🔓みんな、気持ち悪い~札幌・次女三女殺傷事件~

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平成24年10月、札幌市豊平区の担当者に対し、一人の母親が家庭の不安を口にしていた。
自身の母親と妹らと同居しているというその女性は、母親との関係がうまくいかないことから世帯分離について相談したいと話した。
女性自身にも3歳の子供がおり、交際相手との子供の妊娠が発覚したばかりだという。これまで、生活能力に問題のあった母親と、まだ幼い妹たちの面倒を見てきた女性だったが、ここへきてその母親との関係が深刻なレベルの悪化しているといい、身重の体を守るためにも世帯を分離したい、というのが理由だった。

ただ、世帯を分離できたとしても、女性には妹たちのことが気にかかっていた。
「母が私に向けていた暴力を、妹たちに向けるかもしれない」

3か月後、その話は最悪の形で現実となった。

事件

平成25年1月26日、札幌市豊平区平岸のマンションで、11歳と8歳の姉妹が腹部を刺されるなどして、そのうち11歳の一戸楓香さんが出血多量で死亡した。
おなじく左わき腹を刺された妹(当時8歳)は、重傷ではあったが一命をとりとめた。
さらに現場のマンション室内では、二人の女児の母親とみられる女性も刃物で腹部を刺して倒れており、状況や通報者の証言などからこの母親が娘を道連れに無理心中を図ったとみて捜査を開始、比較的軽傷で済んだ母親が28日退院したのを待って、殺人と殺人未遂容疑で逮捕した。

逮捕されたのは、二人の母親である一戸みゆり(仮名/当時38歳)。
調べに対し、「子供と一緒に死のうと思い、寝ているところを刺した」と供述。事件直後、当時同居していた男性に対し電話で「やっちゃった、ごめんね」などと犯行をほのめかしていたことや、そのさらに前、男性が在宅していた時にも娘らの首を絞めるなどしていたことから、みゆりが無理心中を図ったことに間違いはなかった。

事件が報道されると、関係者らの間には衝撃が走ったのと同時に、「あぁ、やはりこうなってしまったか」という思いに駆られる人々もいた。
実はこの一戸家は、数年前より様々な事情で福祉や行政、警察や児童相談所などがかかわり続けてきた家族だったのだ。

そして、事件が起こる18日前には、亡くなった楓香さんが家出をし、警察に保護を求めるという事態まで起きていたのだ。

にもかかわらず、助けられなかったのはなぜだったのか。

事件後、みゆりには精神鑑定が行われ、その間には札幌市がまとめた検証報告書が公開された。
その後行われた裁判ではみゆりの知的障害が判明、そしてみゆりの壮絶なそれまでの人生と、事件に至る経緯が明かされた。
その中では、長年妹らの世話をし、事件直前にはみゆりとの関係悪化で家を出ざるを得なかった長女(当時21歳)が、
「深く悲しんでいる。妹が死んだことは信じられない。妹たちには学校に行って、普通に結婚して欲しかった。母が憎い。殺されるのは自分が代わりになれれば…」
と検察に託したコメントも読み上げられた。
自分が家を出たばっかりにこんなことになってしまった、長女の悲痛な思いは、母親への憎しみとなってぶつけられたが、それでも生活能力のない母親を支えてきたのもまた、この長女だった。

札幌地裁は、みゆりに対して懲役14年(求刑懲役15年)の判決を言い渡した。弁護側が主張した知的障害や、当時のみゆりは心神耗弱状態にあったという主張は、親として子に手をかけることは絶対に許されないし、第三者の責任という問題ではなく、被告が責任を負うべきとして退けた。

みゆりは事件以前から自殺未遂を繰り返しており、特に事件直前は自ら110番したり、児相に対して自殺をはかってしまったと告白するなど、かなりSOSを出していた。
それでも、問題行動のあった長男以外の子供らは保護されることなく、すべてをみゆりに任せた結果、最悪の事態が起きてしまった。
弁護側は、そういった点を踏まえてもっと関係機関が踏み込んでくれていれば少なくとも楓香さんが死ぬことはなかったとした。
加えて、このような事態につながったその「背景」についても裁判ではいろいろと明かされていたのだが、中身が中身だけに表に出ることがなかった。
市の検証報告においても、その肝心の部分は「深刻なトラブル」という表現で誤魔化された。

いったい、何が起きていたのか。

【有料部分 目次】
穢れを畏れぬ人々
知的障害
長女
狂いゆく母
やぶれかぶれ
「ごめんね、やっちゃった」
気持ち悪い人々