ずるいヤツら~新生児殺しを誘発する人々④~

見て見ぬふりの夫

平成27年3月7日、那須塩原市の墓地で裸の新生児と思われる遺体が発見された。
遺体には泥が付着し、近くに掘り返したような穴があったことから、警察では誰かがここに埋めたのち、動物が掘り返したとみた。
事件から2か月後、警察は同市内に暮らす坂本美紀(仮名/当時30歳)を死体遺棄容疑で逮捕、美紀は夫とその両親、そして3人の子供と暮らす主婦だった。
遺体は美紀と夫の間にできた4番目の子供で、夫も家族も、美紀の妊娠出産には気づかなかったという。

美紀が家族に妊娠を隠していたのには理由があった。
美紀は夫の両親との同居だったが、その家計は逼迫していたという。
第一子、第二子と生まれたころまでは良かったが、第三子を妊娠したころは、ちょうど義父が退職した時期と重なり、美紀と夫は3番目の子を産むか産まないかを義両親に相談していた。
その際は、産む方向で話はまとまり、無事第三子は生まれている。
しかし、もともと体調がすぐれない義母への遠慮もあって、美紀は3人の子育てを一身に引き受け、さらには家事もほとんどを担っていた。夫は家庭内のことには無頓着だったという。

第三子が1歳を過ぎたころ、美紀は悪化する家計を少しでも助けようと、求人広告を見るなどして職探しを始めたが、その状況下で4人目の妊娠が発覚。
通常ならば、第三子の時のようにまた夫婦、家族で話し合えればよかったのだが、この時美紀にはそれができなかった。
義母は孫たちのことをかわいがってはくれていたが、孫の面倒をみるというのは「疲れる」とこぼしていた。
どうしても預ける必要があった際、義母は引き受けてはくれたが、翌日は寝込んでしまったという。食べるものも食べられないほどに疲れた様子をみせる義母に、美紀は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
さらに、近所の人が3人目を出産したときには、「あそこの家は子供ばかり産んで・・・」と、義母が話しているのを聞いていた美紀は、本当は3人目も産まないほうが良かったのかと悩み始める。
実家はもともとこの結婚には反対だったため、ハナから頼れないと思い込んでいたし、この時点で美紀は夫にすら妊娠を打ち明けていなかった。
そして、気が付けば中絶可能な時期は過ぎ去っていた。

夫は警察の当初の取り調べでは、妊娠に気付かなかったし、出産も知らなかったと話していたが、実際そんなことはなかった。
裁判では一転、妻の妊娠にはうすうす気づいていたと話した。しかし、それを妻に確認することは「あえて」しなかった。なぜなら、「妻は3回も妊娠出産の経験があるから、何かあれば自分から言うだろうと。言わないということは、問題がないと思っていた」からだという。しかも、「なんで妊娠の事実を自分に言わないのだ」と、自分だって聞きもしないくせに勝手に苛立ちまで感じていた。
さらに、夫は部屋にミルクの入った哺乳瓶を見つけ、出産したことに気が付いてもいた。
美紀は、その日ひとりで風呂場で出産していた。赤ちゃんを産湯につからせ、その愛らしい顔を写真に収めた。
裁判官から、赤ちゃんが生まれた時の気持ちを聞かれた美紀は、
「うれしかったです、ちゃんと出てきてくれたから…産声がかすれたような声だったのは気になったけれど、でもうれしかった」
と答えている。

その後、美紀は母乳やミルクを与えようとしたが、うまく飲まなかった。産後の疲労から、赤ちゃんの横で寝入ってしまった美紀が気付いた時、赤ちゃんは冷たくなっていた。
原因はわからないが、もしかしたら出産した際に口や鼻に呼吸を妨げるものが残存し、それでうまく呼吸ができなかったのかもしれない。
動転した美紀は、タオルに赤ちゃんをくるむと、自分の車で走り出した。向かった先は、婚家の墓がある寺だった。
「赤ちゃんをせめて供養したかった」

美紀は穴を掘り、墓のそばに埋めた。
その翌日、美紀はようやくその事実を夫に打ち明けた。夫は、警察に届けることも考えたというが、結局、今いる子供たちを育てなければならないと思い、また、そこら辺に埋めたのではなく墓地に埋めたということで、ある意味供養したことになるんじゃないかと思ったと話した。
生まれた子供を見た美紀は、家族に「元気な赤ちゃんが生まれました」と伝えたいと思ったという。けれど、亡くなってしまったことで、隠し続けた結果がこんな悲しい事実だということを伝えることはできなかった。

判決は、美紀のしたことは許されないとしながらも、それに至る過程には汲むべき事情があったとして、執行猶予となった。

誰にも言えない

平成26年12月、岡山市南区の文具店のゴミ箱から、女の赤ちゃんの遺体が発見された。
翌日、南区内の病院から、「赤ちゃんを産み落としたという女性が来ている」と通報があり、南区在住の保育士、島田香奈(仮名/当時25歳)が死体遺棄の疑いで逮捕された。
その後、赤ちゃんの殺害も認めたため、殺人でも再逮捕された。

香奈は、短大を卒業後、保育士として働いていた。短大の頃から、SNSや合コンなどで男性と接する機会もあったが、家庭ではそのような婚前前に男性と関係を持つということはある種「忌み嫌われて」いたことから、そういった自身の行動はひた隠しにしていた。
平成24年頃、A氏と出会う。A氏は香奈に対して「かわいいね」と優しく接し、香奈もそれまで出会った男性からそのようなことを言われたことがなかったことで舞い上がり、A氏と肉体関係を持った。
ただ、A氏はフルネームをなかなか教えてくれなかった。また、かわいいね、などとは言うものの、正式に交際してほしいとか、彼女になって、などといった具体的なことは口にせず、それを香奈のほうから聞いてもはぐらかされたという。
お察しの通り、A氏は既婚者だった。

10回ほどの肉体関係の中で、A氏が避妊をしてくれたことはなかった。当然、香奈にも最低限の知識はあったので、コンドームをつけてほしいと頼んだこともあった。
しかし、A氏がそれを受け入れることはなく、時にはそういうと不機嫌になったという。香奈は、A氏に嫌われることを恐れて、避妊してほしいと言えなくなってしまった。

ある時、生理が遅れた。その時はただ遅れただけだったが、平成25年4月を最後に、香奈に生理は来なくなった。

そのころすでにA氏との関係も以前のようなものではなくなりつつあった。香奈がA氏に連絡を取って会おうとしても、A氏は仕事や飲み会を理由にことごとく会うのを避けるようになっていた。
そんな中で、GWの初日、香奈はA氏に生理が来ないことを告げる。
それを聞いたA氏は、なんとそれ以降の香奈との連絡を絶った。香奈がどれだけ連絡をしても、A氏が応じることはなかったという。それでも香奈は、A氏と連絡さえとれれば、もしかしたら「結婚しよう」と言ってくれるかもしれないと思っていた。裁判では検察官に執拗にそのことを問われているが、たとえ本名を知らない相手でも、妊娠が分かったとたん逃げるような男でも、連絡さえつけば責任を取ってくれるかもという期待は最後まで持っていたようだった。

そんな香奈の淡い期待とは裏腹に、A氏は弁護士に対し、
「とにかく香奈ちゃんから逃げまくった。今までもめんどくさいことを女が言い出したら徹底的に逃げまくってきたし、生理が来ないというメッセージを見て、めんどくさい奴だと思って無視しました」
と答えている。どうだ、こんな男が実在するのだすごいだろう。

香奈は出産のその日まで、一度も妊娠検査薬を試したことはなかった。現実逃避をするために、合コンにも行ったというから、おそらく妊娠していないと思い込みたかったのだろう。
いつからか始まった胎動を感じるたびに、おなかを叩き、ジャンプしたり重いものを持ったり、いわゆる胎児虐待を繰り返した。生まれてほしくなかった。

その日、陣痛が始まった香奈は、風呂場に駆け込み必死の思いで声を殺して出産した。死んで生まれればいいと思っていたが、わが子は産声をあげた。
その時、実は家の中に実母が在宅であった。このまま赤ちゃんが泣いてしまうと、母親に気付かれてしまう、焦った香奈はそのままわが子の顔にシャワーを浴びせかけ、水を張った洗面器の中に顔をつけた。

母親は裁判で、「娘とは性的な話や男性との交際などの話は一度もしたことがなく、だからこそ、そんな相手がいるなどとは思わなかったし、肉体関係を持っていたとも思わなかった。」と話した。
妊娠して、香奈の体つきに変化がみえても、太ったという娘の言葉を信じて疑わなかった。この時代、そんな親がまだいることにも驚いたが、あまりに性的な話をタブー視したがゆえに、娘は25歳になってもどう対処すべきかの知恵がついていなかった。
香奈は香奈で、母親に相談したら、これまでの母親との関係が崩れ去るのではという不安から、相談することができなかった。

香奈は殺したわが子をビニール袋に入れると、母親に気付かれないように自分の寝室へ運び、翌日普通通りに保育所へ仕事に出かけた。
その際、トートバッグの中にそのビニール袋も忍ばせていた。
通勤途中にあるコンビニのゴミ箱に捨てようと思ったが、人が大勢いて無理だった。ふと、同じ敷地内の別の店舗の前に置いてあったごみ箱が目に入った。
香奈は、そのビニール袋をゴミ箱に捨てた。

交際相手の男の名前と男の素性は、裁判で初めて知った。

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