無関係の女性を焼き殺した男の安らかな死にざま~愛知・2女性ドラム缶焼殺事件③~

4人の人生

4人の従犯は、なぜ最後まで川村と野村にいいようにされたのか。
裁判でなくても、誰でも思うだろう、なんで逃げないの、と。
裁判でもそれは検察が主張してもいる、野村は最後に4人に対して「本当に嫌なら来なくていいんだぞ」と、後戻りの橋渡しをしたと。
それでも、4人はその機会があったにもかかわらず誰一人逃げず、深谷さんを襲い、拉致に失敗するや無関係の妻とその妹を拉致し、本当に殺害してしまった。

これまでも書いたとおり、4人には多額の生命保険が掛けられていた。そして、事あるごとに「誰が死ぬんや」などと言われ続け、あげく家族にまで害が及ぶかのようなこともほのめかされていた。

池田と牧田弟は結婚しておらず、家族と言えば両親らであった。牧田兄と白沢には、子どももいた。

牧田弟は、そもそも犯罪などとは無縁の生活を送っていた。高校卒業後はアルバイトも含め仕事もしていたし、運送会社で川村らと出会うまでは普通の人間だった。
それが、借金で経済的に困窮していたこともあって、例の詐欺に加担することとなった。(牧田兄とは養子縁組で兄弟になっていたと思われ、事件後は苗字を佐藤に戻している。)
4人の中では仕事ができる方だったといい、他の3人に比べれば、川村や野村から叱責されることは少なかった。しかし、同じように保険金を掛けられていた。
犯行でも、拉致の際に洋子さんを殴り、勝子さんの口にガムテープを張ったのも牧田弟である。しかし、事件後は夢に洋子さんらが現れ、眠れないと話していた。

牧田兄はどうだろうか。中卒の彼もまた、転職はしているものの仕事をし、妻と子供のいる身であった。
運送会社では夜間勤務だったため、家族との時間を作りたいと子供が小学校に上がるのと同時に運送会社を辞めた。しかし、妻の借金問題があり、それが原因でうつ病も患った。
結局金に困り、運送会社の同僚だった川村に職探しを依頼したのが運の尽きだったかもしれない。そこからは転がり落ちるように、川村と野村にいいように使われた。
資金繰りがうまくいかないと、妻の名義で借金までした。
他の3人より罵倒される機会も多く、日々の中で徐々に自分を見失っていったのは容易に想像がつく。
さらに、もう這い上がれないと覚悟したのか、自殺未遂を起こすも一命をとりとめ、それによってさらに川村と野村逃げ場を取り上げられた。
何度も何度も、この牧田兄だけは辞めたい、いやだ、ということを主張している。しかしそのたびに強烈な脅しを返され、打ちのめされて歯向かう気力を削がれていった。
最終的に火をつける役目を川村に指示されたのは、私は完全に嫌がらせだと思っている。いじめだ。わざと、牧田兄にやらせた。
牧田兄は、震える手でそれでも火を放った。

一番若かった池田は、工業高校を卒業してこちらも普通の職業を経験し、運送会社に入社。そこで事故を起こした際に、川村が親身に助けてくれたという。その後もなにかと可愛がってくれた川村を信頼していた池田は、詐欺会社設立の際も川村を信用して参加した。
しかし、信頼していた川村の本性を知ったときには、すでに保険金を掛けられがんじがらめであった。
事件以前には2度にわたり、実家へ逃げかえったものの、連れ戻されたばかりかさらにきつい状況に身を置く羽目になった。深谷さんの件では、担当者とされた。ヤクザでもなんでもない池田に、世間の荒波をかいくぐって生きてきた深谷さんの相手など務まるはずもなかった。

池田とともに途中で逮捕された白沢も、他の3人同様犯罪などとは無縁の人生で、離婚はしていたが二人の娘を持つ普通の父親であった。
彼もまた、運送会社に勤務したときに川村らと知り合い、その後詐欺会社へと移った。
それ以降は他の3人同様、ヤクザの存在をちらつかされ、家族を脅され、そして自身には生命保険を掛けられ、川村と野村の意のままに動かされていた。

その時、あなたなら

4人は破滅へと進む以外になかったのだろうか。こうしてみれば、川村らと出会うまでは、平凡で何ら他人に害を加えない、むしろどこにでもいる普通の人々だ。よくあるような、反社会的な生活を送ったわけでもないし、前科などもない。
4人に共通していたのは、経済的な困窮だった。牧田兄を除き、多重債務者だった。牧田兄も、妻の借金問題で首が回らなくなっていた。
そこへ川村はつけこんだ。わかっていたのだろう、経済的に困窮しているということを。最初から捨て駒にする気満々だったとしか思えない。なぜなら、正直言って全員が「使えなかった」からだ。
牧田弟だけはそうでもなかったようだが、それでも資金調達は出来ない、当座の開設は失敗する、手形の取り立てもままならず、何してもいいから連れて来いと言われて待ち伏せた2月のときは、なんと4人全員待ちくたびれて寝てしまったのだ。使えない。とんでもなく使えないこの4人を、それでも川村と野村は逃がさなかった。

おそらく、いずれ何らかの形で事故に遭ってもらうつもりだったはずだ。深谷さんの事件は、最初から決まっていたわけではないからだ。深谷さんを殺害するために雇った4人ではないからだ。
いずれ、遅かれ早かれ、4人は事件を起こさせられるか、自分が事故に遭うか、そのどちらかだった可能性が高い。
もし私が彼らの誰かだったら。裁判所が言うように、何らかの策を講じて逃げることは出来ただろうか。詐欺に加担した時点で警察に話したとして、身を守れる保証があったろうか。野村の実父は怖い人だ。自分など、あっという間に消されるのではないか。
家族がいたならなおのこと、正常な判断ができなくなってしまったかもしれない。
深谷さんさえ、支払いをしてくれていたら…そんな思いもあったかもしれない。それが、深谷さんへの憎悪に変わったのかもしれない。かもしれないばっかだな。
でも、それでも自分がもしこの4人の立場だったら、正義に基づいた行動がとれたか甚だ疑問である。ましてや、お前が辞めるならドラム缶もう一つ増やすといわれ、火をつけるのはお前だといわれたら。自分が死ぬ羽目になっても、自分と無関係の他人を救おうと出来ただろうか。正直、わからない。怖い。

1月29日

その日、川村はいつものように7時半ころ朝食をとり、食後の運動のために刑務官に連れられ独房を出た。
向かいの房にいる別の死刑囚に対し、笑顔で「行ってきます」と言って。
そして川村は戻ってこなかった。

川村は最期まで死刑に抗っていた。罪は認めるけれど、死にたくないと言った。
それは野村の裏切り(?)を許せなかったのもあるし、真実が闇に隠されたまま死刑になるのは嫌だと、そして、まだ幼い子どもたちがせめて大人になって父親の死を受け入れられるまでは執行しないでほしいと訴えていたというからちょっと勝手すぎてびっくり。

外国人の妻がいた川村は、カトリックの洗礼を受けた。神父の言葉を受け入れ、被害者の冥福を祈る日々だったという。
義足は、貧しい人のために死後寄付することを決めていた。
クリスチャンの支援女性と文通をするなど、また、川村の世話を担当していた受刑者によれば、非常に笑顔のやさしい「良い人」であったという。
それも川村の一面であろう。しかし、弱者につけこみ犯罪の片棒を担がせ、女性二人を生きたまま焼き殺したのもまた、川村の偽らざる本当の姿である。

野村は早い段階で死刑を受け入れた。しかし、彼が言うところの受け入れる、というのは、反省や償いの気持ちではなく、ルール違反を犯したのだから人生から退場する、という腹立つ言い分である。
ただ、結果的に遺書になったフライデーに送った手記の中には、こういった一文もある。
”私は死にたくない、死ぬのは恐いそれが解った。だから再審請求を取り下げなければならないことを知った。この(死の)恐怖を私は知って、知って、知り尽くして執行されなければならない”

野村はどこか格好いいことを嘯きながらも、死の恐怖が自分の中にあることをしっかり認めた。そしてその上で、死刑執行をされることを望んだ。
死刑と向き合うことで、野村は自分の中に死を恐れる気持ちが芽生えることを身をもって知った。
それはいつか遠い将来に来る死ではなく、すぐそばまで来ている死であり、また、眠るように訪れる死でもない。

そして、1月29日を迎えた。

生きて償う者、死んでも償えない者

無期懲役となった牧田兄弟は、前妻と実母の支援を受け、今後の人生を償いに生きることを許された。
懲役12年となった池田と白沢も、どうやって償うかは別にして、生きて償う道を許された。池田は両親らが支えとなると約束し、本人も反省の気持ちが強いことが、遺族との間で合計125万円というとんでもなく安い賠償金で和解が成立していることからも一応見える。
牧田弟は経済的に困窮していることから、金銭的な慰謝料を払うことは出来ないとしながらも、遺族に対し手紙を書くなどして反省の弁を述べている。
これで遺族が納得など到底できようもないにしても、償う道を残されただけ彼らはまだ命の使い道ができたといえるだろう。

野村については、件の実父が金銭的な慰謝を申し出たという話もあるが、深谷さんらからすれば複雑な思いだろう。
殺されるいわれは全くないにしても、根底に借金問題があるということで含みのある言葉を投げかけられたこともゼロではないと思われる。

死刑となった野村と川村は、命をもって償った、と言えるだろうか。
洋子さんと勝子さんは、想像を絶する苦しみと痛み、絶望の中で命を失ったばかりか、家族がその亡骸を抱きしめることも、生前の面影を見出すことすら叶わなかった。
野村と川村はどうか。同じ命で償ったとはいえ、その死にざまは洋子さんと勝子さんに比べれば「楽な」死に方であった。

野村の遺体写真は、生前に交流のあったフライデー編集部に送られた。掲載されたその死に顔は、ずいぶんと穏やかで、胸の上には新約聖書が置かれていた。
洋子さんと勝子さんの味わった無念、恐怖とは全く比べ物にならない穏やかな死である。
野村は、死の恐怖を理解したというが、洋子さんと勝子さんの味わった死の恐怖は全く実感できないまま、川村とともに地獄へ堕ちて行った。

 

 

「無関係の女性を焼き殺した男の安らかな死にざま~愛知・2女性ドラム缶焼殺事件③~」への2件のフィードバック

  1. 怖いです。怖すぎますね。
    無関係なのに生きたままドラム缶で焼き殺されるなんてなんの罰なんだと思います。
    焼死がいちばん怖い。

    とりあえず、借金はしちゃダメだって事ですよね。
    でも240万なんて、普通に車のローンの値段だし、そう考えるとなにもかも怖くなってきますね。
    犯人たちも、それまでヤクザとかだったわけじゃ無いし、脅されて罵倒されてしたと。
    家族を連れて夜逃げとかも無理だったんですかね。
    自分がその立場だったらどうしてたのかわからないです。
    子供を虐待で殺すとかは、自分はやる訳ないし夫がしてたら子供連れて母子シェルターに逃げるってすぐ思いつくんですけど、こういうケースはどうしたらいいのかわからないです。警察に話しても無駄なのかなとか。
    今まで無事に生きてきたのが奇跡なんじゃないかと思わせられる時間でした。

    1. ちいさま

      この事件は主犯と殺害の凄惨さが際立つばかりで、あまり従犯4人のことについては話題になりませんでした。
      でも、この4人なくしてこの事件は成り立たないわけで、どうして4人もの男が、それこそ自分に何の関係もない女性をこんなふうに殺してしまったのか、それが知りたかったのです。
      生育環境も、職歴も、人間関係もさほど特筆すべきことがないほど普通の人間だった彼らは、亡くなった女性同様、運命から逃げられなかったのか、そして、彼らの立場に自分が置かれたら、どうしただろうか、答えが出ません。

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