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まさかの逆転有罪
晴れて無罪となった河瀬は、2年9か月ぶりに自由の身となった。
記者会見に臨んだ河瀬は、いつもの気弱で自信なさげな印象はあるものの、少し笑顔も見られた。
一方、父親の純さんの心は複雑だった。警察からは「確実な証拠がある」と聞かされていたのに、裁判の過程で「これは!」といった証拠は一切出なかった。
純さんは、判決が出る2週間前に受けた雑誌の取材で、「秘密の暴露もなかった。真犯人はほかにいるのかな、という思いもある」と答えている。それほどまでに、矛盾だらけの裁判であった。
無罪判決の後、純さんは、「真犯人を見つけてほしい」と話した。
河瀬はその後離婚し、田辺と姓を戻して実家に身を寄せた。弁護士は「正義にかなった判決。検察庁は控訴せず、判決を確定させてほしい」と訴えた。
河瀬も職を見つけ、ようやく自身の人生を取り戻したかに見えた。しかし、検察は控訴、河瀬はふたたび愛知県に戻る羽目になり、派遣社員で生活をしていた。
控訴審では新たな目撃者が出廷し、一審では認定されなかった河瀬の車の位置について、検察がいうとおりの純さんの車の斜め向かいに停まっていたと証言した。
しかし、この話は実は一審でもでていた。ただ、色が同じであっただけで、車種がそもそも違っていたという結論になっていた。
にもかかわらず、「赤いワゴンR」と断言する形で証言された。
それ以外に真新しい証拠はないに等しく、二審でも無罪判決は揺るがないかに思えた。
2007年7月6日、控訴審判決。
弁護団も河瀬も、無罪を確信していたという。むしろ、検察がさらに上告することを懸念していたくらいだった。
しかし名古屋高裁は、「原判決を破棄」し、懲役17年を言い渡した。自白は信用できる、として、逆転有罪判決を下したのだ。
一審での判断は何もかもが正反対の解釈をされた。
①詳細な供述をしたAさんからEさんまでが、誰一人として河瀬の姿もあずき色のワゴンRも見ていないとしたのに対し、新たに証言した目撃者の証言が正しいと認定した。
②犯行の様子が変わったのは、単に状況を詳しく聞いたがための事で、変遷とまでは言えない
③自白したり否定したりしたのは、真実を隠すためのことであり、やっていないとは言えない
このように、全てを否定した。さらに、河瀬が犯人でないという証拠がないとまで言ったのだ。
これにはさすがに驚いた。もしもこれがまかり通るならば、一旦お前が犯人だといわれたら、たとえば純さんのように防犯カメラという確たる証拠がなかったら、そのまま犯人といわれてしまう可能性があるということだ。それを裁判所が認定したのだ。
広島の放火殺人で一貫して無罪が言い渡されたのは、「疑わしいのであるならば、国家権力側がそれを立証する責任がある」という刑事訴訟法を踏襲した結果のことである。どんなに疑わしくても、それを立証できなければ、罪に問うことは出来ないのだ。
(同じようなケースで恵庭OL殺害事件があるが、少なくともあの事件では大越元受刑者が犯人であると指し示す物的証拠、客観的証拠が多数出ている点で同類とは言えない。)
名古屋高裁は、それを放棄したといってもよいほど、これはいくらなんでも雑な裁判といわざるを得なかった。
では誰が犯人なのか
この事件は冤罪ではないのかという声が少なくない。私自身もそう思ってきた。恵庭OLの大越元受刑者が「小鳥」ならば、この河瀬は「瀕死の小鳥」であった。
しかし、最高裁でも判断は覆らず、2008年9月、上告は棄却された。
当初は河瀬の犯行かどうか疑わしいと思っていた純さんも、このころになると河瀬の犯行であると思えるようになっていたようだ。
ただ、マスコミの取材に対し、「本当に河瀬が犯人なら、翔が教えてくれると思う」といった発言もあった。心の中では、納得できる答えが出ていないものの、かといって絶対に河瀬ではない、とも思いきれない、悲しく辛い遺族の心情が垣間見える。
河瀬が犯人であるとしても、やはり一審で抱いた数々の疑問というものは解消されない。
なぜ、誰も河瀬もワゴンRも見ていなかったのか。
事実として間違いないことは、
①翔ちゃんは午前零時頃純さんによって車に連れてこられた。
②純さんの姿は防犯カメラでゲームセンター内にいることが確認されている
③午前零時すぎ、翔ちゃんが起きだして車の窓を開けるなどしているのをAさんとBさんが見ている
④Cさんらの高校生グループが、午前1時ころに純さんの車をのぞき込む女性3人(Dさんのグループ)を見ている
⑤Dさんらのグループが午前1時ころ駐車場を出るまで、翔ちゃんは車にいることが確認されている
⑥1時15分にFさんが純さんの車のそばを通った際、人の気配はなく、翔ちゃんらしき赤ちゃんの声なども聞こえなかった
⑦1時21分、純さんが車に戻ると、翔ちゃんが消えていた
⑧AさんとBさんは、午前3時ころまで純さんの車と向かい合う近い場所に駐車し、その車内にいた
⑨AさんとBさんはCのグループの数人と、Dさんのグループの女性3人以外の人が純さんの車に近づくのを見ていない
これが時系列でみた場合の「事実」である。
ということは、午前1時過ぎから15分~20分の間に、翔ちゃんは連れ去られた可能性が高い。最後に翔ちゃんを目撃したのはDさんらのグループである。
この短時間に、河瀬が、というか、誰かが誰にも見られずに翔ちゃんをさらったということになる。しかも、AさんとBさんは、翔ちゃんが存命していた午前零時過ぎから事件が起きたあとの3時ころまで、純さんの車のそばにいたはずである。実際、純さんが捜しに来た際、Aさんらにも何か見ていないかと声をかけている。
しかし、AさんもBさんも、前述の高校生グループとDさんらのグループ以外に純さんの車に近寄った人物を見ていないという。
もちろん、目撃証言や時間など、証言のすべてが事実だとするならば、であるが。
誰かが嘘をついていなければ。
誰にも見られず連れ去れたのは、誰もいなかったという証言があるからで、登場人物の誰かの「嘘」はここにないのだろうか。
もちろん、それには河瀬も含まれる。彼がやったという証拠もないが、やってないという証拠も、実はない。
翔ちゃんは実際にその15分から20分間に連れ去られた。死因は海水を飲み込んだことによる窒息と判明しているため、生きたまま海に投げ込まれたのも事実だろう。
誰が、なんのために。
掴めない人物像
河瀬は留置場でたまたま一緒になった人物に対し、身代金目的で豊川の事件を起こした、と語ったという。
しかし、別のときにはやってないともいっているし、「やったといったじゃないか」と言われてまた、「本当はやった」などと言った。
河瀬は非常に気が小さく、他人に抗議したり主張したりできない人物だといわれている。外見的にも、細く痩せた体にうつろな視線の河瀬は、まさにその通りに見えた。
ただ、取り調べの段階で、その人物像が崩れる場面があった。
最初に取り調べをした担当刑事に対し、ある時から取り調べに応じなくなったという。
河瀬は、その担当刑事のいうことが細かすぎて嫌だ、と不満を漏らしていた。そのため、担当刑事を変えたところ、また取り調べに応じるようになった。
さらに二日後、最初の担当刑事に対し、その刑事から聞かされていた河瀬の子供たちの様子が、実際と違うじゃないかと言い、さらには警察はうそつきだといって取り調べができる状態ではなくなってしまう。
それに対して警察は、子供らが通う教師らに接見に来てもらうことで河瀬を納得させたという。その翌日には、「もう話すことはない」などと言い出し、自ら手錠をかけて留置場に戻るという態度であった。
これらは、およそ気の弱い、誰にでも迎合するという人物像とはかけ離れているとは言えないだろうか。
裁判資料を読むにつけ、どう考えてもこれで有罪はいくらなんでも、というのは同意見である。河瀬も含め、この状況の中でいったい誰が翔ちゃんをさらうことが出来たのだろうか?
しかし、誰かが翔ちゃんを殺害したのは紛れもない事実である。
警察は当初父親に絞って疑いをかけたため、初動捜査に誤りが出た可能性もある。そもそも、なんで事件後の駐車場にある車のナンバーチェックをしたのだろう。何の意味があるというのか。普通に考えて、事件後おめおめと現場に戻る犯人がいるもんだろうか。むしろ、すでにいなくなっている車を調べるべきではなかったか。
純さんら遺族は、あの日の自分を今でも悔いていることだろう。
なぜ、連れて行ってしまったのか。なぜ、翔ちゃんをひとり車に残してしまったのか。
もちろん、翔ちゃんを最後に見た目撃者らも、悔いが残ることになったであろう。
河瀬は大分刑務所に収監されたが、愛知をはじめ支援する会が発足し、再審請求も行われたが、2019年1月25日、再審請求は認められなかった。
河瀬が無実かどうかよりも、翔ちゃんの死の真相が知りたい。そのために、もう一度、調べなおすことは出来ないのだろうか。
疑わしきは罰せず、その精神はこの豊川事件で守られることはなかった。
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参考文献
逆転有罪判決のウラにはあの女性裁判官の存在が… 愛知県豊川市の幼児誘拐殺害事件 節目の10年を迎え、事件と裁判を改めて徹底検証!
原 知之著 冤罪file 2012.7 p.78-88
河瀬君の車から翔君のDNAが発見されなかった点がNAZOです。
河瀬君の出所も近いはずです。
真相究明に期待
実際に
ドンブリハッター菅コキヲ さま
コメントありがとうございます。
本当に謎ですよね、村瀬さんのアストロにも河瀬氏の指紋はなかったようですし、彼の自白のみなんですよね。
多くの人がいた中で、誰も河瀬氏を見ていない・・・
私もこの事件はこのまま終わらせて欲しくないと思います。
こんな事を言ってはいけないかもしれませんが、誰もが思うこと、父親何やってんの?ですよね。
母親が家に居るなら子供置いて遊びに行けばいいのに。まぁ止めない所で似た者夫婦なんでしょうけど。
挙句に子供1人で車に置いてゲーセンって、そして記者会見の服装も常識のかけらもない。
そういう家に生まれる子の不運を集めたような事件ですよね。
家庭持ってて夜中に遊びに行くってのが普通は無いですけどね‥。初詣とか以外では。
子供が幼稚園の時に、同じバス停だったママが、子供が赤ちゃんの時に家に一人で寝かせて旦那と居酒屋行ってたのーって普通に言ってきて、ドン引きして関わらないようにしたのを思い出します。そのママは地味な感じの普通っぽい人だったので尚更。夫婦の時間も大事だしーって。バカかと。
捕まった人が真犯人でないなら、夫婦喧嘩で家から逃げて駐車場で寝てただけで殺人犯にされるの?!って絶望感を覚えますね。
真実が知りたいです。
ちいさま
この父親は悔やんでも悔やみきれない過ちを犯したと思っています。100歩譲って、深夜のゲームセンターに連れて行くだけなら、まだわかります(年に1回くらいなら)。
でも、目の届かない場所に一人置くのは・・・。
ただ、あの頃はそういう親は今より多かった気がします。そして、周囲の大人も、それを見過ごしていた。今だったら通報ものでしょう?パチンコ店でも見回りなどやってますしね。
私は翔ちゃんを殺したのは本当は誰なのか、知りたいです。もう一度すべての証拠を調べて、田辺受刑者の証言ももう一度ちゃんと聞いて、矛盾がないか、その上でどうなのか判断してもらえないかな、と思います。
そういう意味では、再審開始となればよいのにと思うんですよね。
はじめまして。よく調べられてますね。先日ニュースでやっておりググったらこのページにたどり着きました。事件当時、近くに住んでいた者です。当時、村瀬は御津町の県営住宅に住んでおり自分も棟が違いますが、同じ住宅に住んでました。朝方、警察の方が来て事件内容を聴きました。当時の村瀬を知っているものからすれば、犯行は何かしら村瀬本人が関与してることを疑うと思いますよ。まぁ、真実は謎ですが、、、いつか真相がわかるといいですね。
バルボアさま
コメントありがとうございます!村瀬氏と同じところにお住まいだったのですか。そんな方からのコメント、うれしく思います。
記事中、私は出来るだけ公平な目で描こうと思っていたので、村瀬氏については親の責任についてのみ言及しました。
なるほど、身近な方からすれば思うようなところはあるのですね。。。
実は再審請求の流れは知らなかったんです。たまたま書き上げたところ、その日に再審請求却下の報道がなされ、タイミングに驚きました。
田辺受刑者は間違いなく真実を知っています。でも、その真偽を見極めることはとても難しいですよね。
もしも彼が無実だったら、記事中にも書いたとおり、登場人物の誰かが嘘を言ってる気がするんですが、闇の中になってしまうんでしょうかね。