行く末~ふたつの女たちの事件~

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茨城・資産家女性殺害放火事件

航空自衛隊百里基地近くの住宅街。その夜、突然飼い犬が吠え出したことで住民は外に出た。
真夜中、すでに多くの家々の明かりは消えていたが、ふと目を向けたその先の空が明るくなっていることに気づいた。
「火事だ!」
慌てて119番通報したが、その家はすでに全体が火に包まれており、手の施しようがないまでに炎上していた。

資産家女性の遺体

平成16年6月11日午前0時過ぎ、茨城県小川町(現・小美玉市)の民家から火が出て、木造平屋建て住宅270平方メートルを全焼した。
消防と警察が調べたところ、現場から1人の焼死体が発見された。その家には70代の女性が1人で暮らしており、その時点で女性と連絡が取れていないことから、遺体は住人の女性である可能性が高かった。
司法解剖の結果、死因は焼死。ところが、その遺体には複数の刃物による刺し傷があることも判明した。しかも、刺された時点で女性は死亡しておらず、身動きが取れなくなったあとで家に火を放たれたことにより焼死したと見られた。

殺害されていたのは、郡司松枝さん(当時77歳)。
松枝さんは20年ほど前に夫と死別。地元の郵便局長を務めた夫は町議会議員の経験もあり、地元では名士として知られていた。また、複数のアパートも所有しており、資産家でもあったという。
夫亡き後も、松枝さんはその家でひとり元気に暮らしていた。事件の日も、近所の馴染みの魚屋に1人分の魚の切り身を買いに来ていたといい、突然に命を奪われた松枝さんの無念を近隣の人々は思い合った。

松枝さんが資産家でかつ高齢の一人暮らしということから、警察は強盗の線でもみていたが、焼け落ちた家の中から発見された金庫はこじ開けられた形跡がなく、またタンス預金で数十万円が、他に貴金属も残されていたこともわかった。
物盗りではないのか?
遺体の刺し傷も気になった。背後から差し込まれた傷のいくつかは内臓に達するほど深く、そこには強い殺意も感じられた。警察は強盗と恨みによる犯行も視野に捜査を続けた。

絞りきれない犯人像

松枝さんはパジャマ姿で倒れていた。倒れていた場所も寝室のそばの廊下。やはり寝ていた時に侵入者に気づき、鉢合わせしたのだろうか?
火がつけられた場所は松枝さんが倒れていた場所から10mほど離れた台所に続く廊下だったことがわかっていたが、灯油などがまかれた形跡はなかった。
数日後、ある情報が飛び込んできた。事件前、松枝さん方の近くの道路に、不審な黒い乗用車が停車しており、その周りに複数の男たちがいたというもの。また、松枝さん方の敷地から外に出るための門扉はすべて施錠されていて、犯人はそれを飛び越える形で逃走している可能性が強かったことで、犯人は体力、体格的にも男である可能性が強まった。外国人による窃盗集団?この事件の2年前には、大分で資産家夫婦が中国、韓国の留学生らに狙われて殺傷された事件もあった。結局、あの事件でも結果的にではあるが金品はとられていなかった。

松枝さんは慎重な性格で、家の戸締りも気をつけていたという。自宅の敷地は2500平方メートルもあるが、一箇所だけ、外鍵の場所があった。県道に面した表玄関の門扉は内鍵だったが、畑に面した裏口の扉は、外鍵だったのだという。
犯人は知っていたのだろうか?
警察は、家の中が全く荒らされていないことや、金品がそのまま残っていることなどを踏まえ、松枝さんと個人的なトラブルがあった人間の犯行とも考えていたが、それにしても凶器も発見されておらず、また火をつけたのもおそらく台所にあった古新聞などに着火したと見られており、計画性もあまり見えてこなかった。

事件から1ヶ月経過しても犯人逮捕には至らず、暑い夏は過ぎ去っていった。

犯人逮捕

「あの人、最近回り道をしているみたい」

警察に寄せられたのは、些細なことだった。警察が聞き込みをしている際、とある女の最近の行動について寄せられたもので、その女は松枝さんが所有する賃貸アパートの住人だったのだ。とある住人が、買い物に行く際、本来なら松枝さん宅の前を通るのが一般的であるのにそこを避け、わざわざ遠回りをしているのを近隣住民らが不審に思っていたのだ。
女は事件後、読売新聞の取材にも応じており、火災発生時は家で寝ており、また松枝さんと最後に会ったのは5月下旬だったと話していた。
一方警察も、松枝さんの体に残っていた刺し傷について、当初は内臓まで達していたことなどから強い殺意はみてとれたものの、その後の鑑定などで力自体はさほど強くない人物、すなわち、女性の犯行の可能性が高いとみていたという。

そんな中でもたらされたその情報。

警察がさらに聞き込みを続けると、松枝さんが生前、入居者の中に家賃を支払ってくれない人がいるとこぼしていたこと、さらに、松枝さんのみならず、その住人も家賃のことで松枝さんともめていると、知人らに話していたこともわかった。

平成16年9月6日、警察は殺人と放火の疑いで女を逮捕した。

その女

逮捕されたのは松枝さんが所有するアパートで暮らしていた、田内一美(仮名/当時59歳)。
一美は松枝さんを殺害するつもりであの日自宅へ侵入、松江さんを刺したあと、証拠隠滅のために火を放ったと供述した。

一美がアパートへ入居したのは事件の20年ほど前。当時は内縁の男性と同居していたようだったが、事件が起きる1年前に男性が死亡して以降、一人暮らしだったという。
性格は非常に気さくで、誰にでも挨拶し明るい人柄で知られていた。松枝さんにも気に入られ、一時は松枝さん宅で家事手伝いをしたり、農作業を手伝うなど親しくしていたという。
その一方で一美には借金癖があった。
いつからなのかはわからないが、知り合いらに数千円を借りて返さないことがあり、友人を無くすこともあったという。同居の男性が死亡して以降は拍車がかかり、松枝さんへの家賃の支払いも平成16年に入ってからは何ヶ月分かを滞納していた。
しかし金にルーズであってもまさか殺人や放火をやってのけるようには見えず、知り合いらはまさか、という思いでいた。
逮捕の前日も、たまたま訪れた店で「明日警察に呼ばれてるんですよね」と、笑い話のようにはなしていたり、別の人には「はやく犯人捕まらないかなぁ」と、心配する様子も見せていた。

死んだと思って火をつけてるから

一美は殺人と現住建造物放火の罪で起訴されたが、裁判は混迷した。

まず、初公判ではその罪を認めていた一美だったが、第二回公判において、弁護人による被告人質問の際、突如「やってない」と言い出したのだ。これには弁護人も驚き、「刺しましたよね?」と確認するも、その回数が一致しなかったり、覚えていないなどと言い出して一時休廷となってしまった。

覚えていないという一方で、「夢に出てきて眠れない」ということもあった。これには傍聴していた遺族らも呆れるしかなかったという。

さらに、弁護側からは罪状の変更が求められた。
一美は、松枝さんを「殺意を持って刺し殺した」ことから殺人、そして証拠隠滅のために家に火を放ったことで放火の罪に問われていた。
検察は、松江さんを刺して放火したが、松枝さんは刺された時点では生きており、また致命傷にもなっていなかったことから、生きている人がいる建物に放火した「現住建造物放火」で起訴していた。
しかし弁護側は、「殺人未遂」と「非現住建造物放火」であると主張してきたのだ。

ようは、一美は確かに松江さんを殺そうと思って刺したが、検察も言うように殺せていなかった、死因も焼死だからその時点では未遂であると。けれど、一美はすでに松枝さんが死亡していると思って、あくまでも証拠を隠滅するための放火だったから生きている人間がそこにいるという認識がないのだから現住建造物ではなく、非現住建造物(生きてる人がいない建物 )に放火したのだという主張だった。

対する検察は、たとえ死んでいなくても火に巻かれて死ぬだろうと思っていたと供述しているから殺人罪と現住建造物放火は成立するとして譲らなかった。その上で、懲役15年を求刑した。

裁判所の判断はどうだったか。

水戸地裁は、たとえ刺した時点で松枝さんが死亡していなかったとしても、そのあと怪我によって逃げられなかったから火に巻かれたのであり、その刺した行為と死には因果関係があるとして殺人罪を認めた。
が、放火については弁護側の主張を認めた。一美は確かに松枝さんはすでに死亡した遠く思っていて、検察が主張したような火事で死んでしまえばいいというのは迎合的で信用できない、と判断、非現住建造物放火を適用したのだ。
判決は懲役14年、のちに確定した。

怒り

この事件は当初の見立てもあって、強盗殺人であるかのような錯覚をしてしまうが、実際に一美は一円も奪っていない。
判例ではたとえば金銭を奪っておらずとも借金を免れる目的で債権者を殺した場合にも強盗殺人は成立するというのはありはするが、この一美の場合は滞納している家賃を免れようとしたのではなく、その動機は別にあった。

生活保護で暮らしていた一美は、その保護費を酒代に充ててしまって家賃などの支払いが滞っていたという。家賃は月額1万9千円、決して高くはなかった。
松枝さんは現金での支払いにしていたといい、一美に限らず時には入居者の都合なども考えてくれていたようだった。
ところが、一美が息子に小遣いを与えていることを松枝さんが偶然知ってしまう。家賃も払えていないのに、成人している息子に小遣いもなかろうと思うのも当然である。
腹に据えかねた松枝さんは一美に対し、生活保護費の使い方に問題があるとして役場に言う、と言ってしまった。一美はそんなことをされたら生活保護の打ち切りにあうかもしれず、そこで松枝さんに対して殺してやろうという気になったようだ。

一美はそもそも短気だとか粗暴という印象はない。いくら松枝さんにそう言われたからといって殺してやるというのは突飛な気がする。お金の無心や滞納は平気でも、相手が怯まない、見逃してくれないとわかると途端にパニックになってしまったのか。

家賃を支払ってほしい、松枝さんは真っ当な要求をしただけだ。その手段として、生活保護費は正しく使いなさいと、それができないなら役所に言うしかないね、と言ったまでだ。
そこで自自分を省みるでもなく相手に怒りをぶつける他責思考、被害者思考。
言いたくはないが頭が極端に悪い人は後先を考えることができない。そしてそういう人は貧困層であることが多い(貧困層にいる人みんながそう、ではないですよ)。
家賃からしても松枝さんは本来、そういった人の味方だったはずだ。松枝さんは資産家だったが、息子らの家族とはさほど頻繁に行き来はなく、買い出しなどはアパートの住人が協力していたという。
松枝さんにとっては、当初いろいろな手伝いをしていたことを考えれば一美は家族のような、娘のような存在だったのかもしれない。

ただ一美のその思考に立てば、「あんなに親切だった松枝さんが意地悪になった」ととってしまったのかもしれない。もう、慕っていた松枝さんではないから、どうなっても良かったのかもしれない。

釧路の強盗殺人放火事件

電話を受けて、男は察した。あぁ、やっちゃんたんだ。
アパート前に車を寄せると、そこには金属製のパイプが転がっていた。男は近くにいた知り合いの男を呼び、そのパイプを処分するため釧路川へと向かった。
アパートに戻った2人は、アパートから出てきた人物を車に乗せると走り去った。

住宅街の火災

平成16年2月19日深夜、釧路市光陽町の住宅から火がでた。現場はJR釧路駅の北にある住宅街で木造二階建て住宅の内部を全焼した。
焼け跡からは焼死体が発見され、この家に住む高齢男性と連絡が取れていないことから、遺体は住人男性の可能性が高かった。

行方がわからなくなっていたのはこの家に住む無職・伊藤幸美さん(当時74歳)。
残念なことに遺体は伊藤さんであることが確認された。

警察では遺体の損傷が激しいことから焼死、の判断しか出来ていなかったが、火災が起きる直前の午後10時頃、遅い時間にもかかわらず伊藤さん宅に人の出入りがあったという近隣の住民らの話などから失火と事件の両面で捜査を続けていた。

その女

釧路署と釧路方面本部捜査課は2月24日、釧路市内在住の無職の女を伊藤さん殺害と現住建造物放火の疑いで逮捕した。
逮捕されたのは釧路市鳥取南の住吉久美子(当時41歳)。
警察は伊藤さんの交友関係などを洗っていく中で、伊藤さんと交友のあった人物らから、伊藤さん方の火災について女が関わっているという話を複数得ていたという。その女が、久美子だった。
捜査員が久美子の行方を追っていたところ、根室市内にいたところを発見、任意で話を聞いたところ伊藤さんを殴ったあとで火をつけたことを認めたため逮捕となった。

久美子は取調べに対し、「伊藤さんと金銭で揉めていた」と話していたが、伊藤さんと久美子は事件直前に知り合いを通じての関係だったことも分かっており、その金銭トラブルの内容もよく分からなかった。
が、久美子を知る人らの話によると、久美子は平成13年以降は無職で、生活保護を受けていたものの借金もあったようで生活は苦しそうに見えたという。
また、暴力団関係者と交際していた時期もあり、その影響もあってか覚せい剤を使用することもあった。

久美子には妹と年老いた母の存在があったが、母を老人ホームに入れたい思いもあり、まとまった金が必要な状況にもあったという。

そんな久美子と伊藤さんの人生はどこで交わったのか。

「金になるオヤジ」

平成14年、久美子はある男と知り合った。男には内妻がおり、久美子はその内妻を姉のように慕い仲良くしていたという。
ただ男も内妻も久美子同様、定職に就いておらず日々の生活はその日暮らしといった有様だった。
平成15年11月、久美子は内妻に相談を持ちかけた。
「誰か金になるオヤジでもいないかね?」
今で言うところのパパ活と言うには久美子は少々歳をとっていたが、どんな世界にも層にも需要と供給はある。
内妻は久美子に、その相手として伊藤さんを紹介した。

久美子は内妻を通じて伊藤さんに顔を繋いでもらったようだが、その後の12月14日、伊藤さんに売春を持ちかけた。金額は1回3万5千円。色んな意味で高い。
久美子はとりあえず本気だということを示したかったのか、その日は本番行為はしなかったものの、タダで触らせたという。

ところが翌日、久美子が伊藤さんと連絡を取ろうとしたところ、伊藤さんは電話に出なかった。自宅へ行ってもみたが、そこでも伊藤さんとは会えなかった。
大事な金ヅルである伊藤さんに逃げられたくないという思いと、すでにタダで触らせてしまっている以上、取りっぱぐれるようなことは避けたかった。
なんとか深夜近くになって伊藤さんが家に戻ってきたため久美子は約束の3万5千円を伊藤さんに催促したが、伊藤さんからは「そんなに払うつもりはない。5000円くらいなら」という返答があったことで久美子は腹を立てた。

久美子は腹立ち紛れに伊藤さん方を勝手にさぐり、金があれば奪おうと思っていたが現金は出てこなかった。その代わりに久美子は預金通帳と印鑑入のバッグを盗んだ。

むしゃくしゃする気持ちを抑えながらそれでもなんとか約束の金はもらわなければと思っていた久美子だったが、翌日なんと逮捕されてしまった。
伊藤さんがチクったとかではなく、容疑は覚せい剤取締法違反だった。

その夜の女

久美子はその後裁判で執行猶予付判決を言い渡され、平成16年2月16日に釈放された。
出所の際、久美子の所持金は8万2千円ほどあった。しかし怠惰な生活に浸かりきっていた久美子はその金を2~3日で使い切った。
生活保護だけではもはややっていかれない。かといって今更真面目に働くのもバカバカしかった。
そこで久美子はとりあえず、もらえていない伊藤さんとの約束の金のことを思い出した。あれだけはなんとしてでも取り立てたい。久美子の中では正当な要求の金だった。

電話したところで伊藤さんは出ないだろうと踏んだ久美子は、知り合いの酪農家の男に頼んで伊藤さんの家まで送ってもらった。用事が済んだらまた送ってもらう予定で酪農家の男を車で待たせたまま、久美子は伊藤さんの家に上がり込んだ。
「何しに来やがった!」
伊藤さんは久美子に対して容赦なかった。金を払えと要求する久美子に対し、体を押しのけるなどしてきた。

久美子の中で何かがキレた。

久美子は伊藤さんを引き倒すと馬乗りになってその顔面を拳で数発殴り、手近にあった金属製のパイプでもその頭部を滅多打ちにした。
ただ殴ったといっても女の力ではたかが知れており、怪我はしたものの伊藤さんの意識はあり動くことも可能な状態だった。
久美子の豹変ぶりに恐れをなした伊藤さんは、金なら茶の間にある、などと言ったという。久美子が伊藤さんを連れて金のある場所へ行ったものの、伊藤さんがこの期に及んで嘘を言っていると思った久美子は鍋の蓋などでまた伊藤さんを殴りつけた。
倒れ込んだ伊藤さんの頭を足で踏みつけると、その口をタオルなどで猿ぐつわのようにした。
さらに、ベルトなどを使って伊藤さんの動きを封じると、現金3万5千円とその他通帳などを奪った。

ふと、このまま家を出れば伊藤さんがいずれ警察に言うのではないかと思った。部屋の中には自分の指紋や痕跡が山ほどある。
久美子はつい3日前に拘置所から出たばかりであり、また身柄拘束されるのは避けたかったがこの現状を思えば伊藤さんが警察に言わない以外に久美子が助かる道はなかった。

久美子は拘束されたまま寝かされ、身動きの取れない伊藤さんに布団をかけると、その脇に火のついたタバコを立てかけた。そして、布団の上にも火をつけた。
さらに別の部屋にも火をつけると、伊藤さん宅をあとにした。

2人の男

警察は久美子の他に、4月に入って男ふたりと女ひとりを新たに逮捕した。
あの、久美子が慕っていた内妻とその内縁夫、そしてあの日伊藤さん方へ久美子を送った酪農家の男である。

酪農家の男は久美子が戻るのを少し離れた場所で車で待っていた。
すると伊藤さん方付近にタクシーが来て、無職男とその内妻の姿が見えた。ふたりとも知り合いだったようだが、無職男だけが伊藤さん方へ入っていったという。
しばらくして無職男が伊藤さん方から出てきたため、酪農家の男も伊藤さん方へ入ったところ、その居間において怪我をした状態の伊藤さんの姿を見た。

家を出た酪農家の男は、無職男らとしばらく車で待っていたが久美子が出てこないことから久美子の携帯に電話をかけた。
日付が変わった直後、久美子が伊藤さん方から出てきた。そして、火をつけたというような話を聞かされたという。
実は男らは久美子が伊藤さんを殴った金属製のパイプを釧路川へ遺棄していた。当初は、男らが久美子から「大変なことをしちゃった」という連絡を受けて伊藤さん宅へ到着した際、家の前にパイプが置かれており、これで殴ったのか、と察しそれを捨てたと話していた。
ただ久美子の裁判の中では若干ズレがありはっきりしたことは分からない。
ただ伊藤さん宅にいた久美子が伊藤さんに暴力を振るい、その後久美子にしてれば正当に受け取る理由のある金をとって、その伊藤さん宅から火が出て伊藤さんが死亡したことについてほぼ全てを知っていたのは間違いなかった。

また、無職男の内縁妻も逮捕されているが容疑は久美子から伊藤さんから奪った金だと知りながら1万円を受け取った盗品等無償譲り受けという聞きなれないもの。
どんな思いで受け取ったのか。久美子はどんな思いで渡したのか。

女たちの行く末

ご存知の通り、強盗殺人の法定刑は無期または死刑である。もちろん、そこから様々な事情や酌量する余地などを考慮した上で刑が決まる。
久美子の場合はどうか。
覚せい剤取締法違反で執行猶予つき判決を受けてわずか3日での凶行。金銭トラブルとはいえ、公序良俗を盛大に踏み散らかしたもので、さらに放火にまで及んでいた。
検察は強盗殺人ならびに現住建造物放火で無期懲役を求刑。対する弁護側は、久美子は暴行を加えた際にはカッとなってのことであり強盗の意思は有していなかった、また、暴行後にぐったりした伊藤さんを見て既に死亡してしまったと思い込んでおり、火をつけたのは証拠隠滅のためで強盗致死と非現住建造物放火であると主張。
しかし裁判所は男たちとの電話履歴や時間、証言などから久美子が火をつけた時に伊藤さんが生きているとわかっていたとし、久美子は証拠隠滅のみならず伊藤さんもろとも消し去ろうとしたと認定した。

司法解剖医によれば「ショック等や意識不明に至るまで,熱と煙の両方の想像を絶する苦痛が襲ったものと考えられる」と所見を述べていることからもわかる通り、伊藤さんは拘束され自分で布団を払い除けることもできず、じわじわと焼かれた。そして煙に巻かれ、想像を絶する痛みと苦しみの中で命を落としたのだ。
遺族は極刑を求めたが、その遺族に対して久美子はなんの慰謝もしていなかった、というか、出来るはずもなかった。

裁判所はいわゆる特定の関係性の間で起きた事件であり、誰もが巻き込まれる被害者になりうるようなケースではないこと、2人がかかわり合いになった発端には被害者の伊藤さんにもその責任があること、また、久美子が過去に交際していた暴力団関係者に多大な影響を受けた可能性があることなどを考慮したものの、伊藤さんの無念やその犯行の残虐さ、遺族感情、近隣住民も厳罰を望んでいることなどを踏まえ、求刑通りの無期懲役を言い渡し、その後確定した。

久美子はカッとしやすく短絡的な傾向があったという。一方で、高齢の母親の行く末を案じ、また世話になっている人には恩を感じる一面もあった。
そもそも伊藤さん宅へ行ったのも、母親を施設に入れる金と、そして慕っていた内妻に金を渡したいと思ったからだった。
もっと言うと伊藤さんを襲ったあと、奪った金の額は要求していた3万5千円(本当のところはもっと盗んだ可能性もあるが)。

なんというか、色んな意味で何も考えてないというか、その時その時の思いつきで生きてきたのかもしれない。
確かに、そんな久美子の売春にのった伊藤さんにも問題はあったろう。久美子の申し出を優しく諭してやれば良かったのか。

多分、そうすれば久美子はほかの獲物を探すだけだったろう。そういう生き方しか、もう出来なくなっていたのかもしれない。

哀しい。
茨城の一美も、釧路の久美子も、人を殺して火を放ったが、その罪名が違うことでその後の運命も大きく別れた。
一美はどうして松枝さんを殺したのか。生活保護費の使い方を市役所に報告されることを恐れたと供述してはいるが、松枝さんとのそれまでの関係を考えればそこには逆恨みのような感情も垣間見える。
久美子も一方的ではあったが頼った相手に突き放されたことで逆恨みした印象もある。
久美子は強盗殺人だし伊藤さんの味わった苦しみは想像を絶する。ただ父親以上に年の離れた高齢男性に売春を持ち掛けざるを得ない、しかも値切られてしまう久美子という女性の暮らし、その先を思うとなんとも言えない気持ちにもなる。

全て自分が撒いた種だったとしても、当時の久美子は今の私よりも随分若い。
だからこそ、辛い。

一美は当時59歳。内縁の夫を亡くし、息子がいたとはいえ生活保護で暮らす日々。家族はいてもひとり暮らす松枝さんとは通じるものがあったように思う。
松枝さんの役に立ち手助けもしてきた一美は、いつか家賃のことも松枝さんに勝手に甘えていたような気もする。許されると思っていたのかもしれない。

しかし生活保護の自分と、資産家の松枝さん。
自分が松枝さんの歳になった時、松枝さんのようにいられるわけがなかった。
同じ独り身でも、違いすぎた。

2人とも、ようやく現実を見たのかもしれない。

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参考文献

読売新聞社  平成16年2月19日、11月30日東京夕刊、25日、26日、4月3日、6月12日、15日、8月19日東京朝刊
NHK  平成16年11月30日
茨城新聞社  平成16年6月12日、13日、9月7日朝刊
朝日新聞社  平成16年6月13日、19日東京地方版/茨城

判決文