おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件⑩

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論告求刑

検察は、3つの争点と情状面について意見を述べた。
一つ目は、傷害致死の成立にかかわる、野田さんが病気や事故によるケガで死亡したのではないという点。
死因は外傷性ショック死で、多発ろっ骨骨折や硬膜下血腫、肩にあった帯状の圧痕などの複数の要因が重なり、ミオグロビン血症からのショック死である。
生前外傷は野田さんの自傷とは考えられず、また、警察官による直前の対応、防犯カメラの様子からも、野田さんが死に至るような怪我を負っていなかったこと、たとえどこかで転んでいたとしても、1度の事故で負うような怪我ではないことをここでもう一度確認した。

古宮医師による所見では、他者によってもたらされた殴打痕、圧痕なども見られ、セカンドオピニオンでも同様の回答を得ていることなどを強調した。

私は裁判の中で、この野田さんの肩に残された帯状の圧痕がどうもよくわからなかった。
普通、人を縛るとき、手首を前か後ろで縛る、というのが一般的に思えたし、リュックを背負った際にちょうど肩紐がくるような位置を縛ってどうなるんだろう?と思っていた。
しかし、当初から検察も弁護側も、この圧痕についてはかなりこだわりを見せていたのだ。
そこがどうにもよくわからなかった。なぜこれにこだわるのかと。

その答えは、8月の逮捕監禁事件にあった。
助けた宮司が撮った野田さんの写真がモニターに映し出されたとき、私は息をのんだ。
縛られた状態の野田さんのその両肩に、まさに遺体に残されていたと同じ場所、状態でヒモがかけられていたのだ。
この8月の逮捕監禁は、光洋が縛ったことが認定されている。そもそも光洋以外にいなかった。
こんな縛り方は、誰もが思いつくような縛り方ではない。それと同じ場所に残された圧痕、これこそ、光洋が野田さんをその日長時間にわたって縛り上げていた証拠ではないのか。

弁護側が執拗に縛ったことを認めないのも、頷ける。

二つ目は、人物特定の根拠である。
野田さんにけがをさせて死に至らしめたのは誰か、という点だ。
野田さんが死亡していたのは自宅であること、これは光洋の供述でわかったことであるから、その点に争いはなかった。
弁護側が主張するような、家出中に大きなケガをしたのでは、という点も、先ほど述べた通り警察官と防犯カメラの映像から少なくとも自転車を普通にこげており、肩と太腿のけがはしていなかったことは明らかである。
野田さんが死亡した後、光洋は野田さんを担ぎ上げ、一旦庭先へ出た。その際、誤って野田さんを頭から落としてしまったという。この点は弁護側も認めている。
しかし、実はこの時、光洋は野田さんをドラム缶の中に落とし込んでいたのだ。
ドラム缶に遺体を入れる目的は、そのままコンクリ流し込むか、焼くかのどちらかである、異論は認めない。
この時点で光洋の心に、野田さんの遺体を損壊する意図があったのではないか。
さらに、検察は野田さんが死亡した後の光洋の行動に言及した。

光洋は、母親に電話をした際、「野田さんが死亡したことを伝えるつもりだったが、伝えられなかった」としか話していなかったが、実は、「軽トラを貸してほしい」と頼んでいたのだ。
当時父親とケンカしていたため、事情など露ほども知らない母親は「お父さんとケンカしてるのだから貸せない」と言って断っている。
このことを問われた光洋は、「洗濯機を移動させる予定があったから(貸してほしいと頼んだ)」と言ったが、なんで野田さんが死んで横たわっているパニック状態で、洗濯機を動かすことなどを考えるのか。この言い訳には呆れてしまった。

また、ホームセンターで草刈機のレンタルをしていたことは先に述べたとおりだが、これにも実は光洋の「企み」が窺われた。
光洋は野田さんが死亡した後、結構な人数に対して「野田さんはよそへ仕事に行っている」という話をしている。
その際に、「草刈りをやらせてみたらできた、なので草刈りの仕事なら野田さんにも勤まるから」と言っていたのだ。
まさに、ホームセンターでの草刈り機レンタルは、そのでっち上げた話に信憑性を持たせるためにしたことではないか。
しかしこれについても、「もともと草刈りをする予定があった」と光洋は答えたが、だからなんで野田さんが死亡した直後に「あ、草刈りしなくちゃ」などと思うのか。どう考えても笑いが出るほどありえないのだが、光洋は大まじめに言い切ったのだ。
検察は、このような隠ぺい工作は、野田さんの外傷を隠したいがためであり、それはまさに光洋本人がつけた傷であるという負い目があったからで、知人らに野田さんが生きているかのように装ったのも疚しさがあるからしたことだと断言した。

ふたりの証人の話も、具体的であり他の目撃証言とも一致するなど整合性があって信用できるとした。

そして、光洋と弁護人が主張するそれぞれに対する「いいわけ」を否定できるとし、光洋が犯人ではないという疑いをはさむ余地はない、とした。

三つめは、光洋の責任能力である。
実は光洋は通院歴があった。複数の心療内科に通った履歴があり、光洋自身の口からも過去に被害妄想に陥るなどの症状があったことが述べられていた。
しかし、通院と言っても長く通っておらず、仮に発達障害や被害妄想などがあったとしても込み入った隠ぺい工作や嘘をついている点から自分自身が「やましいことをしている」という自覚があったとした。
その上で、病気がそうさせたのではなく、光洋の元来の性格、人格によるものだとした。

情状面についても、まさに死人に口なしの状態で言いたい放題の光洋を厳しく断罪し、落ち度のない野田さんの財産を搾取し、挙句死に至らしめ、さらには遺体を損壊するなど、死者に対する畏敬の念すら持ち合わせていないとした。
野田さんは母が遺した財産を取り上げられ、両親が遺してくれた生まれ育った家で命を奪われた。
当時9歳の妹を亡くし、その10年後には父を、そして母も亡くした野田さんには、野田さんの死を悼み、遺族としての悲しみを訴える人の存在がなかった。それをいいことに、光洋は言いたい放題、自分の都合のいいことばかりを訴えていた。
焼き棄てられた野田さんの体の一部は、まだ発見されていない部分もある。
情状証人として出廷した光洋の両親の証言が全く心に響かなかったのは言うまでもなかったのだろう、言及すらされなかった。

求刑懲役16年

検察は、前例の提示として単独犯、被害者に落ち度がなく、示談に至っていないケースをいくつか挙げた。
5年以下というものについては、家族間の突発的な事案であるため参考にならないとし、10年以上に相当するとした。
暴力で支配し、かつ、金銭を搾取するなどといった今回のケースは、傷害致死だけでもかなり重い部類に入るとし、そこへ死体損壊、遺棄が加わるということ、反省の色もなく、それぞれを個別に考えても一つ一つが悪質であるとして、懲役16年を求刑した。

対する弁護側は、8月の逮捕監禁事件で野田さんを縛っていた事実が独り歩きしていると、検察を非難した。
警察からもたらされた、過去に縛られていたという情報を鵜呑みにした解剖医が、その思い込みで検案書を書いたというのだ。
さらに、ふたりは社会からあぶれた者同士で、お互いを思いあっていたと強調。
そんな光洋が、野田さんを死なせるわけがない、そもそも致命傷が何かすらもわからず、立証不十分である。そこで傷害致死は成立せず、また、認めている死体損壊遺棄についても責任能力が著しく減退していたことは明白であり、逮捕から2年も拘置所暮らしをしていることで刑務所に入っていたも同様であるから、死体損壊遺棄については執行猶予を求めます!キリッ!みたいなことを言っていた。
要するに、弁護側としては傷害致死は認めないから無罪、死体損壊遺棄も執行猶予が妥当で、実質刑に服す必要性を感じない、というわけだ。

その理由について、いくつか述べてはいたが、その中で許せない発言があった。
野田さん自身が、必死で世話を焼こうとする光洋の思いを軽んじ、その思いを無碍にしたこと、そしてそれは、献身的に介護を行う人間が「思わず」虐待に走ってしまうケースに似ている、と言ったのだ。
率直に腹が立った。それはただの弱い者に対する驕りではないのか。世話をしてやっているのに、こんなに一生懸命やっているのに、思い通りにならない、感謝してくれない、だから叩く、やりすぎて死亡させたとして、それは酌量に値する理由なのか。これがまかり通るのであれば、介護に限らず育児にも当てはまるではないか。そんなことはあってはならない。

弁護人までもが、言いたい放題という印象はぬぐえなかった。遺族が傍聴していても、これが言えたのだろうか。
野田さんの命がこれほどまでに軽いとは、私は言い知れぬ恐怖すら感じていた。

保険金を折半したのも、一般的には理解しがたいかもしれないが、それほどまでにふたりは結びついていて、特別な関係であったのだと述べた。
さらに、証人に立った久保田さんがそもそも保険金を狙っていて、それから守るためにした行動なのだと言い放った。

そして最後に、弁護人はこう締めくくった。

「過去には縛ったが、今回は縛ってないのです!」

判決

令和2年2月7日。高知地裁は光洋に対し、求刑通りの懲役16年の判決を下した。
検察、証人による証言を全面的に認めた内容となった。
ひも状のもので野田さんを拘束し、一方的に激しい暴力を加えた挙句死に至らしめた一連の行為は許されざることであり、野田さんの無念は計り知れない、と裁判所は野田さんの心に言及してくれた。
さらには野田さんを思って両親が遺してくれた財産を奪うなど、身勝手極まると厳しく光洋を非難した。

8月に逮捕監禁行為が発覚し、両親らの知るところにもなって反省する機会を得たにもかかわらず、同じ行為によって野田さんを死亡させたことに加え、野田さんが生きていた証までも抹殺するような行動をとっており、その罪は重大であるとした。

前科がない、両親が更生に尽力すると証言したことを鑑みても、光洋にとって優位に判断は出来ない、と締めくくった。

弁護側は、「控訴については被告人と相談して慎重に判断します」と言葉少なだったが、わたしはなんとなく、控訴するだろうなと感じていた。

「おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件⑩」への4件のフィードバック

  1. 事案内容にして軽く、問われた罪に対して重い判決ですね。
    丁寧に証拠を積み重ね証人の証言と重ね合わせても殺人には問えず、傷害致死として断じるしかないといった検察側の苦悩がうかがえます。
    弁護士ついてはそういう職業なので怒りの気持ちをむけるのはよした方が良いかと思います。悪いのはあくまで被告なのですから。
    ただ本件に関しては弁護費用が被害者さんから略取した金員で支払われているかと思うと被告に対しての怒りがますますこみ上げます。
    弁護方針で裁判員、裁判官の心証をすこぶる悪くさせ重い量刑に導いている印象もあります。
    これが嘘でも良いから反省しているふりをしろ、と両親にも吹き込んでシナリオを作成するタイプの弁護方針であったならもしかしたらもっと軽い量刑になってしまっていたかもしれません。

    1. 倉知さま
      コメントありがとうございます
      弁護士に対して、ではなく、その発言内容にイラついた、というのが正しいです。弁護士が仕事でやってるのは分かるので、今回に限らず被告人に有利になるように主張するのはもっともなこと。
      でもその手法ひとつで、良かれと思っての事が被告人に不利に働くこともありますね。
      その辺、弁護士さんがいかに一般的な感情を持ってるかにかかってるのかなと感じます。
      今回の弁護士さんはお若い方ばかりだったので、アラが目立ったのかもしれません。

  2. 家族がいない人にやりたい放題がまかり通る感じですね
    家族がいなくても民事裁判で損害賠償ができる&他の犯罪被害者に支払われるような制度が欲しいです
    家族がいない人が狙われ易い感じなので

    1. 田代まさしファン さま

      コメントありがとうございます。
      本当にその通りですね。今のように、払えなければ払わなくて良い、そんな状態は有り得ません。
      被害を受けた人が救われる司法制度であって欲しいですね

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