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その欲求を満たすために他人を傷つけることになったとしても、自分を抑えることができない人たちがいる
思い描いた淫辱を愛だと信じた男、何から何までを決定し従わせることこそが、自分への愛と信じて貪った女が招いた事件。
“だいたい 痛いから いつも
最初から”
岡山の男の夢
結果から言うと、スピード解決だった。
平成26年7月14日に、下校途中に行方不明になった11歳の女児は、5日後の19日に無事保護。
幸いにも女児は元気で、帰りを待ち続けた家族は胸をなでおろすとともに、その事件の真相に憤りを隠せなかった。
女児は男に拉致され、自宅に設えた「監禁部屋」に住まわされていた。
そして、男の口から語られた動機と「夢」とは。
シルバーのトヨタヴィッツ
平成26年7月14日、午後6時過ぎ。警察に倉敷市に暮らす女性から通報があった。
「子どもが帰って来ない。」
聞けば、女性の11歳になる娘が、午後4時過ぎに下校して以降、連絡がつかず帰宅もしていないというのだ。
ただ、時間は午後6時で、夏ということもあってまだ日は落ちていない。学校帰りに道草している可能性はないのか。友達と時間を忘れて遊んでいるのではないのか。
しかし母親にはこれは事件ではないかという直感と、気になる出来事がこれまでにあったのだ。
その日、実は女児は学校を出てすぐに母親に迎えに来てほしいと携帯電話から連絡していた。女児の家庭は母親と妹2人の4人。女手一つで子育てしている母親は仕事もあり、かつその日は妹の病院の日でもあり、迎えに行くことができなかった。
母親は歩いて帰るように言い、女児も歩いて帰宅していた。
午後4時半ころ、小学校の同級生が女児の自宅にほど近い路上で女児を見かけていた。
が、その際、女児のそばには車が停まっていて、大人の男性と立ち話をしているように見えたという。
それを聞いた母親は「あっ!」と思った。
車は車種までは不明だったが、シルバーの小型の乗用車だったことは分かっていた。母親は、そのシルバーの車に思い当たるふしがあったのだ。
6月ごろ、母親は娘につきまとうような動きをする不審な車を目撃していた。その車は、トヨタの人気車、ヴィッツ。色はシルバーだった。
ヴイッツは現在でも人気の車種であり、当時も相当数出回っていたが、母親はとっさにナンバーを覚えていた。
そして、行方不明になった女児の最後の目撃情報にも、シルバーの車があったことで、母親は警察にその旨を伝えた。
翌15日の午後9時過ぎ、警察は公開捜査に踏み切る。
すると、不審な車の目撃情報が相次いで寄せられた。そしてその中に、シルバーのヴィッツが女児の自宅付近で不審な行動をしていた、というものがあった。
乗っていたのは40代くらいの男で、車を停めるとナンバープレートをいじっていたという。すると、ナンバープレートの下にもう一つナンバープレートがあったため、通報者の女性は何かよからぬ雰囲気を感じたという。
あまりに不審だったために、女性は下に隠されていた本当のナンバープレートの数字のみならずひらがななどもすべて記録していた。そして、そのナンバーは女児の母親がみたものと完全一致していたのだ。
警察はすぐに絞り込みを開始。該当車両は岡山市北区に住所を置く男が所有していると判明した。
異様な世界
「見てはいけないものを見てしまった」
工務店を営む男性は、その男が案内した部屋を見てまず、そう思ったという。
男は長いこと地元岡山を離れていたが、父親が事故死し、母親の一人暮らしが心配になったのか、昨年から実家へ戻ってきていた。過去に結婚していた時期があるというが、短期間で離婚になったと、実家の母親が嘆いていた。
その母親も介護施設に入所し、実家では男が一人、暮らしている状況だったというが、男が工務店に工事を依頼してきたのは平成25年の夏。
男の実家は大きな日本家屋。周囲には畑が残り、男は自宅裏手の畑にはなれを作りたいと話したという。
コンクリートのしっかりした作りで、防音を施してほしい、それが男の注文だった。
そこで工事を依頼された男性は、事前調査で男の自宅へ入った。
2階の一室を見た時だった。
6畳程度の部屋が二つあったというが、なんとも異様だったという。向かって左側の部屋には物が一切置かれておらず、真っ暗。しかもなぜか窓には目張りがしてあった。
しかし男性を硬直させたのは右の部屋だった。
床、壁、天井に、いわゆる美少女系のポスターが何十枚も貼られていたのだ。そして、隣の部屋同様家具などはなく、床に直置きされたノートパソコンがあるだけだった。
この部屋は一体なんのために用意された部屋なのだろうか。
目的が全くわからなかった工務店の男性は顔を引き攣らせてその部屋を後にしたのだが、工務店の男性の様子に何かを感じたのか、その家の男が何やら差し出してきた。
そこにも、美少女系のイラストが描かれてあり、それを見せながら男は工務店の男性に説明し始めたという。
それによれば、大学で哲学などを学んだ後、今はイラストレーターの仕事をしている、ということだった。
なるほど、仕事ならわかる気がする。工務店の男性も気を取り直し、工事の打ち合わせを行なった。
が、男が希望したはなれは市街化調整区域にあたることから地目変更が難しく、また時間もかかるため断念せざるを得なかったという。
そこで、新たにダイニングキッチンを改造する形で、もう一つ部屋を作ることとなった。
「母親が施設から戻った時、暴れたり奇声を発することがあるから……」
男はそう言って、大掛かりな防音装置をその部屋につけた。
そして、その部屋はトイレに直接出入り出来るようになっており、かつ、台所側から外鍵が取り付けられていた。
男のそれまで
約800万円をかけた増改築が完了したのは12月のこと。唯一別の部屋と繋がる扉には、外側から鍵が取り付けられた。
「母親が徘徊しないように。」そう話す一方で、「パソコンで仕事をするため、集中したいから」と、仕事部屋であると話すこともあった。
男は両親が東京で働いていた頃に生まれ、小学校の頃に岡山へ戻り、岡山県内の有名私立高校を卒業後、一浪して法政大学へ進学。その後、大阪市立大学大学院、大阪大学大学院に在籍。哲学を学び、研究者としての評価は悪くなかったという。大阪大学大学院時代には、論文も発表していた。
ただ、大阪大学の大学院では、いつの間にかその姿が消えていたという。ちなみに短期間の結婚生活は、大学院を退学した頃のことのようだ。
その後は、塾の講師や学校の警備などの職に就き、兵庫や大阪を拠点に生活していたが、一時は海外でも生活していたという。
そして岡山へ戻った頃は無職だった。
親戚付き合いや近所付き合いは、皆無ではなかったがあまり良い関係とも言えなかった。
近隣では地域の清掃活動が行われており、それに参加できない人は二千円の支払いで免除される仕組みだったという。男は母親の介護で週末しかこの家にいないことを理由に参加しないとして、当初はその金すら支払いを渋ったという。一旦は支払ったものの、後になって「納得できない」と返金を求めてきたため、近所付き合いの難しい人という印象が強くなり、母親が施設に入所した頃には回覧板も回されなくなった。
親戚との間でも、父親の葬儀を巡って確執があったという。
葬式はきちんと出すように、そう親戚から言われたにもかかわらず、男は簡素なもので済ませたといい、親戚との関係もギクシャクしていた。
人付き合いを好まず、他人を寄せ付けない印象のあった男は、外出というと食料品の買い出し程度。
他は、車でふらりと出かける、そういったもので、近所の人らも最低限の付き合いに留めていたようだ。
仕事もせずに男は日がな一日何をしていたのか。
男は、岡山市内を中心に「獲物」を物色していたのだ。
一目惚れ
平成26年2月下旬、男はいつものように車で色々な場所を徘徊していた。
そして、倉敷市内で「運命の出会い」を果たす。
偶然見かけたその女児を、男は忘れることができなかった。後に「一目惚れだった」と話しているが、男はかねてから、少女を誘拐して自宅に監禁し、自分好みの女性に育て上げたいというとんでもない願望を持っていたのだ。
自宅の増改築も、母親の施設入所も、全てはその願望を現実のものとするためだった。
運命の出会いの後、男は次の段階へと進もうとしていた。
愛車のナンバープレートに別のナンバーを取り付け偽装。女児をこっそりとつけまわして自宅や通学路を把握した。
あとは、女児を連れ去るだけ……
7月14日、男は絶好のチャンスを得る。一人で帰宅している女児に近づくと、「殺すぞ」と脅して萎縮させ、そのまま車に押し込んだ。
周囲には人はいなかったはず。男は胸の高鳴りを抑えながら、あの部屋へと急いだ。
女児は恐怖に怯えながらも、大人しくしていれば危害は加えられないのではないかと考え、男の言う通りに従った。
大きな日本家屋の中へ男に促されて足を踏み入れる。怖い。しかし女児は懸命に恐怖心と闘いながら、男を刺激しないよう、言う通りの行動をしていた。
玄関のそばにあったインターフォンは、コードが引き抜かれていた。家中の窓はカーテンが閉められ、カーテンで光が遮れない造りの窓には、タオルを隙間に敷き込んで遮光していた。
案内された部屋は、元から窓のない部屋。8畳ほどのその部屋で女児はお菓子やジュースなどを与えられた。
部屋にはベッドと布団、そして壁にはテレビが置いてあった。女児はベッドに座るよう命じられ、ランドセルを下ろして言われるがままベッドの上で体育座りをした。
男は、何もしなかった。テレビを見るよう言われ、アニメを延々と見せられた。
窓がないため、外が暗くなっていることはわからなかった。トイレには見張られながらも行くことはできた。
男は以降も、乱暴なことや、いやらしいことはしてこなかった。が、
「逃げたら殺して、臓器を売り飛ばす」
と脅され、女児はとにかく大人しく、言われるがままに対応していた。
男は何をしていたか。
アニメを見たり、お菓子を頬張る女児を、反対側に敷いた自分の布団の上に座り、ただただ眺めるだけだったという。
夢の終焉
「こんばんはー、こんばんはー」
7月19日の午後10時10分、その家の玄関先には女性の姿があった。しきりに呼びかけるも、中から反応はない。
すると、別の人間が庭先から掃き出し窓に近づくと、何やら細工をし、窓を割った。
鍵が開けられると、暗闇から10人ほどが現れ次々にその家に踏み込んでいく。声をかけていた女性も続いた。
「確保!」
彼らは全員警察官で、不審車のナンバーからその車の持ち主である男が何らかの事情を知っているとして、周辺の調査を行なっていた。いつもコンビニで酒やつまみしか買わなかった男が、14日以降、菓子やジュースなどを買い始めたこと、別の店で女児用の衣類を購入していたことを突き止め、この夜その家に突入することになっていたのだ。
捜査員らがその部屋に踏み込んだ時、女児は白地に柄が入ったパジャマ姿でベッドの上に座っていて、アニメを見ていた。
突然開けられたドアと、何人もの大人たちが踏み込んできてあの男を取り押さえたことに驚き、「なに??なに??」と動揺していた。
女性捜査官に抱きかかえられるようにして女児はその部屋を出た。あの日から、もう5日が過ぎていた。
女児無事保護、の一報はすぐに帰りを待つ母親や家族に伝えられた。女児の祖父は報道陣にコメントし、無事孫が戻ってきたことに感謝していた。
女児は怪我もなく、健康状態も特に問題はなかったが、精神的な状態は外からではわからないこともあり、慎重な対応が求められた。
男は女児を拉致してこの部屋に監禁していたことを認めたが、当初警察官にこの女児との関係を聞かれた際には、信じられないことを言っていた。
「私の妻です。」
男は11歳の女児を指差し、自分の妻であると言ったのだ。
その後の取り調べにおいては、男のあの悍ましき願望を訥々と話し始めた。取り調べに臨んだ警察官もその動機に絶句するしかなかった。
大人の男が体力的にも弱い女児を監禁し、挙句自分好みに育てるつもりだったと話したとなれば、いやでも性的暴行などを疑わずにはいられなかったが、幸い、女児は最初こそカッターナイフを突きつけられはしたものの、それ以外に暴行や性的な行為は一切されていなかった。
警察は監禁容疑で現行犯逮捕したその男を、未成年者略取の容疑でも再逮捕する方針を発表したが、裁判では「わいせつ目的略取、逮捕監禁致傷」などの罪で起訴された。
【有料部分 目次】
懲役6年
宮城で殺された“監禁女王様“
初めてのカノジョ
覚えのない婚約破棄
泥棒、他人とのセックス鑑賞、罵倒
ひれ伏してこそ、愛
参考文献