🔓逃げる女、追いかける男~3つのDVにまつわる事件~

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一度は愛した相手が肉体的、精神的、経済的、性的に暴力を振るうようになったら?
結婚前にはわからなかった、相手の本性はなぜか、そう簡単に別れることが難しいような状況になって初めて明かされることが多い。

たとえば結婚して、子供が出来るまでは、妻が仕事を辞めるまでは、家を妻の実家近くに建てるまでは……
男女問わず、相手の本性を知ったときにはすでに身動き取れない状況になってしまうこともある。

しかも厄介なことに、それらDVについて世間と被害者の受け止め方に大きなズレがいまだに存在するのだ。
束縛されるのは愛されているから、別れるなんて子供がかわいそう、専業主婦させてもらえるなんて羨ましい、女性からの暴力なんて可愛いもんだろう、そういうあなたにも悪い部分があるんじゃないの……

多くのDV加害者は非常に外面がよく、他人には良い夫、良い妻に見られがちである(人前でもやる奴はただのアホである)。だから被害者は相談しても周囲に理解してもらえず、そのうち相談すらできなくなり、自分が死ぬか相手を殺すかはたまた全員で死ぬかみたいな話に発展することもあるのだ。

配偶者ならば無理矢理SEXしたっていい、配偶者ならば子供の面前で罵倒したって良い、そんな勘違いをしている人は令和になっても山ほどいる。

配偶者であってもやっていいことと悪いことがあるという基本の事件、接近禁止命令下での凶行そして、邪魔した人を殺害した事件。
(以下の文章について無料部分有料部分にかかわらず、YouTubeその他への無断使用はお断りします)

宇都宮事件

平成15年11月12日午前3時。
栃木県内で子供らと暮らしていた女性は、就寝中息苦しさで目を覚ました。
暗がりの中で彼女が見たのは、自分の布団に馬乗りになっている人影だった。
「騒ぐな、静かにしろ」
驚いて声をあげようとしたその口をふさがれ、女性が恐怖で身動きも取れずにいたが、その人影が発した声に聞き覚えがあった。

それは別居中の夫だった。

女性は抵抗するも抑え込まれ、また以前から受けていた暴力を思い出し恐怖でされるがままになってしまった。
夫はそれをいいことに女性を強姦した。女性は後に警察に相談、この事件より前に夫には裁判所から接近禁止命令が出ていたこともあり、警察はこの夫を配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法・以下同)違反と住居侵入、暴行、そして強姦の罪で逮捕、起訴した。

夫婦のそれまで

夫(加害者) A子さん(被害者・事件時点での妻)

夫婦が出会ったのは平成11年。夫は当時既婚者だったが、店長として勤務していたカラオケ店で店員だったA子さんと親密な関係になった。
もともと多忙な仕事で、妻子の待つ家には月に10日ほどしか帰れなかった夫は、転勤で別の市に移動になってからもA子さんとの交際は継続していた。
平成12年、二人の不倫が妻の知るところとなり、当然妻は夫にA子さんと別れてほしいと頼んだが、夫がA子さんと別れることはなかった。

そしてその年の暮れ、A子さんは妊娠した。
夫はそれを理由に妻に離婚を申し出、平成13年の春からはA子さんと同棲生活を始め、夏にはA子さんが長女を出産。
平成14年5月、妻は慰謝料と養育費の支払いを条件に離婚に応じ、夫は9月にA子さんと入籍した。翌年には次女も生まれた。

不倫の末に妻から奪ったA子さんだったが、夫が多忙だったことで子育てには非常に苦労していた。加えて、夫の転勤で引っ越した先には友人もおらず、寂しさから携帯の出会い系サイトにハマるようになっていく。
そして、ある男性と知り合い、間もなく不倫状態になってしまった。次女が生まれてまだ半年しか経っていなかった。
しかもその不倫は夫にすぐバレたという。A子さんはこれ幸いと思ったかどうかは別として、なんとその不倫相手を夫に引き合わせた。どの面下げてやってきたのか男も男だが、夫に対し、「A子と結婚したいから別れてくれ」と言い放った。
驚いた夫だったが、傍らの妻A子さんがそれを黙って聞いているのを見て、これは本気なのかもしれないと思っていた。

その後、A子さんとその母親を交えて今後について話し合った際、A子さんが思い直し、不倫相手とは別れ、夫とやり直すと話したことから、夫もこれまでの仕事重視の生活を変え、移動が少ない本社勤務を会社に申し入れ、住まいもA子さんの実家に近い場所に変えた。それまで任せきりだった家事や子育ても、できる限り担うようにしたという。
しかしA子さんは不倫相手への未練を断ち切れておらず、引っ越して数日でその不倫相手との交際を復活させていた。そしてそれもすぐバレた。

ブチ切れた夫

夫は妻子を捨てて一緒になったA子さんのこの仕打ちに激怒、再度離婚を言い出したA子さんに殴る蹴るの暴行を働いた。それだけにとどまらず、性的虐待も行ったという。
不倫相手と夫との間で揺れていたA子さんだったが、この暴行によって離婚の意思を固め、最後に暴行された日、子供を連れて実家に戻った。

実家に戻ったA子さんは、実家とは別の場所に隠れていた。実家にいてはすぐに見つかるし、家族に迷惑がかかると考えたのかもしれない。
妻子に逃げられ、焦った夫は妻子を探し回り、一か月ほどしてようやく電話で話すことができた。しかしA子さんの離婚の意思は固く、夫の焦りは加速していく。
気持ちが変わるのではないかと強引にSEXしたり、無理心中をほのめかすなど常軌を逸しつつあった。

それに恐怖を感じたA子さんは、警察に相談。10月21日、宇都宮地方裁判所に対してDV防止法による保護命令の申し立てを行い、裁判所も10日後には夫に対し、夫の住居以外でのA子さんへのつきまとい、A子さんの自宅付近を徘徊してはいけないという保護命令を出した。
ところがこの裁判所命令というものの重さを夫はあまり感じていなかったようで、命令を受け取ったのちもA子さんが借りているアパート付近に行ったり、その後そのアパートを引き払ったことを知るや、あの手この手でA子さんの転居先を探し回った。

幼い子供を連れたA子さんはおそらく遠くには越していないと踏んで探した結果、夫は転居先を探し当てた。
しかしそこではぐっとこらえ、とりあえず自宅に戻った夫だったが、裁判所からの決定書やのちに開かれる離婚調停の呼び出し状を見ているうちに、やはり直接A子さんに会わなければ気が済まないと思い、12日の午前2時ころ自宅を出た。

8人産ませた男

裁判では当然ながら、法律を軽視した夫の行動は批難され、いくら現時点での妻であるとはいえその承諾なしに性行為を強いるというのはレイプであると認定した。
しかも夜間に侵入し恐怖感を与えたことや、保護命令が発令されるに至った経緯についても妻の気持ちが自分にないことは理解していたはずであり、それを理解した上での犯行は悪質とした。
一方で、たとえ寂しさからでも不倫に走り、それが露呈しても止めずにいたA子さんの落ち度も相当ある、としている。話し合いの席では不倫相手と別れると言いながら、その直後に再開させている点から見てもちょっとアレな人なのかなと思う。

そのあたりを相殺して、検察の懲役4年の求刑に対し、懲役2年6月とした。執行猶予はつかなかった。

多くの人はこのA子さんもたいがいやなと思うかもしれないし、私も思ってはいるのだがだからといってこんな目に遭っていいわけはない。ここは外せない。
相手に落ち度があるから犯罪被害者になっても仕方ないというのは暴力団同士にしか当てはまらない。これは特に男女間、家庭内の事件では重要になってくる。

ただこの夫、女性に対してどこか歪んだ見方をしているような気がする。
というのも、A子さんと結婚するまでに妻子がいたことは先に述べたが、その前にも妻子がおり、子供の数は合計8人もいるのだ。
最初の結婚は昭和63年。年齢が分からないのだが、この時は子が二人、そして元妻と再婚してここでは4人の子を「5年間」でもうけている。
しかもその5年間は月に10日ほどしか家に帰れないほど多忙だったにもかかわらず、だ。奥さんは年がら年中妊娠出産子育てをしていたことになる。
(注:実際に離婚成立したのは平成14年であるため、元妻との間に生まれた4人は実際には平成7年から平成13年までの7年間かもしれないが、平成11年にはすでにA子さんと不倫しており、いずれにしてもふざけんなバカ野郎である。)

そんな妻と子を、この男は他に好きな女が出来たからと、そしてその女との間に子が出来たからと、捨てたのだ。
そして、今度は自分が捨てられそうになると法律も相手の感情も無視して女性の尊厳を蹂躙したのだ。さらに残念なことにどうやらそれ(配偶者への性行為の強要)が罪になるとは思ってもいなかった。自己愛に満ち満ちた人間である(A子さんもそういう意味では同類とも言える)。

このA子さんの前の妻がそうだとは断言しないが、DVの中には妻が望まない妊娠出産を強いるというものもある。そして、短期間に無計画に出産させるのは多産DVとも言われている。
子供好きなだけ、そういう人もいるだろう。双方納得していれば問題はない。しかし中には妊娠出産を繰り返させることで女性を働けなくし、家に縛り付け子供を人質に取って言いなりにさせるといった明らかなDVも存在するのだ。

多産DVを行う男性には、中絶を強要するケースもある。要は、妊娠出産のコントロールを女性にさせないわけだ。全部夫(男性側)が決めているケースが多い。当然、避妊は一切しない。そして、この宇都宮の夫のように自分の都合でその妻子をあっさり捨てたりもするのだ。
これはもう、女性を所有物としてしか見ていないと言われても仕方ない。

判決が出るまでの間、この宇都宮の夫は長期間の拘留の中で自分がしていたことの重大さに気づき、大いに反省したというが、正直なところはそう簡単に変わるものではない気もする。

【有料部分 目次】
吉野川DV殺人事件
事件発覚
夫婦のそれまで
逃げたやつが全部悪い
子供の面前での凶行
法に対する挑戦
赦されない
福岡DV被害者友人殺害事件
結婚直後に見せた本性
心の奥底の殺意
私たちも死んでほしいと思っている
弱いひと