🔓止められない、止まらない〜4つのリンチ殺人後編〜

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佐賀のコンクリ殺人

平成3年3月4日、鳥栖署は殺人死体遺棄事件の容疑者として佐賀県内の建設業の男ら4人を逮捕した。

そして、男らの供述通りの場所から遺体が発見された。

遺体があったのは大野城市内の稼働中の鉄鋼製作工場敷地内。
深さ約1mの土中から発見されたが、その遺体はコンクリートで固められていた。

遊び仲間

遺体で発見されたのは、鳥栖市の無職・高島和利さん(当時21歳)。高島さんは一昨年の8月7日の夜に鳥栖市内のコンビニで目撃されたのを最後にその行方がわからなくなっていた。

家族はすぐさま捜索願を出した。警察も、コンビニから黒い外国産の車に乗り込む高島さんの姿が目撃されていたことなどから、早い解決が見込まれたが、その車の持ち主は高島さんの行方に関して全く知らないと話していた。

が、平成3年2月になって、新たな目撃情報を得た。
高島さんが車に乗り込んだ際、その車の中にやはり車の所有者である男の姿があった、というものだった。
さらに、その男を名指しで犯人だとするタレコミもあったという。

警察は男の遊び仲間の一人が高島さんに金を貸していたことや、その返済をめぐってトラブルになっていたことも突き止め、男とその遊び仲間から任意で事情を聞いていた。

そして、車の所有者である男の口から、高島さんを殴って死なせ、その後工場の敷地内に穴を掘って落とし込み、上からコンクリートを流し込んだという供述を得たため、逮捕となった。

逮捕されたのは車の所有者で佐賀県内に住む建設業・古田寿治(仮名/当時23歳)、同じく佐賀県内在住の無職A(当時23歳)、京都府在住の運転手B(当時23歳)、そして広島県在住の工員C(当時22歳)。
A、B、Cの3人は以前、古田の経営する建設会社で働く仲間でもあったが、事件後退職していた。

加えて、被害者の高島さんも、この4人とは趣味の車を通じた遊び仲間だったという。

若い彼らの間にどんなトラブルがあったのか。そしてなぜ、殺害されてコンクリート詰で放置されるに至ったのか。

数千円のトラブル

調べでは、古田らと高島さんの間での金銭トラブルがあったことがわかっていた。
古田らの供述によれば、高島さんが事件の1年ほど前に今回逮捕されたBから「1万円」を借りていたという。
しかし返済してきたのは数千円で、残りの数千円が未払いのままだったというのだ。

当初古田はそれを知らなかったが、ある時、仲間のBからその事実を聞き、年長者の古田も高島さんに対して借金を返すよう催促したという。

ところが、高島さんはこれに応じなかった。

メンツを潰されたと感じた古田は、A、Bと共に高島さんを探していた。そして8月7日夜、コンビニで友達と一緒にいた高島さんを発見し、そのまま古田の車に乗せると走り去っていった。
ちなみに、その他の情報を総合するとこの時高島さんと一緒にいた友人は、おそらく古田やA、Bと面識がなかった可能性が高い。
そのため、その場にいたにもかかわらず、高島さんを連れ去ったのが誰なのか確証が持てずにいたようだ。

車はコンビニから13kmほど離れた佐賀県三養基郡北茂安町江口の筑後川河口に着くと、高島さんを車外に出した。

そして、古田が近づくと、突然高島さんの正面に立ってその頭部をバットでフルスイングした。

「お前らもやれ!やっちまえ」

車のヘッドライトに照らされた人気のない河口で、高島さんはほとんど抵抗らしい抵抗もできないまま、3人から身体中を木製のバットや木刀で滅多うちにされた。
まさに、「狂ったように」高島さんを殴り続けたという。

どれくらい続いたろうか、気がつけば、高島さんは目を見開いたまま、もう動くことは無くなっていた。

その後、古田はCを呼び出し、死亡した高島さんの遺体を車で運んだ。遺体を捨てるにはうってつけの場所を古田は知っていた。
御笠川に当時建設中だった鉄鋼会社があった。古田は作業員としてその現場を知っており、そこに埋めてしまえば発覚しないと踏んだのだ。
現場に着くと、4人は1mほどの穴をおそらく現場にあった重機などで堀り、そこに高島さんの遺体を投げ入れ、同じく現場にあったセメントを2〜3袋使って遺体の上から流し込んで隠蔽した。

弱き者

古田は調べに対し、金を返せと言っても高島さんが拒否し、さらには仲間の悪口を言いふらしていると聞いてヤキを入れてやる、懲らしめようと思った、とする供述をしていて、その殺意についてはA、Bも否定していた(Cは死体遺棄のみ)。

しかし佐賀地裁は古田が仲間らに「頭を狙え」と指示していたことを重視。古田、A、Bの殺意を認定した。

些細な金銭の貸し借りが原因であり、悪質残虐という他ない、として、佐賀地裁の陶山博生裁判長はA、Bに懲役9年、Cに懲役2年を言い渡した。

この金銭トラブルについては、高島さんにも非があるかのような印象もあるが、実は弟の証言があった。
高島さんがBのみならず古田の催促まで拒絶したのは、実はその金はすでに返済していたからだという。
返済していたにもかかわらず、古田から金を返すよう言われたため拒否し、付き合い自体もしなくなっていたという。
しかも、高島さんは1万円以上の金をすでに返済していたというのだ。

高島さんは無職だったが、母親と弟、入院中の父親と暮らしていて、改造車に乗ったりすることはあっても近所ではおとなしい若者、という印象だった。
自宅近くの商店では、店の手伝いを担ってくれるなど、近所の人との関係も良好だった。
近くの車関係の工場には、車好きな若者が多く集っていたといい、その中に高島さんの姿もあったが、いつも挨拶をしてくれる普通の若者だったと工場の関係者は西日本新聞社の取材に答えている。

一方の古田についても、自営業者だったこともあってか改造車というよりもVIPカーが好きだったのかなという印象だが、こちらも車のマフラーがうるさいという苦情はあっても、例えば粗暴だとか、近所の人から煙たがられていると言った話も出なかった。
殺害現場近くの笹野団地に事件の2年ほど前に越してきたという古田だったが、団地の人らによれば区費もきちんと払い、会えば挨拶をしてくるようなおとなしい人、という話で、とてもこのような残虐なことをするようには思えないという人もいた。

しかし事件は起きた。そして最悪の結末となった。

福岡教育大学で教育社会学が専門の秦 政春助教授(当時)は、数年前に起きたあの事件にそっくりだと話す。
そう、足立の女子高生コンクリート詰殺人である。
綾瀬の事件の被害者はたまたまそこを通りがかっただけの何の接点もない少女だったが、死に至る暴走の構図としては同じである。
リーダー格が仲間の前でその力を誇示しようとわざと極端な手段を取り、仲間もまたそれに応えようとする構図がそこにあった。
止めることなどできない、そんなことをしたら最後、次の標的は自分である。

仲間が仲間をリンチの標的にする、その真意はなんだろうか。日頃の些細な鬱憤やストレスを、身近な人間で晴らそうとするのはどういった心理なのだろう。
見ず知らずの人間よりも、手っ取り早いからというのもあるだろう。そして仲間であると同時に、関係が近ければその中に軋轢のある仲間もいてもおかしくない。
それらをうまく利用したのが、古田だった。
古田はいうても暴力団でもなければ力のある経営者でもない。ただのペーペーの一人親方だった。
しかしその見てくれは結構ゴツかったといい、本人の望むと望まざるとにかかわらず、いつしかリーダー的存在になっていたのかもしれない。

金銭トラブルの仲介を買って出たは良かったが、高島さんの態度は想定外だったのだろう。仲介を買って出ておいてそれができなかったとなれば、面目丸潰れである。

本当はリーダーなどになれる器ではなかった。しかしそれを認める勇気も度量も、なかった。

弱いものたちは夕暮れ、さらに弱いものを叩く。ブルーハーツも歌うように、強さを誇示するために、引き下がれなくなってしまったのか。

当時、古田らとは無関係の暴走族のOBが西日本新聞社の取材にこう答えている。

「集団リンチなんか毎週どこかでやってるはず。今回はたまたま相手が死んだから事件として表面化しただけ」

主犯の古谷は懲役11年の判決が下された。

熊谷プレスリンチ殺人

その事件は今から20年近く前の平成14年2月に起きた。
成人男性が行方不明になり、後に失踪直前にトラブルになっていた男たちが逮捕され、男性は殺害されていた、という事件である。

その事件が令和5年5月1日、ふたたび注目を集めた。

発端はNHK。当時取材をしていた記者が、忘れられない事件、裁判として20年の時を経て改めて当時の検察官に取材をし、WEB特集の一つとしてネットで配信されたのだ。

NHK WEB特集 「キーホルダー、畑の中に キーホルダー」

タイトルがなんだか川柳や標語みたいなのが気になるが、その中身は配信当初SNSで話題になった。

内容が凄惨だったから、というのもあるが、事件の手掛かりのようなものが記載されておらず、誰が犠牲になって犯人は誰なのか、そしてその事件発生の年月日、場所すら、わからなかったからだ。当初は都市伝説レベルの情報のなさだった。
あまりに情報がないので「記者がいろんな事件を組み合わせてるのでは?だからわざと隠しているのでは?」という疑いまで持ってしまった。

ただ、記事中にあった「被害者の遺体は海外に輸出されていた」という一文が手掛かりとなった。私自身、それに覚えがあったのだ。

いつもお世話になっている超課金マシーンのG-searchにかけたところ、一つの事件がヒットした。

平成14年2月、熊谷市で起きた男性失踪事件。

男性は確かに殺害後、中国にその遺体を輸出されていた。
廃車の中に押しこまれ、プレスされた状態で。

【有料部分 目次】

失踪
最悪の結末
玉村町の廃車スクラップ工場
きっかけ
夢を失いたくなかった男
ナメられたくなかった男
まさかの判決
返還された遺体