淋しくて淋しくて~仙台・同僚女性殺害事件③~




丸出しの嫉妬心

真紀の結婚については、職場の同僚らは「知らなかった」という。扶養の関係上、夫の存在を人事や経理には隠せないと思われるが、パート仲間は真紀はずっと「村山真紀」だったと話す。
スーパーに入社した後に結婚しているので、旧姓のまま通していたのだろうか。
一方で、貴信さんとの交際は周知の事実だった。

真紀は職場で同僚らの前で泣き崩れるなどしつつ、由希子さんに対して嫌がらせを始めた。
真紀は貴信さんと別れて以降も、なんだかんだと理由をつけては貴信さんのアパートに行っていた。その際、体の関係を持つこともあり、それらは裁判でも証言された。
貴信さんからすれば「しかたなく」の意味合いが大きかったのは痛いほどわかるが、真紀にとってそれは、これまでなんどもやってきた「略奪」の手筈であった。




職場では由希子さんに対して、貴信さんが真紀と同棲していた当時の洗濯機をまだ使っていることを持ち出し、「彼、あの洗濯機まだ使ってるんだよね。私に未練でもあるのかな?」といった言葉をかけ、貴信さん宅に出入りした証拠を突き付けた。それも、他の女性従業員が複数いる前で、である。
また、由希子さんと貴信さんが正式に交際している12月、由希子さんに対していまだに関係があることを匂わせるような手紙を見せるなどした。

由希子さんも真紀と貴信さんの過去を知っており、真紀のそういった態度のわけはわかりきっていた。おそらく、恐怖を抱いたであろうが、それと同時に貴信さんに対し、これ以上真紀に好き勝手させたくないと抗議していたのだろう。

由希子さんは12月、職場の上司に貴信さんとの婚約を報告する。入籍はまだだが、それは確定事項だ。
そしてこれは、真紀に対する由希子さんと貴信さんの意思表示であった。

しかし真紀は怯まなかった。それ以降、真紀の嫌がらせはエスカレートしていく。
由希子さんを睨みつける、わざと由希子さんの目の前に大きな音を立てて物を置く、一方で由希子さんと貴信さんの婚約発表について、これまた同僚らの前で泣き崩れてみせるなどした。
そのほかにも、由希子さんの行く先々に現れ、自宅付近にも出没するなどして由希子さんの神経をすり減らさせた。由希子さんは親しい人に、恐怖心を訴えていたという。

それらの嫌がらせは他の従業員らの目の前でも堂々と行われ、スーパー内でも「これはまずいのではないか」という話が持ち上がった。
そこで会社側は、夫婦が上司と部下として同じ職場にいることは好ましくない、という建前の下、平成19年の2月、正社員の由希子さんを大和町店へと移動させた。
これまでも妻や交際相手を追い出してきた真紀は、会社でも由希子さんを飛ばすことに成功したのだった。




別れた女からの説教

由希子さんが転勤となった後、真紀は貴信さんに「入籍はいつ?」とメールで確認している。そこでも貴信さんは、「(予定は)2月中」と答えているが、実は2月中の入籍には至っていない。事情は分からないが、少なくとも真紀の存在が影響したと思われ、それが真紀の「諦め」にも影響した。
自分にもまだチャンスがあると踏んだのか、真紀はある時由希子さんを近くのファミリーレストランに呼び出した。
そこで、真紀が由希子さんに「私と彼とはもう関係ないから安心して。」と告げた。
その上で、「婚約者はあなたなんだから自信もって。彼に昔の女を抱かせるようなみっともない真似をさせないでね」と説教したのだ。

由希子さんの完敗である。真紀はあくまで、貴信さんのほうが自分に未練があって、自分はそれに付き合っているだけ、それは婚約者であるあなたがしっかりしていないからではないのか、応援してるからね、と言いつつ、体の関係があることまでしっかり暴露されたのだ。
しかしここで逆上してしまうと、真紀の思う壺である。嫉妬に狂ったみっともない婚約者というレッテルを貼られてしまう。由希子さんは黙るしかなかった。

しかし由希子さんはそのことを貴信さんに告げ、貴信さんも真紀と決別する気持ちになったのか、平成19年4月、二人は入籍を待たずに同棲を始める。
それでも真紀は二人に付きまとった。二人が暮らす宮城野区の自宅アパート付近にわざと現れたり、由希子さんを車で尾行するなど監視するかのような行動をしていた。
さらに、由希子さんは一度真紀の車に轢かれそうにもなったという。事なきを得たものの、待ち伏せや監視行動は続いた。
そして、それと並行して、貴信さんを何かと理由をつけては呼び出し、「ハグ」と称して抱擁を要求したり、時には体の関係も迫った。

平成19年5月。
由希子さんと貴信さんはようやく入籍を果たした。




事件の夜

貴信さんは6月に入って、真紀を呼び出し直接入籍の事実を告げた。
真紀も「幸せになって」などと平静を装って祝福の言葉を発するものの、職場ではこれまた「何も知らなかった」などといって激しく動揺し、同情をひいた。

貴信さんと由希子さんは、7月にハワイでの結婚式を予定しており、この頃から由希子さんも周囲の人に「食事作りが大変なの」といった家庭の話を笑顔でするようになっていたという。
由希子さんは夜遅くの勤務終了後、買い物を済ませそこから貴信さんの食事を用意するなど、仕事と家事を一生懸命こなそうとしていた。

6月14日も同じだった。
勤務が終わり、勤め先のスーパーで購入しておいた食材やお惣菜を抱え、由希子さんは従業員用駐車場へと向かった。
客の目につかない、店の裏側にある従業員用駐車場は、周りに家や店は少なく、夜ともなれば車や人の通りもさほど多くない。
そこへ突然現れたのが真紀だった。何事か話しかけられ、そして二人は車の中で話すことになった。
そこでどんな話があったのか。

真紀は由希子さんを殺害し、携帯などの私物をいくつか持ち去った。女の立場から考えれば、単純に携帯の中身を見たかったのだろうな、と思う。
車の中にあった買い物袋に手が付けられていないことで、ある人は「さすがに自分が愛した男(貴信さん)のために由希子さんが用意したものには手を付けられなかったんだろう」と言っていたが、そんなことではなくて、単に興味がなかっただけだろう。

真紀その後、何食わぬ顔をして職場のレジに立ち続けた。事件後、ニュースで事件後の真紀が仕事をしている様子をとらえた防犯カメラ映像が放映された。そこには、いつもと変わらぬ真紀の姿があったという。
真紀は由希子さん殺害後、当時住んでいた実家へと戻り、家族と話をしていた。ついさっき人を殺した娘に、変わった様子はなかったのだろうか。



勘違いの自己評価

「仕事熱心でしたよ。几帳面な性格だったし、家計簿もつけていた。体格が良かったので、30キロの米袋も嫌がらず担いだりしていた。」

元夫の信二さんは、当時週刊誌の取材に対しこう真紀について話していた。

真紀は仕事や家事も責任を持ってやるタイプだったと言い、出会いの場となったファミリーレストランでも、「ウェイトレスの道を究めたい」と話していた言う。
ウェイトレスの道がどういうものかちょっとよくわからないが、よく言えばどんなに些細な仕事でも責任とやりがいを持って取り組む、悪く言えば、自分を良く見せようとするタイプともいえる。新聞配達をマスコミ関係と言っちゃう感じか。
頭のいい悪いは人格と関係ないが、真紀はあまり勉強は得意でなかったようだ。地元の県立高校の分校(おそらく真紀が暮らした大郷町にあった黒川高校大郷分校*2009年に廃校)を卒業しているが、卒業アルバムには「先生の前では猫をかぶっている」といったクラスメイトの寄せ書きがあった。

スーパーに就職してからも、なにかと「人の上に立ちたがる」面があったように思われる。
それは、人望があるとか仕事ができるからといったことではなく、強い言葉で人を制圧したり、由希子さんに対するファミレスでの説教にもみられるような「えげつなさ」で勝ち取ってきたもののように感じる。
真紀が関わると周りが勝手に手を引いていく、といったような何かがあった。
それが何なのか、おそらく真紀も自覚はしていなかったと思うが、それによって真紀は自己評価が高くなり、いつも自分の意のままにやってこれていたのではないか。

貴信さんと元夫の信二さんのことも、おそらく真紀は意のままに出来ると思っていた。
しかし思惑は外れ、貴信さんの心は離れた。さらに、自ら離れることはないだろうと高を括っていた信二さんからも、あっさり離婚されてしまう。
離婚時に、真紀は「あなたは私がいなくても生きていけるよね」と嘯いたというが、当の信二さんは冷めたものだった。
そして、自分が離婚成立したことで戻ってくるのではないかと期待したにもかかわらず、なんと直後に貴信さんは婚約してしまう。
え?私と結婚したいとあなたが言ったんじゃないの?どうしてほかの女と結婚するの?私は離婚までしたのに…

自分が今更追いかけても、去った相手が戻ってくるとは限らないということを、真紀は考えていなかった。




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