母に売られた私たち~実母による売春強要事件~

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日、当時小学校を卒業したばかりの娘に性行為を強要したとして逮捕された人倫に悖る55歳の父親に対し判決が言い渡された
求刑懲役18年に対し、判決は求刑越えの懲役20年。
父親は泣いて抵抗する娘に性行為を強要、しかも性的虐待は娘が保育園に通っていた頃から始まっていたという。

娘は全治不明のPTSDと診断されていて、自傷行為や自殺未遂にいたっている。

このように、実の親による性的虐待、強姦というのは珍しくはない。表に出ないだけだ。
今もどこかで、じっと耐えている子供もいるだろう。そしてそれを見つけ出すこと、気づくことはなかなか難しい。

親による性的虐待や強姦というのは男親によるものがほとんどだと思われるが、中には実母が幇助しているケースや、黙認しているケースも少なくない。
そして、実母によるもので多いと言えば、「児童ポルノ作成、売買」と「売春強要」である。
幼い我が子の裸や性器をビデオや写真にして販売するという身の毛がよだつような所業だが、作成、販売に関しては実母がかかわるケースが多いという。

過去に起きた、母に売られた娘たちの記録。

静岡・芸者置き屋に売られた16歳

時代的にそんなことあるのか、そういう事件だった。
静岡県警沼津署に、ある人物が相談を寄せた。相談内容は、知人の16歳の少女がどうやらほかの家族から暴行を受けており、家に戻りたくないと話している、そういうものだった。
警察が詳しく事情を聞いたところ、少女の足には痣があった。
さらに、少女からとんでもない話が飛び出した。

「母と姉、それから伯母に、長野の芸者置き屋に売り飛ばされた」

実母、実姉、伯母

静岡県警少年課と沼津署は、平成10年8月6日、16歳の実娘を長野県内の芸者置き屋へ引き渡したとして、三島市在住の母親(当時46歳)と、娘であり被害少女の実姉(当時27歳)と、茨城県在住の無職の女(当時56歳)を児童福祉法違反の疑いで逮捕した。
茨城の女は、被害少女の母親の姉にあたり、少女から見れば伯母だった。

母親らは共謀し、同年6月5日に長野・戸倉町の芸者置き屋の経営者に対し、少女の年齢を誤魔化した上で少女の名前で借金を申し込み、その「カタ」として少女を置き屋に売り飛ばしたのだ。

少女の値段は100万円。

母親らは置き屋の経営者に対し、
「18歳の娘が男に騙され妊娠し、中絶費用がいる。芸者として娘が働いて返すので金を貸してほしい」
と相談を持ち掛けていた。ちなみに年齢と妊娠は嘘である。

しかし二日後、少女は脱走。しばらくは三島市内の知人宅にいたが、6月下旬に実家へ戻ったところ、「なぜ逃げた!」などと母親らに怒鳴られ、その際に足を激しく蹴られるなどの暴行を加えられた。
少女は再び三島市内の知人を頼り、そこから警察につながって事件が発覚した。

母と娘

警察の調べに対し、母親らは「遊ぶ金と借金返済のためだった」と供述していた。だからと言って実の娘を「売り飛ばす」というのは突飛な気もするが、母親と娘の間には複雑なそれまでがあった。

母親は若くして子(逮捕された姉)を産み、その後30歳の頃に少女を生んだ。
経緯は不明だが、少女は幼いころから児童養護施設で暮らしていたという。沼津市内の高校に通っていたものの、1年次に中退。
その後、突然母親が現れて少女を引き取り、同居するようになっていた。

長らく離れて暮らしていた間、母は娘を思うどころか、年頃で利用価値があるとみたのか。

事件には母親のみならず、少女の実姉、母親の実姉という血縁の女たちが複数関わっているところがなんともゾッとするわけだが、そこまでド底辺の生活を送っていたのだろうか。

結局、芸者の置き屋の経営者も金は貸したがそもそも提出義務のある戸籍謄本を少女が持っていなかったことで不審に思っていた。
いかがわしい店ではなかったため、経営者は改めて少女に対し芸者とは何か、置き屋で今後どのような生活を、仕事をするのかを説明したというが、何も知らない少女は愕然としていた。

少女は長野への道中、姉や伯母から「お母さんを楽にしてあげて」と懇々と言い含められていた。
実は長らく会っていなかった母を探したのは少女の方だったという話もある。母を思い、会いたくて恋しくて、やっと会えた母親。
その母親を楽にさせたい、そういう思いはもしかすると少女の中にもあったかもしれない。

しかし、現実は遊ぶ金欲しさでその恋しかった母親に売り飛ばされたというものだった。

静岡家裁沼津支部の栗田健一裁判官は、少女の母親に対し懲役1年6月の実刑判決を言い渡した。(実姉には執行猶予付きの判決が言い渡され、伯母については情報がなかった。)

新潟・風俗に売られた17歳

「だらしのないお母さんより、頼りがいのある久仁子さんの方が好き。志津子被告の娘さんは、そう言ってあなたたちに懐いていましたね」

新潟地裁の法廷に、弁護人の静かな声が響く。それを聞いた被告人席の男は、耐えきれずにむせび泣いた。

児童福祉法違反などの罪に問われた人間は6人。そのうちの4人はそれぞれ夫婦だった。
罪深き大人たちは、当時17歳だった少女を自分たちの借金トラブルに巻き込み、高校を退学させてまで風俗で働かせていた。そして、その給料をすべて取り上げていた。

しかも、逮捕された大人の中には、風俗に売られた少女の実母の存在があった。

「耐えきれない」

久しぶりに会う少女は、笑顔を見せはするものの、どこか印象が違って見えた。少女は昼間はアルバイトで家計を助け、夜間行われる授業もまじめに取り組み、成績も優秀だった。それなのに、夏には突然やめてしまった。
相談がある、そういうと、少女はにわかには信じられないような話をし始めた。
相談を受けたのは、少女が夏まで通っていた定時制高校の元担任。

「先生、私、親に風俗で働かされてる。高校を辞めたのも、それが理由。」

そして、絞り出すように「もう、耐えきれない」といった。

驚いた元担任はすぐに警察に通報。新潟県警少年課は、少女から聞き取った話をもとに捜査を始め、平成16年11月に、児童福祉法違反と職業安定法違反の容疑で、新潟市内の男女4人を逮捕した。
逮捕されたのは新潟市内の会社経営者・川田春男(仮名/当時51歳)と同じく新潟市内の風俗店統括責任者・水島朱美(仮名/当時30歳)、そして、新潟市在住の40歳のパート従業員村山志津子(仮名)と、その夫で無職の男。
朱美を除く3人は共謀し、当時17歳だった定時制高校に通う少女に風俗店で働かせることを計画、少女を新津市内の朱美が責任者である風俗店で働かせた疑い。

しかも、逮捕された志津子はこの少女の実母だった(母親の夫と少女は血縁ではない)。

ここまでで考えたとき、よくあるのがこの母親の夫が首謀して、とかそういう話だが、この事件で志津子の夫の存在感は薄かった。

警察はその後、新たに川田の妻・久仁子(仮名/当時40歳)と、少女が働いていた風俗店の経営者の男、そして、大人たちと一緒に少女を風俗に沈める手伝いをしていた「18歳の少女」も逮捕した。

大人たちが寄ってたかって17歳の少女を食い物したというこの事件。
首謀者は、というと、少々複雑な話になって行く。

大地主のバカ娘

少女の母である志津子と川田の妻・久仁子は、中学時代の同級生だった。
わが娘を風俗で働かせることを了承した母親。先の、静岡の母親たちのように、さぞやド底辺の暮らしをしているのだろうと思いきや、実はもとは違っていた。

志津子の実家は結構な地主だったという。
祖父の代では借り入れはしたものの、4階建て総工費5億円のマンションを建てている。
平成13年に祖父が死亡するが、その直前、志津子はかねてから祖父とも交流があった川田に相続税対策の相談をしたところ、対策としてアパートの建築を持ち掛けられた。
祖父が死亡すると5億円のマンションとローンは志津子が相続した。そのうえで、川田にアドバイスされた通り、マンション1棟を新築し、さらにもう1棟買い足したという。

当初はアドバイスのみで特に不動産の管理を川田の会社が行ったりはしていなかったようだが、やがて川田の会社がその管理を引き継いだ。
そしてその際、近隣対策費という名目で、会社から志津子に1億の貸し付けがなされた。

志津子所有のマンションは3棟合わせて全100室。満室で回せば余裕で借金返済も日々の生活も賄える。川田への借金返済は月に41万円だった。
が、これは全部屋が満室であればの話であり、そしてよほどの好立地、好条件、需要の高さが合わさらなければ、新潟の郊外で100室満室というのは普通、厳しいとみる人が多かった。
案の定、アパートの入居率は6割にとどまり、とてもそれだけですべてを回すということは不可能だった。

にもかかわらず、志津子はただの地主のお嬢様気取りだったのか、仕事をしようとしなかったという。
その代わりに、娘にはアルバイトをさせ、高校も定時制に通わせていた。渋々始めたパート勤めも、とても借金を抱えている人間の態度には思えなかった。

それは娘からも呆れられる有様で、家賃収入では全く足りない生活を送る志津子は、入居者から預かった敷金などにも手を付けた。そして固定資産税などの支払いもできず、さらには公共料金まで滞納し、水道まで止められるという事態になっていた。

当然、川田に返済する金も滞り始めた。
そこで登場したのが、川田の妻・久仁子だった。

娘の目の前で娘を売った親

久仁子は金がないにもかかわらず仕事もろくにしない志津子に心底腹を立てていた。
お嬢様か何だか知らないが、今の惨状をなぜ見ようとしないのか。
久仁子は家賃が振り込まれる口座の通帳と印鑑を志津子から強制的に取り上げたが、どこか他人事のような態度の志津子に、こう言い放つ。

「あんたが金を返せないなら、娘に夜の仕事をしてもらってでも返してもらわないと。」

実は久仁子は勢いでこんなことを言ったのではなかった。夜の界隈では、久仁子が「17歳の子でも働ける店を知らないか」と聞いて回っているのが知られていたのだ。
ただ、あくまで夜の店、としていることからも、さすがに久仁子も水商売を考えていたと思われる。
川田も、夜の店で働かせるというのを考え付いたのは妻だとしながらも、当初はカラオケスナックか何かを想定していたという。
ところが、東京や大阪名古屋ならいざ知らず、新潟の夜の街でそんな店は見当たらなかった。

久仁子も、水商売は無理だと思ったのか、ある時志津子と夫の前で「もうこうなったら風俗で働いてもらおうか」と言ったところ、なんと志津子と夫が、「娘を頼む」と言って頭を下げたという。
久仁子はそれを見てどう思ったのか。親の許可があるのだからという気持ちになったのか、他人の住民票を手に入れるとそれが志津子の娘のものだと偽って風俗店のオーナーと、その店の責任者だった朱美に渡し、朱美らはまさか少女が17歳だとは知らずに店へ連れて行ったという。

川田もその時同席していたというが、自分を風俗に売るという話を、なんと少女は目の前で聞かされたのだという。
そして、自分の母親がそれを了承し、頭まで下げたのを見て号泣していたという。

当初は高校に通いながら、昼も夜も働いていた志津子の娘は、夏には高校を退学させられ、風俗の仕事に専念させられた。

そして、高校の元担任に相談するまでの数か月間の間、複数の新津市内の風俗店で勤務させられ、月25万円の給料はわずかな小遣いを抜いたそのほとんどが、川田夫妻への返済に充てられていた。

しかも、その返済に関して、少女にはとても辛く、屈辱的な手段が取られていた。

涙にむせぶ夫婦と、他人事の実母

川田夫妻と志津子夫妻の4人まとめて審理された法廷では、川田夫妻は当初から泣き通しだったという。今更ながらに、自身らの罪の深さを思い知ったのか。
冒頭のように、弁護人から問われた際には、もう嗚咽を堪えることができなかった。

一方の実母である志津子の態度は、傍聴席もざわつくほどの「堂々とした態度」だったという。
裁判官らの質問にもまるで他人事のようにはきはきとしゃべり、傍らでがっくりと肩を落として涙をこぼす川田夫妻とは対照的過ぎるその態度だった。

当初、志津子のあまりの生活力のなさを見抜いていた川田夫妻が、わざと無理なローンを組ませ、マンションや土地を乗っ取る気だったのではないか、そんな話もあったといい、実際検察もそれに言及していた。
しかし、登記上、志津子の名義の不動産のどれにも、川田の会社の抵当権は設定されていなかった。

が、この志津子に対して貸し出された1億の金は、川田の会社から出ていたにもかかわらず、名義は川田個人のものになっていたという。
本来ならば会社に戻るはずの金が、川田夫妻が受け取る形になっていたため、結果として志津子の娘が風俗で働いた金もすべて、川田夫妻の懐に入っていたのだ。
志津子の娘は、自分が稼いだ金はすべて借金の返済に充てられていると思っていた。辛くとも、借金のためにと思えば、母のためにと思えば頑張れたこともあったかもしれない。
ところがそれらはすべて、川田夫妻の私的な金として扱われ、借金は1円も減っていなかったのだ。
もちろん、何年にもわたってという話ではない。
しかし、志津子の娘にとって、実母が自分を売り飛ばしたこともそうだが、それと同じくらい、この川田夫妻、特に久仁子にそれをやられたことに深く深く傷ついていた。

実は川田夫妻にも娘がいた。そして、母親同士が同級生ということもあって、幼いころから志津子と久仁子の娘は友達だった。
川田家にもよく遊びに行った。そして、久仁子は志津子の娘をそれこそわが娘のように接し、名前も呼び捨てにするほどだった。
同じく、志津子の娘も、キャリアウーマンとしてバリバリ働く久仁子に、母とは違う尊敬のまなざしを送っていたし、もう一人のお母さん、という思いもあったかもしれない。

その、信頼していた、尊敬していた久仁子の口から、風俗で働いてもらう、そう言われた時の志津子の娘の心はいかばかりだったろう。
もしかすると、じゃあそれで、とこともなげに言う実母志津子よりも、この久仁子に言われたことの方がきつかったかもしれないと思ってしまう。

さらに。
久仁子は志津子の娘に支払われた給与を、なんと自分の娘に渡すよう指示していたのだ。娘は、志津子の娘の友達である。
しかもだ。志津子の娘は知らなかったが、志津子の娘を働かせる風俗店を探し、店に志津子の娘を紹介していたのはほかでもない、この久仁子の娘だった。

志津子の娘は、信頼していた友達とその母親に、身ぐるみ剝がされていたということだ。

それを知った時のショックは想像するのも辛いが、ただ、もしかするとその事実を知ったからこそ、こんな理不尽な扱いに甘んじる必要はない、と思いきれたのかもしれない。

「私をボロボロにした母と義父、川田夫妻に厳罰を求めます。」

志津子の娘は弁護人を通じてそう要望したが、新潟地裁が下した判決は、川田に対し懲役1年、志津子には懲役1年10月、養父には懲役10月、そして、久仁子には求刑懲役5年に対し、懲役2年6月と、あまりにも軽い判決を言い渡した。(ちなみに、久仁子の娘も職業安定法違反でいったんは逮捕はされたようだが、その後どうなったかはわからない。)

その後、川田夫妻と志津子夫妻の間では借金について食い違う話もあったようで、舞台は民事へと発展する可能性があったようだが、どうなったかはわからない。

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参考文献

読売新聞社 平成16年11月26日東京朝刊
朝日新聞社 平成16年12月2日、平成17年2月8日、3月30日、5月25日、7月20日東京地方版/新潟
静岡新聞社 平成10年8月6日夕刊、8月7日、10月22日朝刊
日刊スポーツ新聞社 平成10年8月7日

借金のカタに娘を風俗に売った鬼母 財界にいがた平成17年3月号