その涙に虹がかかるまで~名護市女子中学生暴行殺害事件~

1997年正月

「美香じゃない、美香じゃない。絶対に人違いだ」

この日、沖縄県名護市に住む伊地茂さん(当時42歳)は、山奥へと車で揺られながらずっとそう考えていた。
茂さんは、昨年の6月21日から一日も休むことなく、突如行方が分からなくなった中学3年生の娘・美香さん(当時15歳)を探し続けてきた。
美香さんは家出などではなかった。行方不明になった日、自宅まであと600メートルというサトウキビ畑で、白いワンボックスカーに連れ込まれるのを目撃されていた。
それから半年。
茂さんは美香さんは生きていると信じて、沖縄中の路地という路地まで捜し尽くしていた。

現場には、美香さんがつけていたカエルのキーホルダー付きのリュックが遺されており、状況的に間違えようもなかったが、それでも父は、信じたくなかった。

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22歳元自衛官が見誤った故郷の誇り~宮崎家族3人殺害事件①~

2010年3月1日

午前5時。
寝静まった家族の傍らで、男は一人、ほんの数日前に思いついた自分のこれからの行動について思いめぐらせていた。
「この人から離れたい」
自分がひとりになるためには、もはや物理的に離れるだけでは無理だと考えていた。
この人をこの世から消してしまわなければ、自分は逃れることが出来ないのではないか。
しかし、男には他にも家族がいた。「この人」の娘でもある妻、そして生まれたばかりの「妻の子でもある」長男。
男は「この人」と「娘である妻」と「妻の子でもある長男」は一つの存在に思えていた。

長男の柔らかい首に手をかけ、力を込める。そして、水を張った浴槽に沈めた。扉を閉めたその背後から、バシャバシャと水音が聞こえた。
男はそのまま、妻と「この人」がいる寝室へと消えた。

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22歳元自衛官が見誤った故郷の誇り~宮崎家族3人殺害事件②~

貴子さんとくみ子さんの過ち

貴子さんについて、裁判の過程で次々とその気の強さから出てしまった奥本への暴言、叱責、暴力が浮かび上がった。
先にも触れたが、経済的に余裕がなかった奥本に対し、折に触れまるで出来損ないであるかのような言葉を投げかけた。
「雄登の抱き方がなってない」「若いんだから寝てばかりいるな!」
また、その叱責の仕方も「大声で」繰り返されたといい、肉体労働を経て帰宅した奥本にとっては心身休まることは難しかったであろう。

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差別と自死で煙に巻かれた本筋~奈良・月ヶ瀬女子中学生殺害事件~

平成9年5月4日。
月ヶ瀬村の嵩集落にある自宅へと続く鬱蒼とした道路を、少女はひとり歩いていた。ついさきほど別れた友人の姿は、もう見えなくなっている。
自宅まではここから坂道を登っておよそ500m。鬱蒼とした村道ではあるが、幼いころから知っている慣れた道である。
顔見知りの商店のおばさんの車とすれ違う。この道を通るのはほとんど顔見知りの村の人ばかりだ。

背後から来た車が不意に停車し、運転手が声をかけてきた。
「乗っていくかい?」
充代さんは、顔を上げた…

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差別と自死で煙に巻かれた本筋~奈良・月ヶ瀬女子中学生殺害事件②~

高野嘉雄弁護士の存在

それに着目したのが、奈良弁護士会の高野嘉雄弁護士である。
殺人事件、少年犯罪などの刑事事件で弁護を重ね、裁判では情状面を非常に重視する弁護士としても知られる。
「弁護人は(被告にとって)最後の情状証人」であるとし、たとえどんな犯罪を犯した人間であっても、自身の感性を研ぎ澄ませ、全力でぶつかり弁護していくという、弁護士からも尊敬される大変優秀な弁護士である。
甲山事件、奈良の小一女児殺害事件などの有名な刑事事件を手掛けたほか、無銭飲食、窃盗などの比較的軽微な事件でもその精神は同じであった。
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