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人が罪を犯すには多くは理由がある。他人から見ればバカバカしいようなことでも、本人には大問題、それこそ生きるか死ぬかというレベルに思えることもある。
大人でもそうであるなら、経験も知識も感情の制御も未熟な少年少女はどうだろう。
ただでさえ、思春期から成人するまでの年頃というのは、将来への漠然とした不安や、それまで正しいと信じてきた教師や親、ひいては社会全体への不信感なども芽生えるわけで、その自分でもどうしようもない苛立ちをそれでもどう昇華させるかは、だれしも苦く恥ずかしい思いと共に経験してきたことである。
親とぶつかり、友達とぶつかり、学校と社会とぶつかりながら、利己的な考えを改め、感情を抑え、時に理不尽に耐え、他人と一緒に尊重し合いながら社会で生きていくということを学ぶ。
それが出来なかった、あるいはそれ以前の問題だった少女たちはその時、なにを思ったか。彼女たちが起こした取り返しのつかない結末と慟哭。
広島の18歳
昭和59年12月、広島県三原市の通称白滝山のふもとで不審な男女が目撃された。中年男性と、少女。冬の午後6時といえばもう辺りは真っ暗だった。こんな遅くまで、こんな場所で何をしているんだろう?
まさか、自殺?
気になった通行人が声をかけると、男性は躊躇する様子を見せつつも、事情を話はじめたが、それは驚くべき内容だった。
13歳の遺体
「娘が、友達の女の子を殺したと言っていて……」
通行人は半信半疑ながらことがことだけに、警察へ通報。のちに警察が事情を聞いたところ、父親と一緒にいた高校3年生の娘が、幼馴染の女子中学生の首を絞め殺害したと供述。
警察が付近を捜索したところ、白滝山の砂防堤で倒れている少女を発見、死亡を確認した。
死亡していたのは広島県内在住の中学生、力田実穂さん(当時13歳)。逮捕されたのは実穂さんの家の近所で暮らす江梨子(仮名/当時18歳)だった。
調べによると、この日の午後、江梨子は実穂さんを誘ってこの白滝山へと出かけたという。しかし夕方になっても帰宅しないことから江梨子の父親が白滝山へ迎えに行ったところ、ふもとで動揺している江梨子を発見したということだった。
家が近く、子供のころから姉妹のように仲良く育ってきたという江梨子と実穂さん。ただ最近では、以前のような仲の良さではなくなっていた、という話もあった。
憎うて、たまらんかった
ふたりが小さい頃は本当に仲が良く、おそらく家族ぐるみのような付き合いだったと思われる。
しかし5歳の年の差は、次第に成長のずれとして二人の間に立ちはだかった。
江梨子は大学進学、しかも薬学部を希望していたということからも、平均より勉強ができる少女だったようだが、両親はその進路に反対だったという。
私自身は被害者の実穂さんと同年代だが、確かにその時代、看護師を目指す女子生徒はいても薬学部というのはかなり少なかったように思う。当然ながら薬学部ということなら大学も6年必要で、その分費用もかかる。もしかすると、経済的な事情もあって反対されたのかもしれず、それについてはこの時代おおいに有り得た話である。
彼女らが育った場所は広島県内でも田舎であり、この時代で広島県内の薬学部といえば広島大学か福山大学で、いずれも車で、かつ現在の道路状況なら1時間ほどの距離であるものの、当時の状況、ましてや電車を乗り継いでの通学は片道2~3時間かかり非現実的だった。となると必然的に下宿、寮、一人暮らしとなりそのあたりも女子にとっては家族の理解を得られにくかったかもしれない。
さらに言えば、大学への進学自体を反対されていたのかもしれない。
高校3年の2学期の終わり、もう、時間がなかった。実は事件のあった日の翌日には進路判定作業が始まる予定となっており、この時点で両親との間で話がまとまっていなかった江梨子はかなり焦っていた。
事件の数日前には父親と、そして事件当日の午前中にも母親と激しい口論となっていたという。
その数時間後、江梨子は思いついたように近所の実穂さんを白滝山へ誘った。
被害者の実穂さんも、江梨子同様に成績優秀、性格も朗らかで何の問題もない中学生だった。この昭和の終わり、多くの家には弾ける弾けないは別にしてピアノがあり、実穂さんはそのピアノも非常に上手だったという。
仲良しだったふたりの間に波風が立ったのはその年の春。江梨子が高校3年に上がってからだった。
進路について親と対立した江梨子は、その朗らかな実穂さんの振る舞いが癇に障るようになっていた。実穂さんが何かしたとか、そういった話は出ていない。実穂さんはそれまでと変わらずにいたにもかかわらず、自身の苛立ちの矛先を江梨子に向けられる羽目になった。
それは実穂さんが弾くピアノの音にまで及んだといい、ある時江梨子は実穂さんに直接、「ピアノでイライラする」と告げている。実穂さんはそれ以来、ピアノを弾くのをやめた。
しかしそれ以外に2人の間の問題があったような気配もない。ただひたすら、江梨子は天真爛漫で明るく振舞う実穂さんに勝手にどす黒い感情を募らせていたのか。
報道は江梨子を逮捕したところで終わっている。18歳であるものの、当時の状況を考えれば少年院送致になったと思われるが、江梨子は取り調べで
「実穂ちゃんが憎い。憎うてたまらんかった」
と話している。
白滝山の砂防堤付近には、お菓子の空き箱が残されていたという。実穂さんはあの日、江梨子に誘われておそらく嬉しかったのではないか。姉のように慕っていた江梨子の問題は、おそらくピアノの音が聞こえるほど近いところに住んでいた実穂さん方にも知られていただろうし、実穂さんも江梨子のその苦しみを知っていたから、おとなしくピアノを弾くのをやめたのだろう。
ひさしぶりの幼馴染のおねえちゃんとのおでかけ。ふたりの間にどんな会話があったのかはわからないが、実穂さんのそんな思いとは裏腹に、江梨子の心はもうどうしようもなく黒くなっていた。
【有料部分 目次】
岡山の17歳
吹田市の17歳
大阪市の17歳