おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件④~

12月1日のできごと

公判2日目、死亡する前の野田さんの行動についての検証が行われた。
平成29年7月以降、おそらく、光洋が野田さん宅に頻繁に寝泊まりするようになって以降に絞った検証と思われた。

7月24日と30日、野田さんは近くの集会所で寝ているとことを住民に通報されていた。
その後も8月の12日から17日にかけて、不審者としての通報、そして8月18日に逮捕監禁事件が起こり、その後8月22日から9月20日にかけてもJR西条駅付近で不審者として通報され、11月25日には通報を受けた警察官に職務質問をされていた。

そして、11月27日の昼間にも、他人の敷地(おそらくコインランドリー)に長時間滞在しているとして警察から警告指導を受け、29日と30日にも同じコインランドリーで寝泊まりをしていたようだった。

12月1日午前4時27分、西条市小松のコインランドリーのオーナーから、「不審者が店内で寝ているようだ」と通報を受けた西条西署の警察官が野田さんを見つけ、何度か退去するよう指導したものの、野田さんはパトカーが去ると再びコインランドリーへ舞い戻ってしまうため、3度目の臨場で警察官はパトカーで追従しながら野田さんを自宅に送り届けている。

このことについて、野田さんを自宅に送り届けた警察官が証人として出廷した。

証人に立ったのは、西条西署河原津駐在所勤務のタカノ巡査だった。40代後半~50代前半くらいだろうか、背筋を伸ばし、堂々とした態度で証言台に座った。
彼はその日、西条西署へ応援で呼ばれており、パトカー勤務だった。
12月1日午後9時7分、本署からの連絡で西条市内のコインランドリーへ向かったが、その不審者がいわゆる「有名人」であることは聞いていたという。
しかし、それ以前にも通報(午前4時27分の通報)があったことについての詳細は知らないままの臨場だった。

コインランドリーに到着すると、ガラス張りの店内の様子が外からも見え、ソファに寝転がる人間の足が見えたという。
野田さんを確認すると、特に怪我をしている様子もなく、「店外へ出なさい」というタカノ巡査の指導にも素直に従ったため、その時はそれ以上のことはしなかった。
しかし、午後11時過ぎ、またもや同じコインランドリーから通報があり、タカノ巡査は同僚のオオタ巡査とともにパトカーでまた同じ場所へ急行した。その際に、実はこの日3度目の野田さん関連の通報であることを知る。
常習者であることを知ったタカノ巡査は、自分が行った1回目(通算2回目)の指導よりも強い退店指示をしなくては、と思ったという。

コインランドリーでは1回目と同じ状態で野田さんがソファに寝転がっていたので、「帰宅しなさい」と強く指導したが、ふと野田さんの足元が気になったという。
野田さんは裸足で、サンダルが土間に脱いであった。12月なのに裸足にサンダルでは寒かろうと思ったのでよく覚えていると話した。

野田さん情報として、氷見に自宅があることも知っていたので、自宅を確認すると告げてパトカーで追従することにしたタカノ巡査だったが、「なんで家があるのに帰らないのだろう?」ということも気になっていた。

自転車をこぐ野田さんは、特にふらついたりする様子もなく、時速にしておよそ13kmから15km程度の速さで自宅方面へと向かっていたが、途中、パトカーとの距離が開くと、道路沿いのスーパーやコンビニの駐車場へ入っていったという。
しかしパトカーが見えると、また道路に戻って、後ろを気にしながら自宅へと自転車をこいでいた。

自宅付近に着き、オオタ巡査はパトカーで待機し、タカノ巡査が野田さんを連れて自宅へと向かったが、野田さん宅には明かりがついていて、玄関ポーチにも明かりがついていた。
「誰かおるん?」
そう野田さんに問うと、野田さんは「友達が来とるけど、寝とるけん、起こしたら悪いけん外におる」と言った。
自分の家なのにどうして?と思ったが、野田さんはさらに、「なので納屋で寝ます」と言ったという。
納屋?!と思ったものの、確認すると割としっかりしたつくりの建物であったことや、窓や出入り口もきちんとしていることで、これ以上は踏み込めないと判断しタカノ巡査はパトカーへ戻ろうとした。

野田さん宅の玄関前に差し掛かった時、玄関から男が出てきた。それが光洋だった。
光洋はパトカーを見ても動じる様子もなく、「またどっかにおったん。」と声をかけてきた。
タカノ巡査は、これがその友人か、と思い、少し質問することにした。その時、家の中には光洋以外の人の気配はなかったという。

光洋に対し、身元を尋ねると光洋は玄関内にタカノ巡査を招き入れ、免許証を提示したうえで「自分は野田さんの身の回りの世話をしている」と告げた。
さらに、「金銭管理もしていて、自分も野田さんにお金を貸しているので債権者でもある」などと話したという。

そこへ、パトカーで待機していたオオタ巡査が駆け寄ってきた。
なんと、納屋に入ったはずの野田さんがこっそりまた出ていこうとしていたのだという。
そこで野田さんを見とがめた光洋は、警察官らの前で
「どこ行っとったんぞ!!」
と野田さんに声を荒らげた。さらに、
「お前またローソンでなんか食っとったやろ、わかっとんぞ!」
とも言った。それを聞いたタカノ巡査は、ふたりの年齢差を考え、光洋に対し高圧的な印象を抱いたという。父親ほどの年齢差があるように見えたのに、「お前」呼ばわりとは・・・と驚いたのだ。
野田さんは終始無言だった。

防犯カメラ



弁護人は、タカノ巡査に対して野田さん発見時の様子を聞いていく。
その際、野田さんに変わった点やケガなどはなかったか、ということを確認したいようだったが、タカノ巡査は野田さんから不衛生な臭いがしたものの、体調不良やパッと見てわかるような怪我はなかった、と断言した。飲酒の状態も気にはなったが、酒臭いという感じでもなかったという。
約2時間後の2回目の指導の際も、1回目と変化はなく、追従した際も気になる点はなかったとはっきりと答えた。

弁護側としては、自宅に帰るより前に事故やトラブルでケガを負った可能性についてなんとかタカノ巡査の話から引き出そうとしていたようだったが、一貫してそのような隙を与えない完ぺきな答えだった。言葉選びも非常に慎重かつ的確で、些細な言い間違いであげあしを取られることすらなかった。
追従時もきちんと赤色灯をつけ、他の車の進行を妨害しない程度の速度で、かつ自転車を見失わない程度の距離を保って行っており、警察の仕事としても完ぺきだった。
この時点で野田さんが自宅に帰るより前に負傷していたという線は殆どないと言ってよかったが、それでも弁護人は食い下がる。

「パトカーと自転車の距離は?その間に、別の車が入り込むことはなかった?」

要は、パトカーが一瞬でも野田さんを見失った可能性があれば、その時に野田さんがたとえば側溝に落ち込んだとか、そういう可能性を導き出したかったのだろうが、タカノ巡査は淀みなくそれを否定した。

野田さんの最後の状況については、タカノ巡査の話以外にもう一つの証拠があった。
野田さんがお気に入りだったコインランドリーは、国道11号線沿いにあり、そこでタカノ巡査らに退店を命じられた野田さんは、国道11号を東へと向かった。
コインランドリーから1キロほど進んだ国道沿いに、農機具販売の会社があり、そこの防犯カメラに自転車をこぐ野田さんの姿が残されていたのだ。
野田さんが通り過ぎて数秒後、赤色灯をつけた西条西と書かれたパトカーが追従している様子がしっかりと記録されていた。

10秒程度の映像ではあったが、そこに映る野田さんは、誰が見ても「普通に」自転車をこいでいた。ふらつきもなく、車道の左端をまっすぐに、特にゆっくりということもなく、すいすいこいで進んでいた。

この映像からも、野田さんがこの時点までケガを負っていないことは明らかに思えるためか、弁護人はこの映像をなんとしてでも潰したい思惑があったようで、古宮医師に対して
「たとえ筋肉挫滅があったとしても、それは右足のみであり、ならば(けがをしていない)左足だけでこぐことは可能だったのでは?」
などと、聞いていてちょっとうんざりするような質問を繰り返していた。ただ、冷静さを失いかけていた古宮医師が、その質問に「可能かどうかと言われれば…」と言うなど、奸計にはまってしまう場面もあった。

しかし映像の力は大きく、また、タカノ巡査の応答が非情に冷静であったため、弁護人は次の手をうってきた。

タカノ巡査の「対応」に問題がなかったかを取り上げたのだ。

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