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いわき・スーパー駐車場の遺体
その段ボール箱は、スーパーに隣接した6階建て駐車場の5階部分にあった。
開店直後の午前9時過ぎ、巡回中の警備員が発見したが、段ボール箱をビニールで覆ってあり、見るからに不審だった。
爆発物などの危険性もあり、警察に通報。その後臨場した警察官が中を調べると、そこにあったのは爆弾ではなく、遺体だった。
千葉県のチラシ
事件が発覚したのは平成6年2月20日。いわき市のスーパー、イトーヨーカドー平店の駐車場に置かれていた段ボール箱の中から、女性の遺体が発見されたのだ。
遺体は高さ50センチの段ボール箱に座らされるような形で、黒いビニール袋に入れられていた。
遺体は損傷が激しく、女性であることはわかったものの身元特定に繋がるものはなく、警察は女性が身につけていた衣類や腕時計などの特徴を公開して身元の特定を急いだ。
女性は白髪混じり、裏地が赤い黒の上着と国産の腕時計をしていた。
しかし遺体の一部には焼かれたような跡もあり、さらにはなぜか両足首が切断されていたという。
指紋などからの身元特定を困難にするために手首や指を落とす話はないではないが、両足首の切断ということで、警察では猟奇的な事件に発展する可能性も視野に捜査を続けた。
同時に、遺留物から女性の身元につながるものがないかの捜査も続けられ、段ボール箱は首都圏に営業所のある引越しセンターのもので、かつ、その中に千葉県茂原市、富里町に店舗を持つホームセンターのチラシが入っていたことを突き止めた。
加えて女性を包んでいた黒いゴミ袋も、いわき市内ではゴミ袋は透明と決められており、黒いゴミ袋が一般的でないことからも、警察は少なくともこの女性が殺害された場所、あるいは女性を段ボールに入れた人間の両方、もしくは片方が千葉県のその地域に関係していると見ていたが、一方でではなぜその遺体がこのいわき市のスーパー駐車場という人目につく場所に捨て置かれたのか、という疑問もあった。
何か、この場所に意味があるのだろうか?
終末の地・いわき
実はこの頃、いわき市では事件の容疑者が逃亡した先や、被害者を遺棄する場所になることが多かったという。
現在では宮城県亘理市の亘理ICが最終地点である常磐自動車道が、事件当時はいわきICが最終地点だったこともあり、首都圏で事件を起こした犯人が逃亡してとりあえず終点のいわきまで逃げるとか、遺体を遺棄する場所として最終地点のいわきを選ぶことがあったのだ。
警察は司法解剖の結果、被害者は首を絞められて殺害されており、40代から50代の女性で小柄な痩せた人物、死後約2週間、遺体は死後に焼かれていたことも分かった。足首も切断されたのではなく、炭化して焼け落ちていたと断定され、猟奇的殺人というよりも単に遺体を隠すために焼却を試みたものの断念した、との見方が強まった。
遺体は衣類を身につけており、タイツも着用していたことから性的な犯罪でもないと見られ、警察は千葉県内に捜査員を派遣し、聞き込みを行うと同時に遺体を運び入れる際に歩いて持ち込むと目立つことから、犯人は車で駐車場へ運び込んだ可能性が強く、回収された駐車券から指紋を採取。さらに、遺体の歯に治療痕があることから、千葉県内の歯科医らの協力を仰いだところ、3月になって遺体の身元が判明した。
警部補の不倫
いわき中央警察署は遺体の身元を千葉県市原市在住の主婦と断定。その主婦の家族や交友関係を探ったところ、千葉県内に住む女が事情を知っている可能性が高いとして聴取、女が殺害と遺棄を認めたため殺人と死体遺棄の容疑で逮捕した。
逮捕されたのは大網白里の無職、山岡美奈江(当時46歳/仮名)。
美奈江はある男性と不倫関係にあり、被害者はその男性の妻だという。平成6年2月14日の夕方、被害者が美奈江の自宅を訪れた際に口論となり、思わず自宅にあった腰紐で被害者の首を絞めて殺害してしまった、とのことだった。
殺害されたのは市原市の主婦・山口カツ子さん(当時52歳)。山口さんの夫で美奈江と不適切な関係にあったのは、なんと警視庁刑事部の警部補だった。
検察は美奈江がカツ子さんを疎ましく思い、知人に頼んで興信所を名乗らせカツ子さんを呼び出したり、ドラム缶の改造を頼んでいた事実を指摘し、犯行は計画的だったと主張したが、福島地裁いわき支部は計画性については否定。
猟奇事件かと思いきや遺体が焼却できなかったことで段ボールにいれ、千葉から遠く離れたいわきへ車で運んで思いついた場所に遺棄したという、よくよく考えれば行き当たりばったりの隠蔽も何もなされていない杜撰な遺棄だった。
その上で悪質な行為であることや、遺族の処罰感情が強いことから懲役13年(求刑懲役16年)を言い渡した。
小野田礼宏裁判長はカツ子さんの夫の無責任さも指摘。詳細がわからないものの、双方に優柔不断な態度を取り続けたのか、この夫の態度にも問題があったとした。
カツ子さんの夫は事件後依願退職している。
岸和田・給水塔の遺体
娘は母の行方を捜していた。母親は先月の10日以降、その行方がわからなくなっていたが、同時に愛犬の姿も見えなくなっていた。
夫を亡くし、自販機設置や土地を貸す一方で、清掃などのアルバイトをしながら細々と暮らしていた。
娘はある男の存在が気になっていた。父が生前営んでいた廃バスを利用したラーメン屋。その店を畳んだ後、母が住居として貸していた男である。
あの日、母は男から家賃を集金に来て欲しいと言われて外出したのだ。
娘が話を聞きにいくと、男は家賃を手渡し、その後は自販機を設置している銭湯へいくと言っていた、と話した。
確かにその銭湯には、母が乗っていたバイクがあった。けれど何かおかしい。この男、そもそも職も安定しておらず、母は家賃を催促していたではないか……
男は娘が捜索願を出す際も、警察署へ同行した。
そういえば、あの夜男は何をしていたんだろう?何かを焼いていたような……
娘の前で焼かれていた母
大阪府警捜査一課は、平成13年7月2日、行方不明になっている貝塚市の女性の遺体をバラバラにして遺棄したとし、岸和田市の男を死体損壊と遺棄の容疑で逮捕した。
逮捕されたのは岸和田市の自称警備員、堀切和義(仮名/当時58歳)。バラバラにされて遺棄されていたのは、貝塚市の自営業・坂井由紀子さん(当時55歳)。
坂井さんは堀切に住居を貸し出しており、その家賃の支払いをめぐってトラブルとなり殺害されたとみられた。
行方不明になって約3週間。その後の取り調べで、由紀子さんは堀切に会ったその夜に殺害されていたことも分かった。その後3日かけてバラバラに解体された上、手足などは敷地内で焼かれて灰にされていた。
警察が堀切の自宅を捜索したところ、解体に使用されたとみられるノコギリが見つかり、さらに、敷地内の給水塔からは、由紀子さんと見られる遺体の胴体部分が発見された。
胴体だけは、焼き切れなかったのだという。
殺害後、隠蔽工作として由紀子さんが乗ってきたバイクを銭湯の駐輪場に置きに行ったのも堀切だったが、男が防犯カメラに写っていたことでそこから堀切につながっての逮捕だった。
由紀子さんを殺害した翌日の11日、堀切は自宅の風呂場などでのこぎりを用いて由紀子さんをバラバラにし、人目を気にして火が落ちてから庭先で遺体を焼いていた。
ところが、なんとその最中に由紀子さんの娘が堀切を訪ねてきた。娘が母親を捜しにきた時、母はそのすぐ近くで無惨な姿になっていたのだ。
12日も焼却作業は続けられたが、近隣の人に怪しまれたこと、さらには由紀子さんの娘や知人らが再び堀切の自宅を訪れたことでもはや焼却作業は続けられないと思い、遺体を給水塔へ放り込んだ。
その後、怪しむ娘らに家の中を見せるなどしたという。この時、娘らには堀切は普段と変わらない様子に思えたというが、堀切は内心かなり動揺していたようだった。
犬まで殺した男
裁判では、堀切がそれまでも5万5千円の家賃を4万円しか払えていなかったことや、事件当時も職を変えておりそもそも家賃の工面ができていなかったにもかかわらず由紀子さんに対して家賃を払うと言って呼び出していたことから、殺害する意図が最初からあったのでは、とみられた。
加えて、由紀子さんから家賃を支払えないなら雑用をやるようにと命令されたことで憎しみを抱いたとされた。
堀切は起訴事実を認め、懲役15年(求刑懲役18年)が言い渡された。
堀切はあの日、由紀子さんを殺害したのち、由紀子さんが飼い犬のマルチーズを連れてきていたことに気づいた。
由紀子さんは大変この犬を可愛がっていて、どこへ行くにも一緒だったという。
当初堀切は自宅から5〜6キロ離れた山に捨てに行ったというが、なんとマルチーズはその後堀切の自宅まで戻ってきた。
そこで堀切は、このままではマルチーズが自宅付近をうろついて犯行がバレると思い、由紀子さんのマルチーズも殺害し、裏山に捨てていた。
由紀子さんは人当たりの良い、気さくな性格の人だったという。夫が病に臥した際も御百度参りをするなど、献身的な人でもあった。
夫を亡くして以降も、先にも述べた通りアルバイトなどをしながら、時にはアルバイト先だった酒店の店主の雑用なども快く引き受けていたという。
堀切は由紀子さんに金が払えないなら雑用でもやるように、と言われて侮辱されたような気になり憎しみを募らせたというが、由紀子さん自身も他人の頼まれごとや雑用を厭わなかったことから、堀切をバカにしてそう言ったのではなく、むしろそれをすることで家賃の減額などに応じる気持ちだった可能性もある。
周囲の人から、堀切みたいな嘘つきとは付き合うな、そう言われていたという由紀子さん。それでも、家賃もろくに支払えないやつだけど、同じ独り身、年も近い。心のどこかで見捨てられない、そんな気持ちもあったのかもしれない。
自分のことしか考えることをしなかった男は、もう誰にも気にかけてはもらえない。
仙台・公衆トイレの遺体
平成12年9月7日、仙台市太白区の大年寺山公園公衆トイレで汲み取り作業していた人が、汚水タンク内に人体と思しきものがあるのを発見。
警察が確認したところ、それは人の胴体部分であることが判明した。
司法解剖の結果、その胴体は30歳から50歳くらいの女性のもので、両手足と首は刃物のようなもので切断されていたという。すでに腐敗が進んでおり、少なくとも死後数ヶ月と見られた。
現場の公衆トイレは散歩で利用する人は一定数いるというが、さほど人通りが多い場所でもなく、不審な人物を見かけたという目撃情報は得られなかった。
また、近くにある市の野草公園に綺麗なトイレがあることから、そもそもこの公園の古いトイレを使う人はもともと少なかったという。汲み取り作業も半年前に行われたのが最後だった。
警察は県内の行方不明者リストなどを総当たりすると同時に、遺体から手がかりが得られないか引き続き捜査を行なっていたところ、遺体にはある手術が施された痕跡があることが判明した。
それは、子宮と卵巣の摘出手術だった。
警察は行方不明者リストや捜索願が出ている女性のうち、子宮と卵巣の摘出手術を受けた人を洗い直していたが、該当者はそのリスト内にはいなかったという。
何も県内で起きた事件とは限らない。よそで事件に巻き込まれ、このトイレに胴体部分を遺棄されただけかもしれず、身元判明には時間がかかると思われた。
が、遺体発見から10日後、事件は急展開する。
宮城県警仙台南署は9月19日、仙台市在住の50代の男を死体遺棄容疑で逮捕した。遺体は、この男の妻だった。
市民の通報
逮捕のきっかけは、9月14日に寄せられた市民からの情報だったという。
「知り合いの男の行方が遺体が見つかった直後からわからなくなっている。妻がいるはずだがその妻の行方もわからない。妻は子宮摘出の手術をしている」
警察はこの情報を元に男の行方を捜索。18日、仙台市内にいた男に任意同行を求めると、男は公衆トイレで発見された胴体は妻のものだと認め、それを捨てたのも自分であると認めた。
男は青葉区の会社員、金杉雅夫(仮名/当時58歳)。殺害されていたのは妻の静江さん(当時51歳)だった。
その後の調べで静江さんの頭部、手足はそれぞれ福島県内の墓地や山林から雅夫の供述通りに発見された。
雅夫と静江さんは子供がおらず二人暮らしだったというが、同じマンションの住民らは「仲が良いご夫婦だと思っていたのに」と驚きを隠せなかった。
が、静江さんの友人らによれば、静江さんは夫である雅夫の交友関係、というか女性関係に悩んでいたとのことだった。
一方の政夫は、静江さんを殺害した動機について、「妻の癇癪がひどく耐えられなかった」などと話しており、警察は慎重に捜査を進めた。
計画殺人
その後の取り調べでも、雅夫は日頃から静江さんとの間で口論が絶えなかったなどと話しており、口論の挙句発作的に静江さんを殺害しその処理に困ってバラバラにして遺棄したとみられていたが、検察は裁判で「計画的殺人」だったと主張した。
検察は、雅夫の女性問題が露見してから、静江さんから生活を干渉されるようになり疎ましく感じるようになったとし、これは静江さんから逃れるための殺人で、4月中旬から殺害に必要な道具を揃えたり殺害のシミュレーションを行うなど計画的だったとした。
4月27日午前、なんらかの方法で風呂場へ静江さんを向かわせると、その浴室内で静江さんの首をタオルで締め上げた。
静江さんを殺害した後、計画通りに浴室内でバラバラにした後、ペットシーツなどに包んで遺体を部位ごとにそれぞれ遺棄した。
殺害日以降、雅夫は青葉区内の別のマンションで生活しており、殺害現場のマンションには荷物を取りに戻る程度だったという。また、浴槽を新しいものに取り替えるなどの偽装工作のようなこともしていた。
「自由気ままな生活がしたかった」
雅夫は動機について聞かれ、そう答えた。
仙台地裁は雅夫に対して懲役18年の判決を言い渡した。
静江さんは雅夫との二人の生活を少しでも豊かにしたくて、まさにその身を削って働いていたという。にもかかわらず、女遊びにうつつを抜かされ、挙句殺害されその体をバラバラにされて寂しい公衆トイレに遺棄された。どれほど悲しかったろうか。
雅夫は、控訴しないと弁護人に語った。
三ヶ日町・藁の中の焼けた遺体
降りしきる雨の中、母と弟は静かに手を合わせた。
静岡県引左郡三ヶ日町の道路沿い。以前は杉の木が立ち並んでいたというが、現在は伐採され生垣へと姿を変えていた。
立ち上る線香の煙と、傍の花束。弟は兄が好きだったあんころもちをその隣に供えた。
遺体発見と失踪した会社員
平成10年4月29日午前7時半頃、静岡県引左郡三ヶ日町の道路沿いに置かれた稲藁の山から煙が出ているのを散歩中の男性が発見した。
稲刈り直後の田んぼなどでは稲藁やモミガラなどをその場で焼いたりすることはよくあるが、男性は火事にでもなってはいけないとその藁をほぐしてみた。
それがなんなのか、にわかには判断できなかった。
藁の中には、燻る「なにか」があった。かなり大きなその物体は真っ黒に焼けていたが、まるで人間のように見えた。
男性はすぐに警察に通報。その物体は、警察官によって人の体であると断定された。
遺体はひどい状態だった。
男性がにわかになにか判断できなかったのは、頭がなかったからだった。加えて、その胴体は胸から腹の部分にかけて大きく裂かれていた。
遺体はこの稲藁の中で長時間焼かれていたとみられ、大部分はすでに炭化していたという。
頭部もなく、全身は炭化した状態とあって、さらに周辺には遺留品なども見当たらず、その身元の特定は困難であることが予測された。
一方、遠く離れた愛知県瀬戸市内では、ある若い男性の失踪騒ぎが起きていた。
ルミノール反応と銀行ATM
愛知県瀬戸市に住む会社員が失踪したのは4月27日。会社員は1週間ほど前に瀬戸市内のアパートへ越してきたばかりだったが、仕事は数年前から名古屋市内の紙を取り扱うメーカーに勤務していた。
無断欠勤が続いたことで会社から実家の両親に連絡が入った。両親らがアパートに行ってみると、会社員の自家用車がなく、部屋にも誰もいなかったという。
連絡がつかないために両親は警察に相談、その後警察が室内を調べたところ、居間と風呂場から大量のルミノール反応が出た。
また行方がわからなくなったとされる4月27日以降、会社員のキャッシュカードを利用して銀行の口座から300万円を引き出すマスクをした男の姿が防犯カメラにとらえられていた。
警察はこの男が会社員失踪の事情を知っているとみて捜査を開始した。
そしてもたらされたのが、三ヶ日町の悲惨な遺体発見のニュースだった。
警察は遺体発見前夜に付近で白い乗用車が目撃されていたこと、瀬戸市の失踪した会社員の車がそれと酷似していることから、両親に臍の緒を提供してもらってDNA鑑定を行った結果、あの焼かれた遺体は瀬戸市の会社員であると断定された。
遺体となって発見されたのは、瀬戸市の会社員・堀田浩二さん(当時29歳)。警察は堀田さんが失踪直前、父親に対して金銭関係の相談をしていたことなどから、あの銀行ATMの防犯カメラの男との間でなんらかのトラブルに巻き込まれた可能性を視野に捜査を継続、防犯カメラに映っていた男の身元も特定し、任意で事情を聞いていた。
堀田さんは無口でおとなしい、また他人にも優しい人柄だったという。が、その優しい性格であるが故に、他人から何かを頼まれると嫌とは言えない一面も持っていたという。
警察はその後、任意で事情を聞いていた男が堀田さんの乗用車を瀬戸市内の病院駐車場に乗り捨てたと話し、車が発見されたことなどからより厳しく追及した結果、男が堀田さんを殺害して首を切断し、三ヶ日町で焼損したことを認めたため、強盗殺人、死体損壊、死体遺棄などの容疑で逮捕した。
その後、男の供述で堀田さんの頭部も豊田市の山中で発見された。
殺害され、首を切断されて焼かれるというあまりに残酷な息子の最期に、両親の心中は想像を絶するが、それでも頭部が見つかったことで息子をきちんと供養できることはせめてもの慰めだった。
しかし犯人の名前を聞いて、両親はさらに愕然とすることになった。
逮捕された男は、堀田さんの実家と同じ団地でずっと暮らし、子供の頃からよく知っている堀田さんの幼馴染だったのだ。
団地のふたり
逮捕されたのは瀬戸市の会社員・安田尚志(仮名/当時29歳)。堀田さんとは、実家が瀬戸市内の同じ団地だった。
事件と、犯人を知った二人の同級生や親たちは言葉を失った。
二人の家は団地の中でも近い場所にあったといい、幼い頃からいつも一緒に遊んでいたという。団地内をはしゃいで駆け回る二人の姿を覚えている住民らも少なくなかった。
堀田さんの実家は今もその団地にあるが、安田の両親はすでに死亡し、事件当時は部屋は解約されていたという。
病弱だったという安田の父親が入院した際、落ち込む安田少年を支え、元気づけたのは堀田さんだった。それ以外にも堀田さんは安田のことを気にかけるような優しい少年だったという。
一方の安田も、おとなしくて粗暴な面はなく、幼い頃からその素行に関して問題があったという話はなかった。が、大人になってからは仕事はきちんとしていたものの、ギャンブルにのめり込んでいたという情報があり、事件が起こる前にも借り続けていた実家の家賃を滞納するなど経済的には問題を抱えていたようだった。
小、中学校と同級生として過ごし、同じ定時制高校へ進学。社会人になってからも付き合いは続いていたという。
加えて、事件当時に二人がそれぞれ暮らしていたアパートは200mほどの距離にあった。堀田さんはそれまで名古屋市守山区のアパートで暮らしていたが、家賃の安い瀬戸市のアパートに越してきたばかりだった。おそらく近くに安田が住んでいることは知っていたはずで、その辺りからも二人が気のおけない間柄だったことはわかる。
社会人となってある程度落ち着いてきた時期。幼馴染と再び近所で暮らすようになったふたりは、どこで間違えたのか。
殺意なき殺人?
強盗殺人で逮捕されていた安田だったが、検察は強盗殺人での起訴を断念、殺人、窃盗、死体損壊、死体遺棄での起訴となっていた。
調べで、安田は4月26日夜、徒歩で堀田さん宅を訪問、二人で宅配ピザなどを食べて歓談していた。その後、なんらかのきっかけで口論に発展。その際、堀田さんに股間を蹴られたことで激昂した安田は、部屋にあった置物型のライターで堀田さんの頭部を殴ったところ、堀田さんは死亡したのだという。
起訴まえの取り調べにおいては、刃物を振り回したところ首に当たって切れてしまった、と話していた安田だったが、裁判ではそれは嘘だったとし、殺意についても完全に否認していた。
そして、とにかく何もかもを消し去りたい、部屋で何も起きなかったことにしたいという思いから、堀田さんの遺体を部屋から運び出して山中に運び、歯型から身元が特定されるのを防ぐために用意したチェーンソーで下顎と首を切断、遺棄したとした。
300万円を引き出したのも、特に使い道を考えたとか、最初から奪うつもりではなかったと話した。遺体を車に乗せた際、車の中にあったバッグの中にキャッシュカード入りの財布を見つけた安田は、過去に堀田さんから暗証番号を聞いた記憶があったことから、試しにATMで引き出しを試みたところ、うまく行ったということだった。
取り調べの中でも、堀田さんを思わず殺害してしまったことは認めていたが、金目当てだったかどうかについては断固否認していたため、強盗殺人での起訴は難しいと判断されたようだった。
ただ安田には多額の借金があった。元々実家も裕福ではなく、父親が死亡した後に受け取った生命保険金もギャンブルなどに使い果たしていたという状況があった。
給与は月額20万円。そのうちの17万円ほどが、借金返済に消えるという破綻状態だった。
事件後には実際に300万円を引き出しており、これで金目当てではないというのも疑わしかったが、ATMでの変装用のマスクや帽子などは事件後に購入していたことや、遺体の運び出しの状況なども思いつきのような面も見られ、何より「殺してやる」といった積極的な殺意を持ち合わせてはいなかったと、安田は裁判でも一貫していた。
名古屋地裁の川原誠裁判長は、堀田さん殺害について「偶発的なものではなく計画的」と断罪。理由としては、安田が証言した凶器が遺体の頭部の傷と合致しないことにあった。
その凶器が実際になんだったのかはおそらく判明していないとみられるが、少なくとも角などの尖った部分のない重量のある鈍体によるものであり、安田が凶器だとした、堀田さんの部屋の中にあった置物型のライターではないとした。
凶器がその場に元々転がっていたものならば、偶発的な行為と言えなくもない。安田と弁護人がそこを狙っていたかどうかはさておき、証拠に照らせば安田の話は「嘘」だった。
その上で、幼い頃からの友人である堀田さんを殺害し、首を切断して焼損するなどあまりに残酷として、懲役16年(求刑懲役18年)を言い渡した。
本性
判決を受けて、遺族は初めて遺体の域現場を訪れた。それがこの章冒頭の場面である。
母親は事件後熟睡できない状態が続いていた。判決までの1年もの間、安田からは一度も謝罪はなかったという。
幼い頃からよく知っている、息子の友達。目をかけたこともあったろう。裁判の間も、遺族に対して視線を合わせることすら、なかった。
さらにこの後、安田は控訴し、その控訴審において遺族の心を抉る言動を見せた。
なんと、殺人自体を否認したのだ。
安田はここへきて、あの夜堀田さん宅を訪れたのは間違いないが、自宅を訪れた際に堀田さんが室内で倒れており、すでに死亡していたと話した。
そしてなぜか警察や救急を呼ぶでもなく、「このままでは自分が疑われる」という思いから、堀田さんの遺体を運び出し損壊して遺棄したと話した。
どこの誰が信じるのだろうか。
安田はご丁寧にアリバイまで用意していたというが、あまりにお粗末だったのか報道でも全くそれについては触れられていない。そして当然、裁判所もアリバイを認めず、控訴棄却となった。
私が傍聴した同居男性傷害致死事件でも被告の男はこの安田と同じように「自分は第一発見者であり、死ぬような危害を加えていない」と一貫して主張していた。
そして同じように、「自分が疑われるから」と思って遺体を損壊し、遺棄した。断言するが、疑われると思って逃げたならまだしも、だからって遺体を損壊して遺棄するなど無実の人ができることではない。しかも、燃えやすいようになのか、堀田さんの胸部を切り開いてまでいたのだ。残忍にも程がある。
罪人には二種類いて、時間が経つにつれて自責の念や後悔の念が深まる人と、時間が経つにつれ罪の意識が薄れていく人とがいるように思う。
多くは前者だと思われるが、安田は後者だった。
遠い記憶の中の同級生ではない。堀田さんは、幼い頃からずっと近くで暮らしていた友人だった。借金にあえぐ日々の中で、安田にとって堀田さんとの交流は当初はある種の懐かしい昔に戻れる、安らげるものだったのではないのか。
同じ団地で育ったふたり。しかし大人になった今、ギャンブルに溺れ借金生活の安田とは対照的に、堀田さんは貯金もあり、堅実な社会人としての人生を歩んでいた。
あの夜、もしかするとそれを突きつけられるような何かがあったのかもしれない。
安田は懲役16年が確定したと思われる。
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参考文献
読売新聞社 平成6年8月3日東京夕刊、平成10年4月30日東京朝刊、5月12日東京夕刊、13日、18日中部朝刊、東京朝刊、11月13日、平成11年6月25日中部朝刊、平成12年9月8日、20日、21日、10月7日東京朝刊、平成13年2月28日東京朝刊、平成18年1月13日大阪夕刊
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朝日新聞社 平成6年6月30日東京地方版/千葉、平成12年9月14日、22日、12月26日東京地方版/宮城
日刊スポーツ新聞社 平成12年9月8日