淋しくて淋しくて~仙台・同僚女性殺害事件④~

裁判

平成20131日。仙台地裁102号法廷で判決公判は開かれた。
傍聴したジャーナリストの中尾幸司氏によれば、事件後初めて目にする真紀の姿に息をのんだという。
事件後に様々な媒体で見たそれまでの真紀は、人前に出る仕事だったこともあってきちんと身だしなみを整え、目元の涼やかな30代女性、というイメージだった。
私の手元にある真紀の写真も、ラガーシャツを着てはにかむもので、大柄で肩幅が広いという点は目立っても、どこにでもいる女性だった。
しかし、この日中尾氏が見た真紀は、「棒のような」、長い束ねた髪がなければ痩せた男にしか見えなかったという。

それまでの裁判では、真紀が起訴事実を全面的に認め、殺害の動機については「元交際相手(貴信さん)が由希子さんと結婚したことを知り、もう復縁できないと考えた」とされた。
報道では、二股をかけられた挙句に結婚の夢破れた女性が思い余って起こした事件、というようなものが多く、由希子さんを責める声はないにしても、貴信さんへの批判は多かった。
しかも、由希子さんの殺害状況があまり詳しく報道されなかったことから、真紀への同情の声も少なくなかった。

裁判では当然ながら、由希子さんの遺体の状況も明らかにされた。
由希子さんの顔面には、激しい殴打の痕があった、とは報道されていたが、実際には
左目上が大きく裂け、左目全体も大きく腫れあがり、右側にも広範囲に表皮剥奪があり、顔中血まみれで無惨な状態
であった。
小柄な由希子さんを、170センチの真紀が渾身の力で殴りつけたのがよくわかる。そして、そこには激しい憎悪も読み取れる。

にもかかわらず、真紀は「由希子さんに嫉妬はあったが憎しみはなかった」と述べた。あくまで貴信さんに対する感情なのだという。「貴信さんだけが幸せになるのは許せなかった、どうすれば彼を苦しめられるのかを考えて、一番大事なものを奪ってしまえばいいと思った」被告人質問でも真紀はそのように答えた。
弁護側は計画性はなかったとしていたものの、現実には真紀はその日あらかじめ軍手まで用意し、待ち伏せた。
検察は真紀のいう、「貴信さんへの復讐」ではなく、「貴信さんを奪い返したいと考えて由希子さんに憎悪を募らせた」と論告で主張し、懲役20年を求刑。
対する弁護側は、貴信さんの優柔不断さが事件に大きくかかわっていると遺族感情逆撫での主張を展開し、情状面に訴えた。

判決で卯木誠裁判長は、首を絞めた後にも頭を強く打ち付けるなどしていることから「強固な殺意」を認定し、その後の隠ぺい工作なども悪質と断じた。
そして、挙式直前に命を奪われた由希子さんの無念を思いやり、棺にウェディングドレスを入れた遺族の無念にも言及した。

判決は懲役16年。その後、由希子さんの両親と貴信さんがそれぞれ民事裁判で損害賠償請求をおこし、両親に3340万円、貴信さんに5500万円の支払いを命じる判決が出た。
真紀は争う姿勢を見せ、請求棄却を求めた一方で、遺族に対し刑務作業の報奨金を受け取ってほしいという手紙を裁判所に提出していた。

刑事裁判の方も控訴したという情報はなく、そのまま確定したとみられる。
判決が言い渡され、退廷する真紀に対し、傍聴席から怒号が飛んだ。「死ね!」「一生恨む、親族まで恨む!」遺族の女性のひとりだった。
その声に動揺することなく、棒切れのような真紀は法廷を後にした。

真紀の心

この事件は、いまだに「二股をかけた」貴信さんが真紀よりも悪者であるかのような、貴信さんの言動こそが事件を引き起こした、というような意見がある。
裁判でも弁護側が、貴信さんの優柔不断さをとりあげ、あたかもそれがすべての引金であるかのような主張をした。
たしかに、真紀との交際に見切りをつけたかと思えばすぐさま由希子さんと交際する、そして一時的ではあっても、真紀と由希子さんと二股状態になっていた、という点は貴信さんの非になりうるかもしれない。さらに、真紀に別れを告げて以降、断り切れなかったうえでのことだとしても、肉体関係が複数回あったという事実も、印象としては悪い。

真紀も、貴信さんに対する恨みでやったこと、と主張していたが、本当はどうなのだろうか。

真紀は事件直後、由希子さんを心配する貴信さんに対し、メールで「すぐ見つかるよ、大丈夫だよ」と励ますなどしていた。
それまでも、真紀は貴信さんに対しては、結婚報告を祝い、過去の同棲生活へのお礼を述べるなど、一貫して「理解のある年上女」を演じてきた。
しかし一方で、同僚らの前で泣き崩れる、由希子さんに対するあからさまな攻撃、さらには貴信さんについて先輩からのアドバイスも行うなど、陰湿な面も見られる。

元夫である信二さんは、真紀のことをこう話した。
「殴り合いのケンカはしませんが、たまに突然変異することがある。ドライブのとき、なぜか急に黙り込むことがあった。そうなったら何を言っても駄目です。」
どこかこう、気に入らなければそれを全身で表現し、相手に自分の意図していることを読ませて自ら行動させる、といったような、モラハラにも似た行動をしていたようだ。
自己評価が高く、自分は特別な人間であるかのように思い込む、周囲を巻き込んでターゲットを攻撃する
おそらく今まではこうすることで思い通りになってきたのかもしれない。

由希子さん殺害については、突発的だったのでは、というような話もあったが、軍手を用意していたことを考えればそれはないだろう。あの日真紀は殺すつもりだった。
ただ、何のための殺害なのかは、正直わからない。貴信さんを取り返すため、というのが自然な見方だろうし、実際に貴信さんに対して復縁を臭わせるようなメールを送っていたともされる。
しかし、真紀は元夫の信二さんに対しても、「メシ食べてる?」といった気遣うようなメールを事件後に送信している。これはどういう意図だったのだろう。
年下の恋人に溺れて夫をないがしろにし、恋人からのプロポーズものらりくらりとかわし、気が付いたときには恋人の心は離れ、焦って離婚したら恋人は戻ってくるどころか、結婚してしまった。慌てて元の夫に思わせぶりな事を言ってはみたものの、完全スルーされてしまう。
自意識過剰の勘違い女は、そこで初めてじぶんが独りぼっちであることに気付く。悲劇ではなくもはや喜劇である。
そして誰もが思うだろう、こういった場合、女の怒りは男ではなく女に向くものだ、と。

それを法廷でも真紀は否定してみせた。どこまでもどこまでも、真紀はじぶんの惨めさを認めたくなかったように思う。私は捨てられたこと、略奪されたことに怒っているのではない、私を裏切ったことに怒っているのだと。決して惨めな女ではない、と。

貴信さんは早い段階で真紀の犯行と分かっていたのではないだろうか。告別式で述べた、
「由希子を守ってやれなかった」
この言葉に、そう思えてならない。真紀から守ってやれなかった。本当はそう言いたかったのではないか。
由希子さんが短い新婚生活を送った宮城野区蒲生東屋敷添は、その後の東日本大震災で大きな被害を受け地区のほとんどが流された。
事件から13年。真紀はもう出所しているのだろうか。突き動かされるように何度も徘徊したその変わり果てた街を、見てみたいと思うだろうか。

 

「淋しくて淋しくて~仙台・同僚女性殺害事件④~」への6件のフィードバック

  1. これは殺された女性がかわいそうすぎますね。
    虐められた挙句に酷い殺され方をして。

    真紀はもちろん性格悪すぎですけど、旦那さん‥。なんで別れて次の彼女がいるのに呼び出されたら会って肉体関係持つのか。
    そんな事してたら、真紀のような女は奪い取れるとか勘違いして燃えそうだし。

    断固無視して自分達が職場変えるくらいしてもいいと思うんだけどな。
    親のコネもありそうだし。
    真紀はパートだから解雇出来そうだけど逆恨みも酷そうだから。

    その後震災で流された地区なんですね。
    なんだかとことん不幸ですね。本当に。

    1. ちい さま
      いつもありがとうございます。
      被害者の方はお気の毒すぎて言葉もないです。小柄で、パッと見は気の強そうな顔なんですけど、仕事熱心で明るい方だったとか。
      ご主人も全く非がないわけではないにせよ、どこにでもあるような話でもあります。
      真紀も被害者のご主人も、寂しがり屋だったのかなと思います、一人でいるのが苦手というか。
      被害者が短い新婚生活を送ったのは、海と川の近くでおそらくごっそり津波で持っていかれた場所です。
      それはこの記事を書いていて分かったのですが、なんとも言えない気持ちになりましたね。

  2. はじめまして。
    私はこの被害者の方と同じ中学の一つ下でした。
    ほとんど面識はなかったものの、事件の報道があった際には仲間内で話題になりました。
    男を取られて嫉妬に狂った女の犯行、と単純にとらえていましたが、この犯人の考えはよくわからないですね。なんでも自分の思った通りにならないと許せなかったんでしょうか。

    1. ねこ さま
      はじめまして、コメントありがとうございます。
      身近な方がこのような事件に巻き込まれてしまうと、たとえその方を直接知らずとも複雑な思いですよね。
      加害者の本当の心はわかりませんが、それでも単なる嫉妬、復讐から起きた事件とは思いにくいところもあります。
      おっしゃるように、自分の思い通りにしたい、それはあるのではないかと私も思います。
      それにしても、被害者のご主人は妻を殺害されたことも大変辛いことだとおもいますが、その犯人が「過去に自分が愛し、プロポーズした相手」だったというのもかなりキツい話ですよね…

  3. ネタに事欠かない私の半生ですが
    二股をかけられたこともあります。実は。

    女は確かに、女に対して憎しみがわきますね。
    かつて若かった私も、二股をかけた男ではなく、女の子のほうに向いていました。
    そして二股を平気でできる男というのも普通に存在するのも事実。

    で、実はこの二股男のケースでは、自殺騒動も起こった過去がありました。
    さかのぼって話を聞いていると、とにかく「常に二股」なんですよね。
    本命の彼女がいるけど、出逢ったこの子も好きなんだからしょうがないじゃん、っていう
    考えの人で。
    でもそんなの受け入れられない女の子は苦しむようになり、
    彼の部屋で手首を切ったそうです。
    なんでこの話になったかというと、部屋に敷いていた絨毯に大きなシミがあったんですね、
    それを「これもう落ちないの?」と聞いたときにサラッと「血だから無理だと思うよ」と
    言われて「説明してもらおうか」という流れになって私は知ったわけです。
    怖ぇ。
    そんなことがありながら懲りずにとにかく二股二股、という彼でした。

    私の時も当然もう一人交際している彼女がいて、
    実際相手の彼女も憎しみは私に来ました。
    二人で話したいけど、話したら何するかわからない、とも言われて
    「じゃあ会うわけないじゃん」と思いましたが
    恐ろしい手紙は一度いただきました。

    板挟みになった彼もなんだか面倒になってきたんだと思う。
    もとはと言えばおめーの所為だろ、ですけど。
    背筋が寒くなるような事もありました。
    揉めて険悪な雰囲気が立ち込めていることが多くなったある日、
    突然ドライブに誘われました。
    色々回って最後に行ったのが山です。(具体的な場所は伏せておきます)
    車中会話もないからどこ行ったって面白いわけがないのに、山ですよ?
    「ここから〇〇が見えるよ」とか言いながら常に私を先に歩かせるんですよね。
    高所恐怖症なのでほんとどうでもよかったんですけど「そうなんだ」と
    少し前のめりになってすぐ後ろを振り返ると
    彼がね。両手をですね・・・。
    とっさに両手は下げたものの、そしてその時にはすぐに考えつかなかったけど
    突き落そうとしてたんだろうな、と。

    もちろん、そう見えただけと言われればそうかもしれないんですが。
    でもやっぱりあの日の彼の表情を思い出すとなぁ。
    接した人にしかわからないあの表情よ、説明できるわけないんだけど・・・。

    一つ間違えば「被害者」になることはあるだろうな、と。
    そう考えれば、被害者の方もそこに就職してしまったことで命を落とすことになってしまった。殺される理由なんて何にもないのに。
    気の毒で仕方ない。

    1. ちょっと待って!笑
      笑っちゃいけないですけど、怖すぎです。
      生きててよかった、ホントに…
      私は男を見る目はないですが、さすがに殺されそうになった経験はないです。
      この仙台の事件もそうですけど、女の怒りは女に向きますよね。それを考えると、千葉の年下夫殺害事件は珍しい展開に思えます。
      仙台の事件は本当に被害者がお気の毒すぎて言葉もありません。

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