なぜ彼女は家を出たのか~伊勢崎市・主婦監禁暴行餓死事件③~

幸夫という男

幸夫は三根子さんの前に元妻を含め何人もの女性と生活している。
彼女らも、三根子さん同様激しい暴行を受けていたことはすでに述べたとおりであるが、その詳細についてはほとんど報道されていない。
近隣の人らによれば、一人目よりも二人目、二人目よりも三人目と、女性たちのけがの度合いは酷くなっていたという。
ある住民は、元妻が幼い娘を抱えて助けを求めてきた時のことをこう話す。
「泣きながら、『夫の暴力にはもう耐えられない』と。そういうので車で親戚の家まで送って逃がしました」
しかし、おそらくこの時は連れ戻されたのだろう。結局、元妻は娘を手放すことで金井家から逃れた。

交際していた別の女性のケースもある。
彼女はある日突然、家族に何も言わずに姿を消したという。幸夫との交際を家族が知っていたかは不明だが、三根子さん同様、突然いなくなった。
家族らは捜索願も出したが、成人の場合は事件性がないとなかなか警察も動かないことも多い。
女性の両親らは毎日毎日、娘の無事を祈りながらほうぼうを探す日々を送っていたが、数年経過したとき、その娘から連絡がきた。
慌てて娘から聞いた住所へ両親が駆けつけると、そこには以前の娘とは別人かと思うほど痩せ衰えた娘がいたという。
そこには幸夫もおり、娘を奪還しに来た両親らの前に立ちふさがってそれを拒んだという。父親が幸夫を押さえつけてなんとか娘を取り戻したというが、食事もとれないほどに衰弱していた娘は、その後長い間療養を余儀なくされた。肉体的にも精神的にも、甚大なダメージを負った娘は、幸夫と暮らした日々の詳細を話すことすらできなかったという。

怖いのはこれだけではない。
なんと幸夫は、その後2度も娘を取り戻しに来たという。その執念たるや、常軌を逸していた。私は不意に、三毛別の羆、流れ星銀の赤カブトを思い浮かべてしまった。一度知った美肉の味を忘れられず、猟銃を構えられても怯まずなんどもそれを取り戻しに来る……
家族らは幸夫の襲来を恐れるあまり、いざとなったら幸夫を殺してもいいとすら思っていた。

幸夫がやってくると、家族は金属バットを持ち出して幸夫を追い返した。

幸夫は特殊学級に在籍していたわけだが、この悪知恵というか、そういう面での学習能力はあったのだと思い知らされる。
このことを教訓にしたのか、三根子さんの時は自ら連れ戻すのではなく、三根子さんをそそのかして自ら戻ってくるよう仕向けている。
三根子さんの家族も相当警戒していたにもかかわらず、それをやってのけるという意味では一度ロックオンした相手にはとことん執着するその執念が恐ろしい。

金井一家を知るある人は、中学時代から幸夫の凶悪な一面を知っていた。
金井家には犬がいたという。しかしその犬に、幸夫は石を投げつけ、痛めつけて楽しんでいた。餌もろくに与えず、つなぎっぱなしのその犬は、幸夫に暴力の限りを尽くされ死んでいった。
そして、その犬が死んだあと、幸夫の暴力は姉の洋子に向かったのだ。
姉に対する暴力が、殴る蹴るといったもの「だけ」ではなかったことはすでに述べたが、幸夫は自身の成長とともに、暴力の幅を広げていく。そして、その姉に対する「暴力」が、金儲けにもなると気づいてからはタガが外れたように姉に残虐の限りを尽くしたのだ。

姉がそのせいで精神を病んで入院したあとは、新たな暴力のターゲットが必要だった。しかもそれは、単なる暴力だけではないから、女性である必要があったわけだ。
幸夫は女性を連れてきてはあの犬や姉と同じように暴力を振るい、逃げられれば次の女性を探した。探さざるを得なかった、というほうが正しいか。
幸夫にとっては、人が空腹を満たしたいと思うのと同じ感覚で、女性にありとあらゆる暴力、苦痛を与えなければ満たされなかったのだろう。

事実、その女性らが途切れた際には、家に残された娘にそれが向けられたこともあったという。
両親と姉の洋子、そして妹が幸夫から逃れ伊勢崎に移った直後、金井家がそれまで暮らした鳥の郷の団地には、幸夫と幼い娘が残された。
その時、近隣の住民らは、娘の「お父さんやめて」という悲痛な泣き声を何度も耳にしていた。
そこで何が行われていたのかは、こんなこと言ってはいけないのかもしれないが今となっては絶対に知りたくない。

幸夫のこの暴力性は、育った環境とかそういうレベルではないようにも思う。
むしろ、矯正不可能な、こういってしまうと怒られるかもしれないが、生まれついてのもの、という気がしてならない。
幸夫が今生きているとしたら、今も獲物を探しているのかな、そんな思いが頭から離れない。

(以上、令和2年9月6日追記)

 

*********
参考文献
伊勢崎市一家虐待主婦餓死事件の「タブー」
 駒村 吉重 著 /新潮45 / 新潮社  2002.8 p.110~122
累犯犯罪者 山本譲治 著 (新潮文庫)
「餓死殺人」一家 前妻の母が語った「監禁」「虐待」「阿鼻叫喚」の日々 宅間守と佐藤宣行を合わせた男
週刊文春 / 文芸春秋  2002.2.28 p.166~168



最後までお読みいただきありがとうございます。こちらから1文字2円のコメントが送れます。
いただいたお気持ちは資料集めに使わせていただきます。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です