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平成10年12月10日、東京地方裁判所で行われたある事件の判決公判。
法廷には中年の女と、男の姿があった。
中山隆夫裁判長は、女に対して懲役15年、男には懲役7年をそれぞれ言い渡した。
量刑の理由で中山裁判長は、
「妻の不倫を知りながらも幼い二人の娘のために屈辱を忍び、両親の離婚の勧めにもかかわらず家庭再建を決意した直後に殺害された夫の無念は察するに余りある」
と厳しく二人を非難した。
被告の女は、不倫の末その不倫相手とともに夫を殺害し、さらには保険金を奪おうとしていた。
法廷では実行犯の愛人の男に罪を全てなすりつけようとした女だったが、この女の存在無くしてこの事件は起こり得ないと、誰もが思う事件だった。
永福の殺人
「どろぼぉ!!!」
平成9年3月28日午後10時過ぎ。東京都杉並区永福一丁目の月極駐車場付近から、男性の叫び声が響いた。
付近を通行していた何人かがこの声を聞いたほか、その場から走り去る男のような人影を見た人もいた。
近所の人も不審そうに家から出てきた。声がした駐車場へ向かうと、そこには男性が血を流して倒れていた。
しかもその背中には、深々と刃物が突き立てられたままだった。
男性はすぐに救急搬送されたが、搬送先の病院で出血多量により、死亡が確認された。
死亡したのは、所持品などから東大和市新堀のヤマト運輸和泉営業所に勤務する木村月穂さん(当時43歳)と判明。木村さんの傷は背中から刃物が胸部前面に突き出るほど深く差し込まれていた。
木村さんは仕事が終わって一人、会社の駐車場へ向かっていたところで刺されたと見られた。泥棒!と叫ぶ声を聞いた人が複数いたことで、物盗りの犯行かと見られたが、木村さんの財布が残され、中には約8万円の現金も残ったままだったこと、背後から襲われていることなどから、物盗り以外の線も視野に捜査が始まった。
木村さんは背中を3箇所も刺されており、警察はそこに強い殺意を感じていた。通りすがりの場当たり的な犯行というよりも、何らかの意図が見えた。
木村さんは普段、同僚らと駐車場まで移動することが多く、この日はたまたま一人で駐車場まで来ていたが、まるでそれを見計らったかのようにも見えた。
警察は、顔見知り、或いは木村さんの仕事の時間や日頃の行動を知っていた人物が関係しているのではないかとして慎重に捜査を進めた結果、7月、木村さんを殺害したとして男女を逮捕した。
女は、木村さんの妻だった。
【有料部分 目次】
妻と愛人のたくらみ
二人のそれまで
出会う男全部ゴミ
恥ずかしい写真
夫の気持ち、妻の気持ち
第三の男
喪主を務めた妻と、空の香典袋
裁判
涙