嘘八百男に振り出し続けた愛の約束手形~臼杵市・交際女性殺害事件④~

猿芝居

由香さんは、ある時冨田からこんな話を聞かされていた。
「弁護士を紹介してくれたのは、大阪の暴力団の組長なんだ。A(冨田と由香さんが出会った会社)にいたときに研修で大阪に行ったんだけど、飲み屋で隣り合わせてね。
すごく気に入られて、その時に何かあったら連絡すればいい、と弁護士を紹介してもらったんだ」

冨田はその組長のことを「おやじ」と呼んでいろいろと話を聞かせてくれたという。
よくある嘘話ではあるが、当然由香さんもにわかには信じていないように思われた。
が、なんと当の暴力団組長から由香さんに電話がかかってきたのだ。
話の内容は、手形の件は心配しなくていい、いざとなったら自分が責任もって取り返す、組長はそこまで言ってくれた。
由香さんはその電話を受けて安心し、冨田をまた信じるようになった。

しかし、それ以降も弁護士に直接会いたいと由香さんが言っても、冨田が弁護士に引き合わせてくれることはなかったし、手形も何度も決済に回っていた。
5月末に3度目の決済が行われた後、由香さんは携帯を取り上げられ、冨田とは連絡が思うように取れない状況下にあった。
出来る限り手形の件を引き延ばさせたい冨田は、会社に電話をかけて由香さんに連絡を取った。
そして、
「弁護士が名古屋にいることが分かった。ただ手形がどうなってるかが分からないので、その連絡待ちだ」
と告げた。そして、手形は取り戻せると思い込ませ、由香さんが衝動的な行動に出ないようにしたのだった。

さらに、6月20日ころ、由香さんのもとにふたたび大阪の暴力団組長から電話が入った。
組長は、
「わしの命にかけても弁護士見つけ出して手形を取り戻してやるさかい。もうちょっと辛抱してくれへんか。もし手形取り戻せなんだら,わし腹かっさばいてあんたにお詫びするつもりや。」
と必死に由香さんに訴えたという。
由香さんにとって、冨田以外にこの話が出来る、それだけでも心強かったとみえ、
「組長さんも死ぬと言いましたけど、手形が戻らなかったら私も当然生きてはいられないのでよろしくお願いします。」
と話した。

その後、5日ほどたったころ、冨田から
「弁護士はみつかった、これから大阪の組長のところへ行って話を詰めてくる。」
という連絡を受け、由香さんはようやくこれで何とかなった、と安堵した。その後も、冨田からは逐一連絡があり、手形も回収できたのですべて破棄した、持ち逃げされた金も戻ったので、その金の受け渡しなどについても相談してきた。
由香さんは心からもうこれで悩まなくてよいと思っていた。

お金が戻れば、会社にも返せる。母親に借りたお金は地道に返していこう、そう思っていた。

そして決済日の7月2日。
午後2時を過ぎたとき、由香さんは取引銀行からの電話を取り次がれて青ざめる。
すべて回収した、そして破棄したと冨田ははっきり言った。今回は人任せではなく、冨田本人がそれを確認して破棄したといったのだ。なのに、そのうちの手形2通が決済に回っていたのだ。
由香さんは事務所を飛び出した。大阪の「おやじ」からの電話は、すべて冨田の自演だった。

起訴

検察は、冨田を殺人と死体遺棄の罪で起訴した。
冨田の供述から、ふたりはいつも待ち合わせに利用していたふ頭公園で偶然会い、その後あてもなく由香さんの車で大分県内を徘徊していたという。
それは6年に及ぶ不倫関係からの情もあったし、由香さんがどこまで冨田の関与を周囲にばらしているかの判断がついていなかったこともあった。

そして、7月6日になって、もはや金づるにも使えないと判断し、九六位山の林道で由香さんを殺害し、遺体をトランクに遺棄した、これが検察の主張だった。
しかし弁護側は、殺人ではなく嘱託殺人を主張していた。
冨田が、由香さんから殺害を執拗に依頼されていたと供述していたからだ。

たしかに由香さんは、もう生きてはいられない、などと言った遺書を事前に遺していたし、迷惑をかけた分は自身の生命保険で清算したいなどということを話していた。
自分をだました男と数日間行動を共にしており、冨田自身も携帯電話を会社に残したまま行方をくらましたことなどから、二人が心中する心づもりがあった、と弁護側は主張したのだ。

しかし検察は、由香さんとしては冨田の言動によって心中する決意があったかもしれないが、冨田自身にはそういったつもりはなかったとみていた。
裁判でも、由香さんが殺害を依頼が真意からのものかどうか、の立証について審理がなされた。

冨田は捜査段階の供述で、
①手形偽造に難色を示した由香さんが、そんなことをしてバレた生きていけなくなる、と言った際、「そん時は俺も一緒に死んでやるけん」と諭した。
②ふ頭公園で落ち合った際、死ぬしかないと思い詰める由香さんに対し、「お前だけを死なすらせん。俺も死ぬしか方法がないと思っちょるんや」といい、
③事前に用意していた刃物やロープ類を由香さんに渡した。
④ホテルでSEXした後、執拗に早く死のうという由香さんがビールを飲んで寝入ったことを確認し、寝ている時であれば楽に殺せると思い、手首足首を縛ったうえで口と鼻にテープを張り、窒息によって由香さんを殺害した。
⑤上記殺害は何度も失敗しており、その都度由香さんから「ちゃんと殺してほしい」などと言われていた。
と話していたが、公判が始まると証言を変えていた。

死人に口なし

冨田は、そもそも手形偽造を依頼した際、由香さんは別段拒否もしなかった、と話した。
そればかりか、小遣いをやるからというと、由香さんはすんなり承諾し、その後の13通に及ぶ偽造も、「1枚切ってるんだから後は何枚切っても同じ」と、意に介していなかった、とまで言った。
さらに、手形を偽造してもらうたびに数十万円の謝礼を由香さんに支払っていたというのだ。

また、由香さんに対して「一緒に死のう」などと言ったことは一度もなく、メールで死ぬことをほのめかしたのも、由香さんの気を惹くためであって本心ではないと主張。
自分一人で自殺しようとしていたところ、たまたまふ頭公園で由香さんと出くわし、その際、
「どこいっちょたんと。私1人にしてから。あんたに連絡取るけど、連絡取れんで、私どうしていいか分からなかった。もしあんたが死んどったら、私も後を追って死なないけんと思うちょったんよ。」
「もう死んで自分の両親やA社の人たちに詫びんといけない。死んで保険でお金を返さないといけない。死んで,嘘をついて騙したお詫びがしたい。自分では死に切れないので殺して欲しい。」
そう懇願されたというのだ。
冨田はそうまで思いつめた由香さんを死なせてはならないと思い、すべてを白状して由香さんの両親に詫びに行く、と告げたところ、由香さんから「お父さんが逆上して(冨田を)殺すかもしれないからできない」と言われ、かといって逃げ続けるわけにもいかないと言われた。
その時点で自殺しようという気持ちは消えており、ただ由香さんを死なせてはいけないと思っていたという。
そこで、由香さんの気持ちを落ち着かせるためにも、しばらく行動を共にし、その間今後のことを話し合うつもりだった、と話した。

7月5日、由香さんの要望でホテルに泊まってSEXをした後、
「ホテルで結局することしたけん、私はもう思い残すことはないけん、もう早くお金も用意せな悪いけん、私殺してよ。時間がない」
と言い始めたという。
それでも思いとどまらせるため、海や公園などを車で移動していたが、由香さんが九六位山へ行くと言い出し、殺害現場となった林道へと向かった。
その際も、とにかく早く殺してくれというばかりで、聞く耳を持たなかった。そこで冨田は、お前を殺したら自分が捕まる、それは割に合わないというと、「あんたのために罪を犯して、今まで付き合ってやったんだからしようがない、私のために辛抱してよ」と言われた。
それでも冨田は、二人でやったことなんだから、二人で生きて償おうと説得するも、納得しない由香さんを見ているうち、「自分はここまで由香を追い詰めていたのか」と思い、そうであるならば、由香さんの望みをかなえてやるのが自分にできる事なのではないか、と思うようになったという。

そして、由香さんを殺害した。

というのが冨田の公判での主張である。信じれーん、ないわー。

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