迷い人~西宮・幼女連れ去り傷害事件①~

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平成18年6月26日

「すみません、そのお子さんは迷子の子ではないですか?」

阪神電鉄西宮駅にあるショッピングモール、「エビスタ西宮」内で、その警備員は迷子連絡を無線で受け、店内を巡回していた。
すると、迷子の特徴と一致する服装の女児を抱いた女性とすれ違い、そう声をかけた。
女性は「はい、そうです」と近づいてきて、保護した場所などを警備員に告げた。
「よかったね、ママに会えるよ。」
女性は優しく微笑みながら、迷子の女の子に語り掛け、警備員に女児を引き渡した。しかし、女児が泣き出したことから、警備員が女性に「母親が来るまで一緒に待ってもらませんか?」とお願いすると、女性も快諾、母親が来るまでの間、女児は女性に抱かれ穏やかにしていたという。

しばらくして、女児の母親が到着。警備員はやれやれ、と思ったが、当の母親は女性に礼を言うこともなく、ひったくるように女児を連れ、逃げるように去っていった。
警備員はあまりに不躾なその母親の対応に驚くと同時に、心の中に違和感を抱き、その母親を追った。

すると母親は、厳しい表情でこう警備員に話した。

「あの女が勝手に連れて行ったのよ。買い物しているとき、あの女がうろうろしているのを知っていた」

平成18年9月5日




兵庫県西宮市にある和上公園に倒れている人がいる、通行人からそう告げられた警備員は不安を抑えきれないまその公園に走った。
人だかりができている公園のベンチの上で、手をだらんと垂らして細かく痙攣している小さな女の子を発見、すぐさま迷子の子供発見の連絡をし、救急車の手配もした。

女児は2歳、近くのショッピングモール「エビスタ西宮」の前にあるエビスタ前公園遊んでいる際に迷子となり探していたところだった。

女児は救急搬送されたが、頭部に相当深刻なケガを負っていたという。何とか一命はとりとめたものの、意識が混濁する状態が続いていた。

西宮署は、近くに住む「ある女」が事件にかかわっているとし、看護師の女を未成年者誘拐の疑いで逮捕した。

調べに対し女は、駅前の広場でこの女児が所在なげにしていることに気付き、「おかあさんは?」と声をかけるも要領を得ないことから、母親を捜す目的で女児と店内や周辺を歩いていたと供述。この時点で、女児は頭部にけがをしていたとも話していた。
その後、女児がぐったりしてきたため、人に知らせるために女児を公園においてからその場を離れた、と捜査員に話した。

逮捕されたのは、県立西宮病院の看護師・石崎理佐(仮名/当時24歳)。
スピード逮捕となったのには訳があった。実はエビスタ西宮周辺ではその年の6月以降、同じ女が迷子を連れている、という不審な出来事が相次いでいたのだ。
その女こそが、理佐だった。

迷子ばかりを見つける女

冒頭の疑惑の迷子事件の後、エビスタ西宮では再び迷子騒動が起きた。
平成18年7月30日。この日も警備員は迷子の連絡を受け店内を捜していたところ、無線で「迷子発見」の連絡を受けた。2階の売り場の店員に、女性が迷子を連れて現れたということだったが、その迷子を連れてきた女性を見て、警備員は驚いた。
その女性は、一か月前にも迷子を抱えて店内を歩いていた理佐だったからだ。同時に、母親のあの言葉もよみがえった。

迷子発生からすでに1時間が経過していたこともあり、警備員は上司に理佐のことを報告した。上司とともに店内の防犯カメラを確認したところ、午後零時21分に理佐と迷子の女児がエビスタ西宮から出ていくところが映っていた。その後、迷子発生の知らせが警備員らに周知される。
そして、再び戻ってきたのは、午後1時7分。警備員らはあまりにも不自然な行動に顔を見合わせた。

普通、迷子を見つければ近くの店員や警備員などに連絡するものではないか。しかし理佐はそうせず、なぜか店を出て1時間近くもどこかに迷子とともにいたことになる。


また、幼い子供を抱き上げて店内を移動する理佐の姿は、迷子を連れて親を捜しているようには全く見えず、むしろ理佐こそが母親であるかのように見えた。
しかも、理佐は迷子を引き渡した際に、店外に出た、というような話はしていなかった。
なにかがおかしい。偶然、迷子を同じ人間が見つけたりするだろうか。

上司の判断もあり、8月1日、店側は西宮署に相談した。
西宮署でも、次に理佐が現れたら連絡するように伝えていた。

しかしその後理佐はエビスタ西宮に来店していたのだが、その際には特に不審な動きがなかったことから通報は見送られていた。
そして、9月5日、事件は起きた。

女のはなし


理佐は淡路島の生まれで、比較的裕福な家庭で育ったという。
高校を卒業したのちに故郷を離れると、大学の看護学部へ進学。大学卒業後は助産師学校(おそらく兵庫県立総合衛生学院)へ入学し、助産師資格も取得する。
就職先は県立西宮病院で、勤務態度はまじめ、患者や妊婦からの信頼も厚く、看護実習に来た学生からは、「あなたのような看護師になりたい」とまで言われたという。
ただ、勤務を始めて1年ほどすると、「疲れが取れない」という理由から平成18年2月に内因性のうつ病が疑われ、同3月以降、休職となった。
しっかり休養を取り薬を服用することで体調が安定しつつあったことから、同6月にはこのまま休むよりも働いたほうが回復が早いのでは、との医師の判断もあり、職場復帰の方向で話が進められていた。

しかし、6月27日、ふらりとでかけたデパートでワンピースを万引きし、検挙される。
その時は両親が交番へ身柄を引き受けに来てくれたことなどで釈放されたが、実は万引きはこの時が初めてではなかった。

翌日、主治医に万引きのことを話すと、抗うつ剤の中には「気が大きくなる」副作用がある薬があるということで、その薬は処方されなくなったという。

そんな中、理佐は気分転換もかねてエビスタをはじめ、近隣のデパートやショッピングモールに出歩くようになったが、9月5日については以下のように話した。

朝から体が重く感じられ、欠勤する旨病院に連絡した後仮眠をとっていた。
10時半ころ、母親からの電話で目覚め、気分転換もかねて家を出た。
エビスタ西宮内にあるアイスクリームショップでアイスクリームを買い、その後は自宅に戻ったりレンタルDVDを返却しに行ったりして帰宅したが、もう少し外にいようと思って再びエビスタ西宮へ行った。
ちなみにエビスタ西宮は自宅マンションから100mほどで近い。

午後3時20分ころ、エビスタ前公園で遊んでいた子供の中に、一人でいる女児を見つけ、お母さんは?などと尋ねたうえ、同女を抱きかかえるようにしてエビスタを離れた。
そのままなぜか自宅マンションへと女児を連れて行き、その後午後4時30分ころまでマンションにいたという。
すると、突然女児の具合が悪くなったため、女児を抱いてマンションを出、和上公園のベンチに横たえてその場を離れた、というものだ。

その場を離れたのは助けを呼びに行くつもりで、ふと振り返るとすでに人だかりができ始めていたことでわざわざ自分が戻らなくてもよいと考えた、とも話していた。

逮捕後も、一貫して女児のケガには自分は関係しておらず、連れ歩いたことは認めていたものの、女児が「おしっこしたい」と言ったから自宅のトイレを使わせようとしただけで、誘拐する意図をもって女児をマンションに連れて行ったこともないと、全面否認だった。