淋しくて淋しくて~仙台・同僚女性殺害事件~

平成19年6月15日午後8時

その夜、男性は仙台市若林区のとある有料駐車場に停めてある一台の軽自動車の前で立ち尽くしていた。
その車は、男性と5月に入籍したばかりの妻のものだったが、実はその妻とは、前日の夜から連絡が取れていなかった。
男性は会社を休んで妻を捜していたところ、夕方になって仙台南署から「大和町の契約駐車場に、お宅の車が勝手に停められている」と知らされ、急いで現場にやってきたのだった。

車はフルスモーク仕様だったため、外から中の様子は全く覗えず、さらに合い鍵は妻の母親が持っていたことから、男性は妻の母親に連絡し、到着を待っているところだった。

午後8時過ぎ、駆け付けた妻の母親と姉が車のロックを解除しドアを開けると、前の座席のシートが後ろに倒され、中には誰も乗っていなかった、ように見えた。

後部座席を確認した瞬間、母親と姉の悲鳴が上がる。男性はその場で腰を抜かした。
後部座席の陰に、妻がいた。その姿は激しく顔面を損傷し、さらには全裸であった。

事件概要

平成19年6月15日夜、仙台市若林区の契約駐車場内で、宮城野区蒲生東屋敷添在住の会社員、近江由希子さん(当時27歳)が、顔面から血を流して死亡しているのが発見された。
近江さんは14日夜、勤務先である大和町のスーパーつかさ屋大和町店を午後10時ころに退社。
しかし自宅に戻っておらず、同じスーパーの系列店に勤務する夫の貴信さん(仮名/当時31歳)が携帯電話に連絡するも、圏外だったという。
その後、15日の朝になって、由希子さんが勤務するスーパーから300mしか離れていない契約駐車場に、由希子さんの車が無断駐車されていたことから管理者が仙台南署に通報、午後6時半ごろ警察から貴信さんに連絡が入った。

由希子さんは発見当時全裸で、着ていたとみられる洋服や靴、食料品が入った勤務先のスーパーのレジ袋は車内にあったが、鍵と携帯電話、財布がなくなっていたことが分かった。

司法解剖の結果、由希子さんは顔面等を激しく殴られてはいたが、死因は窒息死であった。口と鼻を押さえつけられたような跡や、首に絞められたような跡もあったという。

由希子さんは普段、7キロほど離れた自宅アパートから車で通勤しており、スーパーの社員用駐車場に車を停めていた。したがって、この日も一旦は自分の車でスーパーを出ていると思われたが、近くの道路に設置されているNシステムには車が写っていなかったことから、勤務先から比較的近い場所で殺害され、すぐさま発見現場の駐車場に車ごと遺棄されたとみられた。
車は15日の午前4時半にはすでに現場の駐車場に停められているのを管理会社が確認している。

また、由希子さんの脱がされた着衣には一部泥が付着していた。ジーンズと下着が濡れていたことからも、当初は屋外で暴行され、その後車に乗せられたとみられていた。
発見時は後部座席にあおむけの状態だったが、助手席にも暴行後に一旦乗せられた形跡があったという。
しかし、その後の捜査で、由希子さんは最初から助手席に座っており、そこで運転席に座っていた人物に暴行を受けたとわかった。
さらに、由希子さんが抵抗したような様子がなかったことから、顔見知りの人物にいきなり襲い掛かられたとの見方が強まった。
助手席に残されていた由希子さんのカバンの中には、現金数万円が見つかっており、強盗などの犯行ではないというのも、「顔見知り」かつ「金以外の目的」での犯行と推察される根拠となった。

脱がされた衣類は、殺害後にわざと脱がせたとみられ、性的暴行の所見もなかったことから、犯人が偽装目的で服を脱がせた疑いも強まった。

6月19日、宮城野区内で執り行われた告別式では、貴信さんが涙ながらに「由希子を守ってやれなかった」と述べた。

しかし、捜査はその後なかなか進展を見せなかった。
犯人逮捕の一報が流れたのは、事件から3か月ほど経過した頃だった。

犯人逮捕

夏が過ぎ去ろうとしていた8月25日。宮城県警は由希子さんの遺体を遺棄した容疑で、宮城県大郷町不来内在住の無職、村山真紀(当時33歳)を逮捕した。
真紀は逮捕当時無職であったが、6月末までは由希子さんが勤務していたスーパーの系列店で、由希子さんの夫、貴信さんとともに勤務していた。
さらに、由希子さんと事件前年の平成18年1月から平成19年の2月まで同じ店での勤務経験もあり、由希子さんのこともよく知る間柄だった。
捜査本部は、現金などが放置されている代わりに、携帯などのプライバシーに関するものが持ち去られていることなどから、顔見知りの犯行と断定して捜査しており、その中で真紀の存在が浮かんだという。

実は、真紀は貴信さんと事件前年の平成18年の秋ごろまで交際していた。そのことは周囲にも知られていたという。
そして、事件後の6月30日に真紀が「実家から通うのが遠くて辛い」という理由で突然退職したことから、捜査員の間では臭う存在だった。
捜査本部は3週間にわたって真紀を聴取。世間話には応じるものの、事件の話になると途端に「その話はしたくない」という一方で、毎日聴取に自らやってきたという。
事件当日に来ていた服の提出も拒否しなかった。

そして、8月24日、それまで笑顔で捜査員との雑談に応じていた真紀が、突然、涙を流しながら手を合わし、「彼女には本当に申し訳ないことをしました」と話したことで、まずは死体遺棄容疑での逮捕となった。しかしその後、処分保留でいったんは釈放となったものの、9月14日、容疑が固まったとして殺人で再逮捕した。

真紀はその日、由希子さんと何らかの話をしようと思い、由希子さんの退社時を狙って現れた。出てきた由希子さんが車に乗ろうとしたところへ声をかけ、二人して車内へ。その時、なぜかわからないが真紀が運転席にいたようだった。
そして、その車の中で殺害に及んだ。首を絞めながら、顔面を何度も殴りつけたという。
殺害後は、「男性の犯行を装うため」に、服を脱がして財布や携帯電話を奪ったが、それらはすぐに捨てた。
一方で警察は、由希子さんの爪から繊維片を見つけていた。任意で真紀が提出した、「当日の着衣」の繊維と比較してみたところ、見事に一致。
真紀は後に、「(あの服は)何度も洗った」と話した。暴行した際、血が付いたのだという。

犯人逮捕を受け、各報道機関は当然のことながら、真紀と貴信さんが交際していたことを報じた。
真紀も、逮捕後の取り調べで、「結婚しようと思っていた相手を盗られたと思った」などと話していて、ワイドショーなどでも結婚を夢見ていた女性が嫉妬にかられた犯行、といった論調で特集が組まれた。
それと同時に、貴信さんと数年にわたり同棲していたことや、真紀と完全に別れるまでいわゆる二股状態であったこと、真紀と別れて数か月で結婚を決めていることなどから、33歳でパートの真紀と、27歳で正社員の由希子さんを、貴信さんが天秤にかけた、というような見方がされるようになってしまった。

ネット上でも貴信さんはそれこそ外道のような扱いをされた。そして、加害者である真紀に対しても、「男に弄ばれた可哀そうな女」という同情論も多かった。

裁判が始まるまで、報道のほとんどでは貴信さんが真紀を翻弄し、若い由希子さんに乗り換えた、といったストーリーが垂れ流された。

しかし、事実は少々違っていた。貴信さんが二股状態だったのは事実である。が、そもそも真紀は「既婚者」だった。しかも、不倫略奪の末の、結婚だった。


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