おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件②~

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「ほどいて」

8月18日午後5時半ころ、野田さん宅の近くにある石岡(いわおか)神社の宮司は、社務所のインターフォンを鳴らした野田さんを見て仰天する。
野田さんは全裸で、両手をナイロン製の細いロープで後ろ手に縛られ、両肩をたすき掛けのような状態でロープを通された上、首は輪にしたロープでくくられていた。

「どうしたん!?」

あわてて駆け寄った宮司は、咄嗟にロープの結び目をほどこうとしたが、結び目は固くおよそ自分でやったようには思えない状態だったという。加えて、長時間この状態だったのではないか、とも思えた。
野田さんは、「ほどいて、ほどいて」というだけで、誰にやられたなどとは話さなかった。宮司はとにもかくにもバスタオルを持ってきて野田さんの下半身に巻いてやった。
全裸で縛られている現状、さらにその結び目の固さに犯罪性を感じ取った宮司は、ほどいてやりたいとはやる気持ちを抑え、証拠のためにスマートフォンで野田さんを撮影した。
ふと顔を見ると、野田さんの左目は充血し、頬の辺りも腫れているようだった。足やひじなどにも擦過傷、靴擦れのような水膨れ、皮膚の変色などありとあらゆる場所に大きくはないものの怪我をしていた。

写真を取り終え、宮司は110番通報する。
宮司は、以前から野田さん宅に光洋が寝泊まりしていることや、野田さんの身の回りの世話をしていると話していたのを知っていたが、自宅からこんな状態で逃げてきた以上、野田さんにこのようなことをしたのは光洋だと思わざるを得なかった。
しばらくすると光洋が帰宅、同時に警察官に事情を聞かれ始めた。
「神野君にやられたんか?」
そう聞いたが、野田さんは無言で見つめるだけだったという。

現場検証などにも素直に応じた光洋は、警察で事情を聞かれたものの野田さん自身に処罰感情がなく被害届けも出さなかったため、その日のうちに一旦釈放となった。

夜、母親を伴い宮司宅に光洋が現れた。
「あんな事したらいかんだろが!なんであんな事した?」
そう問い詰めた宮司に対し、光洋は素直に
「どうもすみません。野田さんが徘徊しないように思わず縛ってしまったんです…」
と頭を下げた。光洋は、全裸で徘徊しようとする野田さんを何とかしようと思い、自分が用事で外出する間見張れないためやむを得ず縛ったのだ、という話をしたという。
現に、野田さんが逃げ出したとき光洋は外出中だった。

宮司は光洋に対して説教をし、二度とあんなひどいことはしないようにと釘を刺したが、気になることがあった。
光洋は野田さんが「全裸で徘徊する癖がある」などと言っていたが、長年近所に暮らす宮司はそんな野田さんの姿を見たことはなかった。
たしかに野田さんは自転車で市内をうろついたり、物乞いのような行為をしてはいたものの、会えば挨拶もし、会話もできていた。近隣の人に眉を顰められることはあっても、露出行為をしたり危害を加えたりという「危険な男」ではなかった。
そんな全裸で徘徊するような精神状態とは思えなかったのだ。

宮司だけでなく近隣の人も、光洋に対し「関わらない方がお互い良いのではないか」と話した人もいたようだったが、それでも光洋は野田さんとの同居を解消しなかった。

突然の死



平成29年12月1日。
その日深夜、野田さんは警察官に伴われて帰宅した。野田さんはこの日まで、およそ2週間ほど家出していたという。
西条市小松町にある「大型コインランドリー小松」内で、浮浪者が寝ていると通報があったことから、西条西警察署の警察官2名が現場に赴き、室内の長椅子に横になっていた野田さんを発見したのだった。
光洋は、2週間も放浪していた野田さんに、風呂に入るようすすめ、自身がその日食べたキムチ鍋にごはんをいれて雑炊をつくった。
しかし、野田さんは何となく元気のない様子で、光洋がこしらえたキムチ鍋も箸がすすまない様子だったという。
ふと、野田さんの足元を見ると、右足の甲に怪我をしていた。出血もした跡があり、光洋はケガを治療するよう野田さんに言った。

翌朝、野田さんの様子が気になったものの、疲れているのだろうと思った光洋は起こすことはせず、自室でゲームをして過ごしていた。夕方近くにになって、ふと玄関ポストを覗くと、その日の新聞がそのままになっていた。ポストから新聞などを持ってくるのは野田さんの日課だったため、光洋は不安になって野田さんを見に行くと、台所に野田さんがいた。
サンダルをはいた状態で、座っていたという。
その後、光洋は野田さんに前々から探していた土鍋のありかを訊ね、探すように言う。しかし、野田さんは土鍋を探さず横になったという。
それに苛立った光洋は、野田さんの背中を足の甲で軽く蹴った。さらに、何度探すように言っても要領を得ない野田さんに対し、両手で肩付近を押さえて膝蹴りにし、さらにそこにあった孫の手で野田さんの頭を2回叩いた。

夜になり、野田さんの具合がいよいよ悪くなってきた。
台所にいた野田さんが、突然胸を押さえて苦しみだし、床に頭から倒れこんだ。そしてその際、野田さんは側頭部を強かに打ち付けたという。
光洋は「119番しよか?」と野田さんに訊ねたものの、野田さんは「寝とったら治る」とそれを断ったため、台所に野田さんの布団を持ち込み、かけてやった。

光洋は自身の痔の調子が思わしくなかったため、その後何度もトイレと自室を往復したという。
トイレに入っているとき、「ガタン!」というかなり大きな音がしたため、驚いて野田さんの様子を見てみると、足を布団からはみ出させた状態で寝ていた。
気にはなったものの、再び自室のこたつでうとうとした後、再び野田さんの様子を見に行くと、野田さんは目を見開いたまま、冷たくなっていた。

死体損壊と遺棄

仰天した光洋は、咄嗟に「このままでは自分が疑われてしまう」と狼狽する。夏に野田さんを縛ったことがあったからだ。その件については野田さんが被害届をださなかったため、未だに事件化はされていなかったが、野田さんの死が公になれば過去のことと結び付けられるに決まっている、光洋はそう思い込んだという。

光洋は午後9時53分、実家の母親に電話をかけた。野田さんが亡くなったことを伝えようと思ったが、その電話には母出なかった。
しかたなく、実家の家電に電話をかけたところ、父が出た。光洋は父には話せず、母親に電話をくれるよう伝言を頼んだという。
しかし、折り返しかかってきた電話で、光洋は野田さんの死を母親に伝えられなかった。

途方に暮れた光洋は、すでに体が硬くなり始めていたという野田さんのそばで3時間ほど考え込んだ。その後、野田さんを抱え、母屋と離れの間にある庭先へと出た。
その際、誤って野田さんを頭から落としてしまったという。その日は野田さんをそのままにするしかなかった光洋は、パニック状態のまま一夜を明かした。

翌日の12月3日。
夕方頃になって光洋は、知り合いの自動車修理工場へ行って1台の軽トラックを1日の予定で借りた。同時に、「草刈り後の草を積むから」といって、飛散防止のビニールカバーも借り受けた。
その後、市内の大型ホームセンター「コメリ西条店」で混合油と灯油18リットルを購入。
軽トラックの返却期限を1日延長した光洋は、軽トラックに布団でくるんだ野田さんの遺体を乗せると、寒風山を目指した。
そして、橋の下の河原で野田さんの遺体に灯油や混合油をかけて焼いたのだった。

光洋はその場所に野田さんの遺体を埋めて立ち去ったが、その後何度も現場を訪れたという。
そのうち、どうやらここに何らかの調査が入ると聞いたことで、慌てた光洋は野田さんの遺体を掘り起こし、別の場所へ移動させようとしたところを逮捕されたのだった。

弁護人は、こう強調した。
「被告と野田さんはお互いをパートナーとして支えあっていました。その野田さんが突然死亡し、なぜ亡くなったのかわからず、自己保身の気持ちと後ろめたさ(過去の逮捕監禁事件)もあり、死体を損壊遺棄してしまったのです。
被告は野田さんが死亡した後、泣いていました。そんな被告が、野田さんを死に追いやることなどあるでしょうか?被告は野田さんを死亡させていません。よって、傷害致死は成立せず、また死体損壊遺棄についても減刑を求めます。」

光洋自身も、過去に通院歴があり、発達障害(ADHD)と診断されていたという。

たしかに、この傷害致死については密室の出来事であるために目撃者がおらず、また凶器などによる致命傷もない。
光洋がなんらかの理由で野田さんを死に至らしめたという合理的疑いの余地があるかどうか、裁判の争点はまさにそこだった。

「おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件②~」への2件のフィードバック

  1. 割と最近の事件なんですね。

    野田さんも気の毒な人だけど、軽度の知的障害があったんでしょうか。
    昔だからほったらかしで大人になってしまったんですかね。

    大人の男性同士でこんなに世話を焼くとかもあまり無いことだし、不思議です。

    1. ちい さま
      いつもコメントありがとうございます。
      野田さんは高卒なので知的に問題があったとしても軽度だったと思われます。
      おうちはそれでも割ときちんとしたおうちで、親御さんはきちんとされていたように思えました。
      この後、色々と展開していきます。ご想像通りか、はたまた驚愕か。
      お楽しみに。

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