情けない男のメンツ~勝浦・隣人女性殺害死体遺棄事件~

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平成13年9月

千葉県勝浦市の山林で、その山林の所有者が巡回中に白骨遺体を発見した。
遺体は女性で、服は着ていたが靴を履いていなかった。
服はパジャマにカーディガンのようなもので、発見時の状況から県警捜査一課と勝浦署は女性が事件に巻き込まれたとして捜査を開始した。

司法解剖の結果、死因の特定は断念され、死後半年以上経過、としかわからなかった。
現場は勝浦市と大多喜町の境に近い山中で、近隣の自治体から家出人届はでていなかった。

女性は40歳から50歳くらい、身長1m50㎝から1m60㎝と発表された。
勝浦署のサイトでは特設ページが解説され、歯型の公開もされたが、1年経っても有力な情報は得られていなかった。

身元判明

事件の進展がない中、平成15年5月になってとある女性が失踪しているという情報が入った。
公開されていた発見時に着用していたミッキーマウスのパジャマに見覚えのあった人がいたのだ。

失踪した時期も遺体の死亡推定時期と合致しており、その後の歯型、DNA鑑定で女性の身元が判明した。遺体は、千葉県夷隅郡大原町日在の和田啓子さん(当時39歳)。和田さんは借家に一人で暮らしていた。
和田さんの行方が分からなくなったのは平成13年の1月で、スーパーで働き始めた直後のことだったという。
家財道具もなにもかもそのままで、飼っていた犬まで置いていなくなった。
ただ成人女性である和田さんの行方を必死に捜す人や、警察に届け出るほどの人はいなかったとみえる。

近所の人によれば、和田さんは明るく、あいさつもしっかるする人で、借家を放り出していなくなるような人ではないということだったが、実は近所の人らが和田さんを捜さなかったのには理由があった。

和田さん宅の隣に住む住民が、
「和田さんは家賃が払えないから出ていくと言っていたよ、犬の世話を頼むと言われている」
と話していたのだ。

犯人逮捕

遺体の身元が和田さんだと判明して10日、千葉県警捜査一課は市原市に住む男を殺人と死体遺棄容疑で逮捕した。
男は和田さんの隣に住んでいた、あの住人だった。

さらに別の窃盗事件ですでに逮捕されていた、男の10代の息子二人が事件に関与していることも判明。
和田さんとこの親子の間に何があったのか。

それまで

逮捕されたのは市原市の土木作業員、田村和弘(仮名/当時52歳)と、長男(当時18歳)、そして次男(当時17歳)。
3人が日在の借家に暮らしていた平成10年5月頃、隣に一人暮らしの女性が越してきた。これが和田さんだった。
気さくな人柄の和田さんはすぐに和弘親子とも打ち解け、良き隣人として生活していたという。
当時和田さんには内縁関係の男性がおり、その男性と同居し始めて以降も和弘親子との関係は良好だった。
時には男性も交えて一緒に酒を酌み交わし、仕事の愚痴や子供のことも話し合える仲だったという。

しかし平成11年1月、その和田さんの内縁関係の男性が交通事故で死亡してしまった。
和弘は意気消沈する和田さんを慰め、買い物に付き添ったり食事を共にしたり、隣人として支えになろうとしていたという。
当然、男やもめの和弘は若い和田さんに対して恋愛感情も抱いていたというが、男女の関係にはなっていない。

その良き隣人としての関係は、突如崩れ去ることになる。

平成13年1月、和弘は用事でもあったのか、和田さん宅の玄関ドアをいきなり開けたという。その際、たまたま外出しようとしていた和田さんが転倒してしまった。
この時はすぐさま助け起こし、念のため病院に行くよう伝えて終わっていたが、直後から和田さんの態度が変わった。

豹変した隣人

顔を合わせれば、病院の治療費がかかると話し、そのたびに和弘は贖罪のつもりで8000円~1万円程度を和田さんに手渡すようになった。
しかしそれは延々と続き、さすがの和弘も断ることもあった。
すると和田さんは激高し、「馬鹿野郎!そんなことが言えるのか。いつ金を返すんだよ!」と和弘を罵ったという。

実は以前、和弘は少額ながら和田さんから借金をしていた。それの返済が済んでいなかったのか、はたまた互いのなにか勘違いがあったのか、話の着地点は見いだせなかった。

和弘はそういった点で負い目もあり、その後も和田さんの要求に応じることもあったというが、今度は和田さんがその額を上げてきた。
1回に10万から30万円と、どう考えても法外な治療費を請求するようになったという。
和弘はようやくここで、和田さんは自分をカモにしている、と思うようになる。

和田さんの要求は執拗だったといい、和弘は払う意思が歩かないかは別にして、先延ばしにすることで和田さんからの「口撃」をかわす日々だった。

平成13年1月29日、この日はすでに別の場所で暮らしていた16歳の長男が遊びに来ていたため、次男とともに3人でドライブに出かけることになった。
3人が表に出たところ、和田さんが立ちはだかった。

父親の威厳

和田さんが近づいてきたため、和弘は車から降りると、和田さんは
「金出来たんか、ふざけんな。約束はどうなった。バカ野郎」
と、あたりもはばからず喚いた。
さすがに頭にきた和弘が言い返すと、和田さんは「ふざけんな!」というと、和弘の顔を拳で殴った。

それは、16歳と当時15歳だった和弘の子供らの面前で行われた。それは、和弘の理性を吹き飛ばすに十分な行為だったのだろう、和弘は和田さんの首を両手で締めあげた。

和田さんはもがいて抵抗したが、和弘はやめず、あろうことかその光景を見ていた15歳の次男に加勢するよう頼んだ。
この次男にとって、和田さんと父親はどう映っていたのか。次男は和田さんの体を抑えつけ抵抗を封じると、手近にあったロープで父親とともに和田さんの首を絞めた……

和田さんが動かなくなった時、父と子の間でどんな会話がなされたのか。
殺害行為には加わっていなかった16歳の長男ともども、結果として3人は共謀して和田さんの遺体を車に乗せ、かねてからの予定通り、少し出発は遅れたものの「ドライブ」にでかけたのだった。

隠ぺい工作

殺害自体は、咄嗟の出来事だったのだろう。
しかしその後の親子の行動は明らかに隠ぺいであり、綿密な計画があった。
和弘は先述の通り、大家に対し和田さんが自発的に出ていったように装い、自身は犬の世話をするなどしてただの隣人を装った。
自転車をわざわざ駅前の駐輪場まで持っていったり、携帯や洋服も一部処分し、自発的な出奔と見せかけた。
しかし一方では、和田さんの家財道具を持ち出して自分が使用したり、和田さんの借家を家族に使わせるなどしていたという。

大家も和田さんがいなくなったことで家賃のことを気にはしていたが、勝手に解約もできず、また、それまでも家賃は遅れ気味だったこともあってそのままにしていたようだった。

裁判

裁判で検察は、偶発的な犯行とはいえ、隣人の小柄な女性の首を絞め挙げ、あげく当時15歳の息子にそれを手伝わせるなどといった行為は言語道断とし、懲役15年を求刑。
長男と次男は、すでにそれぞれ保護観察処分と中等少年院送致が決まっていた。

平成15年11月19日、千葉地裁の金谷暁裁判長は、
「被害者の言動に問題が全くなかったとは言えないが、かといって殺害に結び付くほどのこととは到底言えず、短絡的な動機に情状酌量の余地は乏しい。
遺体を山中に埋めるなど死者を冒涜する犯行であり、さらに犯行後の被告人の言動は罪に対する自覚や自責の念がうかがわれず、上場も芳しくない」
とし、和弘が遺族に何ら慰謝を講じていないことも含めて、懲役13年の判決を言い渡した。

和弘は事件後、間がない頃はビクビクもしたであろうが、遺体が発見されなかったことや、発見されたのちも身元判明に時間がかかったことでどうやら調子に乗っていた節があった。

家財道具を無断で使用したり、といったことのみならず、犯行を飲み屋で吹聴していたのだ。
ただこれは信じた人がいなかったのか、またはこの男にそんな大それたことが出来るはずがないと元々思われていたのか、通報した人はいなかったようだ。

二人の息子も、その後高校へは行かず働いていたとはいえ窃盗で逮捕されていることを見れば、真っ当な生活を送っていたとは到底思えない。
息子たちについては、親子の情からやむなく追従したに過ぎないとされたが、はたしてそれで片付けてよかったのか、とも思う。

和田さんはなぜ、仲の良かった和弘に態度を豹変させたのか。
きっかけは和弘が和田さん方の玄関ドアを勝手に開けたことでケガをしたことではあるが、この状況も実際よくわからない。
いくら仲の良い隣人とはいえ、勝手にドアを開けるというのはいささか度が過ぎているようにも思う。
ましてや、和田さんは女性の一人暮らしだ。

こういう、和弘の無神経さがかねてより和田さんの心を傷つけていた可能性はないだろうか。
裁判では和田さんにも落ち度があったとはされたが、殺されて何か月も一人寂しく山の中で朽ち果ててなければいけないほどの落ち度であったか。

しかし和弘にとっては、それに値するほどのことだったのだろう。
15歳の息子に手伝ってもらわなければ成し遂げられなかった殺人。
父親としての威厳を傷つけられたというが、その威厳とやらを見てみたいものだ。

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参考文献
判決文

🔓殴り殺された父の「悪行」~四街道・実父撲殺事件~

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取調室にて

「なぁ、本当のこと話してくれんか。」

四街道署の取調室では、刑事がこう問い続ける日がもう一週間以上も続いていた。
それでも、目の前の少年は頑として、当初の供述を変えようとはしなかった。

「人を殺しました。友人の父親です。凶器は近くの池に捨てました。」

捜査員らは納得しかねていた。この目の前の少年が、「友人の父親」を殴り殺したというのが、どうにも理解できなかった。そもそもの動機も、「友人の父親に冷たくされたから」。なぜそんな理由で人を殺そうという判断になるのか。

千葉県四街道市で起きた殺人事件。
この事件の裏には、というか、この事件は起こるべくして起こった事件でもあった。

【有料部分 目次】
事件発覚
報道
長男
父のそれまで
子供たち
父と子と、その友達
支配
審判
レイプ
少年たち

🔓親であり兄であり、恋人だったあなたへ~畠山武人・外伝~

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まえがき

「連絡が来ると思ってました。いいですよ、書いてもらって。事実が捻じ曲げられなければ、いいです。」

秋の終わり、私が公開しているとある記事にコメントがついた。
その記事とは、平成16年に栃木県宇都宮市で起きた拳銃立てこもり事件だ。
その詳細は該当記事を読んでもらうとして個人的にはこの事件備忘録を始めるきっかけともいえる思い入れのある事件だった。

コメントしてくれたのは女性で、彼女はこの立てこもり事件で死亡した畠山武人氏と、それ以前に人生の一時期をともに生きた人物である。

宇都宮の立てこもり事件を書いた後、畠山氏と刑務所で一緒だったという人や暴力団関係で知り合いだったという数人から話を聞くことは出来ていたが、いずれも男性であり、さほど深い関係の人はいなかったことから、私はすぐさま彼女に連絡を取った。
そこで彼女が語ってくれた内容は、凄まじい迫力に加え、本人でなくては絶対に出せない生々しさに満ち溢れていて、私は圧倒されてしまった。

重大な罪を重ねたあげく、若き愛人と手をつなぎ頭を拳銃で撃ちぬいて心中した男。その荒ぶる魂に隠された「人間・畠山武人」を、私はなぜかどうしても残しておきたくなった。

平成3年の夏の終わりに宇都宮市内で起きた、覚せい剤と立てこもりと、彼と女子中学生の物語である。

【有料部分 目次】
事件概要
あの夏の少女
出会い
軋み
後輩の女
厳しい現実
逮捕、そして別れ
けじめ
永遠の別れ

僕は何も知らなかった~仙台市・女子大生死亡事件~

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平成191114

仙台市青葉区、午前410分ころのこと。
とある単身者向けアパートから110番通報が入った。
「彼女とケンカしたら、彼女が飛び出したまま帰ってこない」
寒さが厳しくなりつつあった11月の夜更けに、部屋着のままで飛び出していった彼女のことが心配になったという。

すぐに彼女の所在は判明した。
若林区の救急救命センターで、彼女はすでに死亡していた。

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🔓護られたかった人~小牧市・同居女性殺害事件~

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平成18年8月17日

名古屋高裁でこの日、とある殺人事件の控訴審判決が言い渡された。
被告人は、原田芳文(仮名/当時39歳)。平成16年に小牧市内で同居していた女性を殺害、遺棄した疑いで逮捕起訴されていた。
半年前の28日に下された一審判決は、懲役12年。求刑が15年であったことからも、妥当な線に思えた。
しかし、この日名古屋高裁の前原捷一郎裁判長は、原判決を破棄、懲役10年を言い渡した。
さらに減刑となった理由は、殺人が起こるその過程に注目したうえで、一審判決はそれを十分に考慮していない、というものだった。

男が殺人を犯した理由は、なんだったのか。

事件概要

愛知県小牧市新町2丁目のとあるアパートの駐車場に停めてあったトラックの箱の中から、毛布にくるまれた遺体が発見された。
そのトラックは、思えば長いことそこに放置してあった。運転席や助手席には書類や新聞紙、ゴミなどが山積みの状態で、使用されている形跡もうかがえない。
トラックは愛知県内の食料品加工会社のもののようだったが、その会社はすでに倒産していた。一度、トラックの周辺で異臭騒ぎがあり、アパートを管理している会社が来て調べたことがあったが、その時は運転席をのぞき込んだりする程度で箱を開けてはいなかった。

夏の暑さが本格的になった平成16731日。不審に思った住民女性が、思い切ってそのトラックの観音を開けた。
もともと食品を運んでいたトラックだから、ニオイはした。
しかし箱の中には明らかにそぐわない、布団のような、毛布のようなものが見えた。そして、その布団から、人の手らしきものがはみ出ていたのだ。

通報を受けた小牧署員が確認したところ、そこには白骨化した遺体があった。その後の調べで、遺体は女性、年齢30歳から50歳くらいの成人で、身長約160センチ、髪は茶髪で肩くらいまで、と発表される。
服装は紺色のジーンズに、上半身は下着姿。足元には枕と靴があったという。

すぐさまこのトラックを使用している人物の特定がなされ、そのアパートに住む食品製造会社勤務の男性と判明。
名古屋ナンバーのそのトラックは保冷車で、平成16年の1月頃からそのスペースに停められていたという。
警察が男性に話を聞いたところ、確かにそのトラックを使っていたのはその男性だったが、給料未払いの代わりに会社が男性に譲渡したものだということがわかった。
男性は現在別の食品会社で働いており、通勤にそのトラックを使っていたものの、故障したため3月以降放置していたという。箱を開けたのは、昨年末が最後だった。

警察は当然、この実質の所有者の男性に話を聞くことになる。しかし男性は遺体に関して全く知らないと主張。警察は男性の部屋のほかに、トラックが止められていた場所に一番近い部屋も捜索していたが、そもそも遺体の状況もよくわからなかった。
司法解剖で死因は特定されておらず、遺体もほとんど白骨化しており、いまだ身元も不明だった。
遺体は箱の真ん中より後方にあったが、敷布団と掛布団、それに枕、靴まであった。
箱は外から簡単に開けることができるため、たとえば浮浪者などがこっそり入り込み、それを知らない所有者もしくは第三者が観音を閉めてしまった、そういう可能性もあった。
しかし、箱の中や観音の内側に出ようとした形跡がないことから、やはり女性は殺害されこの場所に遺棄されたと断定、84日には遺体の身元が近くに住んでいた35歳の女性であることも判明した。

女性の交友関係などから、女性が行方不明になった際に同居していた原田が浮上、警察が事情を聞いたところ、5月に女性を殺害してこのトラックの箱の中に遺棄したことを認めた。

しかし、同時に驚愕の事実が判明する。
女性には13歳の息子がおり、事件当時は原田と3人での生活だった。そして、警察がその息子にも事情を聞いたところ、なんと「遺体を運ぶのを手伝った」と話したのだ。

【有料部分 目次】
3人の38日間

母親の「癖」
息子の心
振り回される人々
原田の過去
「私霊感が強いの」
壮絶な母
守れなかった制服
本当は、護られたかった人