なに見てヨシって言ったんですか?Part2〜あなたの隣の重過失〜

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「私、失敗しないので」
はテレビの中のお話。
人は誰しもうっかりもすれば間違いも犯す。ふとした気の緩み、考え事をしていた、少しくらいならいいだろう、これまでも大丈夫だったから。

しかし何事にも初めてはある。

そこには確かに、運もタイミングも関係する。その初めてが「危なかったね」で終わるか、人が死ぬか。それはいつも同じではない。

だからこそ、最悪のパターンを想定して日々、慎重に物事を選択していく必要があるのだが、それを守れる人はほとんどいないだろう。

誰しも間違える。油断する。あなたもそして私も。

最悪の事態を引き起こしてしまった人たちの記録。

ゴルフの練習をしていた人

昭和61年5月9日、大阪市城東区の道路上でその事故は起きた。
陳列ケース製造会社に勤務していた吉原清司さん(仮名/当時45歳)は、仕事で訪れた取引先であるプラスチック用品製造会社で会社内に置かれていた一本のゴルフクラブを借りた。
昼休憩をとっていなかった吉原さんは、昼休憩も兼ねてそのゴルフクラブを握ると、取引先の会社の前の路上で素振りの練習をし始めた。
同じ頃、近くに暮らす主婦の刀根真知子さん(当時36歳)は自転車でその通りを走っていた。いつもの通り慣れた生活道路。
しかしその先では、クラブのヘッドを注視し、調整を加えた吉原さんがクラブを正にフルスイングしようとしていた。

事故

振り回したゴルフクラブがあたり 主婦死亡 大阪の会社員 逮捕

きょう午後大阪・城東区のプラスチック加工業の店の前の路上で、この店に商品を卸しに来ていた会社員が店にあったゴルフのクラブを振り回したところ、クラブの先端がたまたまうしろを自転車で通りかかった近くの主婦の腹にあたりました。
この主婦はすぐに病院で手当てを受けましたが、腹部を強く打った際のショックでおよそ2時間後に死亡しました。
警察の調べによりますと、事故のあった道路は乗用車がようやくすれ違うことができる程度の狭い道路で、警察ではこの会社員を過失致死の疑いで逮捕しました。

昭和61年5月9日 NHKニュースより

 

重過失致死で逮捕、起訴された吉原さんには、その後禁錮1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡された。
大阪地裁の児嶋雅昭裁判長は、「極めて軽率な行為で尊い命を奪った責任は大きい」とし、重過失致死の成立も認めた。
時代はゴルフブームの真っ只中。サラリーマンらの間でも10人に1人がゴルフを嗜むと言われ、駅のホームや路上などで丸めた雑誌や新聞紙、カサなどをゴルフクラブに見立てて素振りをする姿はよく見かけられていた。
ただ吉原さんが持っていたのは本物のゴルフクラブであり、またその素振りをしていた場所は道幅が1.3mという狭い道路だったことから、周囲に人がいないかの確認を十分にしなかった点は重大な落ち度であるとされた。

一方で、吉原さんが妻と共に会社を辞め、2人の退職金と借金で作った約900万円を遺族への賠償に充てる準備をしていることなどが考慮され、執行猶予となった。
吉原さんも大変に反省していたといい、遺族には辛くとも悲しい事故だった、で終わるかと思われたが、終わらなかった。

吉原さん、真知子さんの遺族がそれぞれ別の民事訴訟を起こしたのだ。

遺族の訴訟

昭和63年3月、大阪地裁民事12部の庵前重和裁判長は、吉原さんに対して真知子さんの遺族に3800万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
吉原さんが真知子さんの遺族に対して900万円の慰謝料を提示していたのは先にも述べたが、実はそれに遺族が納得していなかったという。そこで、真知子さんの遺族は当事者である吉原さんのみならず、吉原さんを雇っていた会社と、ゴルフクラブを所有していた取引先の会社に対しても責任を問うことにしたのだった。

判決では、吉原さんが周囲の安全に配慮するという注意義務を怠ったことは当然認められたものの、吉原さんを雇用していた会社とゴルフクラブを所有していた会社に対しての過失は認められなかった。
報道から推測するに、おそらく吉原さんの会社に対しては使用者責任というか業務中のことであるため監督責任を問い、ゴルフクラブを所有していた会社に対しては素振りをするかもしれない吉原さんに対して注意喚起しなかったとか、おそらくそういった責任を問うたのではないかと思われる。

裁判所の見解は、「定時に休憩時間を取れない会社員が取引先で休憩し、趣味のゴルフ練習をしていたに過ぎず過失はない」というものだった。

特に判決自体は問題はないように思われるが、そもそもなぜ真知子さんの遺族は納得しなかったのだろうか。40代の会社員が自身のみならず妻の退職金をも差し出したその額900万円は、納得できる額とは言えなくても吉原さんにとっての精一杯以上であるのは想像に難くない。

実は事故の直後、吉原さんは自身のゴルフ保険に対して支払い請求を行なっていた。もしかすると、その保険金でさらに慰謝をしようとしていたのかもしれないし、遺族に対してもその旨伝えていたのかもしれない。
が、保険会社からその支払いを拒否されていたのだ。

それを受けて、吉原さんも支払いを求める裁判を起こしていた。

司法判断

吉原さんが加入していたゴルフ保険は、ゴルフのプレイ中、練習中、指導中に人に怪我をさせた時に5000万円を限度に補償するという内容だった。
ただ普通に考えると、すでに有罪が確定している吉原さんの「違法行為」が元になっているため、これで保険金が支払われるなら保険会社はとんでもないことになるような気もする。
吉原さんの弁護人は自動車事故を例にあげ、たとえ飲酒運転など運転手の違法行為が原因で起きた事故でも被害者に補償がなされる自賠責保険と同様にゴルフ保険には被害者の救済という側面があることを強調したが、損害保険会社は「道路での素振りは(補償範囲である)ゴルフの練習とはいえず対象とならない」と反論していた。

大阪地裁の川口冨男裁判長は、吉原さんの行為は「スポーツの名を借りた危険行為」として保険会社の主張を認めた。
当時のゴルフ保険は自賠責ではなく任意保険的なものであり、被害者救済という観点をも兼ね備えたものではないという判断だった。

その後、真知子さんの遺族は吉原さんとの間で一時金含む2250万円を長期的に支払ってもらうことで和解した。

飼い主の責任

人類の愛すべき友として長年にわたって一緒に暮らしてきた犬。
ただぬいぐるみのように可愛らしい存在だけでなく、時に人の力や助けにもなってくれるすばらしき存在であるはずの犬が、人を襲うケースがある。

府中の秋田犬

昭和62年4月、東京府中市で10歳の男子児童が散歩中だった秋田犬に突然襲われた。
男児は母親と散歩していたといい、たまたまそこへ同じく犬の散歩中の当時52歳の主婦と出会った。その主婦と男児の母親が顔見知りだったことで立ち話が始まったが、突然、主婦が連れていた秋田犬(オス・4歳/体重約35キロ)が襲いかかった。
犬の牙は男児の首をとらえ、男児の頸動脈は切断された。救急搬送されたものの出血量が多く、2日後、出血性ショックで死亡してしまった。

飼い犬が人に危害を加えた場合、それまでは過失傷害や同致死罪が適用され、その多くは罰金刑が科せられたという。
ただ昭和53年には大分の小学校校長が飼育していた秋田犬が訪ねてきた人の腕に噛みつくという事故が起きていて、その際には校長が重過失傷害罪に問われている。事情として、その秋田犬には噛み癖があったこと、そしてそれを知りながら校長が来訪者に獰猛な犬がいることを周知していなかったことから重過失傷害での起訴となっていた(最高裁まで争われ、罰金刑となっているが重過失傷害が認定されたかどうかは不明)。

府中市のケースでも結果が重大として重過失致死罪が適用されていた。主婦が太いロープで犬を繋いでいたことや、事故後の反省が深いこと、さらに示談が成立してはいたものの、東京地裁八王子支部は主婦の犬が過去にも子供を襲い大怪我をさせていたことから飼い主としての責任は重いとし、禁錮10月執行猶予4年を言い渡した。
男児はドイツで生まれ、5年ほどドイツで過ごした。ドイツでは犬を飼育する環境がよく、また人々が犬の飼育に対してしっかり躾をするのが当たり前という感覚を持っていたという。
男児の母親は

「母親の気持ちからすれば、本当は、死刑か無期懲役でも我慢できないほどです。でも、執行猶予はついたものの、求刑通りの禁錮10月はこうした事件では非常に重いそうなので、裁判官も私たちの気持ちを汲んでくれたのだ、と思います。」

昭和63年7月23日 毎日新聞東京朝刊より

 

と語り、これを機に日本人が犬の飼育について見直し、躾の大切さを学んでほしいと訴えた。

男児は「死にたくない」と言い残していたという。

しかしこの事件から7年後の平成7年4月、沖縄県で5歳の女児が二頭の犬に襲われる事件が発生した。

沖縄のピットブル

野犬化した飼い犬か 小一もかまれけが 沖縄の幼女死亡 【西部】

 四日午前十一時すぎ、沖縄県石川市内で犬に襲われ、遺体で見つかった女児は同市石川、飲食店従業員Aさん(二九)の長女杏梨(あんり)ちゃん(五つ)と分かった。森林公園「石川市民の森」の遊歩道で、子供たち五人で遊んでいたところ、二匹の犬が襲いかかり、一匹が杏梨ちゃんの髪の毛をくわえて林の中に連れ去った。一緒にいた同県金武町屋嘉、小学一年Bちゃん(六つ)も軽いけがをした。
石川署の調べでは、五人は五歳から七歳で、親類や知人の子供たち。親類の男性(三九)に車で連れられて来て、午前十一時ごろから遊んでいた。犬に襲われたとき、男性は現場から離れた駐車場にいた、という。石川署員が一時間半後、約四十メートル離れた林道わきで背中や足をかまれて死んでいる杏梨ちゃんを見つけた。
一緒にいた子供たちによると、犬はまずBちゃんの足にかみつき、助けようとして近づいた杏梨ちゃんを襲った。「杏梨ちゃんが『助けて』と叫ぶのが聞こえたけど、近づけなかった」と話していた。

 二匹の犬は茶色と黒色で、大人のひざぐらいの背丈。一匹は首輪をしていた、という。同署は捨てられた飼い犬が野犬化した可能性もあるとみて、犬の捕獲に当たっている。
「市民の森」は三年前に開園した広さ八ヘクタールの森林公園で、散歩やジョギングをする市民が多く訪れている。石川市によると、現場から約五百メートル離れたごみ処理場に野犬が集まることがあったが、公園内に野犬がいたという通報はこれまでなかった、という。

平成7年4月5日 朝日新聞社

 

今でも地域によっては野犬の存在はあり、時に群れを成しているのが目撃されることもある。
また沖縄という土地柄もあり、大型の洋犬などを飼育している人もおりそれらが野犬化した可能性が高かった。警察は近くにいた数頭の野犬を捕獲したものの、いずれも女児を噛んだ形跡は見当たらなかった。

3日後、沖縄県警と石川署は事件当時現場から1キロほど離れたみかん畑で農作業をしていた男を逮捕。男は二頭のアメリカンピットブルを飼育しており、事件があった日もその犬を連れて農作業をしていたという。
しかし男はそのピットブルを放し飼いにしていたというのだ。

犬たちは畑で放たれ、そのまま1キロ離れた公園へ行き、遊んでいた女児を襲ったとみられた。女児の衣服や体に残っていた犬の毛と歯型も、男が飼っていたピットブルと一致。
男は農作業を終え、ピットブルも戻ってきていたため何も思わず帰宅していたという。そして、ニュースで事件を知り、もしかしたらうちの犬かもしれない、と思っていたという。

男は重過失致死傷で起訴され、「闘争本能が強く、他人に危害を加える恐れがあるのに、事故を未然に防ぐ義務と監視を怠った」として禁固1年を言い渡された。

愛知の土佐犬

沖縄の事件が起きたその一週間後の4月12日朝。
愛知県額田郡にある印刷所にはいつもどおり従業員らが出勤していた。この印刷所には女性従業員らもおり、中には子供を連れて出勤する従業員もいたという。
その日も、産休から復帰した女性従業員・松尾由美香さん(仮名/当時33歳)が出勤していたが、生後5カ月になった息子を伴っての出勤だった。
従業員は二階にある作業所で仕事をすることになっており、由美香さんは息子を机の上においたクーハンに寝かせると、3mほど離れた場所で仕事にとりかかった。
子連れの働く母親にとって、幼い子供を連れて出社できるというのは非常にありがたいことであるのは今も昔も同じだろう。そういった面では、この印刷所の労働環境は称賛されるべきものだったと言える。
また労働環境について、最近では社内で犬や猫などを放し飼いにし、社員らの癒しとして一役買ってくれるというものも増えているが、実はこの印刷所にもそういった癒しの動物たちの存在があったという。

しかしそこで放し飼いにされていたのは、トイプーやチワワや猫ではなく、土佐犬だった。

それは突然だった。
由美香さんが仕事をしていると、不意に印刷所で飼われている土佐犬(メス・4歳)が近づいてきた。仕事の邪魔になるため、由美香さんは手で土佐犬を押しのけたという。由美香さんにとってその犬は、自分が勤務し始めたよりも後から飼育された犬で、それまでもこの印刷所にはグレート・デンがいたことから扱いにはなれていた。つもりだった。
犬を押しのけた次の瞬間、土佐犬は机の上に飛び乗り、その上に置かれたクーハン内で寝ていた由美香さんの息子に噛みついたのだ。

由美香さんは慌てて犬を引き離そうとしたが、興奮状態の犬につられた別の土佐犬が由美香さんに襲い掛かり、由美香さんは顔を噛まれた。幸い軽傷だったというが、クーハンにいた息子は、死亡した。

現場となった印刷所では10年ほど前から大型犬を飼育していて、この土佐犬以外にもう一頭土佐犬が飼育されており、さらにはグレート・デンもいた。その犬らはすべて建物内で放し飼いとなっていた。
ただ最初に飼育したグレート・デンは大型犬初心者だった印刷所経営の夫婦が訓練所に入れたため穏やかでしつけのできた犬だったようだ。
そこで経営者夫婦はかねてよりの夢だった土佐犬2頭を購入、すでにグレート・デンで大型犬の飼育には「慣れて」いたことから土佐犬については訓練所には入れなかった。

岡崎署はその後、4か月をかけて刑事責任を問えるかを慎重に捜査した結果、飼い主である経営者夫婦を重過失致死傷で書類送検した。さらに、息子を噛み殺された母親についても、過失致死の容疑で名古屋地検岡崎支部に書類送検した。
経営者夫婦については当然として、母親がなぜ、とも思われたが、この土佐犬は過去に従業員を襲いかけたり、一緒に飼育されていた別の子犬を噛み殺した前科があったという。それを、7年ほど勤務していた母親は当然知っていた。ただでさえ大きな犬な上にそのような凶暴な性質をもつ土佐犬が放し飼いにされているような場所に自分で自分の身を守れない生後5か月の乳児を連れて行ったということが過失であるとみなされた。
しかも、事故の直前、土佐犬が近づき、クーハンの中を覗き込むなど興味を示していたのを見ていたにもかかわらず、別室へ移動させるといった措置をとらなかった。さらに、あの沖縄での痛ましい事件を母親も知っていたのだという。
岡崎署は「被害者にまで刑事責任を問うのは珍しいが、防げた事故であり、母親を含めて過失が重なった結果であり、過失がある以上はしかたない」と述べた。

警察は事件の背景の一つとして、飼い主夫婦が土佐犬を甘やかした結果、自分がこの集団でのボスであると犬が思い込む「権勢症候群(アルファシンドローム)」の可能性も考えていた。
先に述べた噛み殺された子犬も、経営者夫婦が非常にかわいがっていた子犬だったといい、今回のケースでも同様に、由美香さんの息子は土佐犬にとって自分よりも可愛がられる気に入らない存在だったのかもしれない。

岡崎簡易裁判所は略式起訴された経営者夫婦に対し、それぞれ罰金30万円の略式命令を出した。
母親については起訴猶予となっている。

土佐犬はその後どうなったかわからないが、処分される予定という報道があった。

どのケースも人間が間違え、人間が引き起こしたものであり、犬には罪はない。しかし人を噛んだ犬は、生きていくことを許されないケースが少なくない。
犬のしつけ云々に限らず、最近ではSNSで幼い子どもと大型犬の触れ合いを微笑ましく受け止める人々が多く見受けられるが、それについても非常に危惧している。大型犬は故意でなくとも歯が当たっただけで場合によってはかなりの傷が出来たりする。前足などがかすっただけでも、幼い子供の皮膚などは裂かれてしまうこともあり得るのだ。目などにあたれば失明の危険性もある。
「うちの犬は大丈夫。」「人を噛んだりしない」「小型犬だから大丈夫」
世界一犬を操れるシーザー・ミランでもこんな驕り高ぶった思い込みはしないと思うが、その自信はどこから来るのかと恐ろしくなる。

薬物を盛る人

先日、傍聴の民でありnoteや他の媒体で傍聴記を発信されている普通さんに重過失の記事をまた書くよーということをSNSでお伝えしたところ、普通さんが公開されている薬物の過剰摂取に関する重過失の事例も取り上げてみては?と提案いただいた。
薬物関連で重過失となるケースは正直聞いたことがなく、ていうかどういう根拠でそうなるの?と興味もあり、色々調べてみることにしたのだが、調べてみたらやめられなくなった。

まずは普通さんが傍聴されたものを紹介しよう。

大阪のオーバードーズ

この事件の当時の新聞はこんな感じだった。

重過失致死疑い 再逮捕=大阪

 女子高校生が市販薬を過剰摂取(オーバードーズ)するのを制止せず、死亡させたとして、府警は25日、東大阪市立花町、無職A容疑者(26)を重過失致死などの疑いで再逮捕した。「制止しなかったわけではないが、止めきれなかった」などと供述しているという。

 発表では、A容疑者は2~3日に自宅で、交際中の10歳代の女子高校生がせき止め薬を過剰摂取するのを止めず、急性薬物中毒で死亡させるなどした疑い。

 府警は4日、A容疑者について、女子高校生ら3人を自宅に連れ込んだ未成年者誘拐の疑いで逮捕。小坂容疑者たちの供述などで、せき止め薬などを万引きし、女子高校生が70錠以上を一気に摂取していたことが分かったという。

読売新聞社 2024.09.26 大阪朝刊

 

当初は万引き(窃盗)と未成年者誘拐(児童福祉法違反)といった状況だったようだが、少女が死亡した要因が薬物の過剰摂取にあり、その場にいた唯一の成人であり、そのようなことをすればどうなるか容易に想像できるにもかかわらず制止せず、といったことが重大な過失にあたり、少女の死とは因果関係があるというもの。
少女が一気飲みしたのは市販されている薬であり、覚せい剤とか違法ドラッグとかではない。しかしどんな薬にも用法容量が定められているのは誰でも知っていることであり、薬学や医学などの専門知識を有していなくてもそれを大幅に逸脱すればどうなるかはいわば常識として知っている類のことである、ということだろう。

この裁判の様子は普通さんの動画を見ていただきたい。重過失にいたるそもそもの要因はこの男の人間性によるものだとしか思えないひどい有様だった。

容量を間違えた人達

同じく薬物の過剰摂取に関する重過失致死事件を紹介する。
いずれも殺害したり苦しめようとした意図はなく、いわば面白半分やそれまでの慣れよりもさらに高い幸福感、高揚感を得るためにタガがはずれたケースである。

平成17年には茨城県で、ネットで知り合った当時29歳の男性に対し、通称ゴメオと呼ばれる脱法ドラッグをその使用量を確認するのを怠り急性心不全で死なせたとして36歳の無職の男が重過失致死容疑で逮捕された。
男は通常の5倍から10倍の量を男性に投与していたという。男には禁錮1年4月執行猶予5年が言い渡された。

また、平成22年にはカラオケの罰ゲームと称して一気飲みさせた焼酎に覚せい剤を混ぜていたとして、広島県呉市の元暴力団員の男(当時36歳)が重過失致死罪などで逮捕されている。
男は公判で起訴事実を否認、被害者であるホステスの女性から渡された粉末をグラスに混ぜたものであり、それが覚せい剤だったとは知らなかったとして無罪を主張した。
広島地裁呉支部は、被害者の女性が覚せい剤を持っていたとは考えにくく、また覚醒剤だとは知らなかったとする男の主張を退け、重過失致死罪の成立を認めた。
男には懲役5年が言い渡されている。

次に紹介する事例も薬に関するケースだが、思わぬ展開となった事例である。ちょっと怖い。

岡山のヤバい女

71歳はねられ死亡 3歳孫重傷、車の男性重体 浅口=岡山

 13日午後2時50分頃、浅口市金光町佐方の国道2号線で、歩道を歩いていた近くの無職A子さん(71)と、三輪車に乗っていた孫の男児(3)が、里庄町新庄、無職B男さん(70)運転のワゴン車にはねられた。A子さんは全身を強く打ち、間もなく死亡、男児も頭の骨を折る重傷。B男さんも意識不明の重体。

 現場は見通しのよい直線。玉島署の発表では、B男さんの車は歩道の縁石を乗り越えて2人をはねた後、約30メートル走り、草むらで止まった。事故直前に蛇行運転していたとの目撃情報もあり、同署はB男さんが意識を失っていた可能性があるとみている。2人は自宅近くを散歩中だった。

記事中の実名は匿名化 読売新聞社 2011.05.14 大阪朝刊

 

これだけを見ると、よくあるというと不謹慎だが高齢者による運転の悲劇、という風にも思えた。しかも運転操作を誤った、というよりもどうも病気、体調不良の影響があったように読める。加害者となった男性も意識不明ということでなんとも不幸な事故だったようにとらえられた。

飲まされていた薬

ところがその後の調べで、事故を起こした男性は意識不明というよりも意識混濁状態だったことが判明。回復も早かったことで事情聴取も行われたが、その際「なぜ事故を起こしたのかわからない」と話していた。
警察は男性の尿を採取し鑑定したところ、男性の尿からは睡眠薬の成分が出た。男性は警察の調べに対し、自身は睡眠薬などを服用していないことに加え、事故を起こす数時間前にある知人と会っていたことを話した。
知人は当時交際関係にあった女。さらに男性はその女から清涼飲料水をすすめられて飲んでいたことも話した。そして、
「今思えば、苦かった」
とも。

警察は5月20日、男性に対する傷害容疑で倉敷市内在住の無職の女(当時59歳)を逮捕した。男性は6月4日に処分保留で釈放となった。

女は事故があった5月13日の午後2時ころ、浅口市内の男性宅において3種類の睡眠薬を粉末状にしたものを清涼飲料水に混ぜ、男性にのませたという。
警察の調べに対し、女は
「男性と交際していたが、肉体関係を求められるのが嫌で睡眠薬を飲ませた。その後まさか車に乗るとは思っていなかった」
と供述。薬は知人からもらったものだったという。

警察は女が男性に急性薬物中毒と意識混濁の傷害を負わせたとして逮捕、その後、死亡したA子さんと大怪我をしたお孫さんに対しての死傷事故の原因を作ったとして重過失致死傷の容疑でも再逮捕した。

女はその後、懲役6年の実刑判決を受け、確定。
受刑者となった後の平成23年12月、岡山県公安委員会は女の免許を取り消す処分を行った。薬物で事故を誘発したというケースでの免許取り消しはこの時点で異例だったという。

肉体関係を求められるのがいや、といういい年こいた男女のくだらない話に巻き込まれ命を奪われたA子さんとそのご家族の心中を察すると言葉がない。
……と思われたこの事件、ところがところが実際にはもっと深い強欲の真実があった。

女の本性

運転男性から1000万円借金 睡眠薬混入容疑者 浅口死傷事故 /岡山県

 浅口市で5月、祖母と孫が車にはねられ死傷した事故で、車を運転していた男性(70)に睡眠薬を飲ませたとして傷害容疑などで逮捕された無職A容疑者(59)=倉敷市=が、男性から約1千万円を借りていたことが30日、捜査関係者への取材でわかった。県警は詐欺容疑を視野に調べを進めている。

 捜査関係者によると、A容疑者は今年1月、知人の紹介で男性と交際を始め、直後から「急にお金が必要になった」などと言って数回、現金で計約1千万円を借りた。その後も返金せず、男性が「だまされた」と話していることから、県警は詐欺罪の適用を視野に捜査を始めた。県警の調べに、A容疑者は詐欺の犯意を否定しているという。
(後略)

朝日新聞社 西山良太 記者 2011.07.01 大阪地方版/岡山

詐欺容疑など 事故誘発の女 再逮捕
 
 ◆「男性を薬で眠らせ借用証取り返そうと」

 岡山県浅口市で5月、2人がワゴン車にはねられ死傷した事故で、運転していた男性(70)に睡眠薬を飲ませ、事故を誘発したとして重過失致死傷容疑などで逮捕された同県倉敷市老松町、無職 石崎与志子 被告(仮名/当時59)(傷害罪で起訴)が、「男性に多額の借金があり、借用証を取り返すため薬で眠らせようとした」との供述をしていることが、捜査関係者への取材で分かった。
(中略)
県警の調べでは、与志子被告は2~3月、友人から紹介された男性に「孫の心臓移植手術費用を貸して」などとうそを言い、1000万円を受け取ったという。

 この金について県警玉島署は1日、与志子被告を詐欺などの容疑で再逮捕。男性を紹介した倉敷市中島、無職 藤原とみ子容疑者(仮名/当時55歳)を同容疑で逮捕した。岡山地検倉敷支部は同日、与志子被告を重過失致死傷罪で起訴、自動車運転過失致死傷容疑で逮捕された男性は、嫌疑不十分で不起訴とした。

読売新聞社 2011.07.02 大阪朝刊

 

浅はかな頭の悪い女が思いついたことによって無関係の女性とその孫が死傷するという胸糞ではあっても事故、だと思われていたものが、ものすごくきな臭くなってきた。
別の記事によれば、与志子にはそもそも別に多額の借金があったという。
知人を介して知り合ったとされていた男性Bさんだが、そのBさんを紹介したのがとみ子だった。とみ子は借金返済に窮している与志子に対し、Bさんのみならず他にも結婚相談所を介して男をひっかけ、金をとる方法をアドバイスしていた。そして実際に香川県内在住の59歳の男性と結婚相談所で知り合うと、「息子が家を新築して400万を友人から借りたので早く返さないといけない」「(死別した)夫の妹がその保証人になる」とだまして400万円を受け取った疑いも出てきていた。
ちなみにその義理の妹役もとみ子だった。金はふたりで山分けしていたという。
(※この香川の男性に対する詐欺については後に嫌疑不十分として不起訴となっている)

与志子ととみ子は初公判で大筋を認め、詐欺罪に問われていたとみ子には懲役2年6月執行猶予4年の判決が言い渡された。

与志子について、男性に睡眠薬を飲ませた動機としては先にも述べた通り借金返済を免れるためその借用書を男性が寝入った隙に取り戻すという目的だった、とされている。だからこそ、男性Bさんが直後に運転する=外出するなどとは思わなかった、と。
ただ報道を見ていると、それは本当なのだろうかと思う部分があった。

ここからは妄想だが、与志子は男性Bさんが事故を起こして死んでくれればいいのに、と思っていなかったろうか。
与志子はその日、Bさんが運転する車に途中まで同乗していたのだ。自宅に送ってもらっていたのだという。ただその途中であまりにもBさんの運転がおかしくなってきたために、車を降りたのだった。
普通、自分が睡眠薬を飲ませているのだからその運転がおかしいのはそのせいだとわかり切っているわけで、なんども追突しそうになるBさんをそのまま運転させたらどうなるかはだれよりも与志子がわかっていたはず。

本当に借用書を取り戻す気だったのなら、Bさんには寝入ってもらう必要があった。出かけると言われたら一緒に家を出ざるをえなかったろうし、もしこの日もBさんの都合で急遽出かけることになったのだとしてもそれこそ口八丁手八丁で寝入るまで見届けることはできたような気がするのだ。
それをせずにいたのがどうにもひっかかる。当然こんな素人の疑問は裁判できちんと解決されているだろうけれど。
もちろん未必の殺意があったところでその対象となるBさんが死亡したわけではないため、量刑として傷害とそんなに変わったもんではないという判断もあったのかもしれない。

「死ねばいいのに」

車を降りたときに男性に対して与志子がそう思ったかどうかはわからないが、現実の結末は自身の懲役と、午後の散歩を三輪車に乗った孫と楽しんでいた何の関係もない、女性の死だった。

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参考文献
NHKニュース 昭和61年10月3日
読売新聞社 昭和61年12月12日東京夕刊、平成7年4月1日中部夕刊、平成7年4月7日、8月29日東京朝刊、10月31日西部夕刊、12月28日中部朝刊、平成22年11月13日大阪朝刊、平成23年5月14日、6月9日、7月2日、9月7日、11月2日、12月14日大阪朝刊、令和6年9月26日大阪朝刊
毎日新聞社 昭和63年3月11日、平成7年7月23日東京朝刊、平成23年6月12日地方版/岡山
朝日新聞社 昭和63年3月30日、9月23日東京朝刊、平成7年4月5日西部朝刊、8月23日東京夕刊、平成17年5月10日東京地方版/茨城、平成23年6月11日大阪朝刊、7月1日、7月24日大阪地方版/岡山
中日新聞社 昭和63年3月30日朝刊
北海道新聞 平成7年4月5日朝刊
産経新聞社 令和6年9月26日大阪朝刊
茨城新聞社 平成17年2月9日朝刊