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「家の中にまだ3人いるんだ!!!」
夜も明けきらぬ午前3時、住宅密集地にある一軒の家から火の手が上がっていた。木造2階建て、火の回りが早くおよそ80㎡がすでに焼け落ちようとしていた。
男性は近所の人らに羽交い絞めにされながらも、家族の名を叫び続けていた。
平成5年2月14日未明
火災が起きたのは北九州市小倉南区の住宅。
この家には夫婦と10代の長女、長男の4人が暮らしていたが、父親以外の母子3人の行方が分からなくなっていた。
救助された父親によれば、火が出た時間帯には妻と長男は就寝中で、長女は起きていたという。
後に焼け跡から3人の遺体が発見され、母子と断定された。
警察と消防の調べでは、現場に灯油をまいた痕跡があったことから、早い段階で放火の可能性が高いとみていた。
加えて、一人逃げ延びた父親の話が放火を裏付けることにもなった。
父親によれば、午前2時過ぎころから1階のリビングで転寝をしていたところ、突然後頭部を殴られその後しばし気を失っていたという。
そこへ、「助けて!」という妻の悲鳴が聞こえたことで目を覚まし、急いで妻と長男がいる2階の和室へ向かったところ、すでに和室が火に包まれていたというのだ。
父親は隣の部屋にいるはずの長女が心配になって部屋を覗くと、灯油のにおいがして、長女の部屋にも火の手が上がっていた。
そして長女もそこにいた。手に金属バットを持って。
父親に気づいた長女は、金属バットを振りかざして父親に殴りかかってきたため、もみ合いになったという。そうこうしている間に、父親の衣服にも火が燃え移ったために父親はそのまま家の外に逃げ出した。
長女はそのまま、炎の中に消えた。
家の外では、すでに火事に気付いた近隣の人が消火活動を始めており、逃げ出してきた父親も救助された。
父親は冒頭の通り、取り乱して家族を救うために再び家の中へ戻ろうとしたという。近所の人々は胸を痛めながらも、父親を必死で取り押さえた。
この火事で死亡したのは、この家の主婦・小副川(こそえがわ)美代子さん(当時43歳)、長男の剛くん(当時10歳)、そして長女(当時17歳)と断定された。
救助された父親も、後頭部に殴られたような痕があり、警察は父親の証言と現場の状況、そしてそれまでの家族の状況などから、長女が火を放ち、自身も死亡した可能性が高いとして捜査を始めた。
長女は素行に問題があり、両親は以前から心を痛めていたという。前年の3月には高校を中退しており、専門学校へ通ってはいたものの、帰宅が遅いことなどから家庭内では口論が絶えなかった。
父親も、前日の夕方の食事中に些細なことから長女と口論になったと話していた。その後、遅くまで長女の部屋に電気がついていることから、早く寝るよう注意した直後の火災だった。
長女は心に病を抱えていたのか。それとも、家族間で殺したいと思うほどの憎しみがあったのか。
【有料部分 目次】
家族の軌跡
夫婦の問題
その夜の真実
壊れゆく家族
快楽の沼
その女
バレンタインデー前夜
「もう、遅い」
死刑求刑
本来の人間性と、子供の障害
立ちはだかるあの事件
死刑と無期のはざまで