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新生児殺しの理由
いくつかの例を取り上げたが、中絶ではなく生んでから殺害する、遺棄するというのはどういった心理なのか。
作田氏は、出産直後というのは女性も母性愛というものが希薄な時期であるため、と述べている。
特に、アノミー型の場合はそもそも初産である場合が多く、それまでの出産や子育てで経験として得る子供への愛情などは持ち合わせていなくても不思議ではない。
一方で間引き型によるものの中には、不幸にして死亡してしまったものを遺棄したケース、結果として殺害遺棄に至ったものの、写真を撮ったり、母乳を与えるなどかすかな愛情が垣間見えるものが多い。
また、「今しかない」と考えてしまうというのもあるだろう。これ以上そばに置いてしまうと決心が鈍る、そういう思いもあるのではないか。
ではなぜ、中絶しない、出来なかったのか。
これについては、単に中絶費用を捻出できなかった、中絶の意思はあったが時期を逸していた、といったもののほかに、保育士のケースに見られるような、男性側の甚だしい逃げ、無責任、または那須塩原市の遺棄事件のような夫の見て見ぬふり、疑心暗鬼、そういった態度に女性が悩み、希望にすがるうちに日数が経過してしまう、そういったものもある。
さらに、八幡浜市のケースでは、最初こそ費用と思いがけない早産からの問題であったものが、それ以降は中絶をしようと思ってすらいない節がある。
もっというと、二度と同じことをしないように、ではなく、そうなったらまた同じことをすればいい、といった開き直りというか、本人なりの解決策が見て取れる。
ただ、それらの事件に共通するのは、周囲の人間(主に家族、交際相手)の明らかな見て見ぬふりである。
よく、妊娠に気付かなかった、という家族の証言があるが、絶対嘘だ。いや、正確に言うと、妊娠を疑い、またはうすうす感づいていながら、それを本人に「あえて」確認していないのだ。
事実、那須塩原のケースでは、夫は妻の妊娠にも出産にも気付いていた。にもかかわらず、「問題があれば言ってくるだろう」と、すべてを女性側に丸投げしていたのだ。
八幡浜のケースはどうだろう。ほとんどが売春の相手であることから、そもそも妊娠の事実を生物学上の父親が知るすべはなかったわけだが、それ以前に妊娠させる可能性が高い行為をわかっていてやっているのは事実であり、ここにも女性を人間としてみていないのがありありと見て取れる。
実際、映美は公判で、「男性たちはお金を出しているのだからと、ひどいことを言ってきたり私をモノのように扱った」と話した。
もちろん、これは映美にも大きな問題がある。日銭を稼ぐためとはいえ、数千円の上乗せのために妊娠というリスクをとるのはあまりに無謀だ。
たった数千円、などというつもりはない。その数千円のために体を張る女性は他にもいるし、私は彼女たちを浅はかだ、愚かだと馬鹿にはしない。明日払う数千円が捻出できなかった経験があるからだ。幸い、私には頼れる実家があったからよかったが、そうでなかったらその日のうちに風俗の面接を受けていたかもしれない。
せめてピルを飲む、などの予防策はとるべきだったろうが、そもそもその金も映美には惜しかったのだ。もっというと、きちんと病院に行けば処方してもらえるものだという知識も、なかったのかもしれない。
そんな映美のおなかが膨らんだりしぼんだりしているのを、他人が気付くのに同居の父と弟が気付かない、そんなことがあるわけがない。
この父親と弟も、家の中の見たくないものには目をつむり、耳をふさいで生活してきたのだ。何も聞かなければ、知ることもない。気付いていても、それを口外さえしなければ、本人に確認さえしなければ、自分は何も知らなかったのと同じ、彼らは勝手にそう思い込むことで、保身を図ったのだ。
妻や娘に、なにからなにまでを背負わせて。
情報と選択肢の提供
今、緊急避妊薬(アフターピル)を薬局で自由に買えるように、との動きが起きている。
現在では、医師の処方箋のもとでないと服用が原則できない状態(アプリでの診察をうたうものもあるが、原則対面診察(オンライン、医院での診察など)が必要)で、オンライン診療可能な場合でも身分証の登録が必要なことがある。
個人輸入や通販サイトで購入する手もあるが、そもそも本物かどうかの判断は難しく、手元に届くまでには時間もかかる。緊急避妊薬は72時間以内の服用となるため、通販やオンライン診療での配達は場合によっては意味をなさない可能性も高い。
だからこそ、誰もが迅速に緊急避妊薬を薬剤師がいる薬局で購入できるようにしてほしいという声が高まっているのだ。
副作用等は現在ほとんどないとされ、医師の処方箋が必ずしも必要なものでもない。
この利用が今よりもスムーズになれば、中絶手術を受ける際の精神的、肉体的負担は軽減され、費用の面でも格段に経済的だ。
もちろん、これによる弊害もあるにはあるだろう、アホな奴はこれ幸いと避妊をしなくなるかもしれないし、性病の問題もあるかもしれない。
しかし、避妊をしてほしいのに聞き入れない相手はあなたのことを愛してなどいないということをわかるべきだし、この際そういうことも教えればいいのだ。
それよりなにより、緊急避妊薬が普及し、誰もが今よりうんと手軽に使えるようになれば、女性の意思で後からコントロールすることが可能になる。それの何が悪いのか。
岡山の保育士のケースでも、もし、緊急避妊薬が手に入る状況で、かつ、それにたどり着くための手段などを周知できていれば、彼女はこんな悲しい事件を起こさずに済んだかもしれない。
妊娠検査薬を試すにも、それは次の整理が来るか来ないかをはらはらしながら待たなければならず、しかも陽性だったらば中絶手術を受けるか産むかしかないのだ。それがどれほど精神的、肉体的にきついか、わからない人は何も難しくない、簡単なことだうだうだ言わずに黙っていればいいのだ。
他にもある。里親制度、特別養子縁組制度など、法務局でしか見かけないポスターを町中いろんなところでもっと貼ればいいのだ。
学校でもしっかりと教育として取り入れ、子供のころからそういう仕組みがあるということを教えるのだ。
避妊をしなければ1回だけでも妊娠する可能性があるということ、望まないならばSEXには慎重にならなければならないということ、もしも心配な場合は相談できる場所があるということ、緊急避妊薬というものがあるということ、そして、誰も怒ったり白い目で見たりしないよ、むしろ、話してくれてありがとう、えらかったねということも。
その時機を逸しても、中絶は悪ではないということ、育てる気で産んだけれども難しくなったらその子を待っている人に託してもいいんだということ、一人で抱え込む必要はないんだということ、たとえ手放してしまっても、あなたは手放すことでその子の命をつないだんだということ、そういったことをもっともっと情報として出していってほしい。
特別なことではなく、それもありなんだと教え、受け入れることを私たち全員がしていかなければならない。
簡単にはいかないかもしれないが、情報を出し、周知していくことは難しくないはずだ。
どんなデメリットがあろうとも、命懸けで産んだわが子をその手で殺す、そんな結末よりも全然マシなはずだ。
特に、若い女性による新生児殺しは、たとえ社会的に援助の仕組みが整っていたとしても、彼女ら自身にそれを知り、利用する力が欠けているケースが多く、支援を充実させることが解決ではない。
先の女子少年による新生児殺しの場合、18例中16例は、病院にすら行っていない。
パチンコ店のトイレに行くと、DV被害相談支援センターのステッカーが貼られていることがある。これは、誰にも相談できない女性が一人きりでそれに向き合える瞬間を提供している。
そのように、母子支援に取り組む行政や団体にはぜひ、情報や受け皿の周知に励んでもらいたい。ファストフード店、ショッピングセンターのトイレ、ゲームセンターやカラオケ店、図書館やスポーツ施設のトイレなど、いくらでも場所はある。
昔のような、一部の非行少女にだけ起こり得ることではないのだ。むしろ、そうでない少女のほうが、経験している友達がいないことからも途方に暮れることは多いし、親になど口が裂けても言えないだろう。
新生児殺しは、「殺すのではなく生かさない選択」といえる、と、宮城学院女子大学の鈴木由利子非常勤講師は述べている。これは、時代を超えて共通する意識、とも述べている。
もちろん、どんな事情があっても殺人や死体遺棄は許されるものではないが、妊娠を一身に背負わされ、産む産まないの選択すら自由にならず、女であるというだけですべての判断と責任を押し付けられた挙句に、命を削って産んだ我が子を生かさないと決めざるを得なかった彼女たちの涙の陰には、彼女らの苦しみを知っていたくせに黙って知らん顔をし続けた者たちの存在があるということを忘れてはいけない。
それが悪意であろうとなかろうと、彼らはとてつもなく無責任で、ズルかった。
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参考文献
嬰児殺が起きた「家族」に関する実質的研究
発行者 社会福祉法人横浜博萌会 子どもの虹情報研修センター 平成31年3月20日発行
平成22年度 児童の虐待死に関する文献研究
発行者 同上
最後までお読みいただきありがとうございます。こちらから1文字2円のコメントが送れます。
いただいたお気持ちは資料集めに使わせていただきます。
はじめまして。
こういう事件は、いつも女の人だけがふしだら、身勝手だと悪く言われるばかりで
妊娠させた男性の軽薄さや不実さを問う声ってあまり聞かれないですね。
(たまにあるけど、簡単に股を開く女が悪いって返されてた)
身近で起きた新生児遺棄事件の裁判で、被告人が「一生背負っていく」と涙を流した。地元の新聞記事にそう書いてありました。
私は、この罪を背負わないといけないのは被告人だけではないだろうと憤りを覚えました。
この事件で亡くなった赤ちゃんの父親だった男、今回たまたまそうでなかっただけの男。
両者は法で裁かれることがなくても大罪人だと思っています。
今回この記事を読むことができてよかったです。
ちー さま
初めまして、コメントありがとうございます。
なぜかチェック漏れでコメント非公開になっており、申し訳ございません。
私個人としては、女性も浅はかな部分は否めない、けれど、女性だけが悪しざまに言われ、しかも罪を背負わなければならないというのは酷だと思っています。
もちろん、合法的な選択肢はあるわけですから、それを逸脱したのは責めを負う必要はあるでしょう。
しかし、おっしゃる通り、父親に当たる男性には、一切責任が問われないというのはさすがにおかしいと思います。
また、父親だけでなく家族の見て見ぬふり、これも問題だと思います。
少しでも早く、女性が自分の意志で妊娠の継続を判断し、精神的、肉体的に負担の少ない選択肢がひらかれることを願います。
早速お返事ありがとうございます。
気分を害するなんてとんでもない,いろいろ議論ができて嬉しいです。
書いているうちに論点がずれてしまいましたが大丈夫でしょうか?
備忘録さんの中でも結論が出ていないのですね。
私のような考えが日本にかつて息づいていたとは驚きました。
特殊で醜い考えだと思っていたので,少し安心しました。
でも,新生児であろうと尊い命を奪うのは倫理的にいけないことだとは理解しているつもりです。
学生時代になりますが,交際していた相手から過去に二度中絶をしたと告白を受けたことがあります。
その女性は出会い系で行きずりの関係を繰り返していたセックス依存症で,自ら避妊を拒否して不特定の男性と性交渉を繰り返していたとのことなんです。
そのことを信頼していた学校の先生に相談したところ,「彼女は二人の人間を殺しているんだよ」と蔑むような眼で言われたことを覚えています。
それ以来,中絶は殺人に等しいという考えを持つようになりました。
ですが,それぞれの女性や家庭にはそれぞれの事情があり,一概に中絶が悪なのかと悩んだりもします。
難しい問題ですね。
はい!
いつも読ませていただいていますし,これからもお話をしていきましょう。
今回記事にされた事件も判決文が手に入らないか探してみますね。
折原さん
ちょっとその先生のご意見も、極端ですね…
彼女がセックス依存になったのには理由があるはずですし、強い言葉でさげすんだところで何も生まれないですからね
でも、極端だけれど、じゃあ間違ってるか?と言われたら、そうとも言えない。
だからこそ、言い方というものには気を付けないといけませんね。
調べていて思ったんですが、若林映美(八幡浜)の人生がこれほどハードだったとは思いませんでした。
弟は持病があってなかなか思うように働けず、映美の長男も程度はわかりませんが障害があったそうなんです。
出所したら、もう一度しっかり自分を大事にして生きてほしいです。
また資料などお願いすることが多々あると思います、よろしくお願いします!
こんにちは。
私はちょうど20年前に中絶しました。妊娠が判明した時、当時付き合っていた彼はのらりくらりとしてなかなか返事を返してくれませんでした。
私は自分の母親に相談したから、答えが出ないならあなたも親に相談して欲しいとお願いしたら「俺の人生を壊す気か!」と鬼の形相で怒られました。
その後、彼は泣き落とししてきました。
私もなかなか決められず、そして悪阻で体調も悪化して動けず(嘔吐で10kg痩せました)、産婦人科で予定していた2度目の検診(産むのか中絶するのか答えをだそうという日でした)をキャンセルしました。
看護師さんとの電話を切ってしばらくして医師本人から直々に折り返し連絡があり、「正直時間がないです、これ以上日数が過ぎると産む選択になる」と叱られて目が覚めました。
このまま産んでも私は後悔する。形だけ育てることはできても必ず後悔の想いが表に出て生まれた子どもは不幸になる、と思い中絶を決めました。
中絶をしてしまったことは20年間忘れられません。でも間違った選択はしていないと今も思っていますし、当時の医師には感謝しています。
今私は2人の子がいます。
当時の彼は私と別れた後の彼女も中絶をする結果になったようです。
「俺の人生壊す気か」
女性は妊娠した時点で人生が変わります。堕胎しても体は妊娠経験有りとなります。
婦人科の問診票を記入するたびに思い出すのです。
Y さま
つらいご経験をお話しいただき、ありがとうございます。文中、不快な思いをよみがえらせるようなことがあったかと思います。
申し訳ありません。
Yさんに限らず、どうしよう、どうしようとなってしまったら、また、相手の反応も関係する場合は、時として自分の聞きたい言葉にだけ耳を傾ける、そんな心境にもなりがちです。
でも、Yさんは自分を見失わなかった。本当にその判断は正しかったと思います。
もちろん、産む選択をしたとしても、それはそれでまたあり、だったかもしれませんが、Yさん自身が「間違ってなかった」と思っていらっしゃるのが一番だと思います。
良いお医者さんに巡り合えたのもよかったですね。
今後もずっと幸せでありますように。
こんにちは。
今回もいろいろ考えさせられる内容でした。
過去に交際相手に辛く当たって来た経験が多く,一人の男性として,無責任な言動は慎むべきだと改めて感じました。
私の家は非常にお堅い家庭で,幼い頃から性的なことは臭いものに蓋という対応でした。
なのに私が無知だと「お前は非常識だ!」と責められました。
じゃあどこで教わるのか。
学校の授業でも教わった記憶がありません。
親は人付き合いの中で自然と身につくものと考えていたらしく,非常に無責任だったと今でも思っています。
たとえば私が女性を妊娠させてしまったとしても,親に打ち明けることはできなかったでしょう。
備忘録さんは「中絶は悪ではない」とおっしゃっていますが,中絶と新生児殺しの違いはどのようにお考えですか?
法的には中絶は合法,新生児殺しは違法という違いがありますが,倫理的にどうなのかと考えると答えが出ません。
妊娠した時点で新しい「命」であり,中絶は「殺人」に等しいという意見も耳にします。
殺人という行為を別の視点から見ると,殺人が違法なのは,誰もが「死にたくない」「殺されたくない」と思っているからであり,生きる権利を侵害しているからこそ違法なのだと思います。
であれば,まだ物心のつかない新生児を殺すことはなぜ罪なのか。
中絶とどこが違うのかという壁にぶち当たってしまいます。
私は生きづらさを感じるたびに,生まれてこなければよかった,幼いうちに殺されればよかったと感じることがよくあります。
だから批判を覚悟で言えば,新生児が殺されたと聞いても,社会の辛さを感じずに死ねて羨ましいとさえ思ってしまうのです。
物心がついてからの殺人であれば別です。
備忘録さんのようにお子さんを授かると考えがかわるのでしょうか?
私は子どもが欲しいと思ったことは一度もありません。
元来子ども嫌い(言葉が通じないから)で,子どもを授かっても虐待して殺してしまうという確信のようなものがあるのです。
厳格な家庭で育ったから,子どもはもっと自由に育ててあげたいという考えがありますが,果たして子どもはそれを望むのか?
それは単なる親のエゴではないか?
親にほったらかしにされた以前の恋人とはそのことで何度もぶつかりました。
放任された彼女は親との関りを求め,逆に私はそれを干渉と感じる。
結局答えが出せませんでした。
長々と失礼いたしました。
ご気分を害されたら申し訳ありません。
ですが今後ともよろしくお願いします。
折原さん
いつもお世話になっております、コメントもありがとうございます!
さて、今回は特定の事件ではなく、新生児殺しというものに焦点をあてて見たのですが、こちらこそ、人によっては不快に感じることもある内容だと思ってます、ご不快でしたら申し訳ないです。
折原さんの仰る、中絶と新生児殺しの差、ですが、正直いうと私もこれだ!という答えはないのです。
個人的な考えでいえば、中絶は避けるべきことだと思う一方で、この家庭には、この人の元には生まれない方が良かったのでは、という随分と上からの考えを持つことも。
それから、物心つかない新生児を殺すことについてですが、折原さんのお考えは実は日本で長く根付いてきた考えなのだそうです。調べた論文の中にまさにそういったことが書かれておりました。
生まれて間もなければないほど、罪ではないというか、許されやすかったというのがあったそうなんです。
ただそれは、いわゆる間引き型に見られるような、「殺すのではなく生かさない」という背景があって、現代のように明日死ぬかも、みたいな貧困世帯がほぼほぼない中では、その考えも薄れていったのではないかと思います。
折原さんの生きづらさを理解することは出来ませんが、社会のつらさを知らずに天国へ行けることに羨ましさを感じるというのは、何となくわかる気がします。
大変難しい問題ではありますが、それぞれの考えはあって良いと思っています。気分を害すなんてとんでもない!笑
今後もこういったお話をしていける関係でありたいです。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!