でなかったとしても、この話が同僚の気のせいでないとしたら、政弘さんが悩んでいて家族を道連れにした、という推論が途端に現実味を帯びても来る。
岐阜県中津川市で起きた父親による一家殺傷事件も、同居の家族のみならず、娘婿までわざわざ呼び出し殺害しようとしていたし、あの家でも犬が一緒に連れていかれた。
山上さん宅で飼われていた「レオ」は、政弘さんの犬だったという。そして、外出時はいつも連れて出かけてもいた。
犬を連れていく、ということは、心中説を裏付ける実は大きな手掛かり、ともいえる。

政弘さんと順子さんが寝間着姿だったこと、千枝さんが風呂にまだ入っていなかったことから、家を出たのはおそらく深夜のことと思われる。
三枝さんは床についていたところを、起こされたのだろう。しかし、もし政弘さんが家族を連れだしたとして、そんな恰好のまま連れ出すことを家族がすんなり承知するとも思えない。寝ている三枝さんを起こしてまで連れていくなど、私だったら絶対反対する。大きな声を出すかもしれない。
しかし、隣家の人らは、千枝さんが帰った際の車のドアを閉める音こそ聞いていたが、それ以降、変わった物音は聞いていない。
ならば、誰かに脅されて無理やり車に乗せられたのだろうか?そうであったとしても、決して大きくないトヨタスプリンターに、家族4人を押し込んでさらに犯人も乗り込んで移動したというのか。それとも、他にも車が来ていて、組織的に家族は拉致されたのだろうか。
いずれにしても、どうもしっくりこない。しかし、4人と犬は、間違いなくその日深夜に家を出たのだ。

発見現場の謎

一家が発見された京丸ダムは、山上家から南に7キロほど行った場所にある。目撃情報が一切ないことから、一家は家を出て早い段階でこの京丸ダムに来ていたと思われる。
車が見つかった場所は、ダムの護岸工事用に作られた未舗装の小道の先の湖底である。その年、少雨であったことで普段は見えないところまで水位が下がり、車が見えたのだった。
引き揚げられた車は、フロントガラスにひびが入っていたほかは特に大きな損傷もなかった。
運転席の窓が開き、他の窓は閉まっていた。車内からは政弘さんの免許証が発見されている。

車のドアは外側から細工されて開かないようにされたとか、別の車に押し出されたとか、そういったことも見当たらなかった。
山上さん一家を乗せたその車は、自発的に京丸ダムへの小道を突き進んだとしか思えず、それが、警察が心中と断定した理由の一つにもなった。

ただここにも、疑問があった。
そもそもこの京丸ダムは、失踪後すぐに大規模な捜索で多くの捜査員が来ている場所だ。
いくら夏場の雑草が生育が早いとはいえ、まったくわからなかったのだろうか。普段は使わない道路でもあり、生い茂る草木をなぎ倒してダムに落ちたのは間違いないはずだ。
捜索の後で一家がダムに落ちたのだとしたら、その間どこにいたのか。狭い町で、みんなが捜しまわっている中、誰にも見つからずにたどり着けるほど田舎の好奇心は甘くはない。

そして、車のギアがドライブではなかったこともわかっている。発見時、エンジンキーはオンの状態、そしてギアはニュートラルに入っていた。
もちろん、落ちた際の衝撃でギアの位置が変わったともいえる。けれどこのことが、一部で「誰かが押した…?」という憶測を呼ぶことにもなった。
4人の遺体は腐敗が激しく、直接の死因究明には至っていない。ただ、外部から致命傷となるような衝撃が加わっていたという話もないことから、ダムに落ちた事での水死ということなのだろうけれど、海外のように徹底的に調べたわけでもない。これだけではそこに第三者の意図がないという証明にもなっていない。

さらに、ある親族の言動が、周囲には非常に不穏なものとして映っていたという。




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