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平成10年5月
その日父親は、9歳の次女と7歳の長男に「遊びに行ってこい」と命じた。朝から妻はパートへと出ていて、これで家には11歳の長女とふたりだけになった。
幼い子どもたちは普段、児童養護施設で暮らしており、週末だけはこうして自宅へと戻るという生活をしていた。
父親は、玄関の鍵を閉め、長女のいる部屋へと向かう。
「この前は入ったで。もう一回、させぇ」
父親の唐突なこの言葉の意味が解らず怪訝な表情の長女に対し、父親はおもむろにズボンと下着を一気に脱いだ。
【お断り】
この事件については、その内容からほとんど記録がない。そのため、新潮45/2005年9月号にノンフィクションライター・新井省吾氏によるドキュメントが掲載されており、その内容からの考察となる。
地獄の日々
長女はそれ以前に、この父親に服を脱がされ、全裸の写真をポラロイドカメラで撮影されるという出来事が起こっていた。ただその時は、長女も就寝中で寝ぼけていたこともあり、さほど意味のある事とは考えていなかったようで、周囲の人に相談するとかそういったこともなかった。
その日、父親が言った「この前は入ったで」という言葉も全く意味が解らなかった長女は、「何が入ったん??」と聞き返した。
直後、父親のとった行動に当然ながら長女は仰天し、悲鳴を上げて逃げ惑った。玄関には鍵がかかっており、とっさのことで長女は慌てふためいてドアを開けられなかった。
父親は逃げる長女の髪をつかみ、そのまま奥の部屋へと引きずっていくと、敷きっぱなしの布団の上に長女を投げ飛ばした。
なおも逃げようとする長女を仰向けに押さえつけ、怒声を浴びせ、右頬、腹部を殴りつけた。
そして、痛みと恐怖で抵抗することをやめた長女に対して、極悪非道な行いをしたのだ。
長女に対し、それ以降も悪魔の所業は行われ続けた。その期間はなんと4年以上である。
養護施設にいた子供たちを引き取ったのも、週末だけではなく気が向いたときにいつでも長女に暴行するためであった。もちろん、目の届くところに置くことで、外部への漏れを防ぐ狙いもあっただろう。
長女は誰にも相談できず、一人絶望の中で日々を過ごすしかなかった。
そもそも、父親はこの長女が誰にも相談しないことをわかっていた。それは、もともと精神的に脆い母親の存在があったからだ。
長女は体調が悪くなると酷いうつ状態に陥る母親を気遣って、家事や弟、妹らの面倒もみていた。母親は体調が良いときは家事もし、パートにも出られるようになるため、娘からすれば少しでも母親の負担を軽くすることが、ひいては自分たちのためにもなるとわかっていたのだ。
そんな母親に、自分が父親に何をされているか、長女が言えるはずもないことをこの父親は知っていたのだ。その上での行いであった。
まだ小学生だった長女は、その意味も理解できぬまま、父親の恐ろしさに負けてされるがままだった。時折、軽蔑のまなざしを父親に向ける以外、長女には抗うすべもなかったのだ。
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【有料部分目次】
家族のそれまで
次女
母親の後悔
長女と次女の決断
発覚から逮捕、そして裁判所の激怒
帰りを待つ母親
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