最悪~福井・26歳男性刺殺事件~

裸で逃げる女

福井署に一報が入ったのは、平成15年12月16日の午後7時半過ぎ。
通報があった福井市菅谷1丁目は川沿いの静かな住宅街で、その住宅街が騒然となっていた。

「裸の女の人が叫んでいる。何か追われているようだ。」

福井署員が現場に急行、あたりを捜索していると、冬の夜間だというのに玄関ドアが開きっぱなしになっている住宅を見つけた。
不審に思った署員が家の中を確認すると、そこには全裸の男性がメッタ刺しにされ息絶えている姿があった。

通報があった裸で追われる女と、それを追いかけていたという中年の男の姿はどこにもなかった。

身元

遺体が見つかった住宅は50代の男性が16歳の娘と暮らす家で、遺体はその男性でも家族ではなかった。
遺体の身元は、福井市つくし野の飲食店店員・木村祥太郎さん(仮名/当時26歳)。住宅の前には木村さんの自家用車が停められており、木村さんが訪ねてきていたと推測された。
しかし、なぜ全裸だったのか。そしてなぜ殺害されたのかはこの時点で全くわかっていなかった。

さらに、通報にあった、これまた全裸で逃げる女性とそれを追う中年男性について、事件と関係あるのかもまだわからなかった。

警察が帰宅した家主の男性から事情を聞いたところ、事件のなんとなくが見えてきた。
この男性には定時制高校に通う娘がいたという。その娘の所在が分からなくなっていた。
さらに、娘は殺害された木村さんと交際中だったことも分かった。では娘を追いかける中年男性とは誰なのか?

当初はこの父親が娘を追いかけている、という話も出ていたようだが、事実は違っていた。
が、ある意味、父親と言ってもよかった。
娘を追いかけていたのは、娘の母親の内縁の夫だった男で、娘からすれば「お父さん」と呼んだこともあった男だったのだ。

逮捕

行方不明になっていたのは現場の住宅に暮らしていた松原理絵さん(仮名/当時16歳)。
理絵さんはそれまで母親と暮らしていたというが、ある事情から父親と暮らすようになっていた。
理絵さんを追いかけていたのは、母親の元内縁の夫である岩崎茂喜(当時50歳)。木村さんの遺体が発見された翌日、現場付近で確保され、その後木村さんを殺害したことを認めた。

理絵さんは母親の家に逃げ込み、幸いにもケガはなかったというが、なぜ全裸で逃げなければならなかったのか。
そして、なぜこの岩崎という男が理絵さんを追いかけまわし、挙句木村さんを殺害したのか。
木村さんの死因は腹部刺切創に基づく腹部大動脈切断による失血死だったが、メッタ刺しと言えるその傷はいずれも深さ7センチから13センチと深く、木村さんに対する怒り、憎悪と言った感情が見て取れた。

3人の関係はどういうものだったのか。

当初全く事態が飲み込めていない状況での報道では、理絵さんと岩崎は母親を通じて親しい間柄だった、義理とはいえ父親として娘と木村さんの交際に反対していた末の凶行、などといったものもあったが、「ある事実」がわかると報道は極端に減った。

平成16年1月7日、岩崎は殺人と銃刀法違反容疑で起訴された。

そして、同年2月17日から福井地裁で開かれた裁判では驚愕の事実が次々と明らかになっていった。

父のようで、父ではない男

岩崎は事件当時、報道では理絵さんの母親の知人、もしくは、母親の内縁の夫、という形で伝えられていたが、中には「義父」と伝えるところもあった。
実は理絵さんと岩崎は、というよりも、理絵さんの母親と岩崎はちょっと複雑な関係にあったのだ。

理絵さんの母親は、昭和52年に岩崎と結婚し、二人の子をもうけていた。しかし6年後に二人は離婚。理絵さんの母親はその後昭和61年に別の男性(事件現場の家主)と再婚し、その時に理絵さんを出産していた。

しかし平成2年に理絵さんの父親とは離婚。理絵さんとその下に生まれた弟を引き取って生活してた。

それからしばらくは母子家庭として生活していたようだが、平成9年になって、理絵さんの母親はふたたび岩崎と連絡を取るようになったという。
別れた元夫婦でもあり、二人の間には子供もいたわけで、よりが戻ったというか元さやというか、ここだけ見れば新しい男性ができるより問題はなさそうに思えた。

ただ離婚した経験からか、二人は籍は入れず内縁関係のままで同居することになったが、平成10年の暮れには二人の間に女の子が生まれた。

当時小学校高学年になっていた理絵さんも、当初は岩崎のことを「お父さん」と呼んでは非常に懐いた様子だったという。
岩崎にしてみれば父親が違うとはいえ理絵さんもその下の弟も、自分の子と何ら変わりはなかったとみえ、義理の親子関係は非常にうまく行っていた。

しかし、理絵さんが中学生になると少しずつ岩崎との間に距離が生まれたという。

それは思春期特有のことでもあり、実の親でもキモい、臭い!ハゲ!、お父さんの下着と一緒に洗わないで!!お父さんのあとのお風呂は嫌!!など当たり前のことであって、多くの男親は嘆き悲しむと同時に娘の成長を嬉しくも思うものだ。

岩崎はどうだったか。
一緒に風呂にも入っていたという理絵さんの心の成長に寂しさを募らせる一方で、理絵さんに対して父親では絶対に持ち得ない感情も募らせていた。

暴走

平成15年。理絵さんが通う定時制高校では、大問題が起こっていた。
理絵さんが、岩崎に服を脱いで裸を見せるよう言われたり、ホテルに誘われると言った出来事があったことを学校の関係者に相談したからだ。

驚いた学校ではすぐさま母親にその事実を伝え、母親もその話を聞いて一週間後には理絵さんを実父の家に住まわせることで岩崎との距離を確保した。

時に、母親は世間体や経済的な事情から自己保身を図ったり、夫への執着や愛情から娘の訴えを内々にしたり、我慢を強いたりすることもあるが、この母親はこの時点でできる最低限の対策をとった。
本来なら警察へ突き出したっていいわけだが、そこは理絵さんの立場も考えたのだろう、実父に託せば少なくとも同じ屋根の下で岩崎のねっとりとした視線にさらされなくて済む、そう思ったのだろう。

しかし岩崎はこの母親の行動に激怒すると同時に、理絵さんに対して異常な執着を見せ始める。

実父の元へ行かせたことを知らされなかった岩崎は、理絵さんの居場所を知るために理絵さんが通う高校で待ち伏せるようになった。
さらには学校から尾行し、理絵さんの行動を監視し始めたため、母親は岩崎との別れを決意。
理絵さんの訴えがあって1ヶ月が過ぎたころには住まいを別にした。

それでも理絵さんへの執着が収まらない岩崎は、理絵さんがアルバイト先の先輩と交際しているのではないか、という疑念を抱くようになる。
岩崎が一番気になっていたのは、理絵さんと先輩男性の間に性的な関係があるかどうかだった。

その先輩男性こそが、木村さんだった。

狂った男

岩崎は木村さんを呼び出し、理絵さんと肉体関係があるのかどうかを執拗に問い詰めた。
恐れをなした木村さんは関係を否定したが、岩崎の疑念は膨らむ一方だった。

11月になり、理絵さんの母親の誕生日がやってきた。毎年開いていたというその誕生会に、岩崎は当然ながら呼ばれることはなかった。
理絵さんへの監視を続けている中で、母親の誕生会に自分が呼ばれていないことを知った岩崎は打ちのめされたが、その誕生会に木村さんが姿を見せたことに衝撃を受ける。

その衝撃はやがて木村さんへの憎悪へと変わり、岩崎の行動はさらに常軌を逸していった。

すぐさま刃渡り17,8センチという大型の万能ナイフを4本購入すると、木村さんが所有する車に傷をつけたり、パンクさせるといった嫌がらせを繰り返した。
職場に嫌がらせの電話も何度も繰り返していた。
さらに、理絵さんの母親から二人が交際していることを告げられて以降は、その行動に拍車がかかる。

知人男性とともに仕事を休んでまで理絵さんを監視していた岩崎は、12月16日の夜、理絵さんが暮らす実父方に木村さんの車があることで動揺し、家の付近をうろつきながら中の様子を探っていた。
すると、玄関付近の部屋から、あきらかに「最中」の声が聞こえてきたことから岩崎の中で感情が爆発。
鍵のかかっていなかった玄関から侵入すると、そのまま二人がいる部屋に押し入り、理絵さんを押しのけると持参した万能ナイフで木村さんをメッタ刺しにした。

最悪

岩崎は捜査段階において、「理絵さんに性的な欲望を募らせるうちに、木村さんに対する嫉妬及び憎悪から殺害に至った」という主旨の供述をしていた。
しかし裁判では性的欲望に基づくものではなく、親心から理絵さんと木村さんの交際を心配する中で、ふたりが性的な関係を持っている場面に遭遇したことで頭が真っ白になって犯行に及んだ、とその供述を変えていた。

また、捜査段階での供述調書は、警察官の誘導のもとで作成されており、自暴自棄になっていた岩崎が言われるがままに調書に押印したもので、その信用性は乏しいと弁護側も主張していた。

しかし、先にも述べた通り理絵さんが岩崎から性的な行為を要求されていたことは事実で、木村さんへの執拗な嫌がらせや大型ナイフを所持しての監視行動など、とても「親心」とは言えない言動から岩崎の主張は到底受け入れがたいものだった。

理絵さんは恋人との二人だけの時間を覗き見られただけでなく、あろうことかその場に踏み込まれ、さらには目の前で恋人を残酷な手口で殺害された。
その恐怖たるや、自らも裸で逃げ出すことを躊躇しないほどのものだった。

しかもその相手というのは一度は「父」と慕った男。
その「父」から性的な視線を向けられ、実際にあからさまな言葉もむけられた。私には当然そのような経験はないが、想像しただけでも最悪だ。
理絵さんは気丈にもその後の事情聴取に応じ、思い出したくない記憶を必死で証言したが、深刻なPTSD及び解離性障害を発症した。

岩崎は木村さんを殺害後、返り血に染まったままで理絵さんを追いかけ、一時現場近くのマンションにある機械室に理絵さんを連れ込んでいた。
そこで、恐怖でパニック状態の理絵さんに対し、なんとわいせつな行為に及んだ。さらに、
「最後なんだからセックスさせろ!」
とも迫っていた。
この期に及んでも、岩崎の頭の中は理絵さんとなんとしてでもセックスしたいという、ただその一点だった。
(理絵さんの名誉のために付け加えるが、罪状に強制性交が含まれていないことから、性的暴行は受けていない)

木村さんは26歳の前途ある青年であり、アルバイト先の飲食店では正社員への登用が決まっていた。
理絵さんとの交際も、理絵さんが未成年である点は確かにいかがなものかと思われる点ではあるが、理絵さんの母親公認であったことや、理絵さんが実父と暮らす家に出入りしていたことからも、別段心配されるようなものでもなかったと思われる。

岩崎は理絵さんを愛していたわけではない。ただ、性的な目でしか見ていなかった。
裁判でも自己弁護に終始し、反省の態度は見られなかった。
求刑懲役15年に対し、懲役14年の判決を受けた岩崎は、事件から15年以上が経過しすでに出所していると思われるが、老齢に差し掛かった今、内なる欲望を抑え込む術を長い刑務所暮らしで習得できているのだろうか。

「最悪~福井・26歳男性刺殺事件~」への4件のフィードバック

  1. この事件は記憶に残ってます。確か『白昼の住宅街を全裸の女子高生が逃げ回る』だか『逃亡』といったタイトルだったでしょうか?とにかく週刊紙に釘付けになったはずです。当時の印象では母親の彼氏か内縁の夫が、よからぬ感情を抱いている娘に彼氏が出来たことに激高して娘と彼氏の情事に乱入して彼氏を惨殺。母親に対しては年頃の娘がいるんだから『男選びは慎重にしろ』みたいな感情を抱いていました。また、殺された彼氏も分別つく年代でありながら女子高生に手を出していたのも災いしてあまり同情されなかったと思います。
    しかし今回の記事で詳細を知ることにより母親が決して一時の感情でロクでもない男を連れ込んだわけでもなく(十分ロクでもないけど)、犯人の男はかつて血は繋がらないとは言え本当の家族だった、しかも懐いていた娘に対してよからぬ感情を抱いた上行動を起こしてしまったわけで判決が生温いと怒りが込み上げてきます。昭和時代じゃあるまいし、平成になって10年経過しても殺人+強制猥褻でこんな甘い判決だったのに驚いています。

    1. さすらい刑事 さま

      いつもコメントありがとうございます。
      この事件は私は全く知らず、いつものように言い方は悪いですがネタ探しで判決文を片っ端から検索していて見つけました。

      時間帯的に夜間だったようですが、怒号と悲鳴が飛び交う中、何事かと顔を出した住民らが見たのが、裸で逃げる女と追いかけるオヤジとなれば、どれほどの恐怖だったかと思います。

      少女のお母さんは、ありがちな自分の感情や世間体を優先するような人ではなかったようです(もちろん、裁判所は被害者の関係者をあんまり悪く言いませんから絶対とは言えませんが)。

      そりゃ自分の娘によからぬ感情を抱く男など、気持ち悪いですよね。

      しかし結果として交際相手の男性が犠牲になったことは、このお母さんもショックだったと思います。

      被害者の情報はあまりないんですが、仕事を持って普通に頑張っていた青年だったようですね。

      それを思うと、判決は軽いですよねぇ…

      1. 失礼しました。勝手に白昼だと記憶してました。15年も前、『全裸の女子高生』の文字に興味本位で読んだ事件だったんでそんな程度なんだなと思いつつ、間違った記憶や解釈の事件が他にもあるのでは?と痛感しました。

        母親によっては義父の娘に対する行為に気付きながら『逃げられたくない』なんて理由で見てみぬふりをするケースもありながら、この母親は娘の保護を優先してました。だから、余計にやりきれない気持ちになります。
        いま、この母子が平和に暮らしていることを祈るのみです。

        1. さすらい刑事さま
          わざわざありがとうございます、しかしよく覚えてらっしゃいますね、感心しました!

          記憶違いは私にも沢山あって、それを確実に思い出すためにもこうして調べてまとめてます。これってこんな話だったっけ??と思う事件もありますよー
          ただ、悪意を持って事実でない事が拡散されるのは防ぎたいと思ってます。

          有料記事もご購入下さったようで本当にいつもありがとうございます。
          今後も頑張ります。

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