恋人の頭を踏みつけた男の心の闇~岐阜・同級生男女殺傷事件~

2007年4月28日

白々と夜が明け始めた午前5時20分。
通行人の男性が、路上に倒れている女性を発見して通報した。女性は頭部をひどく損傷しており、車にひかれたのかとも思われたが、そうではなかった。
当初、女性の身元は分からなかったが、のちの調べで近くのアパートに住む衣料品店店員A子さん(当時23歳)と判明。
捜査員が彼女の自宅を訪れると、そこには会社員の武井亮さん(当時23歳)があおむけに倒れ、すでに絶命していた。
A子さんは頭部を鈍器のようなもので殴られており、意識不明の重体。
警察は、A子さんの部屋に亡くなった男性とA子さん以外の人物がいたとみて、その後、部屋にあった持ち物から一人の男を特定、同日夜にはその男の身柄を各務原市で確保した。

男は小野正人(当時23歳)といい、亡くなった男性とA子さんとは中学の同級生であった。

3人の関係

小野とA子さん、武井さんの3人は、岐阜市内の中学の同級生で、小野と武井さんは小学校でも同級生だった。
武井さんと小野はしばらく会っていなかったが、成人式に再会し、その距離を縮めていた。
武井さんは、仕事が続かない小野を心配し、職の斡旋などをして小野に協力していたという。武井さんは人材派遣会社で働いていたこともあり、力になろうとしてくれていたようだ。
一方、A子さんは2006年末頃から小野と交際するようになり、その後A子さん宅で同棲を始めている。
しかし、職が長続きしない、ギャンブルに明け暮れA子さんの財布から金を抜くなどしていたことが続いたため、A子さんの小野への気持ちは冷めて行っていた。

2007年の4月9日。
A子さんが他の男性と浮気していたことがわかり、小野はその件でA子さんと話し合った。
一旦はこのまま交際を続けるということになったのだが、翌日、何も知らないA子さんの浮気相手が携帯にメールを送ってきたことに小野は激怒した。
寝ていたA子さんを叩き起こし、A子さんの顔面を激しく殴打した。A子さんは顔面打撲で鼻骨を骨折し、眼球にも損傷を負った。

事態を知ったA子さんの母親が当然であるが激怒し、16日には小野をA子さん宅から叩き出したという。
ただ、小野はもちろんのこと、怪我を負わされたA子さんも、自身が浮気したという負い目があったのか、その後も二人は連絡を取ったり、会うこともあった。

同じころ、小野に職を紹介するなどしてなにかと世話を焼いてくれていた武井さんは、三重県のパチンコ店の職を小野に持ってきた。
住み込みではなかったため、部屋が決まるまでは武井さんが自身の家に小野を住まわせてくれたという。
その間、生活費として小野はバイクを売却するなどしてお金を作ってはいたが、管理能力がなかったため、心配した武井さんがそれを預かり、必要な額を渡す、ということになっていた。
武井さんは非常に向上心のある人として周囲の評価も高く、将来的には起業したいという夢も持っていた。
久しぶりに再会したかつての同級生である小野の、自堕落な生活をなんとかしたいと思って、まるで親兄弟のように親身に小野に接していた。

A子さんと武井さんは、特に同級生という接点以外はなかったようだが、A子さんと小野が交際を始めてからは、A子さんからも小野の事で相談を受けていたようだ。

そして、その武井さんの親身な態度が、理不尽な形で惨劇を引き起こしてしまうことになった。

事件までの経緯

4月27日、小野は武井さんに連れられ、就職予定の三重県内にあるパチンコ店へ行き、面接を受けた。
きちんと生活を立て直すために、武井さんの手助けはあったものの、小野は一応行動をしていた。
しかしその一方で、A子さんへの未練は依然として強く残っていたとみられ、このまま三重に行ってしまったらもうA子さんと会えなくなるのではないかという不安を抱いていた。
面接を受けた後、小野はひとり武井さん方へ戻ると、「ある物」を持ち出して、そのまま自転車でA子さんに会うために岐阜市に向かう。
A子さんと落ち合ったあと、ふたりは金華山へと向かい、そこから小野が借りていた借家へ向かった。
その借家で、小野は強引にA子さんに性交渉を迫った。そんな気はなかったA子さんは拒否したが、半ば強引にSEXに持ち込まれた。
その後でA子さんに対し、「一緒に死んでほしい」と告げる。
驚くA子さんに対し、小野は「一緒に死んだらずっと一緒におれる。Aを殺した後、すぐに自分も行くから」と言った。
A子さんは驚きながらも冷静にはぐらかし、とりあえずA子さんの家へ場所を移そうと提案した。二人で移動する途中に立ち寄ったコンビニで、A子さんはこっそり武井さんに連絡し、小野に心中を持ち掛けられたことを相談した。
危険を感じた武井さんは、A子さんに「すぐそちらへ行くから」と言って急いでA子さん方へ向かった。

A子さんと小野がA子さん宅へ到着して間もなく、武井さんがA子さん宅へ駆けつけた。
そこで武井さんは小野に対し、もうA子さんに付きまとうな、会うな、と諭したという。その上で、誓約書を書くよう小野に迫った。
小野は素直にその誓約書に署名したが、この時すでに小野の心にはある決意があった。
武井さん方を出る際に持ち出したのは、武井さん方の包丁であった。

武井さんを生かしてはおけない、そして、A子さんも生かしておくわけにはいかなかったのだ。

凶行

小野は財布を探すふりをして、バッグに手を忍ばせた。そして、おもむろに包丁を構えると、武井さんの腹部めがけて突き刺した。
武井さんは刺されながらも「正人!!」と小野の名を叫び、足で蹴飛ばすなど抵抗した。そして、A子さんに「逃げろ!」と叫んだ。
とっさにA子さんは裸足で逃げ出し、それを追おうとする小野に対し、武井さんが追いすがってもみ合いとなった。
玄関前の通路で、小野はへたりこんだ武井さんを見下ろして、頭や胴体めがけて4~5回包丁を振り下ろす。
武井さんは手すりにもたれかかり、崩れ落ちるように通路に座り込んだ。
武井さんが抵抗しなくなったことを確認した小野は、すぐさま裸足で逃げたA子さんを追った。
この時点で小野は何かを叫んでいたというが、詳細ははっきりしない。
A子さんは身を隠すことが出来ず、路上で小野に追いつかれた。勢いで小野とA子さんはもろとも道路に倒れこみ、その際にA子さんは両膝と両肘を同時に地面にこすりながら倒れた。
小野はなおもA子さんを引き倒すと、その側頭部を右足で思い切り体重をかけて4~5回踏みつけたという。

武井さんは救急隊員が駆け付けた時点で既に心肺停止、その後救命措置もむなしく、搬送先の病院で医師が死亡を確認した。
武井さんは背中に2か所の刺創、深さは14センチと18センチに及ぶ深いもので、そのうちの一つが左肺を貫通していた。
腹部はみぞおちの辺りを深さ8センチの刺創、これは十二指腸まで達していた。
顔面、太腿にも刺創が、そして両手指には防御創のような複数の切り傷も見られた。
死因は失血死。背面から肺に貫通する傷が致命傷となった。

一方、A子さんはさらに悲惨であった。命こそとりとめたものの、倒れこんだその側頭部を、全体重をかけて思い切り踏みつけられたのである。まるで、子どもが蟻を踏み潰すかのように。
CTスキャンの結果、左側後頭部に脳挫傷、びまん性軸索損傷と診断された。
軸索損傷とは、脳内に張り巡らされた神経が切断される状態で、A子さんの脳内のいたる箇所の神経は切断されていた。

しかし、これだけの凶行に及んでいながら、なんと小野は武井さん殺害の状況をほとんど記憶していなかった。
二人に対する強烈な殺意は認めていたものの、武井さんに包丁を何度か振り下ろした、程度の記憶しかないというのだ。
小野は、実は過去にも事件を起こしていた。そして、その際にも人を一人殺害していた。

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