夫を二度焼きした妻と年下男のやけくそ~さぬき市・夫偽装殺害事件~

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平成22年10月31日

その日は秋祭りで、夫は祭りで酒を飲み帰宅した。
夫の帰宅を待っていた妻は、「ラーメンでも食べに行こう」と夫を誘い、二人は車で出かける。
その車中、妻は夫にペットボトルの飲み物を手渡し、飲むように勧めた。
酔ってのどが渇いていた夫は、なにも疑わずその飲み物を飲んだ。
車は、市内から離れ風光明媚な展望台へと走っていく。夫は助手席ですでに寝入っていた。
展望台近くの市道で車を停めると、一人の男が近づいてきた。妻は驚く様子もなく、車から降りる。
その際、車内になにやらガスのようなものが立ち込めた。
苦しさに目を覚ました夫は、必死に車から転がり出た。激しくむせる夫を、男が見下ろす。
そして、手にしていたバットを夫めがけて振り下ろした。

11月3日深夜

香川県さぬき市小田の市道脇で、車が燃えているという通報が入り、香川県警が捜索したところ、車内から成人男性の焼死体が発見された。
その後の調べで、遺体はさぬき市志度町に住む会社員・城寿人さん(当時39歳)であると判明。
寿人さんの妻によると、寿人さんは10月31日の朝にすでに行方が分からなくなっていたという。さらに、会社で仕事上のトラブルを抱えており、悩んでいたようであった。
寿人さんの葬儀では、幼い子どもらとともに泣きじゃくる妻の姿があった。
さほど人口の多い街ではないうえに、地域のつながりも濃く、参列する人々も妻の痛々しい姿に涙した。

当初、寿人さんは仕事上のトラブルを苦にした自殺、と思われた。
しかし警察は、ある疑いを持っていた。11月3日深夜に車が燃えていた際、そこに通報者とは違う第三者の姿があったのを目撃した人がいたのだ。
その後司法解剖された寿人さんの体内からは、睡眠薬の成分が検出されていた。

また、寿人さんの勤め先での聞き込みでは、寿人さんが仕事で悩んでいたという話は皆無で、むしろ仕事は順調、人間関係においてもトラブルなどは聞いたことがないという話だった。
さらに、興味深い事実が判明する。
寿人さんの妻には、専門学校生の「愛人」がいたのだ。

警察は、寿人さんの妻が捜索願を出していないこと、告別式のあと、寿人さんの保険金を得ていること、そして、捜査員に対して寿人さんが仕事で悩んでいたなどと嘘の供述をしたことなどから慎重に捜査。
12月6日になって、妻・可奈子(28歳)とその愛人である専門学校生・高橋淳希(21歳)を殺人の容疑で逮捕した。
ふたりの不倫関係が夫である寿人さんにバレ、一緒にいられなくなることを危惧して殺害するしかないと思い、二人で共謀して殺害したことを認めた。

可奈子が寿人さんを誘い出し、待ち合わせていた展望台付近まで行き、そこで当初は硫化水素を発生させて殺害し、自殺に見せかけようと目論んでいた。
しかしうまくいかずに寿人さんが目を覚ましたため、念のために用意していたバットで高橋が寿人さんを数十回にわたり殴打。意識を失った寿人さんを再び車内へ押し込み、証拠隠滅のために灯油をかけてライターで火をつけた。
一旦はそのままその場を離れたものの、数日たっても車が燃えたとか、そういった話が出てこなかったために不安になった二人は、なんと現場を確認することにしたのだ。
そして11月3日の深夜、高橋が現場を確認すると、車はほとんど燃えておらず、車内には息絶えた状態の寿人さんがほとんど損傷のない状態で横たわっていたという。
高橋は今度こそしっかり燃やしてしまおうと思ったのか、車の窓をすかし、燃えやすくしたうえで再度火をつけたのだった。

不倫

可奈子と高橋は、同じ町内に住んでおり、お互いの自宅は直線距離でわずか1.5kmしか離れていなかったが、もともと知り合いだったというわけではなかった。
可奈子は事件の8年前に結婚、寿人さんとの間に7歳の長男と4歳の長女ふたりの子供を持つ母親だった。寿人さんとは人回りほど年が離れていたが、近所の人によれば自宅の庭先で家族でバーベキューをしたり、地域のソフトボールクラブに所属するなど、地域とも溶け込んだ仲の良い家族であったという。

一方の高橋も、事件当時も実家で生活しており、そこから香川県内の医療系専門学校へ通っていた。
高校時代は野球部に所属し、男性にしては小柄ながらもスポーツの得意などこにでもいる普通の青年であった。
その二人が出会ったのは、地域の体育イベントだった。
お互いに別々のソフトボールチームに所属しており、その大会を通じて知り合い、その後も合同練習などで顔を合わせるうちに親しくなっていったとみられる。
(一部報道ではソフトバレーともいわれているが、女性が参加するのはソフトバレーであることが多いので、おそらくソフトバレーが正しいのではないかと思われる)

出会ってからどれくらいで不倫関係に陥ったのかは定かではないが、少なくとも出会ってかなり早い段階で関係は深みへはまり、そしてその関係は夫である寿人さんの知るところとなる
高橋が送ったメールを、寿人さんが見てしまうのだ。
当然ながら寿人さんは可奈子を問いただした。夫婦でどういったやり取りがあったかは分からないものの、可奈子は離婚したいと寿人さんに告げた。
10歳以上年が上である寿人さんからしてみれば、まだ幼い二人の子供がいる以上、安易に離婚するのは躊躇されただろうし、だからこそ、自分が不倫しておきながら離婚を口に出す可奈子に腹も立ったであろう。
二人の間は急速に冷え切り、可奈子は寿人さんのことを「ただの同居人」と思って暮らしていたという。
そんな可奈子の態度もあって、寿人さんは話し合いの際に思わず手を出してしまうこともあったようだ。
それらをおそらく可奈子は、自分に都合のいいように解釈し、そしてそれを高橋に伝えていた。
私は離婚したいのに、夫がそれを許さない、挙句暴力まで振るわれた…

そんな可奈子の話を、高橋も同じく都合の良い解釈ばかりしていた。
夫が離婚に応じない以上、もう高橋とは逢えなくなる。高橋もまた、夫に消えてもらわなければと強く思うようになり、駆け落ちでは意味がないと、可奈子に寿人さん殺害を持ちかけた。可奈子もまた、それに応じなければ自分の高橋への思いはその程度のものなのかと思われてしまう、お互いがお互いにまるで自分たちこそが哀れであると言わんばかりに燃え上がる炎を消すことが出来なかった。

ただ、このふたりの「恋」は、完全な秘密とは言えなかった。
クラブチームの練習の際、可奈子の荷物を持つ高橋の姿はよく目撃されていたし、仲の良い二人、という認識は多くの人が持っていた。
また、可奈子はごく親しい人たちには、自分と高橋の不倫関係を話していたともいわれている。
人口5万の地方都市とはいえ、二人が住んでいた町はおそらく娯楽や人との出会いも限られていただろう。人の出入りの少ない町において、若い人が定期的に集まる機会と言えば、地域のスポーツクラブがメインというのは珍しくない。
10以上も年上の夫とは、話が合わないこともあったかもしれない。また、祭り好きだった寿人さんの交友関係に、女である可奈子はなかなか馴染めなかったのかもしれない。
そんな日常の中で、若い高橋は可奈子にとって唯一の癒しだったのかもしれないが、高橋ともまた、6歳も年が違うということを、そしてそれは自分と夫との関係に似ているということに、可奈子は気づかないふりをしていた。

杜撰すぎる殺害計画

10月に入って、可奈子の不倫に寿人さんが気づいた。
可奈子はそれでも高橋をあきらめきれなかった。そして離婚に応じない寿人さんの前で、いつしか寿人さんがいなくならない限り、自分のこれからの人生が意味のないものになってしまうと考え始めた。
高橋はどうだったか。一部では寿人さんがかなり強い態度であった、という話も聞こえては来るが、かといって高橋がなにか脅されたとか、そういう話は出ていない。

寿人さんの目を盗んで、その後も可奈子と高橋は連絡を取り続けた。
そしてそれはいつしか、寿人さんを殺す計画へと移っていくのだ。

可奈子はネットで練炭自殺などの方法について調べていた。この当時、練炭自殺と同じく自殺の方法としてよく用いられていたのが「硫化水素」によるものだった。
硫化水素は市販されている洗剤や薬剤を混ぜることで発生し、仕組みを知ってさえいれば子供でも発生させることは可能だ。
しかし、家でそんな危険なガスを発生させるのは、子供達がいる以上不可能であり、寿人さんをどうにかして外に連れ出し、かつ、硫化水素で殺害するためには密室状態を作る必要があった。

可奈子は知人から睡眠薬を譲り受ける。そして、チョコレートに混ぜるなどして寿人さんに摂取させようと企んだ。
実行する日は、寿人さんが祭りの寄り合いに出かける夜と決めた。
あらかじめ合流する場所を展望台と決め、高橋にはそこへ来るよう打ち合わせ、高橋は自宅からバットも持ち出した。
車に、硫化水素を発生させるための薬剤を仕込み、寿人さんが睡眠薬の作用で昏睡した後に車内にガスを発生させて自殺に見せかけようとしたのだ。

しかし、冒頭の通りガスに気づいた寿人さんが目を覚ましてしまう。
焦ったふたりは、車から転がり出た寿人さんをバットで殴りつけてしまった。この時点で自殺を装うことはまず不可能である。
そこで、証拠隠滅のために車もろとも焼いて、焼身自殺を図った風に装うことに変更したと思われる。
無理だ。どう考えても日本の警察はそんなに甘くない。司法解剖をされてしまえば、睡眠薬の成分も出るだろうし、なにより外部からの衝撃でできた傷は容易に見破られてしまう。
しかしこの二人にそんなことに気を回す余裕はなかった。
二人にはもはや自分たちの、どこまでも一緒という陽炎しか見えていなかった。

保険金の請求

杜撰すぎる殺害計画はあっという間に露呈し、ふたりは逮捕となった。
葬儀の際、可奈子は勤務先の上司からお悔やみの言葉をかけられた際、「扶養家族じゃなくなった」と話したという。
同時に、子供達をしっかり育てていきたいと涙ながらに話した。
葬儀では幼い長男が、父親へのお別れの言葉を述べて参列者の涙を誘った。

参列した人も、可奈子夫婦を知る人も皆、可奈子らの逮捕に仰天した。
自分で殺しておきながら、涙は出るものなんだなぁという、妙な感心も沸いた。件のスポーツチームへの練習は、さすがに可奈子は控えていた。
しかし、高橋はそれまで通り参加していたという。

一方で可奈子は、生前寿人さんが可奈子を受取人にしたおよそ3000万円の保険金の請求を行っていた。
私自身、生命保険金の請求をしたことがないため憶測だが、自身の夫が突然亡くなったような場合、死亡して1か月もしない間にそれを行う気になるもんなのだろうか。
高齢の人や、病気である程度の覚悟ができていた場合、また、支払わなければならない借金、ローンの類がある場合は別だろうが、可奈子の場合は子供達もまだ幼く、学費に急ぎの金が必要でもなく、何もそんな焦らなくても、という気もする。

警察は当然それも把握しており、後に保険金詐欺容疑でも追起訴した。
しかし、受け取った額面は全額ではなく、また、のちにそれらを返金(?)したということから、起訴猶予処分となった。
可奈子自身も、取り調べに対して「保険金目的ではない。保険金は子供の養育に充てるつもりだった」と話していたし、それは事実だろう。
ただ、さっさと請求しているあたり、貰えるものは貰っておこうという考えもあったとみる。

可奈子はこの計画がばれないとどの程度思っていたのだろうか。
何も知らない子供たちを前に、どんな思いで日々を過ごしたのだろう。夫を殺してでも繋ぎ止めたかった年下の男は、そんな可奈子にどんな言葉を贈ったのだろうか。

独房にて

裁判が始まろうとする平成23年5月。
GWのその日、可奈子はひとり独房で首をつった。裁判まであと一か月という時だった。
テーブルの上には、可奈子が書いたとみられる「死にたい」というメモ書きがあったという。

逮捕されてからの約半年間、可奈子は自責の念に苦しんだのだろうか。
ふたりは犯行前、引き離されてしまうならばいっそ心中しようか、という話もしていた。
しかし結果として、それは出来ず、逆に寿人さんを消すことにしたのだ。
それから半年後、心中もしたくなかったはずの可奈子は、冷たい独房でたったひとり、死を選んだ。

田舎の平凡な生活の中で、ふと手にした甘い甘いお菓子の味は、どれほどのものだったろうか。
離婚の泥沼にはまる覚悟もなく、かといって絶対にバレないように気をつけるでもなく、夫を舐めてかかったふたりはやぶれかぶれとしか言いようがなかった。
夫を殺害したものの、それが発見されないからといって確認しに行くとはどういう心理だろうか。
あの日あの時のままその場にいた寿人さんの姿を見て、さらに火を放つという行動に駆り立てるほど、ふたりは離れたくなかったのか。というか、もうどうにでもなれといった自暴自棄な印象すら受ける。

高橋はその後裁判を経て、懲役20年の判決を言い渡される。
高校野球に打ち込み、将来は資格職を見据えて勉強に励んでいたはずの青年は、たった1~2年の間に殺人者へとなり下がってしまった。
まるで、夫に許しを請うためであるかのように、奪ったはずの女は、奪うために殺した男のもとへ、さっさと一人旅立ってしまった。
自分一人をこの世の地獄に置き去りにして。

 


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参考文献

読売新聞社 平成22年12月7日大阪夕刊、東京朝刊、12月28日、平成23年5月5日、17日、6月14日、16日、18日大阪朝刊、
毎日新聞社 平成22年12月7日大阪朝刊、東京朝刊、9日大阪夕刊
産経新聞社 平成22年12月7日大阪朝刊
四国新聞社 平成22年12月7日、8日、28日朝刊
サンケイスポーツ新聞 平成22年12月8日