🔓お父さんは悪くない~続・ある家族の崩壊への軌跡/八尾市・長男バラバラ殺人事件~

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店先には、いつもその父親の姿があった。
缶ビール片手に、父親は客を待ちながらテレビの野球中継を見るのが常だったという。

「精神病院行ってんねん」

息子はそう言ってにこっと笑う。お気に入りのTシャツやスニーカーを「おっちゃん!見て!」と人懐っこく話しかける息子のことを、近所の人たちの中には親しみを持って接する人らもいた。

そんな息子の通院費を稼ぐために、父親は家業の自転車店のほかに、トラックの運転手や市場の鮮魚部門で早朝の仕事を掛け持ちしていた。
母親と次男はすでに家を出ていた。

小さな家に、父親と息子。

「仕方なかった」

そう呟いた父親は、同時に

「後悔していない」

とも話した。

鳴門の砂浜の胴体

平成17年5月11日、徳島県鳴門市の砂浜に、男性とみられる遺体が打ち上げられた。
遺体は、頭部と四肢が欠損した状態。明らかに、切断されて遺棄されたものだった。

指紋も顔も分からない場合、身元特定には時間がかかるかと思われたが、2日後身元はあっさり割れた。
警察のDNAデータベースに、遺体と合致するDNAが登録されていたのだ。

胴体は、大阪府八尾市在住の藤見一(はじめ)さん(当時33歳)と断定。一さんは当時八尾市内の実家で父親と二人で生活していたという。

警察がDNAが一致したことを踏まえて父親に話を聞きに行ったところ、なんとその父親が一さん殺害、切断、遺棄を認めた。

逮捕されたのは一さんの父親・秀雄(仮名/当時62歳)。
秀雄は一さんが自室で寝ているときに工具を用いて頭部を殴り、殺害したと自供。その後、遺体を解体して仕事で使用していた2トンの保冷車に積み込むと、大鳴門橋の上からその遺体を遺棄したと自供した。

秀雄は自転車店を経営しており、事件当時も店の入り口には「パンク直します。1台500円」といった張り紙もあった。
住宅街にある小さな自転車店。自宅も兼ねていたというその2階で、一さんは父親によって殺害され、バラバラにされて鳴門海峡に捨てられた。

取り調べに対し、秀雄は冒頭のように、仕方なかったと、後悔していないと話した。

秀雄は自転車業界でも知る人も多い人物だったという。事件を知った知人や同業者らはその人柄などに触れ、信じられないといった様子だった。

しかし、妻と息子二人との家族4人幸せな日々は、とうの昔に崩壊していた。

【有料部分 目次】
幸せな4人家族
変わり果てた両親
他害行為と絶望
「もう、悩まなくて済む」
「お父さんは悪くない」
医療観察法
当事者と他人の距離

 

🔓それぞれの死~いくつかの被疑者、被告人の死~

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容疑者、被告人の死。

理由は様々あれど、関係者の多くにとってそれは残念な出来事だと思われる。
中には口封じとしか思えないような不可解な拘置所内での自死、事故死もないとは言わないが、いつの時代にも容疑者や被告人がその事件の犯人としての罪のあるなし、その量刑が確定しないまま何もかもが終わってしまうのはやはり、残念なことである。

有名な事件で言うと、尼崎の連続不審死で主犯格として逮捕された角田美代子氏だろう。彼女は事件が発覚し逮捕されたわずか2ヶ月後に、身柄が置かれていた兵庫県警本部の留置場の布団の中で、長袖のTシャツを首に巻き付け、自死していた。
事件詳細は関連書籍など山ほどあるので読んでいただくとして、北九州のあの事件と双璧をなすと言ってもいい事件の首謀者があっけなく自殺するものだろうかという疑問はあった。
結果的には、角田氏は逮捕直後からかなり弱気になっていたようで、状況的にも自殺と考えられ、その後、角田氏と行動を共にした人物らも刑が確定し、事件は終わった。

事件備忘録でもいくつか、逮捕されることを嫌い、また裁判を待たずに自ら命を絶った容疑者の事件を報告している(確定後の服役中の死亡は除く)。これとか、これとか、これとか、これとか、これとか、これとか、これとか、これとか。
刑が確定する前に、起訴された被告人が死亡すれば公訴棄却となり、事件は残っても死亡した人間には前科はつかない。
たとえ、現行犯で一旦逮捕されていたとしても、100%犯人でも、死亡した以上は被疑者死亡で書類送検となり、その後検察も被疑者死亡で不起訴の判断をするため、前科はつかないのだ。

先日公開した事件の中で、一審判決が下された直後に被告人が死亡したというケースがあったが、それについても控訴手続きが取られないままだったためにこのまま放置すれば判決は確定してしまう。
検察は、死亡した人間に前科をつけることはせず、あえて控訴し、その後高裁で公訴棄却となった。

判決はまだでも、現行犯などで犯人確定しているケースはある意味、自分の命で償ったとも考えることは可能だが、中には最初っから容疑を否認しているケースもある。
広島の警部補の自殺も、本人は容疑を否認していた中での自殺だった。

事件の大小にかかわらず、被疑者、被告人の死によって幕が降りた事件をいくつか紹介したい。 続きを読む 🔓それぞれの死~いくつかの被疑者、被告人の死~

🔓死刑台の笑い~京都連続女性殺害事件~

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平成13年。2001年と言ったほうが把握しやすいだろうか。

街には安室ちゃんに代わって浜崎あゆみの歌が流れ、女の子たちはケータイ片手にローライズジーンズ、ヒョウ柄、キムタクと常盤貴子のドラマでみんな泣いて、年末には愛子内親王が誕生、反町隆史と松嶋菜々子も結婚した。

一方世界では貿易センタービルに飛行機が突っ込み、新宿では雑居ビル火災で44人が死亡、大阪では小学校に刃物を持った男が乱入し、多くを負傷させ8人の児童を殺害した。

凄惨な事件が世界中で起きる中で、それでも日本の若者たちは今に比べて元気だったように思う。

その要因の一つは、携帯電話と携帯メールの普及だろう。人々の生活は大きく変化し、かつては自営業者か暴力団しか持っていなかった携帯電話を、10代の若者が普通に持つ時代になっていた。
出来なかったことがどんどんできるようになっていく時代。遊び方も変わっていった。

それらの中に、メールのやりとりから始まる出会い、というものもあった。昔なら考えられないことだが、若い子たちは顔も知らない、どこの誰ともわからないメールの向こう側の人物に興味津々だった。

メル友、その相手をそう呼んで、メル友の数を競い合う人たちもいた。ただのメル友に終わらず、実際に会って交際へと発展するケースもあったし、その時限りの遊びもあった。
中には、出会い系サイトを利用してお互いの欲求を満たす、そういったケースも。
さらにその中のいくつかでは、取り返しのつかない事態を招くケースも。

京都で起きた、あの時代の典型的な事件の顛末。

【有料部分目次】

宇治川の遺体
伊佐津川の遺体
笑みを浮かべる男
男のそれまで
「あれやったのおれなんだ」
あの頃の私たち
死刑台の笑い

🔓ロマンチストは現実を見ない~加古川女教師殺害死体遺棄事件~

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彼女はいつもシンプルな服装をしていた。
教師という職業柄もあったのか、また、どちらかというとボーイッシュな顔立ちから自分には女性らしい恰好は似合わないと思っていたのか。

「10センチのヒール履いてみたい」

友人にそう話した彼女に、友人は「履いたらええやんか」というと、「無理やわ」そう言って彼女は笑った。

消えた校納金550万円

平成20年11月末、兵庫県加古川市立加古川中学校では外部の業者に支払うために預金残高を確認していた。
二つの口座で管理されていた校外活動費は生徒から集めたもので、各学年の会計担当の教師が通帳と印鑑を管理、業者への支払いなどを行っていたという。
ところがこの月、1年生の会計を担当していた女性教師が11月27日から無断欠勤をしており、かわりに別の担当者が口座の残高を確認して支払いをしようとしたところ、その残高が明らかにおかしいことに気づく。
不自然な入出金が夏ごろから11月まで計16回も行われ、引き出された合計は1160万円。その間、入金なども行われていたが差し引きでの現時点での残高不足は550万円にも上っていた。

学校は口座があった金融機関の防犯カメラなどを調査、すると、会計を担当していた女性教諭が口座から現金を引き出す姿が映っていたことから、この女性教諭が横領した疑いが強いとして、12月11日までに捜索願と共に業務上横領の容疑で加古川署に刑事告発した。

女性教諭は市内で一人暮らしをしていたというが、27日以降、部屋に戻った形跡はなく、家族を始め誰とも連絡がつかない状態にあった。
その後、平成21年3月10日、県教育員会は3か月にわたる無断欠勤を理由に、その女性教諭を懲戒免職処分にしたと発表。
新学期が始まっても、女性教諭の行方は杳として知れなかった。

【有料部分 目次】
休耕田の白骨遺体
事件の真相
老兵の勘
イタい女
貢ぐ女
暴走、そして終焉へ
ロマンチストは現実を見ない

🔓忘れないで~生きた証④ 続・鬼の棲む家~

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松本〇〇くん(名前不詳/奈良県月ヶ瀬:平成10年7月4日死亡/当時生後8か月)

その男の子は、生後4か月から病院にいた。意識を失い、ずっと寝たままで。
4か月後、まだ1歳にもならない小さなかわいい男の子は、1歳のお誕生日が来る前に、その短い人生を終えた。

奈良県警奈良署は平成20年3月10日、生後4か月の双子の長男と次男に対し虐待を加えたとして、奈良市月ヶ瀬の夫婦を殺人未遂の容疑で逮捕した。
ふたりは共謀し、生後間もないころから双子の兄弟に激しい暴行を加えており、保護された際、長男は慢性硬膜下血腫を、そして次男にいたっては心肺停止で救急搬送されたが、その後低酸素脳症となり、4か月後に脳死と判断された。

死亡した次男は発見時、目を覆うほどの虐待の痕跡のみならず、その腹部には赤ペンで「ブタ」「死ね」という落書きまであった。
両足の骨は折れ、肋骨は11本が骨折していた。

通常、このような重大虐待事件は周囲や行政が気づいていながら防げなかった、という話がついて回るものだが、この事件に関しては周囲が全く気付くことができなかった中で起きていた。

【有料部分 目次】

それまで
いらなかった双子
「バンジー」
「なぜ死んだのかわからない」

鈴木杏実(あずみ)ちゃん(名古屋市南区:平成13年7月17日死亡/当時7歳)
あぶない家
それまで
体罰で子は育つ
悪魔人間
子供たちの悲痛
救おうとしなかった祖母
裁判と信じられない「ふたりのその後」
繰り返される事件、解明されない現実