Evil and Flowers~新居浜・両親殺害事件④~

Aさん

検察側は、元妻の証言に続いて不倫相手であったAさんの証言も読み上げた。
不倫を咎められたとはいえ、それは親子間の問題であり、夫婦間の問題ならばいざ知らずなぜ不倫相手の証言がここで証拠として提出されるんだろうと、最初は疑問だった。

Aさんと剛志の出会いは、先述の通り会社での飲み会の席だった。
意気投合した二人だったが、実際に不倫関係になったのは出会いから半年ほど先で、その時点でも「正式な交際」には至っていなかった。
Aさんは剛志にとって、数少ない「愚痴を吐き出せる相手」で、離婚話や両親との関係もことあるごとに話していた。元妻の実家を出て家に戻ることになった際は、Aさんから見れば剛志は安堵しているようにも見えたという。 続きを読む Evil and Flowers~新居浜・両親殺害事件④~

Evil and Flowers~新居浜・両親殺害事件⑤~

見過ごされた境界知能

有家医師は剛志の知能指数(IQ)について、73という指数であると鑑定した。
専門医が行う鑑定であるから信頼性は高いに間違いはないが、問題はこの73という数字だった。
知能指数は平均値が100で、85以上の人が知能的に問題のない範囲とされる。
一方、69以下の人は、その数値に応じて軽から重度の知的障害と判定され、その度合いによっては福祉手帳などを持つことが出来る。
50~69の場合は軽度(精神年齢は小学校高学年から中学生程度)、35~49の場合は中度(精神年齢は5歳から8歳程度)、20~34の場合が重度(精神年齢は3歳以上5歳未満)、そして19以下の場合は最重度として精神年齢は3歳以下とされる。 続きを読む Evil and Flowers~新居浜・両親殺害事件⑤~

Evil and Flowers~新居浜・両親殺害事件⑥~

突きつけられた包丁

12月23日。Aさんとの交際は、両親にバレないように朝と晩に連絡を取る、それ以外は連絡しないといった決め事をするなどして密やかに続いていた。
しかし、剛志がした「バレないように」する手段はいささかお粗末だったようだ。
ことあるごとに剛志の携帯チェックをしていた洋子さんは、剛志の通話履歴などからAさんと連絡を取っていることに気付いていた。

(弁護人/以下同:23日に何があったの?)
「Aさんとの関係性を色々聞かれて・・・でー・・・、母の方からまだ続いとんやったら、私ら殺してバラバラにして出ていけ、と言われましたね」

(何時ごろ?)
「実家のリビングで、夜。」

(Aさんの話?離婚の話?)
「主にAさん」

(どこに出て行くなら、と?)
「具体的にはAさんのとこやと・・・・」

(洋子さんの様子は?)
「酒飲んどるけん・・・怒り方は普段以上、だったと・・・。Aさんの話になったときにもちろん怒っとんじゃけど、まぁ、それ以上に・・・」

(言葉だけだった?)
「実際に包丁突き付けられました」

(その包丁は今日ここにある?)
「シルバータイプのやつですかね」

検察官は証拠として提出していた、両親を刺した3本の包丁のうちの1本を見せた。

(その包丁はどうした?)
「父親が止めに入って、流しへ…」

(勝浩さんとはケンカしなかった?)
「掴み合いにはなりました。その後(洋子さんに)包丁突き付けられて…。Aさんに電話するって言いだして、自分がそれ止めて、止めたところで掴みかかってきて…。
形的には殴られて、殴り返した。」

(その夜はその後どうだった?)
「眠れなかった。やっぱり包丁突き付けられたのは初めてやったんで…。むこう(両親の怒り)は収まったんやろうけど、自分では収まり切れてなかった。」

(24日、事故を起こしたよね。なんか言われましたか。)
「23日と同じ事なんすけど、また母から包丁突き付けられました。全く前日と同じ。Aとそんなに一緒におりたいなら、私ら殺してバラバラにしていかんかい!と言われて…」
(お父さんは?)
「おったけど、一方的に母親が話しよったっすね。事故を起こした分も含めて謝った。」
(事故以外に何を謝ったの?)
「やっぱりAさんのこととか・・・その場しのぎで・・・」

私は酒をほとんど飲まないので、この、人と大事な話をするときに酒を飲む人間が好きではない。酒の力を借りなければ言えないようなことなら、それは黙っておいた方が良い。
洋子さんの飲酒は日常的であったのは間違いない。剛志はこのとき以外にも、洋子さんに何か言われたり、されたことを説明するとき、必ず、
「酒飲んどったけん」とか、「酔うとったけんやと思うんスけど」
と言っていた。幼いころから、見慣れたいつもの光景だったのだろう。

しかしこの抜き差しならない親子の衝突があった日から事件当日まで、高平家は「不気味なほど平和」な日々が続いたという。

つかの間の平穏

クリスマスの日には、別居中の妻子にクリスマスプレゼントを渡すため、妻に会った。
この時妻は、剛志の様子がおかしいことに気付いていた。離婚の話を持ち出すと、「それどころやない。はよ帰れや」
とイラついた様子を見せたことで、妻はピンと来たという。
あぁ、また何か悩み事を抱えているな。そう思った妻がそれとなく聞き出すと、職場での悩みや、無断欠勤をしたことで会社の信用を無くした、それを取り戻したいがうまくいかない、などと剛志は話した。
24日に起こした事故のことも悩んでいたようだった。
こんな状態では離婚の話は出来ないと思った妻は、離婚のことはいいから考えすぎるなと励ましたという。
若いのによく出来た妻だ、と思う一方で、ならさっさと離婚届に判ついたれよとも思うが、この時妻はAさんのことを知らなかった可能性もある。証言でも、Aさんとの不倫について妻は一切話していないからだ。
その間に、勝浩さんから剛志に電話がかかっていたが、その時の様子はごく普通に見えたという。

剛志も、離婚の理由を妻にしつこく聞かれた際、「いい加減、わかれや」と言ったというが、もしかしたら「他に好きな女がいる」ということを匂わしたつもりだったのかもしれない。
それ以前にも、妻と同居していた際に寝ている剛志の携帯の画面に、女性とのチャットの記録があるのを妻が発見し問い質していた。
その際に剛志が言ったのは、「嫌われるためにわざとやった」ということだった。
うまく気持ちを伝えられなかったせいか、自分に非がある形でもいいから別れたいと思っていたのか。

結局ふたりはこの日を最後に、会うことはなかった。

1月6日、妻の電話に洋子さんからの着信があった。出られなかったため、剛志にその旨伝えると、「ほっとけ」と言われた。
翌7日には、公正証書について剛志の方からショートメールが届いたという。
そして事件当日、先にも述べたとおり、今日会えないか、といった連絡がきたのが、剛志からの最後の連絡だった。

一方、Aさんには洋子さんからの電話が続いていた。包丁を持ち出した翌日のクリスマスの日には、電話にこそ出られなかったものの、洋子さんからの着信を見たAさんは激怒。
「どうしてまた母親から電話が来るのか」
と剛志に詰め寄ったという。Aさんからしてみれば、ちゃんと離婚するまで付き合えないと言っても別れてくれず、じゃあせめて親にバレないように振舞って、といってもそれも出来ない剛志が理解できない部分もあった。
26日の午前、再び洋子さんからの電話。出なければ一生かかってくると思ったAさんは、仕方なく応対した。
「まだ隠れて会ってるんですか?もう、会社に言いますから。覚悟しといてくださいね」
口調こそ穏やかだったが、洋子さんの言葉は鋭い刃物のようにAさんに突き刺さる。
耐えかねたAさんは、剛志に強い態度で迷惑であることを告げた。

すると、28日にまた洋子さんから電話があった。うんざりしながら電話に出てみると、なんと洋子さんが謝罪したという。
面食らうAさんをよそに、洋子さんはAさんに先日の非礼を詫びた。
状況がつかめなかったAさんだったが、その後剛志から、「親にうまいこと説明した」といった説明を受けた。
おそらく、だが、完全に別れた、Aさんとはもう関係ない、と言った嘘をついたのだと思われる。
それまで煮え切らなかった剛志がはっきりそう言ったことで、洋子さんも信じたのだろう。そして、そんな事とも知らずに失礼な事を言ってしまったと、Aさんに謝罪したのだと思われた。

ともあれ、この日以降、剛志とAさんは30日にデートをし、おそろいのニット帽にブレスレットを買い、キスの写真を携帯で撮影した。年明けにも2度、会うことが出来た。
剛志は既婚者ではあったが、事実上その結婚生活が破綻していたのはおそらく妻も理解していたし、離婚に向けての話し合いも牛の歩みのように遅かったにせよ、進んではいた。
とはいえ不倫状態であることは間違いなく、その点はどう申し開きをしても剛志とAさんに同情できるものではない。分別のある大人であれば、Aさんも剛志を受け入れてはいけなかったし、剛志もAさんに甘えてはいけなかった。

その点について、裁判でも検察官はことあるごとに強調していた。
「両親が叱責するのは、子を持つ親として当たり前のことであり、不倫をやめさせようとしたことに落ち度などない。」
その通りだ。どこの親でも不倫している我が子を応援するはずがないし、時にはそれを受け入れる相手に対する理不尽な怒りも沸くことはあるだろう。
しかし、高平夫妻の指導は不倫を戒めるというレベルとしては、やりすぎ感と同時に何と戦っているのかわからない感が否めなかった。
これがたとえば妻のことを大変にかわいがっていて、妻も離婚したくないと泣きついている、孫もかわいい、とにかく離婚を回避するために、かわいそうな嫁と孫のために、というならばまだわからなくはない。慰謝料、という言葉も理解できる。
だが実際には、高平夫妻は妻をそもそも認めておらず、孫に関してもほとんど交流がなかった状態であった。
剛志の不倫が発覚するより以前から、妻に対して記入済みの離婚届を届けるなど率先して離婚を進めようとしたのも高平夫妻である。
そうであるならば、剛志がたとえ不倫状態であったとしても新しい交際相手が出来ることがこの両親にとってそこまで気に入らないことだとはどうにも思えないのだ。

裁判でも、高平夫妻が「不倫だから」咎めていた、ということではなく、とにかく親の意にそわない剛志の行動が気に入らない、どこかそんな風に思えてならなかった。
ただ洋子さんは確かに激高することもあったが、自分の思うとおりに事が進むと一転、相手に自身の非を認められる一面も持っていた。
あるいは、剛志が「服従」したことで、Aさんへの憎しみが消えうせただけだったのか。

穏やかで幸せな年末年始を過ごした二人だったが、お察しの通り、剛志はその時の写真を洋子さんに見つかってしまう。その写真にあるおそろいのニット帽がいつから家にあるのか、洋子さんはしっかり把握していた。
別れたと聞いたその日以降、二人が会っていたというゆるぎない証拠だった。

地獄の釜のふたが今、閉まろうとしていた。

Evil and Flowers ~新居浜・両親殺害事件⑦~

暴走する「おやごころ」

1月9日は、剛志の休みの日にあたっていて朝から自室で過ごしていた。
先にも述べたとおり、Aさんとの交際は極秘であったため、会うこともままならなかった中でその日は電話で話した後、LINEでやり取りしていたという。

「一緒にいたい。」

Aさんも同じ気持ちではあったが、やはり離婚成立が第一であり、以前約束した2月のAさんのお誕生日までに決着をつけるという約束に話が及んだ。
裁判で読み上げられたAさんの供述調書によれば、Aさんが冷静に話そうとすればするほど、剛志からの返信は熱を帯びていったという。 続きを読む Evil and Flowers ~新居浜・両親殺害事件⑦~

Evil abd Flowers~新居浜・両親殺害事件⑧~

凶行

野菜ジュースを飲んでふと、流しにあった包丁を手に取った剛志は、そのまま左手に包丁を持ち、再び二階の自室へと向かった。
剛志の自室には両親が向かい合うような形でおり、階段を上がってドアに向かって左側に、勝浩さんが立っていたという。
勝浩さんはドアの方を向いておらず、右半身をドア側にする形で立っていた。

剛志はドアを開けると、数秒間、立ち止まる。

「ドア開けて部屋ン中入って・・・入っていきました。父が目の前におったけん・・・。その・・・。手に持っていた包丁で刺しました。」 続きを読む Evil abd Flowers~新居浜・両親殺害事件⑧~