背後に地獄を従えて~納涼・怖い事件事故特集~

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“And I heard as it were the noise of thunder
One of the four beasts saying come and see
And I saw
And behold a white horse”

人を殺した人の枕元に、被害者が立つという話は昔から聞かれる話だ。
もちろん、自責の念や良心の呵責にさいなまれた挙句の幻だったり、本気の妄想の可能性もある。

また、殺人現場や遺体遺棄の現場となった場所に心霊現象が起こる、幽霊が出るという話もよくある。
有名どころでいえば、秋田の連続児童殺傷事件現場において、誰もいるはずのない屋内の窓のところに人影が写った写真があるとか、秩父にある貯水槽付近で奇怪な現象が起きていたところ、実はその貯水槽から殺害され遺棄された妊婦が発見されたという話。
いずれも真偽のほどは私にはわからないが、実際にあったとする事件を絡めた怪談というものは掃いて捨てるほどある。ただその多くは、裏取りしてもそもそも該当する事件がない、という結末である。

中には話を盛りすぎて、誘拐された女児がバラバラにされ殺害遺棄された直後、その犯人が山中で錯乱状態となって発見され、その後不審な死を遂げたというものまであった。
発見された女児の遺体のそばには埋めるために使ったと思われるシャベルがあり、そのシャベルにはなぜか女児の指紋があったとされ、殺害された女児が犯人の男を怨霊となって襲った、と思わせる内容の話だったが、そもそもそんな大事件が報道されないなどありえないし、話に信憑性を持たせるためにおおよその年代まで記載されていたがその時代、女児をバラバラにして殺害した事件はすでに死刑執行された男の事件以外なかった。

悲惨な事件にはそういったおまけの話がつきがちだが、残念ながらその多くは本当のことなのか、正直疑わしい。昭和の時代の秩父の事件も有名だったが、よせばいいのに平成の時代に持ち出して後日談までつけてしまったがために途端に胡散臭い話になってしまったし、心霊写真の類はその存在すらもう危うい。

と、事件にまつわる怖い話全否定から入ってしまったが、今回のテーマは夏休み納涼特集・事件にまつわる怖い話である。
怖いけれどもやりすぎ感の否めない話ではなく、実在する加害者が語ったことなど確実に起きた事件にまつわる怖い話のほか、まさにファイナルデスティネーション、逃れられない死の話、登場人物全員死亡で真相闇の中な事件そして、生きてる人間のほうが怖いという事件をまとめる。

呪われた女

平成12年の夏。東京都武蔵村山市の主婦が、「15年前に人を殺した」として警視庁東大和署に夫に連れられ出頭してきた。
15年前の事件でしかも殺人となれば、時効の問題があるため警察では主婦から事情を聴いたが、主婦が殺したという「人」は、この世に「人」として生きた証明が全くない人間だった。
が、東大和署は出頭から1か月後、主婦を殺人容疑で逮捕する。

主婦が殺害したのは、生まれたばかりの自分の子供だった。

15年前の秘密

主婦の供述によると、昭和60年の10月、当時暮らしていた武蔵野市の自宅において赤ちゃんを出産したものの、直後に鼻や口を手で押さえて窒息死させた、というのだ。
ただ、当初の話は要領を得ず、夫がついていることもあって東大和署はいったん主婦を自宅に帰らせることにしたという。
ところがその2日後、主婦は自宅のトイレで灯油をかぶり、なんと焼身自殺をはかった。
幸い、命に別状はなかったがそのまま入院となってしまった。

警察が主婦の供述から自宅の床下を捜索したところ、その供述通りの場所から一斗缶が見つかった。一斗缶は蓋にきっちりとテープが巻かれていたが、中からはビニールに包まれた性別不明の嬰児らしき遺体が出た。
警察は15年前に主婦のおなかが大きい時期があったことも突き止め、主婦の体調が回復するのを待って、殺人の容疑で逮捕したのだった。

逮捕されたのは武蔵村山市在住の主婦、太田美智子(仮名/当時51歳)。美智子は若いころからホームヘルパーの仕事をしていたといい、逮捕されたときも小児病棟に入院している子供たちを入浴させるボランティアをしており、博愛精神にあふれる女性として知られていた。
美智子には離婚歴があったが現在の夫とは円満な家庭を築いており、小学生の娘もいた。子供好きで、娘の友達と手紙の交換をするなど、母親としても女性としても善き人だった。
庭ではたくさんの花を育てては、近所の人に分けることもあったという。
そんな女性がなぜ、自分の子供を殺害するということになってしまったのか。そしてなぜ今になって、自首することになってしまったのか。

それは、事件後の太田家の歴史にあった。

うまくいかない人生

美智子は離婚歴がある。前夫はギャンブル好きで借金の問題などもあったといい、事件当時は離婚して一人暮らしをしていた。
ホームヘルパーの仕事をしていた時、利用者だった女性の息子と親密になり、結婚。ただ、経済的な余裕はなかったという。
美智子には都内に実家があり、母親と兄がいたというが疎遠で頼れる関係ではなかった。
そんな中で、美智子は妊娠してしまう。

どうしようと悩んでいるうちに、中絶可能な期間は過ぎ去っていた。夫に相談もできず、妊娠している事実すら伝えていなかった。

そして、昭和6010月、自宅アパートで産み落としたわが子を殺したのだった。

赤ちゃんは当初アパートの部屋の中に隠していたというが、その後武蔵村山市の現在の戸建てに越した際も、その赤ちゃんの遺体を一斗缶に入れて持ち込み、台所下に埋めた。
その後、夫婦の間には女児が生まれた。

太田家の暮らしは決して余裕のあるものではなかったようだ。
ただそんな中でも美智子は明るく振舞い、近所の人を自宅の呼ぶなど社交的な面もしっかりとあった。
しかし一方で、急に何日も家からでなくなったり、感情の起伏が激しい、そういう一面もあったという。

それは次第に深刻さを増し、美智子はふさぎ込む日が増えていく。昨年秋には、夫がリストラされた。生活は逼迫し、さらには美智子自身の体調もすぐれない日が続いた。

ある日、美智子は突然、夫に15年前の秘密を暴露した。
もう、耐えられなかった。

真っ赤な台所

警察の調べに対し、美智子は出頭した理由について、
「いつまでたっても生活が楽にならない。あの子にあんなことをしたからに違いない」
と話したという。
生活苦のために殺害した赤ん坊を、美智子は手放すことを考えたことはなかったという。おそらく、発覚を恐れてというよりも、手元に置くことでいわば供養というか、罪の意識を軽くしようとしたのではなかろうか。
しかしそれがかえって、美智子にとって呪縛となった。

殺害した子供は、現在の夫の子供だった。夫も妊娠には気づいていたという。しかし一向に美智子から話がないことから、切り出すタイミングを逃していたのだと話した。
ある日を境に美智子のおなかがしぼんだことも気づいていたが、美智子が何も言わないからと、夫は何も聞かなかった。ていうかこの話でいちばん怖いのはこの部分だと私は思っている。

太田家に招かれたことのある近所の人は、太田家の台所を見て戦慄した。
太田家の台所は、「真っ赤」だった。鍋や調理器具、調理家電を赤でそろえる程度ならばただの赤好きだが、太田家の台所は、換気扇のフードやなんと蛇口まで、赤に塗られていたのだという。

その台所の床下には、「あの子」が眠っていた。

焼身自殺を試みた美智子は、病院で「こんなバカなことはもうしない」と泣いたというが、罪を認め告白し、おそらく執行猶予はついたろうが新聞などで実名が公表され社会的な制裁を受けたであろう。
夫や娘との関係がどうなったか知る由もないが、真っ赤な台所で15年もの間、美智子は気が休まる時はなかったのではないか。台所を異様なまでに赤く染めたのは、床下の秘密と関係があったのだろうか。

私はここにいる

平成13619日、茨城県鹿嶋市の農道で白骨化した遺体が発見された。
被害者は数年前から行方が分からなくなっていた若い女性で、のちに女性にリンチを加えて殺害し、この場所に埋めたとして男女6人が逮捕された。

このサイトでも取り上げた、鹿嶋市のリンチ殺人事件である。

実はこの事件では全く無関係のふたりの人間に、同じような「怪奇現象」が起こっていたという話がある。

ひとりは、女性を殺害したグループの中にいた。
その人物は女性を殺害した現場にいて、女性に暴力行為を働いていたとしてのちに逮捕されている。
その人物は、逮捕されるずっと前から、あることに悩まされていたという。
それは、殺害した女性が枕元に立つというものだった。

血を流し、「痛い、痛い」と訴えかける女性の姿に、その人物は怯え切っていた。しかし自分一人の問題ではないため、事情を知る仲間に愚痴ることはあっても、一話目の嬰児殺しの主婦のように出頭することもできなかった。

このような、加害者の良心の呵責や罪の意識が亡霊を見せるというような話は結構聞く(あの綾瀬のコンクリ事件でもそれは言われている)が、実はこの事件の場合、もうひとり同じような体験をした人物がいるという。

それは、女性が埋められていた場所の関係者だった。
それが誰なのかもわかっているが、本人に確かめたわけではないためここでは関係者とする。
その関係者の夢に、見知らぬ女性が出てきたという。そして、あの場所で寂しげに、怨めし気に佇んでいるのだという。
ただの怖い夢にしては、印象深い夢であったようで、関係者はその話を事件発覚前に第三者に話している。

そして、実際にその場所から、女性の遺体が出たというわけだ。

この辺は秩父の貯水槽の事件と似ているが、書いておいてなんだけれども噂の域を出ないものでもある。
ただこの事件は発覚までに1年近くを要していることや、女性が受けた暴行の残忍さは筆舌に尽くしがたいものであり、さらにはその女性には安否を気にする家族と幼い息子という心残りがあった。
オカルトに走るのは好きではないが、もしかすると強い思いがあったのかもしれないなと思わなくもない。

該当記事はこちら。

逃れられない「死」

映画「ファイナルデスティネーション」をご存じだろうか。
シリーズ化している超有名映画だが、コンセプトは逃れられない死、運命の死である。

そんな話は映画の中だけの話、だろうか。

日本で起きた、どう考えても死が追いかけてきたとしか思えないような事件を3つと、偶然にしては悲しすぎる事故をひとつ。

大阪市の事故

平成20330日午後730分ころ、大阪市鶴見区のマンションから119番通報が入った。そのマンションに暮らす2歳の男の子がベランダから転落した、というのだ。
転落したのはなんとマンションの9階。高さにしておよそ24m落下したといい、救急隊員らは最悪の事態を嫌でも想像せざるを得なかった。

ところが、当の男児は右足骨折をしていたものの、命に別状はなかった。落下した際、マンションの壁際にあった5mの木と、その下にあった植え込みが二段階でクッションの役割を果たしたとみえ、男児の命は救われたのだった。

しかしその1か月半後。男児は自宅で今度こそ命を落とした。

48日に退院した男児は、その後自宅の子供部屋でリュックサックのひもが首に絡まり、窒息状態で発見された。
すぐさま119番通報されたが、搬送先の病院で死亡が確認された。
転落事故はそもそもどういう状況だったのか。
その夜、男児は市職員の父親と風呂に入っていた。そして、自分が先に出て、ベランダにあったゴミ箱を踏み台にして身を乗り出した際に、誤って転落したとみられていた。
窒息事故の際は、父親は仕事へ出た後で、3つ上の姉も保育園へ行っており、家の中には母親と男児がいたという。
母親は洗濯をしていたといい、目を離したすきに何らかの事情でドアノブにかけてあったリュックのひもが男児の首に絡まってしまったようだった。

当然ながら、当初の報道では男児は「変死」としているところもあった。つい先日奇跡的に助かった男児が、リュックのひもが絡まって死ぬというのはどう考えても理解が及ばなかった。

しかし、報道はここで終わっている。警察もバカではない、当然いろんな視点で捜査をしているわけで、司法解剖もなされた。
そのうえで、男児は事故死となった(と思われる)。

この事件についてはほかにもいろいろと思う人はいたようで、非常に興味深いサイトを見つけたのでご紹介しておく。
永人のひとごころ

姓名判断は侮れないような気がする

“The whirlwind is in the thorn tree
It’s hard for thee to kick against the pricks”

豊島区の事故

平成2895日、豊島区の西武池袋線踏切で、池袋遺棄急行電車が線路上にあった自転車をはねた。

自転車は通りがかりの60歳代の男性のものだったが、線路上に男性の姿はなく、おそらく踏切内で転倒したか自転車が溝にはまるといった不測の事態が起き、男性は逃げて自転車だけが踏切内に置き去りにされそれを電車がはねた、とみられた。

ところが、その線路脇で自転車の持ち主の男性が倒れていたのだ。

男性は病院に運ばれたが、胸を強く打っており出血が激しく、それが原因で死亡した。

その後の調べで、男性は自転車を置いて一旦は踏切を出て避難したものの、電車が自転車を跳ね飛ばした際にその跳ね飛ばされた自転車が直撃したとみられた。

詳しい目撃者がいなかったのか、報道はここで終わる。

男性はなぜ、踏切内で自転車を動かせなくなったのか。とにかく自分だけは逃げる、その判断も間違ってはいない。緊急停止ボタンを押すことができなかったとしても、逃げている以上、自殺などではないはずだ。
その避難した場所に、自転車が直撃するというのもにわかに考えにくいが、男性は命を落とした。

助かった、と思う間もなかったかもしれないが、避難した時点ではまさか死ぬとは思わなかっただろう。

“In measured hundred weight and penney pound
When the Man comes around.”

大子町の事故

平成231230日午後340分、茨城県大子町久野瀬の町道トンネル内で、同町の無職男性(当時20歳)が、対向車線を走ってきた乗用車と衝突した。
男性は病院に搬送されたものの、頭部を強く打っていてその後死亡が確認された。

状況としては、対向車線を走っていた乗用車が大きくはみ出したところ、偶然通りかかった男性のバイクが衝突したとみられた。

しかし偶然はそれだけではなかった。対向車線の乗用車は、男性の家の車であり、運転していたのは男性の母親だった。

母親は自宅から外出したところで、男性は自宅へと帰る途中の偶然というには悲しすぎる事故だった。
事故現場のトンネル内は昼間でも薄暗く、見通しもよくなかったという。しかし母親にしても男性にしても、通い慣れたトンネルだっただろう。
あっ!と思った瞬間、その見慣れた車に何を思ったか。倒れたバイクと息子を見た母親の心を思うといたたまれない。

“There’s a man going around taking names
And he decides who to free and who to blame”

仏壇のろうそく

この事故はうわさや都市伝説ではなく確かに私自身が「大島てる」内で発見し、コメント欄の事故詳細についてもでたらめではないと確認したものではあるが、その後時間がたって調べても現時点で該当する事故を見つけられてないという断りを最初に入れておく。冒頭で該当事件がないなどと事件がらみの怖い話を批判したにもかかわらず

現場は新潟県内か愛知県内だったと記憶しているのだが、火災によって子供を含む一家全員が死亡したという悲しい事故が起きた。
火災の原因は仏壇のろうそくだった。ご先祖様に対する気持ちが、家族全員の命を奪う結果になったこともやりきれないが、実はこの家族は数か月前にこの家に越してきたばかりの家族だった。
しかも、その越してきた理由が、前の家を火事で失ったから、というのものなのだ。
その時は家族は無事だったが、二度目の炎は家族をとらえて離さなかった。

(この火災については現在もソースを調査中なので、確認でき次第追記する。)

“And I saw, and behold a white horse.”

全員死亡

事件が起これば犯人を逮捕し、裁判にかけ、そうすることで事件の全容が明らかとなる。いったい何が起きたのかという真実をつまびらかにするそれは、無念にも殺害された人やその遺族の心の整理にも非常に大切なことだ。

しかし、登場人物が全員死亡した場合はそれらの道は閉ざされる。
ただでさえ理不尽な思いを抱え生きてゆかねばならない遺族にとって、何が起きたのか、なぜ家族は殺されなければならなかったのかが全く分からないとなると、こんな絶望はないのではないかとすら思う。

なぜ、どうして。思いとは裏腹に、全員死亡の事実だけが残された事件。

御代田の事件

平成18106日午前2時。心霊スポットとしても有名な長野県の軽井沢大橋に不審な乗用車が停車しているという通報が軽井沢署に入った。
署員が車を調べたところ、車の所有者は御代田の会社員であると判明。
同時に、車の中から「自首できなくて警察の方々すみません」と書かれたメモも発見されたため、事件の可能性を視野に警察は車の所有者の自宅へと向かった。

午前4時、早朝の御代田の自宅は静まり返り、中からは物音一つしなかった。全員寝ているのか?
としても、警察が訪ねてきているのに誰も起きてこないというのも不自然だった。緊張が走る中、署員が家の中へ入ると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。

まだ暗い家の中のいたるところに、金属製の大きな釘のようなものが散らばっていた。
そして、1階の居間で中年の男性が、その近くの和室では老齢の女性、そして2階の部屋ではこの家の長女とみられる若い女性が死亡していたのだ。

3人は既に死亡しているのが明らかというか、死亡していないほうが驚きの状況であった。
3人はそれぞれ、頭部を中心に複数の「杭」が深々と打ち込まれていたのだ。それらは、頭頂部、顔面、側頭部など様々な場所に少なくとも一人当たり3本は打ち込まれていたという。

事件があったのは御代田町の会社員、小嶋秀史さん(当時48歳)方。死亡していたのは秀史さん、同居する義母の有坂タツ子さん(当時78歳)、そして長女で高校3年生の由美さん(当時18歳)の3人。
秀史さんの妻はこの時点で行方が分からず、警察では状況から軽井沢大橋に停めてあった車は、この妻が乗り捨てたものであり、車内のメモも妻が書き残したと推測した。

3人は頭部に打ち込まれた杭以外に外傷はなく、さらには抵抗した様子もなかった。司法解剖の結果、3人の死因は杭を頭部に打ち込まれたことによる脳内損傷だった。

自宅の玄関に鍵がかかっていたこと、その鍵が軽井沢大橋の車の中にあったこと、室内が荒らされていないことなどから警察では妻以外の第三者の関与はないと断定。いまだ行方が分からない妻の捜索に力を入れた。

捜索の結果、10日になって軽井沢大橋から下流約500mの川岸で妻とみられる女性の遺体が発見された。
妻は軽井沢大橋から身を投げたとみられた。軽井沢大橋は転落事故などを防ぐため、鉄条網が張られていたが、車が停められていた場所の鉄条網の一部がたるんでいたという。
軽井沢大橋と水面までの距離は約80m。妻は車を踏み台にし、鉄条網をも踏み越えて雨で水位の増した川へと飛び降りたと推測された。

小嶋さん一家は近隣の間でも特に問題のあるような家族ではなく、秀史さんは町内の機械メーカーの社員で、入社以来29年間まじめな社員と評されていた。
義母のタツ子さんも、犬の散歩やごみ捨てなどで近所の人と顔を合わせれば朗らかに挨拶をする人だったし、長女の由美さんも小諸市内の医療関係の職場に就職が決まっていた。

妻はどうだったか。

それまで勤めていた小諸市内の産廃処理会社を辞めたのが昨年の12月。その際、地域の新年会に顔を出し、「会社を辞めれば時間ができるから、皆さんのお宅へ遊びに行きます」などと明るくお酌をして回っていたという。
それが、最近ではひどく痩せていたという近所の人の証言もあった。
睡眠導入剤を処方されていたことも分かっていて、妻がなんらかの悩みを抱えていたのは間違いないだろう。
妻の話を聞いた人によれば、「体調が悪い。暑さ寒さが分からず、食べ物をのみ込んだのかどうかも分からない。何もできない。赤ちゃんみたいだ。」などと訴えていた。

妻は人知れず、準備を整えていた。
ホームセンターを数軒回り、キャンプで使う鉄製のペグと呼ばれる杭と、それを打ち込む木槌を購入していたのだ。
そして、夕食に自身が処方されていた睡眠導入剤を混ぜ込むと、寝入った家族の頭に次々と杭を打ち込んだ。

「睡眠薬のおかげで苦しみませんでした」

警察が調べたところ、自宅の居間や台所から、殺害の状況や遺体の様子などをメモした紙も見つかった。親戚にあてた謝罪のようなメモもあったという。
さらに、地元のケーブルテレビには小嶋さんの名前で解約通知が届いたという。
「小嶋秀史 カイヤクしてください」
消印などから、このはがきは事件が起きた日の午前中に投函されたものだというが、ガスや電気など数ある契約中の会社の中でなぜケーブルテレビにだけ、はがきを送ったのか。

「空からお告げが来る」

妻のつぶやきはいったい何を意味していたのか。
警察は妻の死亡という理由から不起訴とし、事件は真相がわからないまま幕引きとなった。

実はこの事件現場の近くにTwitterのフォロワーさんが暮らしている。その方によれば事件後、職務上の理由で小嶋家に行かなければならなかったという。中に入ることはなかったというが、それでもこの家の中で何が起こっていたのか知っている以上、その恐怖は半端ではなかったろう。
後日、近隣の人々が集まって自宅前でお経を唱える姿もあったという。

この家は現在取り壊され、その敷地だけが残っている。

“The hairs on your arm will stand up
At the terror in each sip and in each sup
Will you partake of that last offered cup?
Or disappear into the potter’s ground
When the Man comes around.”

一番怖いもの

オカルト的な後日談よりも、実際には生身の人間の意味不明な行動が一番怖いというのはこの御代田の事件でもよくわかるわけだが、最後にある男の事件を取り上げる。

平成11623日、横浜市西区の京浜急行戸部駅のホームにおいて、線路に転落した25歳の女性が入ってきた品川発浦賀行き普通電車に轢かれて重傷を負うという事故が起きた。
しかし直後、駅員らはホームで一人の男を取り押さえていた。
女性は、この男によって電車に轢かれたのだった。

逮捕されたのは横須賀市在住の無職の34歳の男。

男は750分ころ、自分が乗車していた京浜急行の電車内から戸部駅のホームに目をやった。すると偶然、見知った女性の姿を確認。
急いで下車した男は、その女性に詰め寄ってたちまち口論が始まったという。そして、公衆の面前でもみ合いとなり、そのまま女性を背後から抱え込むような態勢のまま、ホームへと転がり落ちた。

誰もがこれは無理心中だと息をのんだ。男は女性を線路上にあおむけに押し付け、迫る電車をものともせずにそこを動かなかったからだ。

と、次の瞬間、男は女性から体を離すとすぐさまホームによじ登った。女性は逃げ遅れそのまま入ってきた電車に足を轢かれた。
女性は右足切断の重傷だった。

目撃者らの呼びかけで駅員らが男を取り押さえ、警察に突き出したわけだが、お察しの通りふたりは過去に交際していたのだという。二人の間にどんなことがあったのかはわからないが、男は取り調べに対し、「彼女を恨んでいた」と話している。
その恨みはこの日の偶然により、本懐を遂げることとなる。
当初は無理心中のつもりだった、のかもしれない。このまま一緒に死ねば、恨みを晴らすことができると考えたのかもしれない。
しかし警笛が響く中、男が閃いたのは、もっと確実に女に苦しみや嘆き与え自分も生きてそれを見届けられる方法だった。
無理心中すればそこで終わりだが、お互い生きていれば、そして女に最大の苦しみを与えることができれば。

……いや本当のところは、ただ怖くなっただけだろう。怖気づき、咄嗟に自分だけが助かる道を選んだ。卑怯で、弱くて、自分のことしか考えていない、そんなだから恋愛もうまくいかないのだ。
しかし男がどれだけごみのような人間でも、男は死刑にもならず傷もつかず五体満足のまま時間がたてば世間も忘れ元の生活に戻る。

彼女はどうか。

男は殺人未遂で逮捕されたが、その後の報道は見つけられなかった。起訴されたのかどうかも不明である。

“And I heard a voice in the midst of the four beasts
And I looked and behold, a pale horse
And his name that sat on him was Death
And Hell followed with him.”

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参考文献

産経新聞社 平成10623日東京夕刊、平成1285日、7日東京夕刊、平成20518日大阪夕刊、平成231231日東京朝刊
中日新聞社 平成10624日朝刊
日刊スポーツ 平成10624
朝日新聞社 平成18106日東京夕刊、107日東京地方版/長野、平成19313日、29日東京地方版/長野
asahi.com平成17331日、平成18107日(マイタウン長野)
共同通信社 平成181010
読売新聞社 平成16107日、108日、平成18107日東京朝刊、平成19312日、平成20331日東京朝刊、518日大阪夕刊、平成2895日東京朝刊
毎日新聞社 平成16107日、1217日朝刊、平成19312日(江連能弘)
サンケイスポーツ 平成18107

The Man Comes Around – Johnny Cash