嘘八百男に振り出し続けた愛の約束手形~臼杵市・交際女性殺害事件③~




振り払った救いの手

経営者の妻らに知られたことで、本来ならば由香さんの苦悩はここで終わるはずだった。
理解ある経営者の妻と息子は、由香さんが騙されてやったことであり、現時点では会社に損害も出ていないことから、由香さんを今後監督していくことで不問に付した。
それはもちろん、由香さんが洗いざらい話してくれたと思ってのことであり、心労をかける必要はないとして由香さんの両親にも何も言わないことにしたのだ。

しかし、由香さんはすべてを話してはいなかった。




経営者の妻らに話したのは、現在銀行で決済済みの手形3通だけで、残りの手形の存在は話していなかった。
普通に考えれば、由香さんの話の裏を取るのでは?と思われ、手形帳の耳の部分(手形を切り離した際に残る半券のような部分)を確認するなどすればわかることだった。
実は由香さんは、その耳の部分もしっかり切り取っていたのだ。
そしてなぜか、その後も会社の通帳や印鑑などは由香さんが扱える状況になっていたようだった。

59日、連絡を取り合った冨田と由香さんは、現時点でバレているのは3通のみであることを確認した。
当然、由香さんは残りの手形を気にしており、冨田もこのままでは由香さんが残りの手形についても白状するのではないか、という不安を抱いていた。
そこで冨田は、由香さんに対して頻繁に電話をしたり、甘い言葉を囁き続けるなどして自分から離れていかないように仕向けた。
なかなか会えずにいる由香さんに対し、
「まだみぬきみへ I LOVE YOU.
という気色悪いタイトルのメールを送ったのもこの頃だ。
内容は、
「いっそこのまま死んでしまいたい。」
というもので、送信した直後に、
「すみません、しょうもないメールを送りました」
と弱気な態度を見せるなど、ちょっとなんて言っていいかわからないくらいに自己陶酔なメールを演出した。
しかし、冨田以上に自分の置かれている状況に酔っていた由香さんは、
「会う時はすべて終わる時です。他の人を愛しません!生まれ変わったら一緒になろうね」
と、これまたもうどうしていいのかわからないようなメールを返信している。

由香さんは、心底冨田に惚れ抜いていたのだろう、そのことについては他人がとやかく言うのは無粋としても、この状況下でも聞く耳を持てないほどの状態なのは、29歳の女性としてはいささか幼い印象を受ける。

515日、外出の機会を得た由香さんは、数週間ぶりに冨田に会った。しかしこの時、冨田は由香さんに1万円の小遣いをもらっていた。というか、それが目的だったのだろう。
哀れな由香さんは、それでも会えたことだけで嬉しかったとみえ、1万円を手渡し、短い逢瀬を喜んだ。




5月末

526日、再び由香さんは冨田と会う機会を得た。
大分市内のふ頭公園の駐車場で合流した由香さんに対し、冨田は突然、「このまま一緒に逃げよう」と持ち掛けた。
おそらく、これは冨田も本心だったのでは、と思う。というのも、数日後に迫る手形の満了日に、当座に準備する金がもうすでになかったからだ。

由香さんからしてみれば、その提案はとんでもない話だった。そもそも、手形は銀行に回らないとこの期に及んでも冨田は言い続けていたし、現時点では会社にも迷惑は掛かっていない。
冨田が約束通り、しっかり手形を回収してくれれば逃げる必要などないからだ。
もっと言えば、由香さんは母親に融通してもらった400万円を返済しなければならず、逃げるなんてありえない話だった。
それでも冨田は食い下がり、一緒に逃げようと迫ったが、由香さんはそれを突っぱねてその場を去った。

自分のいうことなら聞くはずの由香さんの、思いがけない強い態度に冨田は苛立った。
そして翌27日の早朝、由香さんに対して以下のメールを送り付けた。
「さようなら

ぼくは、昨日で生きていくのに!もうつかれました!
あとやりのこしたことが!
まだいっぱいあるけど何もする気がなくなったから
あとは?この世とのおわかれだけです」

実は冨田は由香さん以上に切羽詰まっていた。
すでに冨田の個人的な資金は尽き、個人的な借金の支払いにも窮していたのだ。そのため、弁護士に債務整理を依頼、会社についてもとある会社の会長職にある人物に会い、会社再建のための相談をしていた。
5月の満了日が迫る中、由香さんに対するさらなるいいわけを考えた冨田は、530日になってこう言った。

「弁護士が金と手形を持ち逃げした!!!」

由香さんは半狂乱に陥った。




愛のことばと罵詈雑言

「もう無理、これじゃ会社にいられない!!!」

由香さんの声は震え、今にも泣きだしそうな様子だった。
冨田は、とりあえず不渡りは出すわけにいかないから、背に腹は代えられない、会社の普通預金から当座に金を移すよう指示した。
これもすべて冨田の策略である、考える隙を与えさせないのだ。今すぐ行動しなければ、大変なことになる、そう相手に思い込ませることで、相手を意のままに操ることが出来るのだ。
由香さんにとっても、とにかく会社に損害さえ出なければ解決の策はあると思っていて、どんなに気が進まなくても不渡りを出すことに比べれば会社の金を移すことの方がまだマシに思えていた。
しかもそれが出来るのは自分だけで、かつ、しなければ、すべてが終わるのだ。こんな選択絶対にしたくない。

由香さんには泣いている余裕すらもなかった。

手形満了日の531日。
銀行が閉まるギリギリの午後4時、冨田は由香さんに連絡を入れた。
由香さんは銀行へお金を移すために来ているところで、冨田の声を聞いて泣き出した。
「どうなってるの?このままじゃもう会社にも帰れないし、生きて居られないよ……
冨田はなだめすかして250万円を移動させ、5月末分の2通分の手形を決済させた。

胸をなでおろした冨田だったが、一方で由香さんはある準備をしていた。
由香さんは手形偽造と会社の金を流用したことを詫び、自身の命でそれを清算するという内容の遺書を用意していたのだ。
それらは自分の部屋の押し入れと、会社の自分の机の引き出しに入れられた。
その遺書には、冨田のことも記されていた。自分だけでなく、冨田もおそらく死ぬだろうということ、そして、どうか冨田を責めないで欲しいということも書かれていた。

61日、冨田は由香さんに電話をかけたが、携帯が留守電になった。
そこで、
「ありがとう
由香へ。おやじ(後述)にぜんぶまかせた
あとはおやじかられんらくをまってくれ
おれは、つかれたからわるいけど
これでやっと死ねる
なにもかもおれがわるいんだ
すまん
ちからがたりなんだ」
というメールを送った。




おそらく、冨田はいわゆる死ぬ死ぬ詐欺的な行為で由香さんの気を惹くつもりだったのだろう。こんなメールを読めば、由香さんは慌てて連絡をしてきて、あなたが死ぬならいっしょに死にます、あなたのためなら何でもします、とでもいうと思っていたのだろう。

しかし、由香さんからの返事はなかった。

すると冨田は、翌日の62日に以下のメールを送った。
「どこにおるんか
おまえどこにおるんか?
一緒に死のうち いうたやないかうらぎるな!
連絡して来い俺に何もかんもおしつけるんか?」
典型的なパターンだった。死ぬ気などさらさらない人間なのが丸わかりだった。
気弱なところを見せて、相手の気を惹けないとわかるや否や、今度は豹変してみせるのだ。

由香さんとて、無視していたわけではなかった。
平静を装えなくなっていた由香さんを、会社の人間は見逃さなかった。再度、由香さんに隠していること、悩んでいることがあるのではないかと聞いたところ、由香さんが5月末に偽造した手形が決済に回ったことや、そのために会社の金を流用したことなどを認めた。
前回は許した会社の関係者らも、今回ばかりは由香さんを庇いきれないということで、両親らにもその事実は伝えられた。
由香さんの父は、先にも述べた通りこの会社に勤務しており、かつ、経営者は異父兄弟である。
あまりのことに両親は当然激怒、冨田の存在もあって娘に相当厳しい態度で叱責した。
間に入った経営者の妻らも、この期に及んでまだ冨田を庇おうとする由香さんに、これ以上は会社の経理は任せられないとして、しばらく自宅謹慎となった。
その際、両親に携帯も取り上げられていたのだ。

冨田もまた、家庭の状況が変化していた。
由香さんとのことがバレたのか、金銭的な問題でかは分からないが、妻から厳しい監視下に置かれていたのだ。冨田は由香さんに犯罪の片棒を担がせ、一方では妻に対しても頭が上がらない状態になっていた。
610日ごろにようやく由香さんと連絡が取れたものの、由香さんからは手形のことを執拗に聞かれ、さらにはもうこれ以上は庇えない、自分も生きて居られないなどと泣きつかれた。
しかしここでも由香さんは、会社に対し、まだ話していない偽造手形があることは隠していた。
由香さんはなぜ、この期に及んでも冨田を庇い、手形が決済に回らないと信じてしまったのか。

そこには、冨田が仕組んだもう一人の人物の存在があった。



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