あの事件のその後~札幌歯科医師妻殺害事件の保険金~

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平成19年3月26日、札幌地方裁判所はとある民事裁判において原告の請求を棄却する判決を言い渡した。
それは保険金請求事件。妻を亡くした夫が請求した保険金の支払いを、生命保険会社が「消滅時効期間」がすでに経過していることによって支払いを拒否してきたため、起こした訴訟だった。

ざっと見れば、揉める要素などなさそうな事件に思えるが、実はこの裁判には複雑な事情があるにはあった。

原告の男性は、過去に保護責任者遺棄罪で有罪が確定していた。そして、その被害者が、今回請求された生命保険の被保険者だったのだ。

平成14年7月、北海道札幌市で起きた歯科医師妻が殺害された事件。
原告の男性は、その事件で逮捕された老女の息子で、被害者の夫だった。 続きを読む あの事件のその後~札幌歯科医師妻殺害事件の保険金~

🔓焼け野が原~狂言誘拐が問うもの~

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昭和の時代、身代金目当てなどでの誘拐事件は多かった。
被害にあうのは、主に子供。そのいくつかでは、被害者が殺害されてしまうという結末もあった。
時代が変わり、携帯電話の普及や防犯カメラなどで誘拐自体が難しい状況になったこともあって平成以降の誘拐事件は減り、その内容も身代金目的というものよりもわいせつ、監禁などを目的とするものへと変わっている。

身代金目的であってもこれまで認知されている誘拐事件では、解決未解決に関わらず身代金奪取が成功した例はないとされる。

その中で、身代金やその他声明が犯人側からなされて誘拐が発覚したケースでは、後になって「狂言」であったことが判明したものもいくつかある。
多くは、幼い子供のいたずらなどではあるが、その動機において深く考えさせられる狂言誘拐もある。

子供たちが企てた事件から、冤罪を生みかねなかった事件などを紹介する。
なぜ、そんなことを考えたのか。その本当の動機は、なんなのか。

聞いて、ちゃんと聞いて、ちゃんと言って、私に聞こえるように 大きな声で もう泣かなくていいように

子どもたちの反乱

幼い子供が企てる誘拐は、単にテレビの真似をしたというものもあれば、親の気を惹きたい、心配させたい、そういう健気な思いも隠されている。
理解してくれない大人たちへの、子供たちの反乱。

三重の11歳少女

平成元年2月のある日の夕方、三重県北伊勢地方の住宅に、不審な電話がかかってきた。
応対したのは母親で、「子供を預かっている。警察に言ったら命はない。50万円用意しろ。」と言われ動転。すぐさま警察へ通報した。この家の11歳になる娘・A子ちゃんがまだ帰宅していなかったのだ。

警察は当初から、幼い子供の身代金にしては50万円という額がそぐわないと感じていたが、営利目的ではなくいたずら目的での拉致などの可能性もあるとして捜査を開始。
母親の通報から約3時間後、捜査員がA子ちゃんが通う小学校に赴いたところ、校内に当のA子ちゃんがいるのが確認された。が、A子ちゃんはどうやら「身を潜めていた」ようだった。

捜査員が事情を聴くと、A子ちゃんが少しずつ口を開くようになった。

きっかけは、光GENJIだったという。

この時代、スーパーアイドルの頂点に君臨していた光GENJI。ジャニーズ事務所からデビューした彼らは、ローラースケートを履いて歌うというスタイルで、加えてその甘いルックスは全国の少女を魅了した。
お兄さん組と弟組のように、年齢差を設けて一つのグループにするというやり方は後のジャニーズのアイドルグループも取り入れている。
A子ちゃんもこの光GENJIが大好きで、とにかく熱中していたという。
それが関係しているかどうかはわからないが、学校の成績が下がってしまう。そしてそれを、どこの親でもそうであるようにA子ちゃんの親も、アイドルなんかに熱中しているからだ!とA子ちゃんを叱った。

A子ちゃんにとって、もしかしたら初めて熱中できたものだったのかもしれない。それを、親に全否定されてしまったその気持ちは痛いほどわかる。
A子ちゃんはおそらく怒っていた。カセットテープに自分で犯行声明を録音し、それを公衆電話から自宅へ電話し、さらに早送りで聞かせた。
母親は、早送りになっていたこともあって、娘の声だとは気づかなかったという。

この事件が報道された際、児童心理に詳しい教育評論家の品川孝子氏は、中日新聞の取材にこう答えている。

「自分の値打ちが認められないと感じたときに子供たちはスターに憧れるなどの逃避の行動に出る。今回の事件も典型的な例。併せて成績偏重も大きな問題で、50%もいると言われる家で願望の子どもの行動の引き金となるのは、多くの場合、成績低下を責められた時。狂言は、親に対して一番ショッキングな事は何かを見透かしている証拠と言える。」(中日新聞社 平成元年2月20日夕刊)

A子ちゃんに対しては、その年齢や早期解決だったこと、家族間のことなどから、おそらく不問に付されたと思われる。

福岡のスポーツ少女5人

平成2年1月15日、福岡県のとある小学校は騒然としていた。この日、体育館ではバレーボール部に所属する少女らが練習に励んでいたが、突然ヘルメット姿の男が現れ侵入してきたかと思うと逃げ惑う少女のうちの一人を捕まえ、ライトバンで拉致したというのだ。
少女らの話では、拉致した男が乗り込んだライトバンにはもう一人、男がいたという。
その後、少女らは勇敢にも逃げたライトバンを追い、体育館から2,5キロ離れたスーパーに車が止まっているのを発見。車内には誰もいなかったためスーパー店内へ入ると、拉致された仲間の少女・B子ちゃんを発見した。
B子ちゃんによると、駐車場に車が停まった時、ドアのロックを解除して男らの隙を見て脱出したのだという。
合流した5人は、スーパーにたまたま居合わせた同級生から10円を借りると、公衆電話からバレー部の監督に連絡した。

「先生、B子ちゃんが変な男の人にさらわれました。」

それを聞いた監督が110番通報。B子ちゃんが無事だとはいえ、犯人は捕まっておらず、かつ、小学校の体育館に侵入しての大胆な犯行に、福岡県警は警察官200人、パトカー50台を投入して逃げた男らの行方を追った。
同時に、B子ちゃんを含む少女5人から詳しく事情を聴いていた。その過程で、少女らは
「犯人の男は今月8日と13日にも体育館に来ていた。女子トイレをのぞいたり、私らの体を触ったりした」
という話をし、さらには犯人の顔や髪形などを細かく覚えていたという。
警察は不審者としてマークしている中に、その証言とよく似た中年男性がいることを重視、少女らに顔を見せて確認したところ、「このおじさんに間違いない」と少女らははっきり証言した。

が、結果から言うと、全部嘘だった。

取り調べを進めるうち、捜査員らは少女らの証言に矛盾があることに気づく。しかしそれを問うと、少女らは泣きながら「嘘じゃない!」と訴えたことから、警察でも対応に苦慮していたようだ。
しかし翌日になって、B子ちゃんが誘拐されたとされる時間帯、別の場所にいたことが判明。それを少女らに告げると、夕方になってその真相が明らかになった。

少女5人の動機は、「バレーの練習が嫌」というものだった。

このバレー部は地域で運営されているチームで、学校教育の一環ではなかったという。よって、監督も教師ではなく、地域でバレー指導の経験がある人や父兄らによって運営されていた。
所属する団体による試合は県大会規模の選手権などもあり、多くの地域でこのチームと同じように厳しい特訓が日々行われていたという。

少女たちは当時小学5年生。6年生が引退し、自分たちはレギュラーになったものの、その練習はあまりに過酷だったという。学校行事ではないため、当然休日は練習でつぶれ、家に帰っても親も熱中しているケースが多く、少女たちはとにかく疲労困憊の状態にあった。

そこで思いついたのが、事件が起これば練習がなくなるのではないか、というものだったのだ。
少女たちはそれまでにもなんとか練習を休めるように、ネットなどを隠したりもしたというが、監督も親も、練習を休むことは許さなかった。

県警は、本来ならば虚偽申告にあたるが内容が内容だけに少女らの気持ちもわかるとし、彼女らにここまでさせたのは父母や監督ら大人の責任として、両親や監督に出頭を求めて厳重注意を行ったという。

少女たちは、反省文を提出することで許された。

その後バレー部がどうなったかは、わからない。

兵庫の10歳男児の”かくれんぼ”

平成9年の夏休み。兵庫県在住の30歳の女性は、仕事の合間に、10歳になる息子と一緒に昼食を取ろうと自宅へ戻った。
息子とは二人暮らし。子供を育てるために必死で働きながら、一方で息子には寂しい思いをさせていると母親は感じていた。この日も、わずかな昼休みを息子と過ごそうと自宅へと急いだのだったが、家に戻ると居るはずの息子の姿がなかった。
息子の名を呼びながら家中探し回るも、返答がない。いよいよ母親が焦り始めたとき、6畳和室の天袋から何やら物音がした。
母親が天袋を開けると、そこには口と手足をガムテープで巻かれ転がされている息子の姿があった。驚いた母親はすぐに110番通報、息子は捜査員に対し、
「水色の上着を着たおじさんが入ってきて、手足にガムテープを巻かれた」
と話したことから、警察は捜査員40人を投入して捜査にあたった。

ところが、捜査員らはこの状況の不自然な点に気が付いていた。

通常、強盗だったらまず目隠しするものだという。しかし、男児は目隠しされていなかった。さらに、押し入れがあるにもかかわらず、10歳の男児を高い場所にある天袋に押し込むというのは合理的ではない、そういう意見が捜査員らからは出ていたという。

捜査員が改めて男児に話を聞くと、男児はぽつりとつぶやいた。

「お母さんは仕事ばっかり。脅かそうと思った」

男児はただただ、寂しかったのだという。これまでにも、わざと家の中に隠れて母親を驚かせたことがあったという。ただ今回はやりすぎてしまった。

母親はさぞやショックだったろう。仕事が忙しいのは、必死で働き、息子との生活を守るためだったのに、いつか大切なことを見失っていたのかもしれない。

西宮の親友二人

昭和61年8月28日午後6時半ころ、西宮市の会社員方に次女のC子ちゃん(当時10歳)から電話がかかってきた。
C子ちゃんは泣いていて、電話口のお姉ちゃん(当時15歳)にこう伝えた。

「今、知らないおっちゃんと友達のD子ちゃんとの3人で、阪神電車香園(現:香櫨園)駅におる。おっちゃんに、家に電話して家の人に1000万持ってくるよう言えと言われてる」

お姉ちゃんはすぐに大阪市内で仕事中の母に電話、母親が警察に通報した。

警察は署員200人、パトカー20台を出して捜索。電話があってから4時間経った午後10時ころ、西宮市柏堂バス停付近を歩いている二人を発見、無事保護した。

無事保護されて安堵した警察と両親だったが、C子ちゃんに確認しなければならないことがあった。
実はC子ちゃんには、これまでにも今回と似たような言動があったというのだ。そのため、当初から電話を鵜呑みにはせず、慎重な捜査を行っていたが、結果として今回もC子ちゃんの嘘だった。

二人はこの日、午前10時にそれぞれ家を出ると、市内の夙川(しゅくがわ)公園でバトントワリングの練習をしたという。そのうち、夕方になって、家に帰らなければならない時間を大幅に過ぎてしまったようだった。

これでは叱られると思った二人は、誘拐されたと言えば怒られないのではないかと考え、誘拐を装ったのだと話した。

調べに対してふたりとも泣きながら話していたというが、帰りが遅くなって怒られる、からの狂言、しかも電話で工作までするというのはいささか手が込み過ぎているような気もするが、直前には各務原市などをはじめ、誘拐事件が多発していた時期だったこともあり、テレビなどで見聞きして安直に思いついたのでは、と警察は判断した。

作家の小峰元氏が朝日新聞の取材に答えたものによれば、子どもといえどもテレビなどで強い刺激に慣れているため、親も少々のことでは驚かないと子供は思っているとし、大それた行動にエスカレートするのだという。
そのうえで、ばかげた行動だと決めつけるのではなく、きちんと向き合う必要性があると警告している。

長崎の父親

平成元年、長崎県大村市で専門学校に通う女性(当時20歳)が外出したまま家に戻らず、5日後に身代金400万円を要求する脅迫状が届いた。
長崎県警捜査一課と大村署は、脅迫状が届いた2日後に大村市内の民家にいた女性を発見、保護。ただ女性は非常に疲弊しており、精神的にも不安定な状態にあったという。
県警は女性が発見された住宅に暮らしている21歳の会社員の男性ら二人から事情を聴いていて、犯人逮捕は間近と思われた。

が、この男性二人が逮捕されることはなかった。

そもそも、警察が女性を発見できたのは、この家に暮らす人、すなわち事情を聞かれていた男性の親からの通報がきっかけだったのだ。しかもその通報内容は「誘拐された女性がうちにいる」とかいうものではなく、「うちの息子が身元不明で行くところがないと話している女性を保護して連れてきているが、ちょっと長く居すぎるから警察で引き取ってほしい」というものだったのだ。

女性を保護した後、当然ながら男性らは話を聞かれたが、男性らはドライブ中にナンパした女性であること、女性に話を聞くと行くところがないというから両親と暮らす家に連れて行って泊めたと一貫しており、さらには脅迫状については全く知らない様子だった。

警察は困惑。今一度、脅迫状を調べたところ気になる点が見つかった。
脅迫状が届いたとして通報してきたのは女性の父親。脅迫状は新聞の切り抜きを使ったもので、ちょっと古い手法でもあった。
さらに、娘が身代金目的の誘拐の被害者になっている可能性があるにもかかわらず、どこか父親には危機感が薄かった。
そして、その脅迫状に父親以外の指紋がなかったことで、もしや……と思った警察が父親に事情を聞いたところ、父親は誘拐事件ではないことを認めた。

父親の話からまとめると、長女は精神的に不安定な状態にあったようで、最近まで記憶喪失によって入院中だったのだという。
それが、退院してきた途端、家を出ていってしまった。捜したい父親だが、すでに成人している娘を警察が真剣に捜査してくれるかどうか信用できず、かといって放っていくわけにもいかず、事件にすれば警察が動くと目論んだ。
娘が自発的に家を出たことを知りながら自ら脅迫状を作成し、自宅宛てに速達で郵送し、届くのを待って警察に駆け込んだ、ということだった。

警察では複雑な事情があることや、娘を思うがあまりの行動に一定の理解は示したというものの、父親は軽犯罪法違反で書類送検となった。

大牟田の保母

平成2年11月18日、大牟田市の元教師の夫婦が暮らす家に、「郵便受けを見ろ」という電話がかかってきた。時刻は深夜、訝りながら郵便受けを見たところ、手紙が入っていた。

「娘を預かっている。明日中に5000万円を用意しろ。警察に知らせたら殺す」

テレビドラマでしか見たことがない、ベッタベタの身代金要求の脅迫状だった。
父親(当時61歳)はすぐに警察に通報、この家の21歳になる長女が買い物に行くと車で家を出たまま、この夜まだ帰宅していなかった。
警察は長女が成人であることから、念のため朝まで待つよう指示。朝になって連絡がなかったことで営利目的誘拐の可能性が高いとして捜査本部を設置した。

ところが19日の夕方6時ころ、福岡市内の喫茶店で一人食事をしている長女を発見。警察は長女を無事保護した。

大牟田の事件であるのに、福岡市内にいる長女をそれもピンポイントで見つけられたのはなぜか。
実は長女には交際相手がいた。その交際相手が、19日の午後3時ころに「長女から連絡がきた」と通報していたのだ。そしてその場所に、長女はいた。
調べに対し、長女は「知らない男性から声をかけられ車に乗せたら、ホテルに監禁された。隙を見て逃げ出した」と話していた。

ただ違和感があった。

事件は報道機関との協定で規制がかかっていた。19日の午前、長女の交際相手の男性に警察は接触、任意で事情を聴くなどしていたが、その数時間後に長女から電話があったと交際相手は通報してきた。
そして見つけた長女だったが、捜査員がその喫茶店に飛び込んだ際、どこかきょとんとしていたという。普通、拉致監禁されていて逃げ出せたならばまず、警察に通報するのではないか。それが出来なかったとして、腹が空いたからまずはご飯、となるものだろうか。

警察は長女と交際相手の双方から慎重に話を聞いたところ、交際相手が脅迫文を作成して郵便受けに投げ込んだと自供したため、この交際相手を恐喝未遂容疑で逮捕した。

逮捕されたのは大牟田市内の建設業手伝いの吉村次郎(仮名/当時23歳)。吉村は交際している長女に久留米市内のホテルに隠れているように指示もしていた。
吉村は、以前から交際していた長女が「親が厳しい」と愚痴を言っていたのを利用して金を奪おうと計画したと思われたが、予想外に話が大きくなったことで怖くなり、警察に事情を聞かれた後、自ら長女の居場所を通報していた。長女は何も知らず、言われるがままに行動していたかに思えたが、警察はこの長女自身にも不審な点があると見抜いていた。

長女は行方が分からなくなったその日、夕方に友達と会う約束をキャンセルする電話を入れていたのだ。さらに、身代金や脅迫状については知らないと話していたが、その後の調べでは「運よく金が手に入ったら使おうと思っていた」と話しており、吉村の計画に「乗った」と判断された。

長女は大牟田市内で保育士として勤務しており、両親が元教師ということもあって近所でも職場でも大変評判の良い女性だったという。皆、女性自身が犯行計画に加わっていたことを知っても、本人の気持ちを聞かなければ判断できないというほど、とにかく信じられなかった。

事件はその後、吉村が恐喝未遂で起訴されたが、長女については書類送検されたものの、直系血族などの間の財産犯の刑を免除する刑法二四四条の規定に基づき、送検されても不起訴になると予想され、事実そうなった。
吉村は重大な犯罪であると非難されたものの、社会的制裁をすでに受けているなど酌量されて執行猶予となった。

教師一家として地元でも評判の良かった家族。その名声はよりにもよって両親に不満を持っていた長女の狂言誘拐という犯罪によって崩れ去った。
事件の全容を見てみると、主犯であり、計画を立案したのは吉村だとされた。しかし、吉村がそれを思いついた経緯には、長女の日ごろの愚痴や悩んでいる様子があった。
長女は、自供した通りかねてより両親、特に父親の躾が厳しいことを不満に思っていたという。
実は長女は養女だったという。だからこそ、両親はその愛情を一心に注いだ。しつけの厳しさはすべて、愛情からのものだった。
しかし、それが長女に伝わらなかった。それはなぜか。

事件解決の夜、大牟田市内は雨だったという。その中、自宅を訪れた取材陣に対し、インターフォン越しに父親はこう答えた。

「私の心の中にも、雨が降っております。」

あのな、そんなんいらんやん?なんでこの期に及んで、そんな芝居じみたというか自分に酔っているような、そんな表現する必要ある?うまいこと言う必要ある?校長先生の式辞やないんやから……
こういうところではなかったのか。
長女にとって、父親は父親というより、教師、校長先生でしかなかったのではないか。

家族は再出発を誓ったという。

【有料部分 目次】
宇都宮の病院の娘
事件の経過
男の素性、少女の素性
男の動機
真実
一番大切なもの
あの事件の被害者の妹
狙われた妹
教団の影
語られたこと
進まぬ捜査
憎かった
ねぇ、聞いて

17歳~カノジョを殺した僕たち~

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交際相手を殺害するという事件は珍しくない。交際しているとは言っても、その実情は周囲からは分からないし、愛しているがゆえに、悲惨な結末を招いてしまうケースもある。

事件備忘録でも愛憎入り乱れる事件を多数取り上げているが、いい年こいた大人たちであっても我を見失ってしまうわけで、それが大人の階段をのぼり始めたばかりの少年少女であれば、些細なことがこの世の終わりに思えることもあるだろう。

最近でも、少年少女による交際相手への殺人(未遂含む)は平成29年の台東区の18歳の少年による交際相手殺人放火事件、平成26年の岡山で起きた年上の交際女性を殺害遺棄した17歳の少年の事件など、あまりに短絡的で幼い動機による事件が起きている。

ただ少年事件ということでその詳細はなかなか判明しづらい。
少年だからこそ、自分の思いを言語化できなかったり、少年だからこそのある種の一途な思いから真相がわかりにくくなっている可能性もあるだろう。

ただ事実としてあるのは、彼らは、カノジョを殺して捨てたということ。 続きを読む 17歳~カノジョを殺した僕たち~

🔓お前が殺した~鹿児島・知人女性強盗殺人事件~

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平成23年12月12日、最高裁第一小法廷は、女に対して上告棄却の決定を言い渡した。
女は一審で起訴事実を認め、事件を主導した男と共に死刑判決を言い渡されていたが、控訴審では一転、男に苛烈な精神的肉体的暴力を受け続けた影響下にあり、心神喪失状態かつ、男に手足のように利用されており共同正犯とは言えず、主犯の男に間接正犯が成立すると主張していた。

控訴審ではその激しい支配の実態がさらに明かされ女は無期懲役に減刑となったが、男が間接正犯であるとの主張は認められず、共同正犯の認定は揺るがなかった。
犯罪史上、稀に見る凶悪事件としてその悪名を残した北九州監禁殺人事件の判決である。

ここで言われた、間接正犯とは。

これは、犯罪の故意がない、または善悪の判断がつかない他人(事情を知らないもの、幼児、心神喪失者など)を道具のように利用して犯罪をやらせる意思が認められる場合に成立する、とされているが、殺人などの重大事件で実際に成立したケースは多くない。
また、教唆との違いはそのケースによって違うためにわかりにくい。

昭和60年、鹿児島県の山中で見つかった遺体。それは数か月前から行方が分からなくなっていた一人暮らしの老女だった。
遺体には争った形跡もなく、農薬の瓶が転がっていたことからも自殺に思われたが……

額に汗することを嫌い、私利私欲のために独り暮らしの女性を騙し、あげく、その命を絶たせた許されざる男の事件。
自殺教唆か、それとも、殺人か。

鹿児島地裁にて

「本件は起訴状記載の公訴事実を強盗殺人の間接正犯の主張を前提として論告し、また裁判所も同様の理解のもとで裁判を進行させている。
しかし、公訴事実を素直に読めば、これは強盗殺人の直接正犯の主張と理解することが自然である。そうであるならば、被告人はそれを否定し、証拠も被告人の自白以外にないのだから被告人は無罪である。
さらに、直接正犯たる強盗殺人の訴因を間接正犯として認定するには訴因変更されるべきところ、それもされていないのだからいずれの面から見ても被告人は無罪とされるべきである。」

鹿児島地方裁判所に、弁護人の最終弁論が響いていた。
被告の男は、強盗殺人、恐喝未遂、暴行の罪で起訴され、検察官より無期懲役の求刑がなされていた。

対する弁護側は、この事件を「自殺教唆」であると主張。
被告の男も、自殺しようとした被害者に対しそばにいて止めなかったこと、それまでの経過の中で「いっそ死んでくれたら」と思ったことから被害者に自殺を提案したことなどは認めていたが、直接的に被害者を殺害したということに関しては否認していた。
加えて、担当の検事から極刑を求刑する旨を伝えられたことで動転し、検事の心証を良くしたいがあまりに虚偽の供述をした、とも主張していた。

男はいったい何をしたのか。

親切な大工さん

昭和59年、鹿児島。
国分市(現:霧島市)の山間に暮らす瀬戸口キミさん(当時66歳)の家に、顔見知りの大工が訪ねてきた。
その大工は、以前から近隣の集落を回ってアルミサッシの取り付けなどの大工仕事の注文を取っていた。
5月のその日、訪ねてきた大工は世間話をした後で、キミさんに最近はなかなか大工仕事も思うように注文が取れず、少々生活が厳しくなっている、というようなことを話していた。
そしてその際、「おばさん、ちょっとばかり金を融通してもらうことは出来んか?」と言われたりもしたが、その時にはキミさんは笑って話をはぐらかしていた。

大工も執拗なことはなく、そのまま引き上げていった。

キミさんは夫を亡くし、この山間の集落でひとり暮らしていた。
生まれは福岡県の宗像だったが、夫と共にこの国分で暮らしてからは、兄弟らが暮らす福岡へ帰ることももう、長くしていなかった。
近所の人たちも良くしてくれる。同年代の人もいるし、最近ではゲートボールが楽しみで、試合に出ることも決まっていた。
ひとり暮らしていくだけの貯えもあった。贅沢しなければ、日々の暮らしに困ることはない。

ただ、日が暮れてひとり家で食事をすると、なんとなくこみ上げる侘しさは誤魔化せなかった。
そんな日々の中で、今日、大工が訪ねてきて他愛もないおしゃべりをしたことは、キミさんにとって新鮮だった。
キミさんは、後日用事を見つけてあの大工に電話をかけた。
そして、
「また遊びにいらっしゃい。」
と伝えた。

大工が再びキミさんの家を訪ねたのは、山の木々が色づき始めた秋のころだった。

ちょっとした大工仕事を頼むと、大工はそれ以外の頼み事にも気軽に応じてくれた。
買い物や用事を済ませるために町まで車で送迎してくれたり、何の用事がなくてもやってきてはキミさんの話し相手になってくれた。

年が明けた昭和60年2月、大工は以前にもまして、キミさんの家に遊びに来るようになっていた。そしてその際、手相が見れると言ってキミさんの手相を見てくれたという。
「おばさん、血圧が高くて悩んでいるんではないかい?」
突然、大工は神妙な顔で告げた。続けて、内臓に気になるところがあるのではないか、とも。
キミさんは驚いた。たしかに、大きな病気はしていなかったが、血圧が高いこと、そして胃腸神経痛にも悩んでいた。
さらに大工は続けた。
「おばさんの旦那さんが倒れたのは、このあたりだろう?」
そう言って大工が指さしたのは、まさに夫が倒れていた場所だった。

「おばさん、ほかに悩んどることがあるんでないかい?」

心配そうに顔を覗き込む大工のことを、キミさんはすっかり信用していた。
そして、知り合いに440万円貸しているのに返してもらえないことを大工に打ち明けた。
すると大工はしばし考え込んだ後で、「よし、私が取り立ててみよう」と言うではないか。キミさんは半ば諦めていたこともあって、大工の言葉は心強いことこの上なかった。

3月に入って、約束通り大工はキミさんが金を貸した相手方へキミさんを伴って訪問、その場で借金の一部の20万円を返済させ、かつ、残金も今後月額10万円ずつを必ず返済する約束まで取り付けてくれた。
キミさんは心から感謝し、大工に対して全幅の信頼を寄せるようになっていた。

ただ、大工がいつものように手相占いをしてくれた際の言葉が気になっていた。

「おばさんは年内にちょっと体調が悪くなる時期が来る。倒れるかもしれない。」

キミさんは当時66歳。いつ、そういうことが起きたとしても不思議ではない年齢でもあった。しかも、夫も突然家で倒れてこの世を去っているのだ。
その時、どうやってお金の支払いをすればよいのか……
親戚はいたが、そこまで頼めるかどうかはわからないし、ましてやお金のことまで近所の人には申し訳なくて頼めない。

気にするキミさんに、大工はこういった。

「なあに、裁判所で代理人を選任しておけば、いつでも銀行から金を下ろせるから安心しなさい。」

キミさんはそれを聞いて胸をなでおろした。本当にこんな親切な人に出会えて私は運がよかった。こんなばあさんのために、ここまで親身になってくれる人はそうはいない。
そういえば、最近3人目の赤ちゃんが生まれたと言っていた。なのに大工仕事を頼む人が最近は減ったとかで、出産費用にも事欠いていると嘆いていた。自分も大変なのに、こんなに他人の私のために骨を折ってくれる……
今度は私がこの人を助けてあげないと。

キミさんはその日のうちに、大工に頼まれて100万円を貸した。

その3か月後、キミさんは行方をくらました。

【有料部分 目次】

絶望
教唆か、殺人か
それまで
投資
行き詰った男のひらめき
出資法違反
逃避行
あとのことは頼みます。
綻び
矛盾
訴因の解釈
お前が殺した

狂言~いくつかの事件と愚かなる人々~

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狂言--

Wikipediaを見ても和泉元彌さん的な何かしか説明がないが、簡単に言うと自分で計画し実行しておきながら、自分は偶然巻き込まれた、他人がやったかのように見せかける行為のことを指す。
似たようなものに自作自演があるが、これは本来、自分で作ったものを自分が演じることを意味していて決して悪い意味ではないのだが、「ジエン」というともう、他人を装って自分を褒める、擁護する、自分の利益になるような言動をする、そんなようなニュアンスで通っている。

日常においても、異常なまでの噓つきというのはいるし、次第にその嘘はバレ、人が離れていくケースはよくある話だ。
しかしこの狂言は、単なる「嘘つき」な人が起こすものとは違う。
嘘をでっちあげなければならない理由が、彼らにはあった。

バカじゃないかで済むレベルから、シャレにならないレベルまで。 続きを読む 狂言~いくつかの事件と愚かなる人々~