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恐怖のLINE実況
弁護人からの質問が終わり、検察官からの被告人質問が始まった。
担当したのは、鬼太郎ヘアーがかわいい若い女性検察官。(ちなみに、若い女性の傍聴人は「あの女の人、カッコよかったことない?」と友達と話してた。)
事件当日の朝からの行動を確認し、質問は両親を刺す直前の様子へ。
(検察官:Aさんに電話を掛ける二人を見てどう思った?)
「それに対して怒りを覚えた、ふたりに。うーん・・・仕方ないとは思うけど、まず自分にもっと言えばよかったのでは、と思った」
(検察官:Aさんに電話した後は?)
「・・・。・・・ふたりから・・・。あのー。んと・・・。ボコボコに言われた。」
(検察官:ゴウダさんに電話した?)
「とめた。」
ゴウダさんはその日、確かにその時間に着信があったと証言している。仕事中のため、出ることは出来なかったが、そもそもすぐに剛志が電話を取り上げ切っていたようだった。
(検察官:その後は?)
「・・・。切った時にえっと・・・なんで切るんぞ、と父に言われましたね。」
(検察官:別れろと言われた?殴られた?)
「・・・というか、胸倉掴まれました。」
その後、勝浩さんを刺したときの立ち位置、洋子さんへの暴行などの様子をもう一度確かめるように質問が続く。時折言葉に詰まる剛志に対し、特に突っ込むようなこともなく、そして弁護人も異議を唱える場面もなく話は続いた。
しかしこの後、法廷は異様な雰囲気が支配することになる。
「14時47分、AさんにLINE送ってるよね。これはなんで?」
実は初日の検察側の証拠の提示で、AさんとのLINEのやり取りも明かされていた。
剛志はAさんに、事件当日の14時47分から19時10分までLINEでメッセージを送り続けていた。
Aさんは仕事中であったため、休憩時間などにまとめて返信するなど応対はしていたようだが、当然、剛志がどういう状況下でそのラインを送っていたのかは全く知らない状態だった。
以下、裁判で明かされた当日のLINEのやり取りである。
※ところどころ聞き取れなかった箇所、言葉の間違いの可能性あり。
14:47 “俺さ、A守るためやったらなんでもしちゃる。”
15:08 “最後に会って”
15:00の時点のメッセージには、Aさんも普通に返信していた。
お前のためなら何でもするといった剛志に対し、Aさんは
「もうしてくれとるのに?」
というような返信をしていた。意味をはき違えているかもしれないが、Aさんからすればこれ以上私のために何をするの?という意味だったのだろう。
しかしその後、LINEの内容は明らかに不穏なものへと変化していく。
16:02 “なんでもする。一番厄介なやつ、潰したってこと。”
16:16 “ま、とりあえず両親もうおらん。”
“今日が一番最後ってこと”
“とりあえず、完全に黙らせた”
“もう抵抗できんように”
“俺にとっても最後の日。親も俺も最後の日。”
16:54 “俺の最後の日に会いたいってこと。今日で親のことは全部終わり。”
17:00 “すごいことした。強いて言うなら地獄に突き落としただけ。”
(このあたりから、検察官が時間を読み間違え始める。17時以降のLINEなのに、15時とずーーーっと言ってた。)
”とどめさした。やっただけ”
“ほんとにうっとおしくて存在自体目障り”
Aさんも何かおかしいと気付き、剛志に対して「どういう意味よ?」と返信したが、それに対しては曖昧な返答が続いた。「とどめをさした、やっただけ」という文章にただならぬものを感じたAさんは、「まだ生きとるんやろ??」と聞くも、剛志からは「死んどるかもね」というふざけているのかなんなのかわからない言葉が返ってきた。
焦ったAさんは、「やけん、親どこにおるん?!」と、両親のことを何とか聞き出そうと試みた。
なんども問い質すAさんに対して、剛志は「別に捨ててない」といい、「なら、どこにおるん!」と食い下がるAさんに、「俺の目の前にいまーす」と返した。
そして、不安な気持ちで倒れそうなAさんを恐怖のどん底に叩き落すメッセージが続いた。
” 片方、生きとるよ。”
このあたりで、裁判員が頭を抱え始めた。新聞記者らもそれまでメモを取るのに必死だったが、思わず剛志の背中を見つめる人もいた。私は、この法廷自体の空気がなにか邪悪なものに包まれているのではないかと思うほど、息苦しくてたまらなかった。外は晴れているのに、法廷だけがどんよりと暗い、ていうか、黒い。本当にそう思えた。
お察しの通り、剛志は母親の洋子さんを蹴って刺して、洋子さんが気絶している間にLINEを送っていたのだった。そして、息を吹き返すとまた暴行、の繰り返しだった。
実際、洋子さんが絶命したのは、暴行を受け始めてからなんと4時間後であった。
2階で洋子さんを蹴り、背中を刺した後、気を失った洋子さんを抱きかかえて家具にもたれかからせるような体勢で座らせたという。そして、その母親の前でAさんにLINEを送っていた。
(検察官:なんでそんなことをしたの?)
「座らせたのはなんでかよくわからん。」
(検察官:死んだかどうかの確認では?)
「・・・いや、それやったら持ち上げたときに息しよるとかでわかると思うんで、違う。」
剛志が洋子さんのそばでLINEをしたのは、剛志の携帯を洋子さんが持っていたから、という理由もあった。その日、写真を見られて以降は洋子さんがずっと握っていたという。
(検察官:お母さんはLINEしてる間、生きてた?)
「生きてた。胸を刺す前にいったん中断した」
(検察官:送った内容は、母親のこと?)
「そうです。」
剛志は親のことばかり聞いてくるAさんに、「今更親の心配やめよーや。」と返していた。そして、
“ 刺しただけ。もう、いらん。 人が あがきもがきよる ”
とも。
これは、洋子さんのことを指していた。瀕死の状態でもがき苦しむ母親を、剛志は眺めていた。
ただ、なぜこんなメッセージを送ったのかは、全く覚えていないという。いまそれを見せられても、覚えていないと剛志は言い切った。
全く思い出せなかった母の暴言
その後検察官は、12月23日と24日にあった出来事について質問した。
(検察官:12月23日のお母さんからの暴言について、どう思いましたか?)
「・・・。・・・。そういうこと、はじめて言われたんで、まぁ・・・。なんとも言えん気持ではあった。」
(検察官:殺せと言われた?)
「いや・・・。わかんないですね。」
(検察官:その時(12月23日)殺そうと思った?)
「その時は・・・いや・・・そんなんじゃないけど、自分としては怒っていた。」
どうやら検察官は殺意がこの12月23日の時点であったのでは、と言いたげだったが、剛志は否定した。
(検察官:1月9日(事件当日)までにこのことを思い出したことは?)
「思い出すってのは・・・言われたことに対して・・・いや、思い出してはない。」
(検察官:当日は?)
「・・・。うーん、わからないです。思い出したともしてないとも、自分でもはっきり言えない。」
(検察官:当日これを思い出したから、殺したのでは?)
「・・・。・・・。わからない。」
(検察官:じゃあ思い出したのはいつ?)
「・・・思い出した・・・?・・・。・・・。その・・・。当日ごろ、だとは思うけどはっきりはわからない。」
剛志自身、混乱しているのか、思い出す、という検察官の言葉のチョイスに戸惑っているのか、そもそも思い出す、という感覚がなかったのか、とにかく一番困っていた。
検察官は、母の暴言がそもそものきっかけではない、だって思い出したのかどうかすらあやふやだから、と言いたかったのだろうか。
この辺は、洋子さんの暴言をクローズアップすることで裁判員に対し、「こんなひどい事を言われたのだから殺意を持っても不思議ではない」と思わせることもできるが、あんまりやりすぎるとそれは剛志への情状酌量になってしまう。
この時点ではどっちにも転びそうな感じだったが、後の鑑定医のはなしによって、検察が潰したかったであろう洋子さんの言葉が剛志にどのように作用していたのかが判明する。
そして、質問は裁判所からに移った。
向かって右側には、30代前半と思われる若い加藤裁判官。優しそう、かつ、育ちのよさそうな顔立ちに似合った、柔らかく、丁寧でわかりやすい質問が、ゆっくりとした口調で剛志に投げかけられた。
(加藤裁判官/以下、同:野菜ジュースを飲んだときの気持ちは?)
「殺そうとかいう気持ちはありませんでした。」
(じゃあ、いつ殺意が?)
「包丁を持った時」←え?前に言いよったんとちがうやんけーーーー!!!
(なぜ殺意を?)
「刺そうと思って持ったんで・・・」
(突然その感情がわいたのですか?)
「というかその・・・自分の感情を抑えきれんくて・・・えと・・・刺してやろうと。初めてそれで握りました。」←やっぱり刺す、に戻る。なにこれ。
(胸を狙って刺したのですか?)
「・・・。結果的にいえば逆手に持ち替えとるけん。そう思われても仕方ないけど、考えてなかった。」
まただ。自分の気持ちよりも先に、周りにどう見えるか、そうみられても仕方ない、そういう言い方を剛志はする。父親に対して、殺意は持っていなかったと何度も話していたのに、長い質問の中で迎合したのかなんなのか、この時は包丁を持った時に殺意を持っていたと話した。
ものすごい矛盾だと思ったけれど、結局誰もそれ以上突っ込まなかった。
その後、加藤裁判官は、父・勝浩さんへの思いを訊ねた。
「母親と同じ。えーと・・・。ずっと仕事ばっかりで、そりゃ当然やけど、自分の感覚からしたら、んーと・・・。そういう、おもちゃとか、そういうのを与えるんやなしに、直接遊んだりしてほしかったんで。マイナスのイメージしかなかった。小さいころからずっと思ってました。」
それまで見ていた剛志の背中が、途端に幼い子どもの背中に見えた。父と母、自分にとってのすべて。その両方に対して、マイナスのイメージしかなかったと。
これは親として堪えた。勝浩さんは不規則な勤務形態で、なかなか剛志に思い切りかまってやれる時間を取りたくても取れなかったのかもしれない。その穴埋めを、おもちゃを買い与えることでしていたのかもしれない。しかし、それが剛志にとっては全くプラスにはなっていなかった。
反面、そういう剛志はどうなんだ、とも思う。自身の二人の幼い娘に対し、何をしてやったというのか。裁判でも子供への思いはほとんど聞かれなかった。
最後に、女性のクスノキ裁判官が質問した。
(クスノキ裁判官:お母さんは何かあなたに言いましたか?)
「蹴られているとき、この家から出て行けと・・・。最後は・・・いや、ないですね。」
クスノキ裁判官は、何か言いたげだったようにみえたが、そこで質問は終了となった。
刺すと殺すがイコールではないこと、何だかわかります。
彼は刺した結果人が死ぬということを理解してないんだと思います。
怒った。
刺した。
殺した。
その辺の感覚が全く曖昧で、繋がりなんかない。全ての感情行動が単独なんだと思います。殺意と言うより、怒ったから刺した。
なかなか普通の人には理解してもらえないのですが。
白 さま
コメントありがとうございます。
彼はとにかく、刺す、殺すを使い分けていました。けれど、それはどうして?と聞かれるとうまく答えられない。
白さんの仰るように、曖昧なのでしょうね。境界線が。
ただ、怒ったから暴力を振るう、刺した、というのはいささか違うのかもしれません。
鑑定医の言うように、彼の中には命令として作用してしまった、の方が近いと思いました。