ずるいヤツら~新生児殺しを誘発する人々①~




まえがき

妊娠は、本来誰からも祝福されるものだ。新しい命が宿り、十月十日を一緒に過ごし、ともに親子へと成長するその過程は、母親となる女性にとっても素晴らしいことである「はず」。

しかしその妊娠が、自分の人生をより困難に、時にはぶち壊す存在にしか思えなかったとしたら。
その存在が、自分や今いる家族のなかでまったくの「不要」なのだとしたら。

虐待とは少し違う、最初から要らなかった、生まれてもらっては困る命をその手で葬る母親がいる。当然彼女らは責められ、社会的、法的に責任を取らされ、世間からは鬼母、異常者、馬鹿者と罵られる羽目になる。
ただそれまでの過程を見てみれば、母親が一貫して「いらない」と思っていたというわけでもないケースが多々見受けられる。むしろ、そう思えなかったが故の、というものもある。それはひとえに、新生児殺しが母親「以外」の要因があってこそ、起こるものであるからだ。

自身の命を懸けて出産したわが子を手にかけざるを得なかった母親たちの陰で、神妙な表情をしながら目を泳がせている人々の存在に焦点を当ててみたい。

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「うじ虫」と呼ばれた妻が遂げられなかった本懐~伊丹市・夫殺害未遂事件~




平成13年8月15日

「うじ虫。出ていけばええやん。」

夫の暴言は今に始まったことではなかった。これまでに何度、どれほどの暴言を吐かれてきたか。
いつものように、言い返すこともできた。いつものように、とりあえず外へ逃げて気分を落ち着かせることもできた。

けれどこの日、妻は逃げなかった。
妻は台所で文化包丁を手に取ると、茶の間で寝そべってテレビを見ながら馬鹿笑いを続ける夫の背後に、静かに正座した。

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おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件①~




平成32年1月27日

「被告と被害者は、一心同体だったのです」

高知地裁204号法廷。
その裁判は、こんな弁護人の冒頭陳述から始まった。
被告人席に座るのは、長身で面長、銀縁の眼鏡をかけてうつむく男。長身のわりに、どこか自信のなさそうな、気の弱そうな印象を受ける。
男は2年前の冬、愛媛県西条市で同居していた60歳の男性に暴力を振るい、そのあげくに死亡させ、さらには遺体を高知県いの町まで運んで焼き棄てた疑いで起訴されていた。

罪状は、傷害致死および死体損壊、遺棄。先に起訴、審理された死体損壊と遺棄については男も認めている。

しかし男は、傷害致死を否認していた。

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おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件②~




「ほどいて」

8月18日午後5時半ころ、野田さん宅の近くにある石岡(いわおか)神社の宮司は、社務所のインターフォンを鳴らした野田さんを見て仰天する。
野田さんは全裸で、両手をナイロン製の細いロープで後ろ手に縛られ、両肩をたすき掛けのような状態でロープを通された上、首は輪にしたロープでくくられていた。 続きを読む おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件②~

おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件③~




死因

弁護側が傷害致死を認めないのには理由があった。
野田さんの死因は、「多発外傷性ショック死」とされており、たとえば首を絞められたとか、刃物で刺されたとか、そういったはっきりとしたものが死因ではなかったのだ。
遺体を解剖した高知大学の古宮医師によると、野田さんの遺体には、外傷性硬膜下血種、多発ろっ骨骨折、広範囲に及ぶ皮下軟部組織損傷が認められ、それらが合わさったことによる多発外傷性ショック死が死因であった。
それらは野田さんの死の直前(数時間前から半日以内)にできたものが大半であり、これ以外にも多数の外傷が野田さんの体には残されていた。
実際、光洋も野田さんが死の直前に、椅子からずり落ちて側頭部を強打したことを供述している。 続きを読む おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件③~