🔓更生は、できません~ふたつの再犯重大事件~

人は誰しも過去があり、それは人によって恥ずかしいものから誰にも言えない洒落にならない秘密など色々である。
それでも実際に他人が聞いてみればなんのことはない、そんなこと隠さなくてもいいじゃないか、と思うほどちっぽけなことであるケースも少なくないし、その過去を人に話せる、共有できるだけでも、本人からしてみれば気持ちが楽になることもあるだろう。

ただそれが犯罪、しかも人を殺していたとなると、穏やかではいられない。

昭和の時代から平成にかけて起きた二つの事件。
いずれも、大変な過去を背負いながらも赦されて、再び社会の中で生きていた男たちの、どうしようもない二つの物語。

【有料部分 目次】

杉並の女子中学生刺傷事件
一家五人殺しの男
行き場のない少年少女たち
押し付けられた「オジン」
この時代の感覚
男の本性
無期懲役+8年
更生の道の途中で
足立区主婦バラバラ殺人
疑わしい男
DNA鑑定
「やりたいんでしょう?」
死人に口なし
過去を知られたくなかった男と、その妻
再びの無期懲役

🔓死刑と無期のはざまでpart2~北九州・母子3人殺害事件~

「家の中にまだ3人いるんだ!!!」

夜も明けきらぬ午前3時、住宅密集地にある一軒の家から火の手が上がっていた。木造2階建て、火の回りが早くおよそ80㎡がすでに焼け落ちようとしていた。
男性は近所の人らに羽交い絞めにされながらも、家族の名を叫び続けていた。

平成5年2月14日未明

火災が起きたのは北九州市小倉南区の住宅。
この家には夫婦と10代の長女、長男の4人が暮らしていたが、父親以外の母子3人の行方が分からなくなっていた。
救助された父親によれば、火が出た時間帯には妻と長男は就寝中で、長女は起きていたという。
後に焼け跡から3人の遺体が発見され、母子と断定された。

警察と消防の調べでは、現場に灯油をまいた痕跡があったことから、早い段階で放火の可能性が高いとみていた。
加えて、一人逃げ延びた父親の話が放火を裏付けることにもなった。

父親によれば、午前2時過ぎころから1階のリビングで転寝をしていたところ、突然後頭部を殴られその後しばし気を失っていたという。
そこへ、「助けて!」という妻の悲鳴が聞こえたことで目を覚まし、急いで妻と長男がいる2階の和室へ向かったところ、すでに和室が火に包まれていたというのだ。
父親は隣の部屋にいるはずの長女が心配になって部屋を覗くと、灯油のにおいがして、長女の部屋にも火の手が上がっていた。
そして長女もそこにいた。手に金属バットを持って。
父親に気づいた長女は、金属バットを振りかざして父親に殴りかかってきたため、もみ合いになったという。そうこうしている間に、父親の衣服にも火が燃え移ったために父親はそのまま家の外に逃げ出した。
長女はそのまま、炎の中に消えた。

家の外では、すでに火事に気付いた近隣の人が消火活動を始めており、逃げ出してきた父親も救助された。
父親は冒頭の通り、取り乱して家族を救うために再び家の中へ戻ろうとしたという。近所の人々は胸を痛めながらも、父親を必死で取り押さえた。

この火事で死亡したのは、この家の主婦・小副川(こそえがわ)美代子さん(当時43歳)、長男の剛くん(当時10歳)、そして長女(当時17歳)と断定された。

救助された父親も、後頭部に殴られたような痕があり、警察は父親の証言と現場の状況、そしてそれまでの家族の状況などから、長女が火を放ち、自身も死亡した可能性が高いとして捜査を始めた。

長女は素行に問題があり、両親は以前から心を痛めていたという。前年の3月には高校を中退しており、専門学校へ通ってはいたものの、帰宅が遅いことなどから家庭内では口論が絶えなかった。
父親も、前日の夕方の食事中に些細なことから長女と口論になったと話していた。その後、遅くまで長女の部屋に電気がついていることから、早く寝るよう注意した直後の火災だった。

長女は心に病を抱えていたのか。それとも、家族間で殺したいと思うほどの憎しみがあったのか。

【有料部分 目次】
家族の軌跡
夫婦の問題
その夜の真実
壊れゆく家族
快楽の沼
その女
バレンタインデー前夜
「もう、遅い」
死刑求刑
本来の人間性と、子供の障害
立ちはだかるあの事件
死刑と無期のはざまで

早くアタシを迎えに来てちょうだい~亀岡・妻子不倫殺害事件~

亀岡のマンションにて

12月に入ったある日の夕方、そのマンションの住人は、訪ねてきた別の階に住む知人の男性の様子がおかしいことに気づいた。
真冬だというのに裸足で、慌てふためいている風でいて、放心状態にも見え、明らかに普段の知人とは様子が違っていた。

「あの……帰ってきたら、妻と子供が死んでるんです……」

知人男性の言葉が、すぐに理解できなかった。なにを言ってるんだろう。
しかし知人男性がそれだけ言うと泣き崩れたのを見て、とにかくその知人男性の部屋へと向かった。

部屋の中はひんやりとしていて、そこにはその部屋よりも冷たくなった母子の姿があった。 続きを読む 早くアタシを迎えに来てちょうだい~亀岡・妻子不倫殺害事件~

パラフィリア~関市・高齢夫婦殺害事件~

「包丁で脅されて怖い思いをした。祖父母ともう話せないと思うと悲しいです。(被告人には)二度と私の前に現れないでほしいし、できるだけ長く刑務所にいてもらいたい。」

平成28年11月29日、岐阜地方裁判所。
この日、ある殺人事件の初公判が開かれた。事件は2年前の11月11日に起き、その後、犯行の残虐さ、逮捕された男の言動に不審な点があることなどから精神鑑定が行われるなど、初公判までには時間を要した。

結果を受けて検察は責任能力を問えると判断、この日ようやく初公判を迎えた。

検察は冒頭陳述のあと被害者の家族の調書を読み上げ、犯行の悪質さや被害者遺族の処罰感情が厳しいことなどにも触れた。

男は若干二十歳。
男の罪は、面識のない高齢夫婦をいきなり襲い、ふたりとも刃物で殺害するという残虐極まりないものだった。しかも、その動機は自己の欲求を満たしたいがために邪魔な存在を殺したという、被害者に一点の落ち度もないものだった。

しかも、その現場にはもうひとりいた。
この被害者夫婦の中学生の孫である。犯行はその孫娘の在宅中に行われた。

殺害は、単に通過点、目的を果たすための障害物除去だった。
男の本当の目的は、この孫娘との”太ももプレイ”だったのだ。 続きを読む パラフィリア~関市・高齢夫婦殺害事件~

🔓罪万死に値する~横浜・一家3人殺害事件~

県道にて

平成14年8月4日、午後1時半。
富山県富山市東田地方(ひがしでんじがた)の県道で、一台の不審な乗用車が目撃された。
赤色のその乗用車は、県道を蛇行するような運転をしており、警察にも危険走行をしている車がいるとして通報が入っていた。

近くをパトロール中だった覆面パトカーは、ある情報を持っていたことからその赤い乗用車を捜索、後にその車を発見、停止させた。
その乗用車は、神奈川県内である事件に関係した人間が乗っているとして、神奈川県警から全国手配されていたのだ。
警察官が車を停止させ、運転手を確認。事情を聞いたところ、神奈川県警から手配されていた人物だと認めたため、そのまま富山署に任意同行となった。

この時、車内には女性の姿もあった。実はこの女性の行方も警察は追っていた。

この女性の両親とひとり息子は、8月日夜に自宅マンションでメッタ刺しにされ殺害されているのが見つかっていたのだ。

都筑区の惨劇

警察に知らせたのは、そのマンション3階に暮らす老夫婦の長男だった。
千葉県内に住んでいた長男は、数日前からこの横浜市都筑区のマンションに住む両親と連絡が取れず、心配して訪ねてきていた。
外から見ると、洗濯物が干しっぱなしのような状態だったことで心配は嫌な予感に変わった。
警察に連絡したうえで、都築署員と共に合鍵で部屋に入ると、そこはまさに血の海だった。

父親はリビング、母親は廊下、そして中学生になる甥っ子が寝室でそれぞれ息絶えていた。
全員寝間着姿で、状況から死後数日とみられた。

【有料部分目次】
行方不明の男女
嫉妬深い男
裁判
夫婦のそれまで
離婚話
拉致監禁
弁護士
私立探偵とほどかれた髪
はずしていなかった、「思い込み」
話し合いたかっただけ
妻の言い分、夫の言い分
被害者、遺族であっても……