孤独な妄想男と叩かれまくった被害者~島根・父子殺傷事件①~

平成17年7月28日

夏の日差しが降り注いでいたこの日、その家に暮らす少年は父親にキャッチボールの練習をせがんだ。
消防士の父はこの日も出勤予定だったが、10歳になる息子とともに自宅前の道路に出た。
自宅前はT字路になっており、車の往来はそのT字路の奥にある2軒以外にはほとんどなかった。早朝ということもあり、父子はその道路でキャッチボールを始めた。

キャッチボールを始めてしばらくすると、奥の家から車が出てくるのが見えた。
ゆっくりと進んできたその車は、背を向けていた長男の背後3mほどまで近づいた時、突然スピードを上げ、そのまま長男を背後から撥ねた。
驚いた父親が駆け寄ると、車から運転していた中年の男が下りてきた。そして、父親に持っていた包丁を振り下ろしたのだ。

続きを読む 孤独な妄想男と叩かれまくった被害者~島根・父子殺傷事件①~

孤独な妄想男と叩かれまくった被害者~島根・父子殺傷事件②~

被害者叩き

事件直後の新聞各紙を見てみると、同じような見出しが躍っていた。
「長男はね父親刺殺 近所の男逮捕 飼い犬でトラブル?」読売新聞
「男児はね、父親刺殺 容疑で男逮捕、ペットのトラブル原因か」毎日新聞
「長男はね父親を刺殺 近所の男逮捕「飼い犬うるさい」」四国新聞
これ以外にも、全国紙の紙面には飼い犬をめぐる騒音トラブルがあったかのような記事が掲載され、この事件がご近所のマナーをめぐって起きた事件であるかのような印象がもたらされた。

中にはご丁寧に、石川家が飼っていたのは大型犬で、家の前を通るとしょっちゅう吠えていた、などといった「近隣住民」の声も掲載された。 続きを読む 孤独な妄想男と叩かれまくった被害者~島根・父子殺傷事件②~

まばゆすぎた隣の芝生~浦和市・社宅乳児殺害事件①~




平成12年8月19日午前11時15分

「あら、この傷どうしたのかしら……

母親は、生後半年の娘の手と足に、爪痕と痣があることに気が付いた。
酷くはなかったが、今朝着替えをさせた際にこんな傷あとは気づかなかった、というよりも、なかった。
「爪が伸びてたのかな、何か気付かなかった?」
母親は、たまたま遊びに来ていた同じ社宅に住むママ友に何気なく訊ねた。
「このくらいのときは、よくあることよ」
ママ友は事も無げにそう言って笑った。
そうよね、気にしすぎね。母親は腕の中の娘に微笑んだ。 続きを読む まばゆすぎた隣の芝生~浦和市・社宅乳児殺害事件①~

隣人訴訟ともう一つの結末~三重・幼児水死事故①~




昭和52年5月8日

「じゃあ、よろしく頼むわね」

三重県鈴鹿市のとある新興住宅地で、そこに暮らす家族がそういって隣人に声をかけた。
「子どもたちが二人で遊んでいるから、大丈夫でしょう」
その隣人も、それに応じた。

なにげない、いつもの風景。
新興住宅地内の生活道路で、子供たちは自転車を乗り回して遊んでいた。夫婦で家中の掃除に精を出しながら、時折子供らの声がする方を確認しながら、時間は過ぎていった。

20分ほどしたころ、隣人の子どもが一人で戻り、こう告げた。
「お母さん、あの子が池から戻ってこないよ」

続きを読む 隣人訴訟ともう一つの結末~三重・幼児水死事故①~

隣人訴訟ともう一つの結末~三重・幼児水死事故②~




バッシング

判決が出たのち、新聞各社は大きく報道した。
しかし、ほとんどの見出しは、賠償命令を受けた工藤さん夫婦に同情的なものだった。

例えば、地元の中日新聞では「『近所の善意』に厳しい判決」とし、全国紙も「隣人の好意につらい裁き」「近所付き合いに『冷や水』」といったものに加え、工藤さん夫婦に賠償命令が下ったことを重点的に報道した。
それ以外にも、「善意とはなにか」や、「子どもはもう預かれない」といった、どこかこう記者の感情が大きく影響しているような記事が躍った。 続きを読む 隣人訴訟ともう一つの結末~三重・幼児水死事故②~