謎の一家失踪と蔓延るうわさ~世羅町・一家失踪事件④~

チラシ作成代金と相続の行方

千枝さんの友人女性は、失踪後の捜索活動に参加し、手掛かりを集めるために有志でチラシを作ることになった際のあるエピソードを上篠氏に話している。

その友人は、チラシ作成に使用するため、家族写真を借りに山上さん宅を訪れたという。
すると、「親族の男性」が家におり、その友人の申し出に対し、驚くべき返答をしたのだ。

「チラシの代金は誰が出すんじゃ。そんなチラシ、迷惑だから作らんといてくれ。もう死んどるに決まっとる。」
友人の女性は耳を疑ったという。
「なぜ私たちが一生懸命探そうとしているのに、親族である人がそんなことを言うのか。その日は口惜しくて、腹が立って眠れませんでした。」
もともと代金など自分たちでカンパするつもりだったのだろう、その後友人らはチラシを作成し、全国の警察署に送った。

さらに、その「親族男性」とトラブルになった人物がいた。
山上さん一家が失踪した後、山上家の財産を管理していた弁護士である。
上篠氏はその弁護士にも直接取材している。
弁護士は、いわゆる行政が行う「法律相談」の一環として世羅町を訪れた際に、山上さんの親族の一人から相談されたのだという。
それがきっかけで、不在者財産管理人となった。
しかし、ある時から「親族男性」の不穏な動きが気になり始めたという。
一家が失踪し、皆がまだ探している段階であるにもかかわらず、空き家となった山上家を「賃貸契約にして自分が住みたい」と言い始めた。さらに要求は露骨になり、政弘さんの貯金から200万円ほど貸してほしいというような、金銭の要求をし始めた。
それはまるで、「山上家を乗っ取ろう」としているように見えたという。

管理人である弁護士が、郵便物などを直接自身の事務所に転送する手続きをしていたら、勝手にその「親族男性」に止められ、それでもいうことを聞かないと、最後は恫喝、罵倒といった手段に出たという。弁護士相手に「お前は法律を知らんのか」と言ったというから恐れ入る。

嫌気がさした弁護士は、管理人を辞する。その後は、裁判所が指定した別の弁護士が管理していたという。

別の話として、実際その「親族男性」はその後、山上家に住んでいた。しかも、自分の妻の母親と、である。
山上さん一家の死亡が確認された後は、法定相続人としてこの「親族男性」は政弘さんと美恵さん、千枝さんの財産を受け取る権利がある。
しかし、家の名義は変えられることなく、政弘さんのままだったという。にもかかわらず、山上さん一家の死亡が確認されたころ、すでにこの「親族男性」がその家に住んでいた。
「家に誰もおらんと家が傷むから、最初の頃は風通しに来ちょるんかなぁと思いよったけど……」
いくらそうだとしても、義母まで連れて住んでいる以上、乗っ取りと噂されてもおかしくない。

そう、この「親族男性」は、貞夫さんだった。

さまざまなうわさ

山上家には、このほかにもいろいろと噂があったという。
たとえば、あの有名な神隠し伝説である。神隠しの伝説は全国いたるところにあるわけだが、山上さん失踪でそれが言われたのは、山上家の真ん前の山がその伝説の舞台だったからだという。
その山は「大将神山」といい、かつては山上家が所有していた山だということも、その噂を真実味のあるものに変えた。
その噂はマスコミ関係の間でも興味を持って取り上げられ、地元テレビ局を始め、多くの報道陣がこぞって取り上げたが、地元の人らは冷めた目でそれを見ていた。

「あることないこと、好き勝手に言うて……」

実際、地元ローカル放送では、顔を隠した親族を名乗る女性が順子さんの不倫話を披露したり、男性の声で借金問題を否定する場面も放送されたという。
これらは親族間でさまざまな諍いの火種となった。
ある時、担当刑事がその親族会議の場に登場し、貞夫さんの借金問題と一家失踪が無関係であると話したという。ただこの刑事が本当に刑事だったのか、田舎とはいえ、そんなことを親族会議の場で言ったりするんだろうかという疑問は残る。
多くの親族は、この刑事の登場で貞夫さんの件とは無関係、と思わざるを得なかったようだ。

また、こんな話を意味ありげに話す人もいた。
政弘さんの祖母に当たる人物が、首つり自殺を遂げているのだという。さらに、親戚の女性の中で、嫁に行った先で不審死を遂げた人がいるのだとも。
それは、理由なき失踪とはいえ、やはり政弘さんなりの理由による一家心中説では?と考える人々の理由の一つであった。
山上家がかけていた保険料の多さも憶測を呼んだ。上篠氏は取材の中で、世羅町内の農家の人にそのことを問うている。
答えとしては、「ちょっと多すぎるな」というものだったという。
ただ、先にも記したように、私の感覚では決して多すぎるとは思えない年間の保険料だが、生命保険の死亡保障には驚いた。なんと2億円である。
田舎の人は、JAや郵便局が取り扱う保険に加入しているケースが多い。ましてや、今から20年近く前の平成13年ころであれば、今ほど生命保険のバリエーションも多くはなかったろうし、ネットの普及もまだまだであり、山上家もそういったところにかけているのが多かったのではないか、と考える。
うちもそうだったが多くは死亡保障に重点を置いたものではなく、貯蓄型の養老保険が主力と思われ、そのために年間の保険料が高くなっていた可能性がある。
ただ、死亡保障額が総額で2億というのはさすがに行き過ぎているイメージは否めない。自営業者ならばわかるが、田畑を所有していたとはいえ政弘さんは会社員である。千枝さんや順子さんがかけていたとしても、常識的に考えて何千万ということは普通考えられない。

……掛けられていたのだろうか?では、なんのために?

「永久に見つからんと思うとった」

一家の乗った車が引き揚げられた際、集まった知人や親族らは、皆口々に一家の死を悔やんだ。生きていて欲しい、生きている、と思っていた。
政弘さんと順子さんの勤め先でも、席はいったん整理こそされたものの、帰ってくればまた一緒に勤めることを皆が望んでいたという。
千枝さんの交際相手もそうだ。
彼は彼なりの視点で、山上さんらがどうしても家にいられない状況になっていたのでは、と考えた。
おそらく、過去の山上家への嫌がらせなどからそう考えたのだろう、たとえば家族を危険から守るために、政弘さんが身分を偽って都会に出、家族を匿いながら日雇いなどの仕事で凌いでいるのではないか、そうまで考えた。
そして実際に、都会の日雇い労働者らが集まる街にも出向いている。

食欲は失せ、千枝さんらを探すためだけに全力を注ぎ、そのためだけに無理やり食べたという。
行方が全くわからないことから、彼の下にはあらゆる霊能者が紹介されるようになった。彼はそれにも縋った。

いつか連絡が来ると信じ、千枝さんが置いていった携帯電話の管理を申し出、その後一家が発見されるまでずっと基本料金を支払い続けていた。

こうして皆が一家の生存を信じる中、貞夫さんだけはなぜか複数の新聞社の取材に対し、なぜか見つかったことを驚いていた。
見つかったという報に際しても、「うそだろう、と思った」と話している。なぜ貞夫さんは「見つからない」と思ったのだろうか。生きていないのでは、と思うことはあっても、その上に見つからないと思うというのは、そしてそれを口にするというのは、どこか違和感を覚える。

遺体発見の翌年、とある雑誌が、貞夫さんに取材を申し入れている。その頃、貞夫さんは先述の通り義母と政弘さん宅で暮らしていた。
訪ねた記者に、貞夫さんは一切取材拒否。かわりに義母が「もう何もかも済んで片付いたことでしょう。そっとしておいてください」と話した。

その後、山上家がどうなったのか、貞夫さんが無事遺産相続できたのかもわからないが、2018年までには、山上家の甍には立派な太陽光発電と思しき物が据えられていた。一方で、国道から家に続く私道は、草木が生い茂りあまり手入れもされていないようである。
貞夫さんの本名を頼りにいろいろと調べたが、そもそもその名前では何の手掛かりも得られなかった。事件当時の電話帳にも固定電話の登録は、その名前ではされていなかった。
ご存命であれば70代半ばの貞夫さんであるが、事件後の生活はどういったものだったのだろう。貞夫さんの過去と、山間の集落を駆け巡った噂は親族間で諍いを起こす要因にもなった。
貞夫さんが亡くなってしまうと、この事件は永久にもう何もわからなくなるのだろうか。それとも、他にいるのだろうか。

それとも、やはり覚悟の心中だったのだろうか。しかし、心中であったとしても、その理由を知っている誰かはいるはずなのだ。
心中なのか、他殺なのかはわからない。ただ、真相を知っている人間がいて、この20年間口を噤んできたことは間違いない。

 


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「謎の一家失踪と蔓延るうわさ~世羅町・一家失踪事件④~」への4件のフィードバック

  1. この事件覚えてます。
    なんでなんだろうと思ってたけど、もし貞夫さんかもしくは他の誰かに殺されたのであれば、可哀想すぎますね。
    それ以前に貞夫さんが会社を倒産させたからって、なぜ山上さんが借金の肩代わりしたのかも謎だし。
    そんなのほっとけばいいのに。

    うちにもお金にだらしない兄がいるけど(今は更生したっぽい)、借金を申し込まれたら即絶縁すると思います。
    お金の貸し借りは絶対に人間関係を破綻させますよね。

    地味にシーズーのレオが可哀想で気になります。

    1. ちい さま

      いつもコメントありがとうございます☺
      心中であっても謎、殺人であっても謎、こんな事件はあまりないような気がします。
      ただ、なんとなくですが、地元の方々はもしかしたら本当のことを知っているのかなぁ、とも思うんです。
      もっというと、謎だと思ってるのは私らだけで、真実はもっと呆気ないものなのかもなぁ、とも。
      心中説を拭いきれないのも、家族という小さな組織は外の誰にもその本質はわからない。そういう気持ちがあるからです。

      でももう私たちがそれにたどり着くことは無理なのでしょうね。

  2. 不思議な事件というか、謎が多いですね。

    一応、自分なりに推測して見ました。

    家には鍵が掛かっていた。家には争ったような痕はなかった。寝巻姿で出掛けた。犬を連れていた。

    以上から「犬が死にそうになって、動物病院に連れていこうとした。」と推測します。

    愛犬だったから、家族みんなで行った。慌ていたから着の身着のままで行った。携帯も置いていくほど。

    発見までに1年以上かかった。発見場所は以前も捜索していた。遺体の損傷が激しく死因は特定できない。

    これで、自動車整備工場の人との交通事故で即死。工場の人が自分の敷地内に運んで隠蔽した。おそらくは埋めた。

    で、そのままにしとくつもりだったが、偶然、同型同車種同色の車か手に入った。死体が敷地内にあるのは気味が悪いので、掘り出してナンバー付け替えてから、そっとダムに捨てる。

    大分、無理があるとは思いますが。交通事故の線でも捜査してますよね。

    とにかく、争わず寝巻き犬つきで深夜ドライブが謎を呼びます。そういうドライブを家族でしていたのかな?

    で、見てはいけないものを見て、口封じで殺されてダムへ。偶然見つからず、1年後見つかる。

    しっくり来ない。

    正直、貞夫さんはこの事件には、関わってないかと。なんか小物臭がすごいだよなぁ。

    見つからない発言も根拠のない、変な自信から来ているものかと。

    あとは、世羅町の開発事業関係とも考えました。メガソーラーとかね。

    前に広島をドライブしたことがあって、その時に「世羅町」という名前見かけており、なんとなく覚えていました。頑張ってPRしているなあと思っておりました。

    なんか、スッキリしない事件です。千枝さんの恋人は納得出来ているのかな?

    今回、推測が過ぎました。怒っていたら、黙って削除しておいてください。

    もう、怒られたら相当へこむ年なもので。

    1. ひめじの さま

      いつもありがとうございます!
      ていうか、実際のところ、周りが考えすぎただけで真実はあっけないことだったりすると思うのです。
      なので、犬が病気になった、とにかく家族総出で病院へ行った、とかいう、一見「いやいやいやいや」みたいな理由なのかもなぁ、と思います。

      貞夫さんは単なる棚ぼた、そこへ本人の人間性が露呈しただけかな、とも思います。そういう話は聞きますよね。
      実際はほんとに謎です。

      千枝さんの恋人はどうなんでしょうね、納得などできるものではないと思いますが、今はご自分の人生をしっかり歩んでくださってるといいなと思います。

      怒ったりしませんよ!今回も、まさかの犬の病気!と思いましたが、実際はそういうことなのかもしれないです、というか、そんな気がしてきた…笑

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