午前4時の熱湯シャワー〜八王子・6歳養女せっかん死事件〜

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笑顔のお誕生日会

平成769日。
八王子市中野上町の小さな二階建てアパートの一室には、子供たちの歓声が響いていた。
大きなバースデーケーキと、甘いお菓子。飲み物もたくさんあった。
7歳の男の子と、6歳の女の子。二人は兄妹で、お誕生日が近かったことからこの日二人分のお誕生パーティーを両親が開いてくれたのだ。

笑顔の兄妹を、両親は目を細めて何枚もカメラに収めた。

ただ、その笑顔はところどころ、青や黒いアザに覆われている。

そしてこの2週間後、妹は死亡した。

顔と右半身の皮膚を真っ赤に爛れさせ、想像を絶する苦しみの中もがき続け、誰にも助けられることなく短い一生を終えた。

幼い女の子が最後に見たのは、母親の再婚相手の姿だった。 続きを読む 午前4時の熱湯シャワー〜八王子・6歳養女せっかん死事件〜

🔒鬼の棲む家~泉崎村・虐待死事件

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入学式にて

平成18年4月。福島県泉崎村の小学校では入学式が執り行われていた。
両親の手を引かれ、緊張した面持ちながらどこか晴れ晴れとした顔で校門をくぐる子供たち。
そんな中、教師や保護者は新入生の一人である児童の姿にくぎ付けとなった。

その新入生は、異様だった。

身長は他の児童が110センチから120センチであるのに対し、約80センチと、とても7歳になる子供とは思えなかったのだ。
身長だけではない、体重も10キロあるかないかで極度に痩せ細り、足はまるで「棒切れ」のようだった。さらに、ランドセルを背負うとそのままひっくり返ってしまった。

「……病気なのかな」

一部の保護者の間では心配する声もあったが、特に介助をする保護者の姿もそばになかった。

入学式から3か月後、その痩せ細った児童の両親は保護責任者遺棄「致死」の容疑で逮捕された。

しかし、死亡したのはこの痩せ細った新入生ではなかった。

捜査員が絶句した現状

平成18年7月28日、3歳になる三男に適切な養育をせず、衰弱死させた疑いで福島県泉崎村の夫婦が逮捕された。
逮捕されたのは無職の白髭功(当時40歳)と、その妻で同じく無職の和歌子(当時33歳)。

調べによると白髭夫婦は、平成18年5月28日ころ、三男・広(ひろむ)ちゃん(当時3歳)の具合が悪くなったことで病院に担ぎ込んだが、広ちゃんは死亡。状況から病院が警察へ通報したことで事件が発覚した。

しかし、広ちゃんの遺体は捜査員らが憤りを隠せないほどの凄惨な状態だった。
体重は平均の半分の約7,9キロ、これは生後半年程度の乳児の平均体重で、全身に暴行を受けた痕があった。
広ちゃんの手足に筋肉はほとんどなく、ずいぶん前から寝たきり状態にあったことも分かった。そして、死亡直前に食べさせられたとみられる「バナナ」のかけらが喉をふさいでいた。

広ちゃんは、反射運動すらできないほどに衰弱させられていたのだ。

広ちゃんが死亡した直後、連絡を受けた警察が自宅を訪問したところ、家の中には極度に痩せ細ったあの児童がいた。しかも、そのほかに姉と思われる女児の姿もあった。
女児もその発育が一目で極端に遅れていることが分かるほどの状態で、女児の腕には刃物で切り付けられた傷まであった。
警察はすぐさま二人を児童相談所へ連れて行き、そのまま姉弟は保護となった。

出迎えた村の女性職員が思わず子供たちを抱きしめると、きょとんとした顔をして、
「なんでそんなに優しいの?」
と聞いてきたという。

「どんなことがあっても親の責任を追及する。」

捜査員の一人は戦慄いてそうつぶやいた。
この家には3人の子がいて、広ちゃんは死亡、上の兄と姉は保護されたが、この夫婦の子供はあと2人いた。
長女は生後3か月で乳児突然死症候群で死亡していたが、長男は健在だった。が、ここにはその姿はなかった。

平成14年に功と和歌子は長男の親権を失っていたのだ。

【有料部分 目次】

長男への虐待
「難しい家族」
功と和歌子
地獄の日々
裁判
小さな地域社会の限界
親子という幻想

「餓死日記」とその不可解〜寝屋川・主婦餓死事件〜

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寝屋川の文化住宅

昭和525月。大阪府寝屋川市の萱島にある文化住宅ではいつものように主婦たちが朝餉の準備に追われ、子供達は次々と学校へ走り、家々からは仕事に向かう男たちが駅へと急ぐ姿が見られた。

文化住宅は薄いベニヤの壁の向こうに隣の部屋があるという作りのため、隣の話し声はまる聞こえだった。

その長屋の一室で暮らす主婦は、朝の家事仕事の合間に聞こえる隣家の子供の泣き声が気になった。あの声は一番上のマー君やろか。隣は5人目が生まれたばかり、お兄ちゃんがかまってもらえず泣いてるんやろか。

最初はそう思っていたが、隣家の子供はいつまで経っても泣き止まなかった。

午前7時半。さすがに不審に思った主婦は、隣の玄関へ回ると泣いている子供に呼びかけた。
「マー君、どないしたんそんな泣いてからに・・・」
その家の9歳になる長男に玄関の鍵を開けさせ中に入った主婦は、絶句した。

その家の主婦が、布団の中で冷たくなっていたのだ。その傍らには、3ヶ月前に生まれたばかりの赤ん坊がすやすやと眠っていた。 続きを読む 「餓死日記」とその不可解〜寝屋川・主婦餓死事件〜

🔓殲滅の焔~陸前高田・一家心中事件~

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一本の電話

平成18年6月27日、陸前高田市役所に電話があった。
匿名のその電話は女性で、「家庭内にトラブルがある。相談できないだろうか。」という内容だった。
市役所の職員は人権擁護委員を紹介し、実際にその委員が匿名の電話の主と面談。内容は違法性があるものだったようで、大船渡署に伝えられた。

「何かあったら連絡します。」

大船渡署から確認の電話を受けた相談者は、詳しい内容は話さずにそう言って電話を切った。大船渡署も現時点で相談者が介入を望んでいない以上やれるべきことがないと判断し、経過を見守ることで対応を終了した。

その2日後の6月29日未明。
陸前高田の住宅から火の手が上がった。

4人死亡の住宅火災

平成18年6月29日未明、陸前高田市気仙町の住宅から出火、約3時間後に鎮火したものの、木造平屋建ての住宅126平方メートルが全焼。
焼け跡からは3人の遺体が発見された。

火が出たのは、左官業を営む熊野正博さん(仮名/当時56歳)方。正博さんは仕事で関東にいたため難を逃れたが、この家には当時正博さんの妻・瑞穂さん(仮名/当時49歳)、長男・邦彦さん(仮名/当時26歳)、二男・友信さん(仮名/当時23歳)、三男・誠さん(仮名/当時19歳)、長女・泉さん(仮名/当時13歳)、正博さんの母親(当時84歳)の計6人がいた。

邦彦さんは逃げ出して軽いやけどで済み、年老いた正博さんの母親は別棟にいて無事だった。誠さんも救出されたが大やけどを負って意識不明となった。
邦彦さんは調べに対し、「家族間でトラブルがあって、みんなで死のうと、三男の誠が油をまいて火をつけた」と話していた。
搬送時に意識があった誠さんも、救急隊員の「火をつけたのか」という質問に対し、頷いていたという。

誠さんはその後、病院で死亡した。

焼け跡から発見された3人の遺体は、和室にあった。長男の話から、遺体は瑞穂さん、友信さん、泉さんの3人と見られ、その後断定された。

近隣の人らは衝撃を受けていた。3世代の大家族で、子供たちも両親も皆仲が良さそうに見えていたからだ。歳の離れた妹の泉さんも、学校では野球の試合のアナウンスを担当するなど充実した生活を送っていた。

ただ、気になる話はあるにはあった。

火を放ったとされる三男の誠さんは、高校を卒業後一旦は木材工場などで勤務していたというが、4ヶ月ほどで退職。その後は仕事を探してはいるようだったが、無職の状態だった。
無職であっても、庭の草刈りをしたり、特に何か問題を抱えているという様子はなかったと近所の人らは口を揃えた。
母親の瑞穂さんも、道で会えば明るく気さくに話をする人柄で、近所で孤立しているとか、夫婦仲が悪いと言った話もなかった。
市内の別の場所で暮らす実母を気遣い、よく世話をしに通っていたといい、その実母も家族仲が悪いという話はなかったと話した。
ただ、誠さんを含む子供たちの就職のことで悩んでいるといった話はあったようだ。

あの夜、一体何があったのか。

唯一助かった邦彦さんによれば、和室で家族会議をしていた際、誰からともなく「もう、死のう」という話になったのだという。
そして、三男の誠さんが灯油のポリタンクを持ち込み、灯油を自らかぶり床にも撒き散らした後、火を放ったのだと証言した。
火は瞬く間に和室に燃え広がり、誠さんと友信さんと瑞穂さん、そして泉さんを飲み込んだ。邦彦さんも当初は一緒に死ぬつもりだったというが、咄嗟に恐怖心で窓を割って外へ出て助かったのだ。

現場で遺体となって発見された友信さん、瑞穂さん、泉さんには目立った外傷はなかったが、それぞれの体からも灯油の成分が出ていたこと、邦彦さんの証言などから、警察では高齢の祖母と出稼ぎ中の父親を除く家族5人が一家心中を試みたとした。

しかしこの一家を心中に駆り立てたのは一体なんだったのか。

【有料部分 目次】
 玄関先の遺書
 長男の事情
 取り立て
 裁判
 焔の正体

ある少年の死~明石市・日本刀重過失致死事件~

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ある夜の夫婦喧嘩

明石市内の団地のとある一室。そこで暮らす夫婦が囲んでいた夕餉は、冷え切っていた。
妻は前々日に夫が出かけたゴルフに、女性が参加していたことを知って不機嫌だった。夫も、酒を飲んでいい気分で帰宅したのに、妻はふくれっ面のうえ、食べている途中でしょうが状態のおかずを下げられたことでイラついていた。

「言いたいことでもあるんなら言えや」

二人は口論となり、酔いも手伝ってか夫は「ぶっ殺してやる!」と椅子を蹴った。妻も怯まず、台所から文化包丁を持ち出し、その刃先を夫に向けた。 続きを読む ある少年の死~明石市・日本刀重過失致死事件~