3人殺した男の学習能力ゼロ人生~岡山・交際女性殺害死体遺棄事件②~

怒涛の金の無心

宇井に同情するとすれば、圭美さんのあからさまな金の無心である。
この点については、裁判の過程でも「被害者の落ち度」と認定されている。
圭美さんは自分の借金のみならず、友人らにも宇井を紹介して借金をさせていた。この点からも、圭美さんは宇井を「金づる」とみていたと思われる。
宇井は自身の収入の中から貸すだけでなく、そうした友人らへの金の融通のために消費者金融から140万円の借金をした。刑務所でコツコツと貯めた作業賞与金70万円は、とうに消えていた。
圭美さんらへ都合した金額は、総額で185万円になっていた。

圭美さんはその金をどうしていたかというと、主にはパチンコなどの遊興費、そして闇金などへの返済に充てていたようであった。
先述の通り、圭美さんは過去に2度の破産宣告を受けていながら、事件当時も一千万円以上の借金を抱えていたというちょっとどういうことなのかわからない状況であった。
また、借金の保証人を探してはあの手この手で保証人にさせ、それがままならないときには他の破産仲間に対し、相保証(お互いの借金の保証人になる)を持ちかけては新たな借金を増やしていた。
当時圭美さんの収入はというと、生活保護費が主であった。身体障碍者という立場上、もしかしたら障碍者年金などもあったかもしれないが、1回の返済が10万円になることもあったということから考えても、到底返済しきれるものではなかった。

そして宇井も、それに気が付いていた。

事実、圭美さんはほとんど返済をしていない。さらに、返済をしていないにもかかわらず、次から次へと宇井に対して金の無心を続けた。
体の関係も、宇井から金を引き出すための手段であったと裁判所も認定している。
そんな圭美さんとの関係に、宇井は疲弊しながらも「頼りがいのある男」を演じ続けたい欲求や、人から良く思われたいという気持ちが勝った。

ある時、金の無心を続ける圭美さんに対し、つい、「名古屋の叔母から金を受け取れる」などとありもしない出まかせを口にする。
気を良くした圭美さんは、周囲の人間に対しても「宇井が名古屋の叔母さんからお金をもらえる」などと吹聴してしまった。
その場しのぎのでまかせであったはずが、平成13年8月8日に、圭美さんとともに名古屋へ旅行する手はずになってしまう。おそらく、はぐらかしていた宇井を急かす意味もあって、圭美さんが計画したものと思われるが、その際、なんと圭美さんの友人らもその名古屋行きに同行する羽目になった。当然、岡山から名古屋までの往復の旅費は全員分を宇井が負担した。

名古屋では圭美さんと友人らのパチンコ代、食事代、さらには圭美さんの借金返済までも宇井が肩代わりした。

名古屋の叔母に直接会うという話になることを回避するため、宇井は知人に頼んで叔母のふりをしてもらい、あたかも宇井の口座へ100万円を入金したかのように装い、その場はおさめた。

そして、圭美さんに対し、「友人の前で100万円を渡すから、明日の朝9時半ごろに(宇井の)自宅へ来てほしい」と言って、岡山駅を後にした。
宇井はこの時点である決意をしていた。
それは、圭美さんを殺害すること、ではなかった。

「正しい」はずの判断

翌朝、宇井はレンタカーを予約した。
そして、金を受け取るために意気揚々と圭美さんがタクシーで宇井方にやってきたのが午前8時40分ころだった。

「名古屋の叔母の話は、嘘だ」

宇井は、今度こそ圭美さんに本当のことを言い、金輪際金は貸さないことを告げた。
さらに、これまで貸した金をきちんと返済するよう圭美さんに伝えた。
宇井が決意していたのは、これだった。ここへきてようやく、正しい判断を宇井はした、はずだった。

しかし、結果として宇井は、3度目の過ちを犯してしまうことになった。

宇井からそう告げられた圭美さんは、おそらくひどく狼狽した。
もともと下に見ていた宇井が、突然毅然とした態度で正論を主張しはじめたのだ。そもそも非があるのは圭美さんであるということは誰の目にも明らかだった。
当初は突然そんなこと言われても!などと声を荒らげた圭美さんだったが、一旦は宇井の主張を受け入れ、今後の返済計画などに話が及んだ。

ただ、圭美さんにはどうしても今日、10万円が必要だった。

自身が借りている闇金への返済が迫っていたのだ。
それは自分に関係ないことだ、と宇井がいうと、圭美さんは、
「名古屋の件があると思い込んでいたから、お金をあてにしていた。嘘をついたのはそっちなんだから、この10万円についてはそっちが用意するのが筋だろう」
と北朝鮮もびっくりの持論を展開し始めた。
宇井は宇井で、そんな圭美さんの摩訶不思議な論理は嫌というほど聞かされて来ていたはずで、今更そんな圭美さんの言葉に懐柔されるはずはなかった。
ただ、宇井自身、気になっていることがあった。
宇井は消費者金融から借りられなかった際、気の良い隣人から24万円の借金をしていた。しかも、きちんと期日を切っていたのだ。その期日が、すでに到来していた。
宇井は隣人に対して早く返済したい気持ちがあり、圭美さんに今すぐにでもいくらかの返済をしてほしいと思っていたようだ。
圭美さんに対し、これまでよそから借りてまで用立てしてきたのに、返済をしないままで新たな借金を申し込んでくるその態度への不満が口をついた。言い返されたと感じたのか、圭美さんも激高し、激しい口論が繰り広げられた。
なんとか返済の確約を取り付け、少しでも返済してほしいと思っていた宇井はなおも食い下がった。しかし圭美さんは、「こっちにもプライドはあるから。払うものは払う!」と言ったが、そのプライドとはどこにあるのか今すぐ見せろというのが宇井の本音であったろう。

その後、圭美さんは自身の借金返済についての苦労や、自己都合のいいわけを繰り返した。挙句、
「金の都合がつかない所にいてもしようがないから帰る」
と言い放ったという。私ならここでブチ切れるが、宇井は耐えた。
しかし、部屋を出ていこうとする圭美さんの肩の辺りをつかんで引き留めた際、圭美さんは大声でこう叫んだ。
「返さないとは言ってない!」」
宇井の堪忍袋の緒は、ついに切れた。

逮捕から死刑確定まで

宇井は圭美さんの首を絞め殺害した後、圭美さんの携帯電話が鳴ったことで我に返った。電話の主は、圭美さんが会う約束をしていたという友人からだった。
電話が切れた後、直後に宇井の携帯電話にもその友人からの着信があった。とっさに宇井は電話に出て、「自分も約束しているが現れない」と嘘をついた。
午前10時、もともと予約していたレンタカー会社に車を借りに行くと、宇井はすぐさま自宅へ引き返して圭美さんの遺体と私物をトランクに放り込んだ。

レンタカーを予約していたことで、宇井は計画的に圭美さんを殺害したのではないかとも思われたが、実はこの日、ハローワークに職探しに出る予定であり、そのための車のレンタルだった。
宇井は、圭美さんと口論するまで、殺害する意思はなかったと裁判でも認定されている。

圭美さんの遺体を笹ケ瀬川の竹やぶに遺棄したあと、宇井は圭美さんの友人のもとへ行き、圭美さんを探している風を装った。
しかし、その友人から顔のひっかき傷を指摘され、レンタカー会社で指摘された際には猫のせいにしたのに、その友人には仕事でケガをしたと言った。

レンタカーを返却して、自宅に残された圭美さんが吸ったタバコなどを処分し、宇井は自宅を出た。なけなしの金を握りしめ、岡山市内のサウナで一泊し、その足で生まれ育った故郷を目指す。
愛知県内では友人に犯行をほのめかしたり、金を貸してほしいと頼むなどしていたが、この時自殺を考えていたという。
8月15日、東加茂郡足助町をふらふらと歩いていたところを逮捕された。

裁判では罪を認め、圭美さんに対して悼む気持ちもあらわしたというが、仮出所から1年9か月での殺人、しかも同じく女性を二人殺害したことでの無期懲役の前科があったこともあり、極刑は免れないとされた。

裁判所は圭美さんの度を越した金の無心、並びに圭美さん自身のそれまでの生活態度、宇井に対する侮辱ともとれる態度については落ち度が認められるとした。
さらに、刑務所で過ごした19年間模範囚であったこと、二人のそれぞれの遺族に慰謝料の支払いを申し出、うち申し出を受け入れた一人の遺族には毎年3万円の慰謝料を支払い続けていたこと、仮出所後についても、圭美さんと出会うまでの宇井の生活態度になんら咎められるような部分がなかったこと、しっかりと自らの意思で就労し、ひとり暮らしであれば贅沢は出来ずとも十分な暮らしができていたことなどを挙げ、情状酌量には値するとした。

しかし一方で、圭美さんの「本性」に気づきながら、自身の欲や見栄などを満たすために関係を続けたこと、金銭を貸したのもそもそも圭美さんとの関係を続けたかったことの表れであること、借金と言っても200万円程度であり、それ自体が宇井の生活を破滅させるものとは言えない(最悪破産すりゃいいじゃん、とのことだがそれはいくらなんでもねー)、そしてなにより、20年かけて償ってきたはずの前犯行とほぼ同等の手口で殺害から死体遺棄までを行っている点などが、その情状酌量を打ち消すには十分すぎると断罪した。
平成15年5月21日、岡山地方裁判所は宇井に対して死刑判決を出した。

その後、最高裁まで争われたが、圭美さんの落ち度は認めつつも、やはり3度目の殺人であることはいかんともしがたく、平成19年11月30日、死刑判決が確定した。

宇井は最高裁判決が出るより前に胆管癌を患い、医療刑務所で治療を受けていたが、死刑確定から3か月後の平成20年2月、68歳の生涯を閉じた。

どこで間違えたか

宇井は裁判で、ある種の人格障害を有しているとされた。
それは、
①人間関係を築くのが困難ではないのに、持続的な人間関係が保てない
②フラストレーションに対する耐性が低く、暴力を含む攻撃性の発散に対する閾地(しきいち=境界)が低い
③罪悪感を感じられない、特に刑罰から学ぶことが出来ない
④他人の感情への冷淡な無関心
⑤他罰的で反社会的な行動を合理化しがちな傾向
といったものであるが、これらは非社会性人格障害とほぼ同義であるとされた。

私は専門家ではないので一概に言えないが、裁判の資料を見る限り、これらすべては当てはまらないのではないかと思う部分がある。
たとえば、④の他人の感情への冷淡な無関心、⑤の他罰的で反社会的な行動を合理化しがちな傾向というのは、宇井の行動すべてがそうだとは思えない。
宇井は圭美さんに借金返済を迫っているが、それは自身のためでもあるが、隣人に対して返済しなければならないという、ごく当たり前の社会的な考え方によるものだ。
また、前事件での慰謝料の支払いを続けたことなども、たとえ弁護士に言われたからだったとしても支払い続ける加害者はそう多くないと聞く。
このサイトでも取り上げた北海道の幼児殺害事件の加害者・及川などは無期懲役の判決が確定した後は支払っていない。
むしろ、借金をして返済せずとも屁とも思わないのが反社会性人格障害ではないのか。
宇井は新聞配達や清掃業など、決して楽ではない仕事をこなしていたし、月に数回ある保護司との面談もしていた。他人とのトラブルもなく、ギャンブルもしていない。
あの日、圭美さんに会うまでは。

宇井の致命的な部分は、おそらく③で示された、学習能力のなさ、しかも、刑罰をもってしても学習する能力が恐ろしく欠如していたということ以外にない。
女性と懇意になりすぎると良くない、金銭をそこに絡めてはいけない、そしてなによりも、それまで自分に言い寄ってきた女は、妻を除いて全員が「金目当て」だったことを全く学んでいなかった(まさか妻も?)。

誤解を恐れずに言ってしまうと、宇井は圭美さんと出会わなかったら、死刑になっていなかったかもしれない、とも思う。
一方で、やはりこの男は圭美さんと出会っていなくても、結局「2度も3度も同じ」と考えてしまったのかも、とも思う。

宇井は圭美さんに対して、「よき人」であろうとした。しかしそれは、己の弱さや未熟さを隠すための見栄でもあった。
過去に二人も残虐に殺害しておきながら償いの機会を得たはずの男は、結局20年後に自滅した。
死刑台の階段を上らずに済んだことが、結果的に情状酌量となった。

「なぜ2人殺した時点で死刑にならなかったのか」
そういった声も多く聞かれ、私も当然だと思う。そしてそれは、殺害されたA子さんと小料理屋の女将が一番思ったことだと。
死刑判決の要因となった圭美さんは、この二人が連れてきたんじゃなかろうかとすら。

 

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