【傍聴記】父のいた風景~松山市・実父傷害致死事件~

令和3年、10月25日松山地方裁判所41号法廷。
「主文。被告人を懲役5年に処す。」

傍聴席の女性と男性が、若干うつむいた。予想通りだったか、それとも、期待外れだったのか。被告人は特に動揺した様子はなく、背筋をまっすぐ伸ばして裁判長の言葉を聞いていた。
傍聴席の女性は、被告人の暴力によって夫を奪われた。傍らの男性は、被告人によって父を奪われた。
しかしふたりは、亡くなった夫、父よりも、というよりただひたすらこの被告人の身を案じ続けていた。

被告人は家族だった。 続きを読む 【傍聴記】父のいた風景~松山市・実父傷害致死事件~

暴走反応〜松山市・同居女性傷害致死事件〜

松山地裁第41号法廷にて。
令和422日から始まったその裁判は、交際していた女性を同居していた男が死なせたという事件についてだった。

奇しくもその裁判が始まった日は、2年前に事件が起きた日と同じ日。すでに保釈されていた被告の男は、スーツを着て髪も短く刈り、神妙な面持ちでメモをとりながら裁判に臨んでいた。

二人の間に何があったのか。なぜ男は愛する人を死なせてしまったのか。

当初の報道では、痴話喧嘩の末に体力で勝る男が女性を死なせたという印象だったが、弁護側は無罪を主張。
被害者には心臓に不安な点があったというのが根拠となっていたが、裁判が進むにつれて明らかになったことがもう一つあった。

自分でどうにかしたかった男と、男が全てを受け入れたがために制御不能となった女の事件。 続きを読む 暴走反応〜松山市・同居女性傷害致死事件〜

おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件①~

平成32年1月27日

「被告と被害者は、一心同体だったのです」

高知地裁204号法廷。
その裁判は、こんな弁護人の冒頭陳述から始まった。
被告人席に座るのは、長身で面長、銀縁の眼鏡をかけてうつむく男。長身のわりに、どこか自信のなさそうな、気の弱そうな印象を受ける。
男は2年前の冬、愛媛県西条市で同居していた60歳の男性に暴力を振るい、そのあげくに死亡させ、さらには遺体を高知県いの町まで運んで焼き棄てた疑いで起訴されていた。

罪状は、傷害致死および死体損壊、遺棄。先に起訴、審理された死体損壊と遺棄については男も認めている。

しかし男は、傷害致死を否認していた。

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おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件②~

「ほどいて」

8月18日午後5時半ころ、野田さん宅の近くにある石岡(いわおか)神社の宮司は、社務所のインターフォンを鳴らした野田さんを見て仰天する。
野田さんは全裸で、両手をナイロン製の細いロープで後ろ手に縛られ、両肩をたすき掛けのような状態でロープを通された上、首は輪にしたロープでくくられていた。 続きを読む おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件②~

おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件③~

死因

弁護側が傷害致死を認めないのには理由があった。
野田さんの死因は、「多発外傷性ショック死」とされており、たとえば首を絞められたとか、刃物で刺されたとか、そういったはっきりとしたものが死因ではなかったのだ。
遺体を解剖した高知大学の古宮医師によると、野田さんの遺体には、外傷性硬膜下血種、多発ろっ骨骨折、広範囲に及ぶ皮下軟部組織損傷が認められ、それらが合わさったことによる多発外傷性ショック死が死因であった。
それらは野田さんの死の直前(数時間前から半日以内)にできたものが大半であり、これ以外にも多数の外傷が野田さんの体には残されていた。
実際、光洋も野田さんが死の直前に、椅子からずり落ちて側頭部を強打したことを供述している。 続きを読む おもいあがり~愛媛・高知同居男性傷害致死死体遺棄事件③~