だってあの人が悪いのに~2つのゆきずりの事件~

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日常に起きるトラブル。引っ越した先のお隣さんがヤバかったとか、子供と同じ小学校の保護者がヤバかったとか、思いもよらぬ形で災難が降りかかることは誰にでもある。

さらにそれより実は起きやすいトラブルというのが、「ゆきずり」のトラブル。

なぜ起きやすいかというと、見知らぬ相手だから、ということが大きい。相手が知っている人だと遠慮したり譲歩したりもできる。隣人トラブルが長引くのは、事を荒立てれば自分のみならず家族にも影響があり、ひいてはそこに住めなくなる可能性もあるからだ。
ママ友のトラブルもしかり。自分だけの問題で済まなくなり、その問題にずっと関わり続けねばならなくなるから、できるだけ事を荒立てないように対処する人が多い。
どんなに正義感が強くても、初手できつい言葉は使わないし、手荒な対応はその後を考えて極力避けるだろう。

しかしこれが見ず知らずの行きずりの相手ならば。

2度と会わないであろう相手には、人は時に傲慢な態度をとってしまう。そこにいかなる大義名分があろうとも、なぜか見知らぬ人に対しては初手から強い態度をとってしまう人がいる。
しかしもしも相手が、さらに上を行く初手から強い態度に出る人だったら。

そしてお互いがこう思っていたら。「だって相手が悪いのに。」 続きを読む だってあの人が悪いのに~2つのゆきずりの事件~

それは誰のそばにも~いくつかの行きずりの事件~

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朝、起きて朝食を摂り、歯を磨き身支度を整える。
なんてことない、いつもと同じ朝。学校へ行く人、仕事へ行く人、徒歩で出かける人、車に乗る人、電車に乗る人。
いつものスーパーへ買い物へ行く、病院へ行く、会社帰りになじみの店で同僚らと一杯やる、恋人とデートをする、塾へ行く、家族を迎えに行く、どれも誰でもが営む日常の一コマである。

あなたはそんな、なんの変哲もない普通の朝に起きた時、その服を着た時、家を出るとき、二度と帰って来られないと思うだろうか。夫が、妻が子どもが、無言の帰宅をすると思うだろうか。

一方で、同じような朝を迎え、同じようにいつもと同じ善良な市民としての営みをしながら、この数時間後に数分後に、自分が人に怪我をさせる、あるいは死なせるなんて思うだろうか。

なんの接点もなかった人々が、その日そのタイミングで出会って被害者と加害者になってしまった事件。 続きを読む それは誰のそばにも~いくつかの行きずりの事件~

🔓メビウス~愛知・3歳女児餓死事件~

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緊急の知らせに駆けつけた祖母は、目の前に横たわる3歳の孫娘を抱きしめた。
孫娘は見開いた瞳を閉じることもせず、その干からびた躯には拘縮の症状が出ていた。
凄まじい悪臭が鼻をつく。腹部から大腿部にかけて糞便がこびりつき、パンパンに膨れ上がったままのオムツからは、抱きしめた拍子に尿が溢れ出て祖母の服を汚した。
祖母は構うことなく、孫娘を抱きしめる。

「あんたら、これでも親か!」

警察官が問うたが、その返事はない。まるで他人事のような態度で黙ったままの、若い男女。その傍では、1歳くらいの男の子がキョロキョロと辺りを見回していた。

「お前が死んでしまえ!」
孫娘を抱いたまま祖母は、呆然と立ち尽くす我が息子を罵倒した。

餓死した幼女

平成12年12月10日午後11時55分頃、愛知県武豊町の社宅の一室から、3歳の娘が死亡していると110番通報があった。
通報してきたのはこの社宅に暮らす21歳の父親。死亡したのはこの父親の長女だという。警察官と救急隊が駆けつけると、部屋の中には両親らしき若い男女と1歳くらいの男児、中年の夫婦と見られる男女、そして若い男女いずれかの妹だろうか、未成年らしき少女の姿もあった。
部屋はゴミと物が散乱し、それらを踏み分けていかねばならないほど荒れていたが、それ以上に息もできぬほどの凄まじい悪臭に満ちていた。
それを踏み越えて警察官がたどり着いた6畳間に、その子はいた。

まるで難民キャンプの子どものようだった、と、のちに救急隊の1人が話したというが、6畳間に寝かされていたその子どもは、「干からびていた」。

皮膚は完全に乾き、人の肌とは思えぬほど。その頭部と背中には褥瘡が見られた。足は左右ともに股関節のところで90度曲がり、肋骨部と下肋骨部とが皮膚の上から容易に判別できるほどに痩せ衰えていた。
痩せ細った体のせいで大きく見える頭部にも肉はなく、そのせいで瞳を閉じさせることすらできない状態だった。その瞳も、白眼の部分が黒く変色していたという。

死因は、餓死だった。

何がこの子の身に起きたのか。

警察はその場にいた親らしき男女から話を聞いた。両親は死亡に至る経緯を話し始め、その内容から幼女の死は病気や事故ではなく、この両親によって引き起こされた犯罪行為が要因であると警察は判断。そのまま両親を保護責任者遺棄致死容疑で逮捕した。

逮捕されたのは武豊町の会社員、谷川千紘(仮名/当時21歳)と、その妻で主婦の真緒(仮名/当時21歳)。死亡していたのは2人の長女・依織(いおり)ちゃん(当時3歳)だった。依織ちゃんは約20日間にわたって満足に食事も与えられず、家族とは隔離され、窮屈な段ボールの中にいることを強要されていた。
2人は依織ちゃんが死亡した経緯として「懐かないので疎ましかった。下の子が生まれ 手がかかるため放置していた」という話をしており、また2年前に依織ちゃんが脳内出血を起こした後、成長に遅れが見られるようになり、それも両親が依織ちゃんを疎ましく感じる要因になったと見られた。

この時代、親による虐待の問題はクローズアップされていたが、その挙句に餓死させるというケースは知られておらず、地元新聞社をはじめ報道関係もその詳細を次々に報じた。
また、その過程でこの依織ちゃんに関しては病院や保健師、児童相談所など多くの公的機関や専門分野の人々が関わっていながら、最悪の結末になってしまったことも判明していた。
愛知県内では平成12年までの過去5年間で虐待死事件が42件起きており、県別で見ると突出して多かった(全国総数464件)。一方で依織ちゃんを担当していた半田児童相談所は虐待に関しては積極的な対応をしており、児童福祉法28条に基づいて親子分離に踏み切ったこともあった。そこに所属する児童福祉士もベテランだったという。

なのに、なぜ依織ちゃんはこれほどまでに無惨な最期を迎えてしまったのか。

【有料部分 目次】

ふたりのそれまで
出産と同居生活
社宅
危険なあそび
焦りと拒絶
母親たち
予兆
30万円の「明るい家族計画」
崩壊まで
三畳間の生き地獄
皮肉なまでに親子
いまもどこかで

🔓だいじな子~岡山市・16歳長女監禁致死事件~

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「れいちゃんへ

おかえりなさい。

れいを見たいです。れいを感じたいです。れいの声を聞きたい。れいちゃん何か答えてください。

先生は時間が解決すると言ってくれましたが、ママは逆に時間がたつにつれて日に日にツライです。

ママはあと何日がんばればれいに会えますか?

ママより」   
(平成23年12月21日毎日新聞大阪朝刊より引用 毎日新聞社岡山支局 五十嵐朋子記者)

これは、愛する娘を失ったある母親が、娘の死を受け止め切れず解離状態になっているさなかに綴った娘への手紙である。
母親はそのショックで声を失い、立つことすらままならなくなった。娘を失ってから、娘の遺骨と位牌のある部屋にこもり、食事はその娘の仏壇のお霊供を下げて食べた。
娘と一緒に居たい、母親にはその気持ちが強く、遺族は四十九を過ぎても納骨を見送っていた。

母一人、子一人。
「娘のことひとすじだった」

母親の親族が、悔しそうに語ったという。

しかしその母親の姿は後に法廷の被告人席にあった。
娘の死には、母親のほとばしる壮絶な「愛」が関係していた。

【有料部分 目次】
浴室の死
母と娘
問題行動と生傷
高校入学と問題行動の再発
最後のSOS
愛のむち
わたしがまもってあげる

神の砂〜伊良部島・隣人女性殺害事件〜

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沖縄県宮古島市伊良部島。サトウキビ畑が広がる美しいこの島で、平成19年11月17日、一人の高齢女性が惨殺された。
夫と農業を営んでいたその女性は、頭部に激しい損傷を受け、死亡していた。
女性の親族である宮古島市議は、

「年寄りに対して、どうしてこんな残酷なことが出来るのか」(沖縄タイムス社 平成19年11月21日朝刊)

そう言って怒りと悔しさをあらわにした。 続きを読む 神の砂〜伊良部島・隣人女性殺害事件〜