5歳の目撃者〜〜座間市・三歳児暴行死事件〜

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救急車にて

「ごめんね、ごめんね

救急車の狭い車内で、母親と思しき女性は意識のない子供の手を握りしめ、涙を目にためながらそう呟いた。
大学病院に搬送されたのは、まだオムツも取れていない小さな男の子。意識はなく、かなり危険な状態だった。

男児はその後搬送先の病院で救命及ばず、短い一生を終えた。

横浜地方裁判所

平成17年3月1日、横浜地方裁判所は、当時3歳の内縁の夫の連れ子に暴力をふるい死なせたとして、辻岡裕美(仮名/当時28歳)に対し、懲役4年6月の判決を言い渡した。

罪状は、傷害致死。
裕美はこの裁判で一貫して無罪を主張していた。事実、裕美が逮捕されたのは事件が起きた約1年後であり、判決が出たのはさらにその2年半後で、未決拘留日数は800日に及んでいた。

しかし裁判の結果は、有罪。

男児の死は事故か、それともそこに誰かの悪意があったのか。

有罪の決め手は、小さな目撃者の存在だった。 続きを読む 5歳の目撃者〜〜座間市・三歳児暴行死事件〜

執着する親たち~施設収容申立および親権喪失申立事件~

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虐待大国ニッポン。

大変不名誉な表現であるが、世界のいわゆる先進国と呼ばれる中で、日本ほど子供への虐待に生ぬるい国は珍しいのではないか。
どんなに車内放置はダメだといっても毎年のように子供が蒸し焼きにされる。もはや風物詩なのかと、わざとなのかと言いたくなるほどだ。これほど「車内放置は死ぬ」と言われていてもやるのは、もはや故意である。

欧米、特にアメリカでは州によって違いはあるものの、虐待通報として受理された場合は24時間から72時間以内にケースワーカーがその子供に直接会いに行くという。
受理されたものは虐待があったかなかったを調べ、結論も出す。玄関で怒鳴り散らされておめおめと引き下がることはない。

毎年のように信じられないような痛ましい虐待事件が起き、その何割かは子供が命を落としている。
にもかかわらず、何回も何回も、同じことが繰り返されるのはなぜか。前兆はなかったのか。

ここでは虐待事件として監護者が逮捕されたか否かにかかわらず、児童相談所が子供の身を守るために監護者から引き離すために行う「施設収容申立」と、親権を持つ親からその権利を奪う「親権喪失申立」について実際のケースを紹介したい。 続きを読む 執着する親たち~施設収容申立および親権喪失申立事件~

午前4時の熱湯シャワー〜八王子・6歳養女せっかん死事件〜

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笑顔のお誕生日会

平成769日。
八王子市中野上町の小さな二階建てアパートの一室には、子供たちの歓声が響いていた。
大きなバースデーケーキと、甘いお菓子。飲み物もたくさんあった。
7歳の男の子と、6歳の女の子。二人は兄妹で、お誕生日が近かったことからこの日二人分のお誕生パーティーを両親が開いてくれたのだ。

笑顔の兄妹を、両親は目を細めて何枚もカメラに収めた。

ただ、その笑顔はところどころ、青や黒いアザに覆われている。

そしてこの2週間後、妹は死亡した。

顔と右半身の皮膚を真っ赤に爛れさせ、想像を絶する苦しみの中もがき続け、誰にも助けられることなく短い一生を終えた。

幼い女の子が最後に見たのは、母親の再婚相手の姿だった。 続きを読む 午前4時の熱湯シャワー〜八王子・6歳養女せっかん死事件〜

🔒鬼の棲む家~泉崎村・虐待死事件

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入学式にて

平成18年4月。福島県泉崎村の小学校では入学式が執り行われていた。
両親の手を引かれ、緊張した面持ちながらどこか晴れ晴れとした顔で校門をくぐる子供たち。
そんな中、教師や保護者は新入生の一人である児童の姿にくぎ付けとなった。

その新入生は、異様だった。

身長は他の児童が110センチから120センチであるのに対し、約80センチと、とても7歳になる子供とは思えなかったのだ。
身長だけではない、体重も10キロあるかないかで極度に痩せ細り、足はまるで「棒切れ」のようだった。さらに、ランドセルを背負うとそのままひっくり返ってしまった。

「……病気なのかな」

一部の保護者の間では心配する声もあったが、特に介助をする保護者の姿もそばになかった。

入学式から3か月後、その痩せ細った児童の両親は保護責任者遺棄「致死」の容疑で逮捕された。

しかし、死亡したのはこの痩せ細った新入生ではなかった。

捜査員が絶句した現状

平成18年7月28日、3歳になる三男に適切な養育をせず、衰弱死させた疑いで福島県泉崎村の夫婦が逮捕された。
逮捕されたのは無職の白髭功(当時40歳)と、その妻で同じく無職の和歌子(当時33歳)。

調べによると白髭夫婦は、平成18年5月28日ころ、三男・広(ひろむ)ちゃん(当時3歳)の具合が悪くなったことで病院に担ぎ込んだが、広ちゃんは死亡。状況から病院が警察へ通報したことで事件が発覚した。

しかし、広ちゃんの遺体は捜査員らが憤りを隠せないほどの凄惨な状態だった。
体重は平均の半分の約7,9キロ、これは生後半年程度の乳児の平均体重で、全身に暴行を受けた痕があった。
広ちゃんの手足に筋肉はほとんどなく、ずいぶん前から寝たきり状態にあったことも分かった。そして、死亡直前に食べさせられたとみられる「バナナ」のかけらが喉をふさいでいた。

広ちゃんは、反射運動すらできないほどに衰弱させられていたのだ。

広ちゃんが死亡した直後、連絡を受けた警察が自宅を訪問したところ、家の中には極度に痩せ細ったあの児童がいた。しかも、そのほかに姉と思われる女児の姿もあった。
女児もその発育が一目で極端に遅れていることが分かるほどの状態で、女児の腕には刃物で切り付けられた傷まであった。
警察はすぐさま二人を児童相談所へ連れて行き、そのまま姉弟は保護となった。

出迎えた村の女性職員が思わず子供たちを抱きしめると、きょとんとした顔をして、
「なんでそんなに優しいの?」
と聞いてきたという。

「どんなことがあっても親の責任を追及する。」

捜査員の一人は戦慄いてそうつぶやいた。
この家には3人の子がいて、広ちゃんは死亡、上の兄と姉は保護されたが、この夫婦の子供はあと2人いた。
長女は生後3か月で乳児突然死症候群で死亡していたが、長男は健在だった。が、ここにはその姿はなかった。

平成14年に功と和歌子は長男の親権を失っていたのだ。

【有料部分 目次】

長男への虐待
「難しい家族」
功と和歌子
地獄の日々
裁判
小さな地域社会の限界
親子という幻想

🔓フェミサイド〜藤沢市・女性タクシー運転手強盗殺人事件〜

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拘置所にて

「鑑定を受けようと思ったのはなぜ?」

目の前の男は、自ら精神鑑定を申し出ており、医師は数ヶ月に及ぶ鑑定を担当していた。

「……人を殺めちゃうことを繰り返し思い浮かべるんです。」

男はそう言うと、縋るような、こちらの反応を窺うような顔をする。

「治したいの?」

医師の問いに、男はこう答えた。

「治していただくか、殺してもらうしかない」

男は殺人願望があることをしきりに訴えたが、同時に自分自身がそれに怯えているようにも思えた。

男はその言葉通り、この会話から数年後、見ず知らずの人を殺害した。

事件

平成14年8月31日。神奈川県藤沢市獺郷(おそごう)の路地に、女性の悲鳴が響き渡った。
時間は午前1時50分、その声に気づいたのは近くで養豚場を経営する家族だった。

「早くきて、タクシーの運転手さんが助けを求めている」

通報者の女性によれば、女性の悲鳴で外を見ると、路上にタクシーが止まっており、その後そのタクシーは走り去ったという。
通報者らが懐中電灯を持って外に出た時、路上をふらつきながらこちらに歩いてくる人影が見えた。そして、そのままベシャッという音を立てて崩れ落ちた。

救急車が10分後に到着したが、被害者はその場で死亡が確認された。

死亡したのは、横浜市保土ヶ谷区のタクシー運転手、川島りつ子さん(当時50歳)。
タクシー会社によれば、その時タクシーに搭載されている緊急ボタンが押されていたという。

この頃、各地でタクシー強盗が頻発しており、この事件も当初はその類だと思われた。運転手が女性だったのも、女性であれば奪いやすいと思ってのこと、という見方があり、各新聞社等の報道も、女性タクシー運転手の危険性や各タクシー会社の防犯対策などを掲載するにとどまり、実際にこの事件の報道もわずか数日で終わった。

というのも、事件発生から30分後、犯人を名乗る男が「俺がやった」と110番通報してきていたのだ。
奪ったタクシーで茅ヶ崎市内のコンビニまで来ていると告げた男の言葉通り、警察官らが急行するとそのコンビニは川島さんが乗っていたタクシーと、男の姿があった。
助手席には川島さんを殺害した凶器と思われる刃渡り7、5センチの切り出しナイフ。川島さんは頸部や背中など26箇所もの刺し傷、切り傷を負っていた。

警察の声掛けに男は応じ、抵抗することもなくその場で逮捕された。

男は石田勇一(当時45歳)。
8月21日に、横浜刑務所を満期出所したばかりだった。

石田は取調べに対し、「女性を殺したいという願望があった。あの後別の女性運転手のタクシーも襲うつもりだった」と話していた。

女性を殺したい、石田ははっきりとそう言ったが、実は石田が女性に殺意を抱いていたのはこの事件を起こすずっと以前からだったのだ。

【有料部分 目次】
出所直前
殺したい殺したい殺したい
予感
殺したいのは女
暴力と共に生きて
憎しみの象徴
間欠性爆発性障害
この世の女なんて、すべて死んでしまえばいい
冷めやらぬ殺人の衝動