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初の逆送
少年は殺人と銃刀法違反、住居侵入の罪で福岡家庭裁判所久留米支部に送られていたが、福岡地検久留米支部は、平成13年5月1日、少年の審判への検察官立ち合いを申し立てた。
これは、それまでの少年審判は家庭裁判所で行われ、そこには検察官の立ち合いがなく、「事実認定が甘い」といった指摘があった。
そのため、検察官の申し立てが認められれば、家裁での審判に検察官が立ち会い、刑事い処分相当と判断されれば検察庁へ送られることが認められた。
またその年4月の法改正で、16歳以上の少年が殺人や強盗などの重大犯罪をやらかした場合、原則検察官送致、いわゆる逆送致とし、これを受けて、少年としては全国で初めて(この時点において。のちに水戸家裁の決定が先に行われたため、実際には全国2例目)成人同様刑事裁判を受けることになった。
そして、6週間の観護措置を経て、6月12日、少年は福岡地検久留米支部に逆送、6月20日には殺人罪などの罪で起訴された。
9月11日の初公判では、少年は殺意こそ認めたものの、丈志さん方を訪れたことは殺害目的ではなく、あくまでストーカー行為などをやめさせるための話し合いだったと主張した。
しかし現実には、少年は丈志さん方を訪れ、父親が不在であることを確認したのちに侵入、丈志さんに
「誰やお前、佳代子の旦那か」
と言われもみ合いとなり、そのまま話し合いもなく持っていた切り出しナイフで丈志さんの顔面、頭部、腹部、胸部、背中をメッタ刺しにしていた。
弁護人は、「丈志さん方へ赴いた際は、『示談になればいい、念書でも書いてもらえば』という思いだったものが、もみ合っている最中に丈志さんから『お前も佳代子も娘も殺す!お前たちの不幸が俺の幸せじゃ!』と罵られたことで最終的に殺そうと思った」と主張したが、裁判所はこれを認めなかった。
さらに裁判所は、事前に少年が腹にさらし替わりのシーツを巻き、ヘルメットや軍手、地下足袋で身を固めていることも、単なる話し合いに必要な服装ではないこと、もはやそれは、命のやり取りを想定したものであるとし、少年のあらかじめの殺意を認定した。
少年にはその後、懲役5年から10年の不定期刑が言い渡され、いったんは控訴したようだったが、その後確定した。
佳代子
一方の佳代子はというと、少年が逮捕されて2週間後に、殺人ほう助の疑いで逮捕された。
おそらく、佳代子にとっては「こんなはずではなかった」展開だったのだろう。佳代子は少年から「待っとかんや」と言われた際、明らかに自身の逮捕など露ほども想定していないとわかる言葉を残している。
佳代子は、この時妊娠していたのだ。
それは少年の子だという。そして、事件前に少年にもそれを伝えていたのだ。
冒頭にあるように、少年が丈志さん襲撃に向かう直前、「待っとかんや」と言ったのに対し、佳代子の返答は「子供産んで待っとく」だった。
しかし予想に反して、佳代子も逮捕となり、結果、殺人罪で起訴された。
佳代子は事件当日、少年が凶器を持参のうえ、丈志さんを襲撃することを知りながらその準備を手伝い、さらには丈志さん方へ車で少年を送り届けているのだ。
さらに、丈志さんを殺害したのちも少年を車に乗せ、血で汚れた作業着や軍手、凶器のナイフを捨てるために車で走行している。さらに、丈志さん宅の間取りを教えたり、丈志さんの予定や在宅確認なども行っていた。
検察は、殺人罪の共同正犯を適用した。
ところが、佳代子は全面否認。少年に対し、殺害を仕向けたり、示し合わせたりしていないとして無罪を主張する。
これはこのサイトでも取り上げた境町就寝中男性殺害事件と似た展開ではあるが、あちらはそもそも逮捕すらされていない。
佳代子の場合は、極道の妻よろしくカチコミ前の男の身支度を手伝い、切り火で送り出しているわけで、殺人罪は難しくてもほう助は免れないと素人目でも思う。
判決は、殺人罪で懲役5年。控訴したという報道が出ないので、おそらく確定したのだろう(追記:控訴したものの棄却、その後確定)
少年が不定期刑確定となったのちも、佳代子は自身の無罪を訴え続けていた。もちろん、少年はそう願ったろうけれども、私はこのあたりで佳代子の本性が見えた気がしていた。
「二度目はなかぜ」
若い男性が年上の女性にハマる、というのはありがち話なのだが、この事件の場合、佳代子の手練手管というより、少年のぶっちぎりの漢気というか、もっと言えば九州の、この大牟田の風土というか、そういうものが大いに盛り上げたのではなかろうかと思わずにいられない。
少年は特に親がやくざだとか、自身も身近にチャカがあるとかそんな荒くれた修羅の国の日常を送っていたわけではない。
前科もなく、一度窃盗で捕まったものの、それ自体不起訴処分になっている。かわいいものだ。
しかし、そんな少年の血にも、どうやら荒ぶる魂があったようだ。
少年は佳代子のおなかに自分の子供の命が宿っていることを聞き、佳代子と佳代子の娘、そして自分の子供の4人での生活を夢見たという。
しかし、そこには丈志さんの存在がどうしても消せずにいた。
警察に相談もした。しかし、そこはまだ少年の至らなさで、それまで佳代子が相談していた荒尾署ではなく、大牟田署に相談してしまい、継続の事案だということが伝わらなかった。
そんな中で、取り乱した佳代子が口走った、「私が我慢すれば」という言葉。
少年は佳代子にこう言い残した。
「俺がいっぺんだけお前のためにしてやる。二度目はなかぜ。一番わかってほしいのは、これだけお前を思っているということ。お前が一番悩んでいることを形に残して解決する。今までどの男もしてやり切らんやったことをする。」
「こげんかこと女のためにする男がいることを、よう覚えとかんか」
考えてほしい、自分が17歳の頃、こんなこと言えたか?
私は世界で最強の口説き文句は、四代目山口組組長・故竹中正久氏が言った、「殺したいやつおったら殺したるで」だと思っている。
少年のそれは、まさにこれを地でいくものだ。
少年は、傲慢で高飛車、虚勢的な強がり、大言壮語、相手の気持ちに無頓着で共感性や思いやりの気持ちが薄く自己顕示欲が強いなどなど、散々な言われ方を裁判でしている。
しかし、世の17歳のほとんどはすべてではないにしろ、こんなもんじゃないのか。
もっと言えば、丈志さんが佳代子を追い込んでいたのも事実であるし、佳代子や少年が警察に相談していたのも事実だ。
結果を考えれば、少年を擁護できるものではないが、佳代子に出会わなければ彼の人生はまた違っていたのかなとは思う。
正直、少年の覚悟の言葉に私はしびれた。もしも母親の立場だったらば、よう言うた、と思うかもしれん。
佳代子はどうだっただろうか。
佳代子の裁判が途中中断していることを考えると、もしかしたら佳代子はそのまま出産しているのかもしれない。
お互いが出所した暁には、今度こそ一緒になったのだろうか。
平成23年、佳代子は破産宣告を受けているが、この時点での苗字は事件当時のままだ。
それまでに二度ほど苗字が変わっているが、出所後再婚したのかはわからない。
少年も、おそらく今は社会復帰し、どこかで暮らしているのだろう。
二度目はなかぜ。
少年と佳代子の、二度目の人生は続いたのだろうか。
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参考文献
判決文
朝日新聞社 平成13年4月14日、16日、17日、5月1日、6日、22日、26日、6月12日、21日、8月28日、平成14年5月9日、9月26日西部朝刊
NHKニュース 平成13年5月5日
中日新聞社 平成13年6月2日、9月11日朝刊
こんにちは、またコメントさせていただきます。
更新情報を見たとき、あまりに馴染みのある街の名前が出てきてついタイトルを凝視してしまいました(笑)
自分にはこの事件の記憶はないのですが、現場のあたりもよくよく知ったところです。
若さゆえの短絡的かつ自分に酔った行動、と断じてしまうこともできましょうが、たしかに仰るとおりある種の「漢気」に突き動かされた犯行なのかもしれませんね。私は高校卒業と同時に上京してしまいましたし、むしろ地元の「男」的なものに馴染めなかったゆえに東京の居心地がよかったクチですが、ずっと地元にいる家族や友達と話していたりすると、ここで善しとされる男性像とはそういう「漢気」を持った人なのかもなあ、と思うことが多々あります(もちろん、殺人まで犯すのは絶対にいけないことですが)。
長らく夏祭りの時期には帰っていませんが、山車に乗る男衆なんかを見ていると、直接的にここでいう「漢気」とは結びつかないにしろ、おっしゃるところの荒ぶる魂が見える気がします。お祭りとしては迫力があってとても見応えがあります(余談)。
いつもながら引き込まれる文章を味わわせていただきました。今後も楽しみに拝見いたします。
日本は非常に酷暑のようですね。どうぞご自愛くださいませ。
ちゃせん さま
コメントいつもありがとうございます。
少年事件ということで情報はあまりなかったのですが、判決文に「二度めはなかぜ」の文章が載ってまして、思わず見入ってしまいました笑
九州はわたしにとって、修学旅行や家族旅行で行く程度ですが、愛媛なので大分とか南の方に馴染みがあります。
福岡が修羅の国と呼ばれるのも、私にとっては以外だったのですが、最近は何となく分かります笑
やはり荒っぽい祭りが盛んな所というのは、風土として何かあるのかもしれませんね。
福岡は炭鉱の町で、それも関係するのでは、という見方もあるけれど、北海道も炭鉱の町ですが荒々しいイメージはない。
大牟田と言うと例の北村一家がすごすぎて他の事件は霞みますが、この少年のような荒ぶる魂(悪い意味に限らず)を秘めた人は多いのかな、そんな気がしました。
一度訪ねてみたいです。